いざ、開店!
しばらくすると、ベルがいくつかの荷物を抱えて戻って来た。
その量はあまりにも少なく小柄なベルでも一度に持てるほどの量だった。
…楽々と言った感じではないが。
「荷物ってそれで全部? 」
「はい。必要なのといっても着替えくらいしかなかったので」
どうやらベルは私物などはあまり持っていないようだった。
年頃の女の子なのでもっと可愛いぬいぐるみとか服とかを持っているものかと思ったのだが。
「じゃあ部屋まで持っていくね」
「わざわざすみません。ありがとうございます」
少なそうではあったが辛そうな顔だったので、ベルの代わりに荷物を持っていく。
持ってみると少しよろけてしまうほど重たかった。日頃の運動不足も相まって二階まで持っていく時は腕がもげるかと思った。
その後は特にすることもなかったので、いつもより早めに夕食を作り始めようとしてそこで気付く。
今日からはベルがいるので、一人分ではなく二人分作らなければと。いつもなら自分が食べるのだからと言って見た目などは気にせず作っていたが、ベルも食べるからには多少は良くする必要があるだろう。
「ベルって嫌いな食べ物とかある?今日はミートソーススパゲッティにしようと思うんだけど」
「えーと、特にないので大丈夫です」
好き嫌いはどうかと聞いてみたところ、どうやらベルには嫌いな食べ物がないらしい。
嫌いな食べ物があると気を遣う必要がありそれがわりと面倒だったので、好き嫌いがないことはアイクとしては喜ばしかった。
二人分のスパゲッティをいつもより丁寧に作り上げ、食卓に並べていく。
丁寧といっても魔道具を使っているので手間はたいしてかからない。こういった時に魔道具を使えるのはなかなか便利である。
並べ終えたのでベルを呼ぶ。いつもより味付けもちゃんとやって見た目にも気を付けたがどうだろうか。
二人で夕食をとるのは新鮮な感覚だった。以前はそもそもゆったり食事をする暇などはなかったのだが。
ベルが気に入ってくれるかどうかが心配だったが、どうやらお気に召したらしく、頬にソースがついていることに気付かないくらい夢中で食べている。
「アイクさん、これすごくおいしいです! 」
「それはよかった。わりと料理は得意だから食べたいやつがあったら言ってね」
アイクは昔から料理が得意で魔道具に頼らずともそこそこのものをつくることができる。
魔道具を使っているのは単なる時短のためだ。
「私これが好きなので今度また出してください」
「わかった。今度はもう少し多めに作っておくね」
思いの外たくさん食べてくれた。小柄な見た目からは想像していなかったので意外だった。
食後は早めにふとんに入る。
何せ明日はオープン初日なのだ。
さすがのアイクも初日から寝坊するつもりはない。
前の職場で初日に遅刻して一日でクビになってるやつもいたな、などと思いつつアイクは眠りについた。
次の日、ベルと二人で朝食をとり、開店準備を進めていく。
準備といっても魔道具を商品棚に並べるくらいだ。
前に考えた魔道具の他にも、様々な種類の魔道具を並べていく。
(オートフライパン→登録した料理を自動で作ってくれるぞ!)
(音声辞書→知りたい言葉を言うとその言葉の意味を教えてくれるぞ!)
(収納バッグ→見た目からの五倍くらいの物を入れられるぞ!)
(虫除けウェア→虫が一切近寄らなくなるぞ!)
(スピードシューズ→足が速くなってモテモテに!)
(強化手袋→力持ちになれるぞ!)
アイクが昨日使っていたのはこの『オートフライパン』というもので主婦達に人気の商品…となる予定だ。
開店数分前、さすがのアイクも少し緊張していた。心臓の音がかつてないほど鮮明に聞こえる。昔クソ上司、もといグリースに連れられて国王に謁見したときにもこんなに緊張はしなかった。
ベルはというとカウンターの回りをうろちょろしていて緊張した様子だ。…小動物みたいでちょっと可愛い。
午前九時。ついに開店時間になった。
しばらくして数人のお客さんが入ってきた。とりあえずお客さんが一人も来ないという事態は免れたようだ。
「いらっしゃいませ」
アイクとベルは順々に対応をしていく。練習したとはいえ初接客なので二人ともガチガチだった。
「浄水コップを三つくださいな」
「はい。三つで900エンになります」
「あら~安いのね」
などと会話がなされていく。
記念すべきオープン初日。なんと昼休憩まで客足が絶えることはなかった。
「思った以上にお客さん来ましたね」
「そうだな、想像以上だ。午後もこの調子で頑張っていこう! 」
「はいっ! 」
休憩時間が終わると、午前中ほどではないが、それでも何人かお客さんが入って来た。
入って来た人の中でもなかなかゴツい体格のおじさんはしばらく商品棚を眺めた後、アイクに声をかけてきた。見た目は完全にそこら辺のチンピラだった。
「なあ兄ちゃん。ここでは魔法剣は売ってねえのか?」
どうやらチンピラっぽいゴツいおじさんは魔法剣を欲しがっているようだった。
魔法剣とは普通の剣と違って特別な効果が付与されている剣のことだ。
例えば炎魔法が付与されたものや、使用者の身体能力を強化する強化魔法が付与されたものなどがある。
「実は材料が足りなくて作れていないんですよ。材料が手に入り次第、取り扱う予定です」
「そうか。材料ってのはなんなんだ?」
「どんな魔法剣かにもよりますけど、炎魔法のものならサラマンダーのうろこ、強化魔法のものならミノタウロスの角とかです」
「じゃあ兄ちゃんの店で素材の買い取りをやってみればいいんじゃねえか?大体の魔道具店はやってるし、魔物の素材もすぐ手に入れられる上、ギルドから仕入れるより安く済むぞ」
チンピラおじさんから意外な提案をされた。確かに考えてみると良いことづくめだ。
…もしかしたらなかなか知的なチンピラなのかもしれない。
「確かに良さそうですね。準備ができ次第始めてみます」
仕入れの価格は今よりも安く済むし、冒険者が来るとなれば売り上げも上がるだろう。
チンピラおじさんに感謝を伝えると、おじさんは満足そうに帰っていった。
その後も閉店時間まで客をさばき?続けた。
一日中慣れないことをしたのでアイクもベルもくたくただった。
ベルは立っていられないほど疲れたのか、床に座り込んでいる。アイクも耐えきれず床に座り込む。
「ベル、お疲れさま。大変だったでしょ」
「お疲れさまですアイクさん。お客さんがずーっと来てて大変でした」
「初日からこんなに来てくれるとは思わなかったよね。とりあえずご飯食べよっか」
アイクはよろよろと立ち上がり二階に這うようにして上がる。端から見たらゾンビみたいな感じだろう。
あらかじめ作っておいた夕食を並べ席に着く。しばらくするとベルもやってきた。恐らく階段を這って上ってきたのだろう。服が少し汚れていた。
二人揃って夕食を食べ始める。アイクが夕食のチャーハンを食べていると、ベルが話しかけてきた。
「アイクさん、今日お客さんが冒険者用の魔道具はないのかって言ってたんですけど、うちでは売らないんですか?」
冒険者用の魔道具は例を挙げるとポーションや魔法剣なんかがある。
「俺もそれ今日言われたんだよね。とりあえず魔法剣は売ろうかなって思ってるんだけどそれ以外はリクエストがあったらかな」
「魔法剣ってかっこいいですよね。私も使ってみたいなって思うことありますもん」
「じゃあ今度休みの日に魔物討伐でもやってみる?」
「はい!やってみたいです」
そんな気軽なノリで誘うようなことではないと思いつつも魔物討伐に誘うと予想以上に食い付いてきた。
やっぱり子供はかっこいいものに惹かれるのだろうか? アイクも子供の頃は魔法剣をたずさえて魔物を颯爽と倒す姿を妄想したこともあったが、今となってはただの黒歴史だ。大人になってからはクソ上司を成敗する妄想にシフトした。…今はもうしていないが。
その後も今日の出来事に関して会話を続けていく。
食後に今日の売り上げを見てアイクは一人小躍りした。




