83 キャンベル牧場
「わぁ~っ! 牛が居る~!」
「牧場だもの。あっ、鶏も居る」
「牧場だかんな。あ、シマウマも……って、は?」
なんでシマウマ? 何が悲しくてシマウマ? 何がどうなってシマウマ?
タラッド=タドだ。
街を出るところで、牧場に行く馬車を捕まえて乗せてもらった。
ちなみに、馬車に乗せてくれたアントニーっていう優しい兄ちゃんはここの牧童なんだとか。買い出しで街に出てたんだってさ。
「アントニー、アレは?」
「よそよそしいなぁ、トニーでいいぞ?
で、何だ……あぁ、あれ。またか。気にしないでくれ、坊ちゃん等のイタズラだ」
白い馬に黒のペンキでも塗ったのか? どんな坊ちゃんだよ……。
「トニー! お帰りなさいっ!」
「うぉっ、わっ!」
あ、トニーが女の子の突進でこけた。もうちょっと踏ん張れよ。
「バービー、もうちょっと加減してくれ!」
「えへへっ。ねぇ、この人達だぁれ?」
光より少し小さいくらいの、バービーとかいう子は俺等を指差す。
「ジャイズン、シヴィル、タラッド、ヒルデガート。お客さんだ。ほら、お前も自己紹介しろよ」
「はぁい。バーバラ・キャンベル。バービーって呼んで。よろしくっ!」
『よろしく』「よろしくー」「よろしく~」
人懐っこそうだな。可愛がれてそうな子。
「この牧場の嬢さん。でもって……おい、ブライアンにペンキ塗ったのはお前だろ」
ブライアン? あぁ、あの白い馬。名前付いてるんだな。
「バートもだもんっ!」
あ、バービーが逃げた……。足速ぇな、あんな小せぇのに!
「ね、トニー。バートってのは誰?」
「バートランド、坊ちゃんだよ。バービーの双子の兄だ」
「ふぅん、大変そうだな、アンタ等も」
「……ジャイズン、その根拠は?」
ジンとシルに、トニーがじろりと視線を向けた。
「イタズラは周りが困れば困るほど楽しいモンだからな。まだまだ止めねぇだろ」
イタズラっ子の大将が言うなら間違いねぇな。
もちろん、その大将に付いて行ってたのはシル、俺、ヒア。
「はぁ……。よし、二度とやりたくなくなるような仕置きを用意してやろう、相談して……」
トニーが怖ぇ。誰と相談する気だ。
「お帰りなさい、トニー。ご苦労様」
「ただいま、シャロン。バートは何処か知ってるか?」
「クレムと一緒じゃないかしら。それより、その子達は……?」
玄関の方から出てきた、まだ若く見える女の人。若い、けど雰囲気が『お母さん』っぽい
「ジャイズン・ラオマネット。覚えてくれてる事を期待してたんだけどな」
「覚えてるわよ! でも、人違いだったら失礼でしょう?」
「知り合いか?」
トニーが割って入る。そりゃ、そうだろうなぁ。
ジンが言ってた、泊めてくれそうな場所の一つかな。ここって。
「昔、旅の途中に寄ってくれたことがあったのよ。ミャやラドはどうしたの?」
「さぁ、どっかぶらぶらしてるんじゃねぇのかな。一緒じゃない」
「ジンはもう、一人前だものね。さ、とりあえず中に入りましょ。丁度ケーキができたところよ」
トニー、ガッツポーズはいいけど、そういうのはせめて心の中でしろよ。
「その子達の事も聞きたいし、ね? トニー、皆を呼んで来てくれる」
「へいっ」
おぉ……馬にまたがって走り出して行った。かっけー。
「マミー、クレム捕まえて!」
男の子の声。それと同時に……シープドッグって言うのか? ふさふさの茶色い犬が走って来た。
「え? きゃっ!」
そっちに気を取られたシャロンが、何もない所でこけた。
「わぉ、大丈夫?」
「シル、ナイスキャッチ」
「タド、それ褒めてんの?」
褒めてる褒めてる。どう聞いたら褒めてないように聞こえるんだ。




