第三章 「鎖に繋がれしもの」 26
「笑えない冗談だな」
いつの間に目を覚ましたのか、ゴローはそう言った。それから、震える手で俺の指先を掴んでみせ、自分が大丈夫だということを示した。俺はゴローに促されるまま、ゴローの体から手を引いた。
「悪かったな。オレはこれまで、誰かを笑わせるようなことは何一つ学んだことがなくてな。ただ力だけを追い求め、それが愛するものを守る強さだと信じて生きて来たんだ」
「ああ。でも、あんたはそんな生き方から足を洗った。変わろうとしている。研究所を裏切れば自分が死ぬかもしれないと知っていて、オレたちに手を、いや、足を貸したんだろ」
「それも無意味な行為だったよ……。気付くのが遅すぎたのかもな……」
シャッターの駆動部分がキリキリと骨が軋むような音を立てる。
「こんなオレでも死んだら、いつか生まれ変わることが出来るのだろうか……」
シロクマの体が徐々に沈んでいく。
「それは誰にも分からない」
弱気な態度を示すシロクマにゴローはハッキリと告げる。
「だが――」
ゴローは床に背中を付けたままの姿勢でシャッターの底板を掴むと、
「何者だろうと、生きているうちは何度でも生まれ変わることが出来るのと、オレは信じている」
力を込めて押し返した。
自らの運命に押しつぶされそうになっていたシロクマの顔が上を向く。
「生まれ変わるのに遅いも早いもない。実験体46号はもうどこにもいない。縛り付けるものも存在しない。お前は、その足でどこでも自由に行くことが出来るんだ」
「自由……か……」
シロクマの瞳に希望と言う名の火が灯る。
ピー。
無情にも、その火を吹き消すように死神が息を吹きかける。
「もはやオレは、46号ですらない。なら、オレは一体何者なのだ?」
「シロウ。と、いう名はどうだ?」
シロクマは目をしばたたかせ、
「名前? このオレのか?」
ゴローは無言でうなずいた。
「46号だから、シロウ……か。お前も言うほど笑いのセンスがないじゃないか」
二匹は不敵に笑い合う。俺は自分のことを言われているようで少し照れくさく感じた。




