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ただいま迷走中!?  作者: 呪理阿
六月 梅雨だろうがどんどん迷走
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91/102

91 本の中は大変、窓の外も一応は大変

 皆が昼食を終え、それぞれ好きな事をしている休み時間。

 文庫本を読んでいた忍の側に、誰かが立っているのが視界の端に写った。その顔を一瞥し、彼女は貌を上げた。

 少し癖のある栗色の髪に、こめかみあたりから生えた、白く細長い角。

「…………シル、なんでそこに」

 忍は小声で、彼女に話しかけた。

「すっごい外暗いからさー。外出したくなっちゃった」

「普通逆」

「天邪鬼なの、あたしってば」

 そう言って、シルはなぜか胸を張る。

 忍は適当にうなずいて、本へと視線を戻した。今、いい所なのだ。行方不明になっていた主人公を、もう一人の主人公とその仲間がもう見つけそうな――

    扉を差す杖の先から、ドンッという衝撃が伝わってきた。その一瞬

   後、扉は跡形もなく消えていた。

    ディーンを先頭に、部屋の中へと駈け込む。

   「フィーア様! どこですの!?」

    エメルナが金切り声をあげた。ディーンはぐるりと部屋を見渡すが、

   ボロボロの家具が転がっているだけで、フィーアは居ない。ラフェッ

   トの方を見ても、彼はただ首を振るだけだった。鼠が一匹、走り去る。

   『くそっ! 次行くぞ!』

    かび臭いその中を、三人は走る。

 ――そこで、忍は静かにしおりを挟み、パンッという音を立てて本を閉じた。

 いつになったらフィーアは見つかるんだ。もう軽く二十の部屋探してるよ? そろそろ見つけないとフィーアキレるよ? ただでさえあの子は気ぃ短いのに、いくらなんでも引っ張りすぎでしょ?

「時間かかるよねー、それ。しかも後でフィーア、ディーン達をこってり叱りつけるんだよ」

「ネタバレ」

 自分の中で、もっともされたくない事だ。忍はキッと、シルを睨みつける。しかしシルには、堪えた様子もない。

「嘘だよ。本当は……」

 改めて睨みなおす。今度はもっと、目に力を入れて。その目を見返して来たシルはけらけらと笑う。

 さっき呼んでいた物語に出て来るフィーア。わがまま三昧の彼女はあまり好きではなかったが、目の前に居る化物とフィーア、どっちの方が嫌いだろう。

 ――シルだな。フィーアはまだ、照れたり泣いたりと可愛気がある。忍は再び、文庫本を手に取った。

 相変わらず、ディーン達が幽霊船の中を駆けずり回っている。ディーンの使い魔であるラフェットは、完全に移動手段と化していた。

「暴風警報、出ないかなー」

 誰かの声が聞こえる。

 暴風警報が出れば帰れる。忍もそれは少し期待していた。昼休みに突入し、半分あきらめかけていたのだが。

「来た! 暴風警報、出たぞ!」

『マジ!?』

 誰かがスマホ片手に叫んだ。はじかれるように、忍も顔を上げた。

 教室のあちこちで歓声が上がる。拍手まで起こり始めた。

 すぐ教室中が拍手の音でいっぱいになる。球技大会で男子が優勝した時も、ここまでは盛り上がらなかったのだが。

 一人の男子が教壇に立って手を広げ、指先を動かすジェスチャーで『もっと拍手をしろ』と促す。忍も拍手を始めた。

 そして彼は手を振り、教室の拍手の音が、一つのリズムを刻む。

 パン、パパパンッ!

「何コレ何コレ。すっごー」

 シルが忍の肩を掴み、肩を震わせながら言った。

「暴風警報ごときでここまで盛り上がれるものなんだねー」

 そう言いながら顔を上げ、浮いた涙を拭っている。

 教室中のお祭り騒ぎ。もう帰ろうとしている奴まで居る。まだ、何の連絡も入っていないのに。

 忍は口元を押さえて、くすりと笑った。

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