49 二昔より最近の話
ラドとミャは、異世界へ飛びました。
アトが黒くて四角い、蠢く紫の筋が入った穴を空間に開けました。二人は彼から逃げるように、走って異世界へと飛び出していきました。
ラドはミャに負ぶさるよう促し、彼女を背負って思い切り地面を蹴りました。三階の高さがある建物の上に着地すると、全速力で走ります。彼の速さに、アトは追って来れないようでした。
『……で、これからどうすんの? 俺、異世界の知識なんて全くねぇぞ』
街の外れまで来てラドは息を整えると、尋ねました。
『私はそれなりに色々教えてもらってるわ。さっきのアトとか、その仲間たちがよく話してくれるの~。だから大丈夫よ、きっと』
『最後の一言が無ければなー』
ラドは視線を黒っぽい空にやって、呟きました。
『あら、何か言った?』
『別に。俺等はこれからどうするべき?』
『まず、この世界の服を買わないとね~。その服じゃ目立つわ。私のも』
ラドは柔らかい素材でできた、着心地は良いとも悪いとも言えない旅向きの服を着ていました。ミャは、一枚の白い布を体に巻きつけただけの簡単なものです。一方、下の通りを見てみると、道行く人は皆ふかふかのコートを羽織っています。
『……服か。でも、買おうにも金が無い』
そう言ってミャの方に向き直り、にっこりと笑ったミャにラドは言いました。
『盗むか』
『ふふ、期待通りのお言葉ありがとう』
そうして彼等は、自分たちの体に合う服を探して閉店後の服屋を荒らしまわり、手に入れました。 そのついでに、金もいくらかと食べ物も頂戴しました。
外は黄色っぽい茶色で、中は真っ白のふわふわで四角い食べ物。小さな白い粒を三角形に固めて、中には味の付いた草が入っている食べ物。見た事がなく、しかし美味しい食べ物を、二人は堪能しました。
食べた後は眠くなり、風の当たらない細い道で二人はより添って暖を取りながら眠りました。
彼等はその世界で旅をしました。
その世界には魔法と言うものが殆どありません。その代わり、科学というものがとても進歩していました。
しかし、あまり治安はよく無いようです。彼等は何度か人殺しに会い、返り討ちにしながら旅を続けます。獲物が殆ど見つからないために彼等も物を盗みながら旅をするので、治安を悪くしている内の二人だったのですが。
ある程度言葉が理解できるようになったある日のことです。彼等は一つの所に落ち着くことになりました。
百と何十番目かに訪れた町の女性の家に、一晩泊めてもらいました。彼女は小さなアパートの大家さんをしていましたが、親の面倒を見なければならなくなってアパートを手放す事にしたのだそうです。
この国では珍しい、心から人を思いやることのできる女性でした。彼女の性格が幸いして、アパートはほとんど売れました。しかし、一つだけどうしても売れない部屋があったのだそうです。
幽霊が出るそうだと彼女は言いました。そして、すぐに笑い飛ばしました。しかし売れないのは困るので、せめて貰ってくれないかと二人に頼みました。
ただなら、と二人はその部屋をもらいました。
部屋の鍵をもらい、行ってみます。しかし、丁度幽霊はお留守のようでした。
ラドは鏡の前で角を隠すために帽子を被っていたことに気付いて、帽子を取りました。鏡の中に噂の幽霊かと思われるモノが居たので、取り敢えず挨拶をして友達になっておきました。
しばらくして、ミャは子供を生みました。ラドを含め、ラドの家族や先祖は皆そうだったように、赤ちゃんは薄くて柔らかい、しかし丈夫な膜に覆われた状態で生まれてきました。すぐに赤ちゃんは幕を破って出てきます。
二人は息子に、そこの言語を使ったジャイズンという名前を付けました。愛称はジンです。
ジンは何度かこけたりひっくり返ったりと失敗をしましたが、すぐに自力で立ちあがれるようになりました。
『可愛いわ~。ジン、ラド、ご飯食べましょ?』
旅の初めはちょくちょく体調を壊していたミャですが、今は病気一つせず、元気に動きまわることができます。
彼女はパンと一緒に、生のままや焼いた後の肉を皿にのせて運んできました。
ジンはトトトと寄ってきて、始めてみる肉を淡褐色の興味深そうに見つめています。
『ジンはこれよ。お肉はもうちょっと大きくなってからね~』
ミャがそう言ってミルクを渡しました。ジンがそれをストローで飲んでいるうちに、ラドとミャはさっさとパンと肉を胃の中へ入れました。
ラドとミャ、ジンの生活はそのまま続きますが、一年経つ前……明日がジンの誕生日という日、さらに家族が増えました。今度は女の子です。
女の子にはシヴィルと名付けました。シルと呼ばれるようになった彼女は、お兄ちゃんのジンの後を追うように付いて歩きます。
二人には、友達ができました。同じアパートに住む子ども達です。特に、ナサという男の子と、カーリーという女の子と仲良しでした。
二人の後、さらに男の子と女の子が生まれます。
男の子はタラッド、女の子はヒルデガードと言う名前で、タドとヒアと呼ばれました。




