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ぬるぬる動く新体験

 アイクは最近始めたことがある。それは朝、新聞を読むことだ。

 以前店に来たお客さんがアイクが世間知らずなのを気にかけて新聞を読むよう勧めてくれたのだ。 

 今までで話題の出来事など気にかけたことはなったが読んでみると案外面白い。                       

 今日も今日とて外に出て新聞を取り、その場で一面の見出しを見る。

 そこにはかつてアイクの上司だった者の名前が書かれていた。

 

 宮廷魔道具師グリース・ヴァルツ!! 不正に宮廷魔道具師になっていた疑い!?国王の怒りを買いクビに!?

 職場でのパワハラ疑惑も!?部下の一人に直撃インタビュー!!

 「あの人はとんでもない人ですよ。部下に自分の仕事を押し付ける上にそもそも職場にすらまともに来な          い。同僚の一人は顔がムカつくからなんて理由でクビにされた人もいました。それだけではなく…」


 何度読み返しても内容は変わらない。

 あのゴミカスクソ上司の記事であることに変わりなかった。

 「キタァーーー!!!よっしゃああああああ、ざまみやがれクソ上司!!!」

 思わず感極まって発狂してしまったが通行人に白い目で見られてしまったので慌てて家に入る。

 するとベルが眉をひそめてアイク顔負けの声量で叫んだ。

 「アイクさん! 朝からうるさいですよ! 」

 「ベルのほうがうるさいよ」

 「……」

 ベルから沈黙が返ってきたので本格的に怒られる前に機嫌をなおしてもらう。

 「いや~ごめんて。実はちょっといいことがあってね♪」

 「いいことですか…? 」

 「昔一緒に働いてたゴミみたいな上司がいたんだけどね、そいつが不正してたのがバレてクビになったんだ」

 実際にはグリースは全く働いていなかったが今更気にすることではない。

 「ざまあみやがれですね。ちなみにアイクさんて前はどこで働いてたんですか」

 「ふっふっふ、秘密だよ」

 「アイクさんのケチー」

 その後なんやかんやありつつも会話を終え朝食を取る。

 朝食後すぐにアイクは研究室に向かう。

 ベルはアイクが前にプレゼントした魔道具について書かれた本を読んでいるようだ。

 この本はアイクが自分で書いたもので市販のものより分かりやすいと自負している。

 今日アイクが研究室にこもるのは新しい魔道具の研究をするためだ。

 奥の棚から小型の魔道具を取り出す。 

 これは『マジックログ』と呼ばれる魔道具で写真を撮る機能を持っている。

 ただしこれは新しいわけでもなんでもなく、そもそも少しだがアイクの店でも既に扱っている。

 ではなぜこの魔道具を準備したか。

 それはこの魔道具を発展させて新たな魔道具を作り出せると思ったからだ。

 その魔道具は撮った写真を高速で切り替えて移す機能があるもの。

 いわゆる『映像』を作ったり流したりできるのだ。

 冒険者でまれにいる『映像魔法』を使用できる人ならば映像を作ったり流したりすることができるがものの、扱いが非常に難しく使い手はとても少ない。

 これを魔道具で再現できれば様々な面でかなり役に立つだろう。

 過去にこの魔道具『マジックログ改』を作ろうとしたものはいたが結局作れた者はいなかったという。

 だがアイクにはできる。…できるといっても理論上の話ではあるが。

 そもそもなぜ過去にこの魔道具を作ろうとした人たちが作ることができなかったか。

 それは写真を高速で切り替えるという性能を再現できなかったからだ。

 写真を高速で切り替えるには魔道具のコアから流れる魔力をよりスムーズに流す必要があり、当時は技術が足りなかったためそれができなかったのだ。

 実際、現在の魔道具師でもこれを作れる者はいないだろう。

 しかしアイクには自信があった。

 以前、別の魔道具の研究をしていた時に魔力をスムーズに流せる回路の仕組みをたまたま見つけたのだ。

 その回路を作るのにはスライムを使う。

 アイク自信がした実験によるとスライムを使って回路を作ると魔力がスムーズ流れるようだ。理由はまだ分からないが。

 つまりアイクはまだ誰も知らないであろう技術を使うことができるのだ。

 スライムを使った回路は既に準備してある。

 つまり、昔の人たちが作った『マジックログ改』の回路をこれに換えればいいだけなのだ。

 理論上はこれでできるはずなので実際に取り換えてみる。

 一度失敗作の『マジックログ改』を分解し回路だけ取り換える。

 一度バキッという音がした気がするが気のせいだろう。しっかりパーツがはまったのを確認する。

 これで一応完成したが実際に性能を確かめてみるまでは分からない。

 アイクは一度研究室を出て一階に降りる。

 一階ではベルがまだ魔道具についての本を読んでいた。

 「ベルー、ちょっと新しい魔道具を作ったんだけど試してみないか」

 「新しい魔道具ってどんなのですか」

 「この魔道具は映像を映せるんだけど、ベルは映像って見たことある?」

 「映像…ってそもそも何ですか? 」

 「ふっふっふ、それはたぶん見た方が早いよ」

 アイクはそう言って不思議そうな顔をするベルに『マジックログ改』を向ける。

 しばらくの間沈黙が流れる。しばらくすると訳が分からずあたふた。

 「ちょっアイクさん、どういうことですか? なんでそれをこっちに向けて…?」

 ベルが言い終わったところで撮影をやめる。

 「まあまあ、ちょっとこれ見てよ」

 そう言ってアイクは『マジックログ改』のスイッチを入れる。

 果たしてちゃんと映像が流れるだろうか。

 スイッチを入れると画面にベルの顔が映し出された。

 ドアップだったので正直言ってかなり面白い。

 しばらくたつと「ちょっアイクさん、どういうことですか? なんでそれをこっちに向けて…?」という声が大音量で聞こえた。

 あたふたする様子もしっかりと映っていて、画面の中でベルはぬるぬると動いている。

 「わあっすごいです! これが映像…!」

 これで失敗だったら恥ずかしかったがどうやら杞憂だったようだ。

 念のためもう一度流してみる。

 「あの、恥ずかしいのでそろそろやめてもらえませんか」

 「あともう一回だけ」と言ってアイクは三回目を流す。

 四回目を流そうとすると今まで見たことがないような表情で無言でにらまれた。

 ベルはその日中口を利いてくれなかった。


  

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