第三章 「鎖に繋がれしもの」 28
トラ、オオカミ、ピューマにヒグマ……。上位の捕食者がこちらへとにじり寄る。
それに気付いたのか、シロウは前足をクロスさせた。それから、シャッターを掴み直すと、
「オレは、生き物の繋がりとは喰うものと喰われるものの関係だと思っていた。強き者が弱き者を喰らう弱肉強食の世界で生きてきた。だから、あのオウムのように誰かのために命を懸ける行動が理解出来なかった。だが、今こんな状況になって、それが理解出来るような気がする」
体を反転させてビルの外へと振り返った。
だが、体勢に無理があったのかシロウはふらついた。シャッターに押しつぶされそうになるのを、俺は素早く支えた。
「自立するにしても、これくらいの補助はいいだろう。共に立つ者としてな」
「共に立つ者?」
奇妙な言い回しにシロウは首をかしげる。
自分でも咄嗟に口をついて出た言葉だったが、その問いには自然と答えを導き出せた。
「共に立つから、トモダチ――ってやつさ。俺はここで生まれてないから、シロウの兄弟にはなれないからな」
俺の顔を見てシロウは不敵に笑う。
「トモダチ……。これがそうなのか」
「トモダチに見た目は関係ないということだ。当然ながら、顔の良し悪しもな」
俺と反対側、シロウを挟むようにしてゴローもシャッターを掴んで立っていた。
「おいおい、それはどういう意味だ?」
冗談っぽく笑う俺に合わせて二匹の表情も柔らかく崩れる。さっきまで命のやり取りをしていたはずなのに謎の親近感を覚える。
しかし、外野からすれば目の前の俺たちが理解出来ないようで、
「貴様らどういうつもりだ?」
大きさも見た目も違う、何の繋がりもない三匹の生物が一列に並び立ち笑っている。その光景はこの島のケモノの目には異様に映っただろう。
「46号、やはりそいつらとつるんでいるのか?」
シロウは何も答えなかった。
ピー。
その代わりにシロウの中から電子音が鳴り響く。
「結局、オレは鎖に繋がれしものなんだ」
ガシャンと音を立てシャッターが揺れる。
「良くも悪くも、一度繋がった縁というものはそう簡単にはなくならないらしい。死ぬまで。生きている内は、文字通り。生涯……な」
シロウの大きなため息と共に、鼻から血が滴り落ちる。
ピー。
音のする間隔が明らかに短くなっている。
島の奴らが動揺して後ずさりする。
「オレは今もこいつらの仲間なんだよ。だが、お前たちは前に進むことが出来る。やるべきことがあるはずだ」
「しかし、シロウをひとり残していくわけには……」
「これでいいんだ。これがきっと、『人はひとりで生まれて、ひとりで死んでいく』。その答えなんだ」
シロウの優しい瞳が、苦悩する俺の姿を反射して映す。
「だが、今この瞬間はひとりじゃない」
「え……?」
「島のみんなと繋がっている……。お前たちとも深く繋がっている。どちらも同じ繋がりだけど、オレは自分を縛り付ける冷たい鎖よりも、離れていても感じられる温かい絆を選びたい」
シャッターから手を離すと、シロウは一歩前に踏み出した。
「だから、サラバだ。友よ」
俺とゴローだけでは支えきれなくなったシャッターが下りていく。
「ゴロー、島のみんなをっ――。家族を、頼んだぞ――!」
そう言うと、シロウは四つん這いの姿勢でケモノの群れに突進すると、夜の闇へと消えた。




