第四章 「10の約束と1つの誓い」 2
やはりこのオランウータンが前にゴローの話しに出てきた20号か。
「未来が、見えていた?」
自分でも理解が追い付かず、ゴローの言葉をオウム返しする。
「さよう」
うなずいてみせる20号のつぶらな瞳が、何かを見透かすように俺の姿を映している。
「それって、未来予知が出来るってことですか?」
「そこまで大げさなものではありません。何となく、私が未来に経験することを感じられると程度の第六感みたいなものです」
「それでも十分凄いことですよ」
驚嘆する俺に、20号は冷静な口調で「凄い、かのう?」と呟いた。
「遺伝子をいじられているせいなのか、この島の動物は人語を理解し話している時点で、もはや真っ当なイキモノではないのさ」
俺はその言葉にハッとした。
思えば、今回の事件で出会った動物たちは自然発生的に生まれたものにはない能力を持っている。イネコは人型へ変化するメタモルフォーゼの能力を有しているし、ゴローの怪力も常識では考えられないものだ。
オヤジはこの島では究極の生命体を創り出す実験をしていると言っていたが、彼らがその成果なのだろうか?
そう言えば、20号はこの研究所の最古参。一番最初のナンバーズで生き字引と言われているんだったな。つまりは、動物たちの中では一番この島の事情に詳しいといえるだろう。
「それが、この研究所が目指している究極の生物なのですか?」
気付けば俺はふと頭に浮かんだ質問をしていた。
20号は下アゴを指でつまむようにして、思案顔をしてみせた後、
「いや、我々はそのための試作品……。ただの実験動物だよ」
「実験、動物? それではまだ完成体ではないと?」
「その通り。それ故、ここの動物たちは成長促進剤を投与され寿命も短く、島の外へ出ないような仕掛けも施されています」
そう言うと、20号は自らの胸を親指でノックすると、結んでいた指を大きく開いて何かが炸裂するようなジェスチャーをした。
おそらくオウムのオームちゃんが言っていた、島を抜け出すと爆発する体内爆弾のことを表現しているのだろう。
「だが完成形にある程度のその目処がついたのか、どうやら実験は次の段階に入ったようです」
「次の段階?」
「高い能力を持つ個体を生み出す設計図は完成つつあります。ならば次は、その生産ラインの確保です」
少し長い話になるのか20号が俺に椅子を差し出して来た。俺は勧められるまま腰を掛けた。
と、20号は窓際まで移動すると、
「当初、このプロジェクトでは、完成した設計図を元に受精卵を作成する計画でした。生産プラントのノウハウはすでに確立されており、安定して高い能力を持った個体を生み出すことは可能ですから」
窓の外にあるプラントを見下ろした。
「しかし、それでは永久に命を生み出すための生産ラインを稼働し続けなければいけないという制約が発生します。それには高いコストもかかるし、維持管理費も馬鹿に出来ませんからね」
「でしょうね」と俺は相槌を打つ。
「そこで、高い能力を持った個体同士を掛け合わせて自然妊娠による繁殖を行えばいいという結論に達しました」
あまりにも普通過ぎる発想にどう返そうかと困惑していると、
「そう。セオリー通りに、コトを進めることが出来るのならばね」
「出来ないのですか?」
「うむ」とうなずいてから、20号はチラリとゴローに視線を向けた。
「これまでも雌雄の自然生殖での妊娠が試みられましたが、遺伝子操作を行った個体同士の交配は色々と複雑な問題があるのです」
それがどれほど困難なのかイメージ出来なかったが、20号の渋い表情がその難しさを如実に物語っていた。




