第三章 「鎖に繋がれしもの」 27
と、突如、ビルの外が慌ただしくなる。
「いたぞ! ここだ!」
叫び声と共に複数の足音がシャッターごしに響く。
「46号が裏切ったってのはどうやら本当のようだったな」
「ゴリラと、中にもう一匹いるぞ!」
「早く引きずり出せ!」
俺達の仲間が追い付いて来たと思ったがどうやら違ったようだ。
隙間から覗くと、毛むくじゃらの足がこちらへ走って来るのが見えた。
「おっと! 無闇に近づくと危ないゾ。シャッターが下りている最中なんだからな」
それをシロウがけん制する。
「46号、キサマ、何を言っている? 研究所を裏切ったんじゃないのか?」
「オレは、はじめから何も裏切ってはいない」
「やはりそうか。アンタほどのオトコが外から来た奴らに負けるわけがないからな。ナニか凄い作戦の最中なんだろ?」
ビルの外で謎の歓喜が上がる。
「ああ……。オレは誰にも負けはしない。それを今、証明してみせる」
そう言うとシロウはビルの外の奴らを下がらせた。そして、自らは後ろ足を慎重に前進させる。そのたびに、少しずつだがシャッターが上がって行く。
俺はシロウを手助けするために、膝をついてシャッターを押し上げようとした。
「手を出さないでくれ」
しかし、シロウはそれを拒否する。
「!?」
訳が分からず俺は硬直した。
「シロウは今、知ろうとしているんだ。本当の強さというものを」
ゴローは地べたから立ち上がると、シロウに背中を向けた。横目でその様子をうかがうと、眉間にしわを寄せ、まぶたを閉じて震えていた。
当のシロウは目を血走らせ、鼻から血を流しながら自らの強さを証明しようとしていた。
「まだ、やり残したことがある」
一体、何をだ? そう言いかけて、俺は口をつぐむ。
ゴローは既にビル内でいる。あとはシロウがシャッターから前足を離すだけで追っ手は排除出来る。もはやシロウが命を削る意味はないはずだ。
だが、ここでそれを止めるのは、シロウが知ろうとしていること全てを台無しにしてしまうようで、俺はただ見ていることしか出来なかった。
そうこうしているうちに、シロウはとうとう後ろ足をシャッターの直下まで進めた。それから、重量挙げの選手のように前足で底板を掴んだ。
勢いをつけて両前足を頭上へと掲げるとシロウは咆哮した。
「よし完全に持ち上げた! 行くゾ!」
それを突撃の合図と思ったのか警備の奴らが声を上げる。
「素直な奴らだろ。目を背けたいくらいにな」
俺達にだけ聞こえるように、シロウが呟く。それから、背後から迫りくる足音に耳をピクピクと震わせた。
「でも、もう目を逸らすことは出来ない。真実を知ってしまったら、もう元には戻れない……。貴様らが、オレの曇り切った目を覚ましてくれたから。シロウとして生きると決めたのだからな」




