第四章 「10の約束と1つの誓い」 3
「ですが、もしも、高い能力を持った個体同士を自然発生的に掛け合わせることが成功し、より高い次元の生命体を生み出し続けることが出来たのなら。それこそが、このプロジェクトの目指しているゴールにたどり着いたと言えるでしょう」
プロジェクトのゴール?
「つまり、それが理想の世界に――人類リセット計画に繋がるということですか?」
20号の顔つきがわずかに変わる。
「その話をどこで?」
俺は、イネコに依頼を受け、ここまで来た経緯を20号へと説明した。
「つまり、人類リセット計画のために――。劣等遺伝子を持つ者を排除し、優秀な人間だけを生かす世界に作り替えるために、犬山博士はここへ連行されたのでしょう?」
どう返事をしていいのか分からないのか、20号は自らのアゴヒゲを掴んで思案顔をした後、
「人類リセット計画については私もあまり詳しくありませんが、優秀な遺伝子を持った者のみが生存する世界に作り替えようとしているのは正しい認識だと思います」
「なら、とりあえず、犬山博士を無事に保護出来て一安心ですね」
ホッと胸を撫でおろす俺の背後から、
「残念ながら、そうはいかないのです」
犬山博士が話に割り込んできた。
「彼らは僕を必要とはしていなかった。この研究所では、すでに劣等遺伝子を選別するための遺伝子組み換え食品の作成を終えていたのです」
「そうだったんですね。でも、その作業の補佐役か何かで連れて来られたのでは?」
「いえ、そもそも研究所の本当の目的は、僕ではなく、息子の方だったんです」
そう告げた犬山博士の隣にはイネコが神妙な面持ちで立っているが、息子さんの姿が見えない。当然、息子もいると思っていたので、俺は部屋の中を見回したが、やはりその姿はなかった。
「息子さんが目的だった? でも、どうして? 息子さんも何か特別な研究を行っていたのですか?」
俺の質問に20号がかぶりを振って答える。
「そうではありません。先ほど言ったように、プロジェクトを次の段階へ進めるために必要だったのです」
そう言えば、さっきまでその話をしていたんだな。
「たしか、遺伝子操作を行った個体同士の自然妊娠について、でしたっけ?」
「その通りです。だから、この研究所はハーフだとしても、その成功例のサンプルを欲していた。僕と、遺伝子組み換え技術で生み出された――イネコの子をね」
イネコも自分自身で自分が遺伝子組み換え生物だと言っていたな。そして、イネコを生み出したのがご主人でもある、犬山博士だと……。
「彼らはあの子の出生の秘密を知りたがっています。僕はただイネコと愛し合った証だと言ったのですが、どうもそれでは納得できないようで、今も息子は捕らえられ、データ収集されています」
「だから、引き続き、息子――健志の奪還に力を貸してもらえるじゃろうか?」
しおらしく頭を下げるイネコに、俺もナナコもそれを快諾した。




