48 少し昔の話
よく分からない化物と黒修羅、額に一本の黄色い角が生えた鬼が八分の一。額と脳天の間に角が生えた鬼、牛のような角が生えた鬼、蒼と赤の修羅に空族、豹の獣人、鳥人、虎に人魚に精霊が十六分の一ずつ混ざった、よくぞこれだけと褒められそうなほどに色んな種がごちゃ混ぜになった子供が誕生しました。
お父さんはドダル、お母さんはシャイラといいます。
長男、次男、三男、長女、次女、四男の六人兄弟です。
皆綺麗な顔をしていて、身軽さと戦闘力の高さ、並外れた記憶力とを兼ね備えていました。
髪の色がお父さんと同じ赤毛の子と、お母さんと同じ栗色の子とが居ました。長女と四男だけが真っ直ぐで、他の子は皆少し癖がついていました。目の色は、長男と三男が濃褐色で、他の子は淡褐色をしています。
次男の名前はラディムといいました。ラドというのが愛称です。
淡褐色の瞳と、少し癖の付いた栗色の髪をしています。額からは拳の半分より少し長いくらいの、少しオレンジのかかった黄色い角が生えていました。
ラドの一家は旅をしていました。しばらくして、お兄さんと三男が家族と別れて旅をするようになったので六人になりました。
ある日ラドは一人で晩御飯の獲物を探していて、地面に大穴が空いているのを見つけました。好奇心旺盛な彼は、穴の中に生えていた蔦をつたって中に降りてみました。
穴の中は湿っていて、ずっと高い所に穴が開いているだけの、本当に何もないただの穴でした。
ちぇ、と、彼は残念そうに舌打ちして、また昇ろうと蔦に足をかけました。その蔦が前後に揺れました。
その部分の蔦をかき分けてみると、真っ直ぐに奥へと続く洞窟のような穴があります。ラドは目を輝かせ、半分走りかけながら奥へと進みました。
ラドの身長より少しだけ低い穴を、少し屈みながら進みます。不意に開けた場所に着きました。真っ暗だったはずなのに、ぼんやりと明かりが見えます。四隅に一つずつ、丸い光源がありました。
真ん中には、何か変な色の液体が入った円柱があります。その周りに、黒い変なモノやツルツルした紐が繋がれていました。紐は壁のいたるところに繋がれています。
円柱は淡い光を放っていました。近づいてよく見てみると、中には女の子が入っているようでした。
ラドは目を見開いて精一杯驚きを表現していました。コンコン、と透明で硬い、液体の入っているモノを叩いてみました。ビリッと小さな雷が出来ましたが、ラドは雷に撃たれたことだってありますから大した事はありません。彼の黒い鱗が、電気をある程度弾いてくれます。
『だ~れ?』
女の子の長いまつげが震え、目が開かれました。瞳の中は真っ白で、黒い線と縦長の瞳孔だけが瞳の存在を知らせています。
彼女の声は聞こえません。それでもなんとなく、何を言っているかは分かりました。
『だ~れ? 答えなさ~い』
『ラディム』
『ラディムね。分かった~』
女の子はすぅっとラドの目の高さまで下りて来て、膝を抱えます。白い目を見つめて、ラドは尋ねました。
『お前は誰だ? なんでそこに居る?』
『私? ミリアンよ。ここに居るのは生まれてないから。まだ体を作ってる途中なの』
『……俺と同じくらいの年に見えるけど』
『意思があるのに、赤ん坊の姿じゃ面白くないって私が頼んだのよ。おかげでこの中に居る期間が伸びちゃったわ』
ミリアンは、円柱の中をぐるっと動きました。彼女の首やこめかみからも黒い紐は伸びていました。
『やあ、ミャ。気分はどうだい?』
ラドの背後で、男の声がしました。足音は聞こえていたので、彼は特に驚きもせず振り返ります。
『それなりにいいわよ。今日は』
『おいおい、今日はって不吉な言い方するなよ。明日悪くなるみたいじゃないか』
『あら、ご期待にお応えしましょうか?』
ミャ、というのはミリアンの愛称でしょう。彼女は妖艶な笑みを浮かべると、白衣を着た男へと言いました。彼はぐっと顔をしかめ、叫びました。
『勘弁してくれ! 君の機嫌が悪いと、いつこの装置が壊されるかといつも冷や冷やさせられるんだ!』
『そんな事しないわよ~。私が生きてられなくなるじゃない』
そう言って、ミャは笑いました。
男は『それはそうと』と言いながら近づいて来て、ラドの方を見ました。
『彼は?』
『お友達よ。さっきできたの。美人でしょう?』
『あぁ、いわゆるイケメンだな。で、なんでこんなところに入ってこれたんだ?』
後半はミャに当ててではなく、ラドに向けて言いました。
『穴があったら入りたい。に従った』
『……偶然ここを見つけたと?』
『そうだ』
『ならいいが。ここで見たことは他言無用。いいな?』
『ん』
真剣な顔をして言われた言葉に、軽くうなずくラド。二人の緊張感は全くと言っていいほど違うようです。
『…………二度とここには来るな。分かったらすぐに出ろ』
『えぇ~。貴方、私のお友達を奪うつもり?』
すっと出口を指した男に、不平を漏らしたのはミャでした。彼女の機嫌は傍目で見ても分かるほどに悪くなっています。
『お友達は生まれてから作りなさい。さぁ、早く出ろ』
ラドは足を引き、回れ右をして出口の方へと向かいました。
少し体をかがめた時、背後で何かが割れる音がしました。硬くて、分厚い物です。
『壊しちゃった~。私の機嫌を損ねるから。あ~あ』
ミャの物だと思われる、綺麗な声がしました。
ペタペタと言う足音が近付いて、彼女はちょうど振り返ったラドに抱き着きました。彼女の肌に付いている液体で、彼の着ていた服が濡れました。
一方、男は口をパクパクさせていました。まさかミャが《装置》を破壊するとは思っていなかったのです。
『……大丈夫なのか?』
『さっきは作ってる途中って言ったけど、体はもう完成してるの。自分の事くらい分かるわよ~』
ラドを見上げるミャは、嬉しそうに言いました。
『ねぇ、私、霊界へ行きたいわ。連れてってくれるわよね~、アト?』
アトと言うらしい男は、困った顔をして二人を見比べ、結局頷きました。
『ふふ、そう来なくちゃ~。ラディム、貴方も来るでしょ?』
『霊界とかいう所に?』
『そうよ』
『ミャ、彼は霊体じゃない。霊界には行けないよ』
ある程度落ち着いたらしいアトが言いました。
『……霊体には出来ないの?』
『死ぬしかない』
『死なないで、霊体には出来ないの?』
『無理だ』
ミャは少し考えて、そして口を開きました。
『じゃあ、霊界じゃなくていいわ。異世界』
『ここじゃ駄目なのか?』
『ここの事は全部知ってるもの。私の体を作った霊力はこの世界の物でしょ~』
アトは大きなため息を一つ吐き、少しの沈黙の後、言いました。
『彼の家族は。彼の意志を無視して連れて行くのか?』
『いや、俺はハッキリ言って異世界の方に興味がある』
『裏切り者っ!』
『どこがだよ?』
ラドは思わず彼の頭を叩きました。
アトは大げさに溜息を吐き、二人に付いて来るよう言いました。




