71 ラッキー、なのかコレは?
「材料入れましょ生クリームにー」
と、ひな祭りに流れるあの有名な曲の替え歌を歌いながら、叶子ちゃんが材料を生クリームに入れていく。
「語呂全然合ってないよ、叶子」
「そうだねー。でもお鍋にーよりマシでしょ?」
「おぉーなべーにー。あぁ、そうだね。これだと大鍋みたい」
宮奈ちゃんと叶子ちゃんは、会話をしながら材料を生クリームの中に投入している。
生クリーム鍋は作った事無いけど、多分生クリームが沸騰してから材料入れればそれでいいんだろ。……っと、四人組は言ってた。ホントに大丈夫なのかこの班。
タラッド‐タドだ。
周りは結構火ぃ点けるのに苦労してるらしいけど、
『火、点かねぇーっ!』
……ほら、な。イラついて叫んでる奴数人いるし。
けど、俺等んトコは何の奇跡か一発で火が点いた。
悪い事起こんなきゃいいけどってな。
「チョコレート、投入ー」
ドポン。……叶子ちゃん、そういう板チョコはは割ってから入れようや。
「レーズン、投入っ!」
おい宮奈、食いモン投げんなコラ。
「宮奈、投げ入れちゃ駄目でしょ。レーズンと飛び跳ねた生クリームが勿体ない」
「あはっ、つい!」
玲也くんが割って入った。でも宮奈ちゃんは笑ってる。
「勿体ない……」
玲也くんが半分目を伏せて、飛び散った生クリームの一部を見ながら呟く。
「すいませんでしたぁっ! ごめんれーくん、お許しを!」
「もう、やっちゃ駄目だよ?」
「はいぃっ!」
……何だこのやり取りは。
深ぁく頭を下げた宮奈ちゃんの声は必死。何があったんだ、あの二人の中で。
「なーなー、まだこれ食えねぇかな?」
「多分、まだ煮えてないよ? ホント、大地は食いしん坊だよねぇ」
「人間は食うとこから始まんのさっ!」
大池くんがぐっと親指を立てて、何故かこっちに向けてきた。
「なっ! タラッド!」
「いや、同意求められてもな……」
「なんでだよー。食う事嫌いか? そんなこた無いはずだ。あっちゃだめだ。うん」
そりゃ嫌いじゃねぇけど。
「お前、そんなに食う事好きなんだ?」
「あったりめぇだろ! 悪いかっ!」
「いや、いい事じゃね?」
「だろっ!」
……だからそんなに身長が高いのか。食ったら食っただけ縦に伸びたんだな。太ってねぇし。
「まだかな、まだかな、まだかな、まだかなーっ」
「なんだよ、俺に食いしん坊とか言っといて。叶子も早く食いてぇんじゃん」
「お腹空いたもーん!」
電車下りてから結構歩いたもんなー。そりゃ腹も減るわ。
あれ……俺ぜんぜん減ってねぇ。なんでだ? どうなってんだ、俺の身体。角生えてる時点でかなりおかしいけど。
大地くんと叶子ちゃんが蓋に手を伸ばしかけた時、それに気付いた宮奈ちゃんが慌ててと目にかかった。
「ちょっとー! 二人とも! まだ駄目だよ、食べちゃ! もー。大池も叶子も食いしん坊なんだから!」
食いしん坊増えた。
「でも、いい匂いー、だねー……」
「だよなー……」
「う……ん。そうだねー……」
ミイラ取りがミイラ。宮奈ちゃんまで鍋に視線が釘付けに。三人の目が虚ろだ。恐るべし生クリーム鍋。っていうか甘い匂い。
それはいいからお前等、戻って来ーい。
「こら、こら、こら。もう。まだ駄目でしょ」
お、玲也くんの登場。宮奈ちゃんがこっち来てからは、ちょっと離れたところで見守ってた玲也くんがついに動いた。
で、三人の頭を後ろからペン、ペン、ペンと叩いた。
「まったく。大池も叶子も宮奈も食いしん坊だなぁ」
このまま玲也くんも引きずり込まれやしねぇかと不安だけど、まぁあの大人な玲也君なら大丈夫だろ。……だろ。多分。大丈夫、か?
「別にもういんじゃねーのー?」
「そうだよー。こんなにいい匂いしてるんだからー」
「もう、食べちゃおうよー」
「そうだね」
引きずり込まれた……あっけなかったな大人な子。
「ちゃんと煮えてるか確認……」
あぁ、それはするのか。よかった。ただ誘惑に負けただけじゃ無かったのか。
「しながら食べようか」
結局食べるのが先か。
「食べよぉーっ!」
「おぅっ!」
「おー!」
「おー」
………………あれ、俺も言わなきゃいけない系?
「お、おー」
「さー、分けるよー?」
お玉にいっぱい鍋の中身を取って、それぞれの皿に入れていく。
「……意外と少なかったね」
「結構お腹が膨れるんだと思うよ、これ」
『いただきまーす』
この味を一言で言うなら? 甘い。甘くて旨い。
「リンゴレモンジュース飲む?」
「リンゴレモン?」
「リンゴジュースにレモン入れたの!」
へぇ。変わったの好きだなこいつ等。
「旨ぇのか?」
『知らない!』
……訂正しよう。勇気あるなこいつ等。
「あ?」
「タド、どうしたの?」
「雨降ってきた。さっさと食って避難しといた方がいいぜ」
今ポツって来た。さっきから空も暗いし、というかずっと暗かったし。大雨になるだろこれ。
「ぷはっ! よっしゃ、とりあえず鍋と鞄だけ持って、屋根あるところまで逃げるか!」
「う、うん!」
「はふはふはふはふ」
「叶子、無理しなくていいよ。お皿持ったまま避難しよう」
あぁ、今すぐ避難すんのか?
……いつの間にか火が消えてて助かったな。
鍋とか荷物とかを持って、すぐそこの屋根がある場所まで避難。
そのすぐ後にドバっと降り出した。悲鳴と慌てる声もあちこちから。
「今日は運良いな俺等」
「いっつも運はいいんだよ、私達!」
運『は』か。
「テストの点は悪いんだけどね!」
「俺以外な!」
「そう、一番頭がいい大池でも平均きっかりなのー」
「へぇ、一番頭いいのって大池なのか?」
俺はてっきり玲也かと。
「玲也は授業と関係ない事ばっかり勉強してるから!」
「授業中も別の事やってるしねー」
……通りで、授業中に、明らかに教科書じゃない分厚い本読んでた訳だ。
あーあ、雷まで鳴りだした。帰れるのか俺等。




