実はすごかったんですよ!
次の日以降もアイクの店には多くのお客さんが足を運んでいた。
初日に多く来ていたのはたまたまかもしれないと思ったが どうやら杞憂だったようだ。
毎日がっぽり稼げていると思うとついにやけてしまう。
ところで。
アイクの店では主に生活必需品となっている魔道具を扱っていて、とあるおばちゃんはそれを毎回買ってくれる。
そのおばちゃんによるとアイクが作った魔道具は他の店のものより質が高いらしい。それもかなり。
聞くと多くの魔道具は使っているとそのうち壊れたりして使えなくなってしまうのだが、アイクの魔道具は使ってもなかなか壊れないとのことだった。
それに加え魔道具の価格が相場より安かったからというのもあるだろう。新しい店だから多少は安くしておくかと思いやってみたのが功を奏したらしい。
しかもそれだけではなく、アイクは魔道具にいくつかの魔法を組み込んでいる。前に魔道具を買いに来たお客さん達とこんなことがあった。
「アイクさん、前にここで買った『思念ペン』なんですけど、他の店で買ったやつより速くかいてくれるんですよ。もう大助かりで」
「こっちの『収納バッグ』も、普段使ってるやつの倍くらい物を入れられて便利なんですよ。」
その時はまだ店を始めてから一週間ほどだったのでいきなり褒められまくったことに少し驚いた。
こんなにも褒められるのは始めての経験だったのでつい嬉しくなってしまう。
「気に入ってもらえてよかったです。 実はちょっとした魔法を組み込んでいて改良してあるんですよ。」
アイクは得意気に魔道具の説明を始める。
魔道具にオリジナルの魔法を組み込むのはアイクの得意技だ。例えば『思念ペン』には風魔法を組み込んでいて通常よりも早く書けるようになっていたりと言った感じだ。
「アイクさんは魔道具に魔法を組み込めるのか?それってすげえことなんじゃ?」
「えっ別に普通だと思いますけど…」
魔道具に魔法を組み込むのは得意だがそれ自体は他の魔道具師もやっているような気がする。
ちなみにだが厳密に言うと、どの魔道具にも魔法が一つは組み込まれている。アイクの言う魔法を組み込むというのは二つ以上の魔法を組み込むということである。
この追加で魔法を組み込むのにどんな魔法を使うかによってどんな魔道具ができるが大分変わってくる。
例えばさっき言った『思念ペン』に風魔法ではなく音魔法を組み込むと書いたものを読み上げたりしてくれる。
魔法を追加で組み込むのは始めのうちは結構難しかったような気がする。まあたいした時間もかからず楽々できるようになったのだが。
開店初日から一、二週間ほどたったある日。
初日に来ていた例のチンピラおじさん(職業は冒険者でレグルスと言うらしい)がまた店に来た。
「よう兄ちゃん。例の魔法剣はどうなった?魔物素材の買い取りは始めたらしいが」
実はこのレグルスのアドバイスを受け、検討に検討を重ねた結果、魔物素材の買い取りを始めることにしたのだ。このため冒険者も多く来るようになり、魔法剣などの冒険者向けの魔道具を売り始めたというわけだ。
「レグルスさん実はちょうど昨日から売り始めたんですよ」
「おっ、そりゃいいな。ちなみにどんな種類のだ?」
「今あるのは風魔法、炎魔法、氷魔法、強化魔法のものです」
「おっ、風魔法があるのはいいな。」
レグルスは意外にも風魔法が好みらしい。
チンピラ風な見た目的には 強化魔法のものを使うだろうと思ったのだが違ったようだ。
「それで値段はいくらくらいだ? 」
「魔法剣一本で100000エンになります」
「……はあ? 兄ちゃん…バカか…?」
しまった、とアイクは思った。
実は魔法剣の値段の相場がわからず適当につけたので、高すぎたのかと思ったのだ。
昨日、魔法剣を買って行った輩が発狂していたのは、値段が高すぎたからなのだろうか。それでも買ってくれたのでなかなかいいやつに違いない。
「すみません。ちょっと高すぎましたかね」
アイクは慌てて言った。
しかし、次にレグルスから発せられた言葉は意外なものだった。
「いやいやいや逆逆逆。安すぎるんだって!兄ちゃん。働きすぎて頭おかしくなったんか?」
一瞬時が凍った。
「えっ高すぎじゃなくて安すぎ?」
驚いて返すとレグルスが当たり前かのように「当たり前だろ。 他の店で買ったら安くても1000000エンぐらいするんだぞ」
「安くて1000000エン? それ桁一つくらい間違えてませんか?」
「間違えてんのは兄ちゃんの方だぞ」
レグルスはあきれたように言った。そして続けて
「悪いこと言わねえから、値段上げときな」
どうやらアイクが設定した値段は、普通よりも遥かに安かったらしい。
ちゃんと相場くらい調べておけばよかったなと思ったが後の祭りだ。
昨日、魔法剣を買った輩が発狂していたが、おそらく値段のせいだろう。
高すぎて発狂していたのではなく、安すぎて発狂していたのだ。昨日そいつらは魔法剣を十本買っていったのでなかなかデカイ損失だ。
「レグルスさん、それもっと早く言ってほしかったですよ」
「相場くらい事前に調べておくのが普通だろ? 」
全くもってその通りだったので、なにも言い返せない。恨みがましい目をむけるもあきれた表情をされてしまう。しかしここでいいことを思い付く。
「じゃあレグルスさん。今から魔法剣は価格変更で800000エンになります」
「クソっ、買ってから言えばよかったぜ。ちなみに教えてあげたお礼に割引してあげるとかは? 」
「もちろんありませんよ」
その後も十分くらい粘っていたレグルスだったが結局は「まあ他より全然安いし」とか言って買っていった。
ついでにレグルスには帰り際に、冒険者用の魔道具をもっと増やせ、と言われた。
アイクとしても、冒険者用の魔道具は単価が高いものが多く、利益が大きいので、増やすのはありかなと思っている。例を挙げるとこんな感じのもの達だ。
(強化グローブ→強化手袋を戦闘用にしてみました!)
(杖→魔法使い必見! 魔法の威力が上がったりするぞ!)
(マジックリング→魔力量が上がったりするぞ!)
(マジックガン→弓が下手な人でも安心! たぶん必ず当たるぞ! )
(マジックネックレス→使ってる宝石によって能力が変化! 呪いのネックレスも…オソロシイ)
今考えているのはこんな感じだ。
(なるべく早く始めたいけど、今度はちゃんと値段調べなきゃな)
さすがのアイクも少し後悔している。
これを機に心に刻んだ。物を売る前にいくらで売るかは吟味すべきと。
新しく魔道具を作るのはなかなか面倒だがアイクはやる気に満ち溢れている。なぜならアイクの脳内は、金>苦労となっているからだ。宮廷魔道具師だった頃はお金のことなど気にも止めていなかったのに一体どうしてこうなってしまったのだろうか。
利益のためにも頑張ることに決めたアイクだった。




