元上司がやって来た!?
ある日、アイクがいつものように開店の準備をしていると、ドンドンドンと乱暴にドアが叩かれ、開かれる音がした。
一体誰が来たのだろうかと思い、アイクは玄関に向かう。
そこにいたのはアイクのかつての上司グリースだった。
「おい、アイク久しぶりだな。元気にしてたか? 」
「……グリースさん? どうしてここに」
突然の元上司の訪問にアイクは驚いた。
なぜそこにグリースがいるのかが全く理解できなかった。
(今さら何しに来たんだよ…)
心の中で呆れるもグリースは気付かずに話を続ける。
「いや~実はだな、国王から依頼された仕事でお前がいないと仕事が進まないんだ。だからさっさと戻ってこい」
「えっ? 」
「だから、お前がいねえと仕事が進まねえの。さっさと戻ってこい。お前もその方がいいだろ」
一瞬、アイクはグリースが何を言っているのか理解できなかった。
このゴミカスクソ上司は自分の都合でアイクをクビにした挙げ句、自分の都合で戻ってこいと言っているのだ。しかも上から目線の態度で。
「グリースさん、それはできません。ご存知かと思いますが私はここで魔道具店を営んでおり、とても充実しています。だから私は宮廷には戻りたくありません」
アイクは感情を抜いた声で淡々と答える。
「戻りたくないだと? 戻れと言っているんだアイク! お前のせいでみんなが迷惑してるんだぞ! 」
「嫌です。グリースさん、あの扱いをした挙げ句、適当な理由でクビにしたのに戻りたいと思う人がいると思っているのですか? 」
「当たり前だ! 何をバカなことを。お前だって俺に感謝してほしいくらいだ」
アイクが文句を言うとグリースから素晴らしい言葉が投げ返された。
(こいつはどこまで俺を舐めてるんだ)
「そんな態度で言っても戻りたいなんて言う人はいません。それにその態度は人に頼みごとをする時の態度ではないと思いますよ」
「生意気なことを言うな! 態度がなってないのはお前の方だぞアイク。さっさと戻ってくると言え! 」
「何度も言ってますが嫌です。そろそろ開店準備をしなくちゃけないのですけどもういいですか? 」
「ま、待て! いや待ってくれ! お前がいないと困るんだ。そうだ今なら給料を以前の二倍にしてやる。これでどうだ」
「グリースさん、お金の問題ではありません。そもそもグリースさん程の魔道具師ならどんな仕事でもこなせますよね。なんてったって世界一の魔道具師と自分で言うくらいなのですから」
「…… 」
グリースは同僚の前でよく 私は世界一の魔道具師だ と自慢していた。
その事を言うとグリースの顔がみるみる真っ赤になっていった。
「ああそうだ私は世界一の魔道具師だ! お前なんぞに頼らずともできるわ! 」
「そうですか。"せいぜい"頑張ってくださいね」
「黙れ! お前後悔するなよ! 」
「後悔はしません。するのはあなたの方です。」
「お前のとこなんか、二度と来るか! 」
最後にそう怒鳴るとグリースは鼻息を鳴らしながら帰っていった。
周囲を歩いていた人がグリースを汚物でも見るような目で見ていた。
グリースのような太ったおじさんが顔を真っ赤にしながら鼻息を鳴らしていたら間違いなく汚物よりもひどく見えるだろう。
「二度と来ないでください! 」
とアイクも最後精一杯に叫んだ。
歩くスピードが上がったので恐らく聞こえのただろう。
(ほんとになんだったんだあのゴミカスクソ上司)
そもそも自分でできない仕事ならいつものように部下に押し付ければいいだけの話で、それが国王から依頼された仕事でも問題はないだろう。
アイクはなぜグリースがわざわざ自分のところにやってきたのかが理解できなかった。
(俺より優秀な人だっていっぱいいるのにな)
…アイクは自分の優秀さに気付いていない。
この日以降、グリースがアイクの店を尋ねてくることはなかった。




