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追放された転生王子、呪われた森を《浄化》スキルで聖域化する ~のんびり辺境開拓していたらいつの間にか国ができてました~  作者: 戸津 秋太
第四章

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第73話 建国祭前日

「うぐぅ……」


 妙な寝苦しさを覚え、意識が浮上していく。

 目を開いたゼスの視界に広がったのは、見慣れた――というにはまだ日の浅い、王都ユグシルに構える王城の寝室の天井だった。


 寝苦しさの原因を求めて顔だけを起こし、下を覗くと、胸の上で丸まって眠るハクの姿があった。

 だが、寝苦しさの原因はそれだけではない。


「ユグシル……やっぱり君か……」


 体にべっとりと張り付くようにして、緑色の影。

 数日前まではそれがユグシルの髪であると気付くのに時間がかかったが、今はひと目見てそれとわかる。

 ユグシルの手はゼスの体をがっしりと掴んでいた。

 これが寝苦しさの正体であることは間違いない。


 すぅすぅと穏やかな寝息を立てているハクとユグシルの姿に、ゼスは身動きを取れずにいた。


「起こさぬのか?」


 見兼ねたように、胸元の霊石から声が聞こえてくる。


「まあ、ユグシルたちも疲れてるだろうしね。特に建国祭は彼女たちにおんぶに抱っこだから」

「気にはしていないだろう。むしろ大精霊としての本懐を達成できて嬉しいはずであるぞ」

「だといいけどね。……っと」


 起こすつもりは毛頭なかったものの、頭上で繰り広げられるフリルとの話し声で意識が覚醒したのか。

 ハクとユグシルが、ほとんど同時に身動いだ。


「……ガルゥ?」

「おはよう、ハク。ユグシルも」

「……おはよう、ゼス」


 のっそりと起き上がるユグシルと、ゆっくりと羽ばたき、宙に浮かび上がるハク。

 ようやく体の自由を得たゼスもまた上体を起こし、ベッドの上で伸びをするユグシルへ少しばかりの不満をぶつける。


「ユグシル、起きて早々にこんなことを言うのは気が引けるんだけどさ」

「うん」

「俺のベッドに忍び込むのはやめて欲しいというか……いや、一緒に寝ること自体はいいんだけど、このベッドも広いんだからさ。もう少し広がって欲しいというか、俺の体を掴まないで欲しいというか……」


 王都に建てられた王城よろしく、国王であるゼスにあてがわれた寝室の設備も相当に気合いが入ったものだ。

 そして今ゼスが座っているベッドのサイズはキング以上。

 二人以上で寝ても十分に余裕がある広さだが、しがみつかれてはその広さも活かせない。


 ゼスの言葉に、しかしユグシルはつんとそっぽを向く。


「それはダメ」

「ど、どうして」

「ゼスのことを掴んでおかないと、勝手にどこかに行くかもしれない」

「いや、行かないって。そんな子どもじゃあるまいし――ひょっ」


 そっぽを向いていたユグシルがこちらを向く。

 その鋭い眼差しに、ゼスは思わず声にならない声を出した。


「私が帰った後、公都で何をしたのか、忘れたわけじゃないはず」

「……はい」


 ものすごい圧に、ゼスは思わずベッドの上で正座する。


 公国から王都へと帰還したゼスたちは、事の仔細を建国祭の準備を進めるロバートたちへ報告することとなった。

 その報告は当然、ユグシルの耳にも入る。


 マクシミリアンが邪神に乗っ取られ、危うく幽閉されるところだったこと。

 その分体と戦うことになったこと。


 それらがユグシルに伝わり、口を利いてくれなかったのがその日一日。

 それ以降も、終日、彼女から監視するような目を向けられている。

 そしてその監視は、今やこうして寝ている間にも及んでいるというわけだった。


「でもほら、邪神に乗っ取られてるなんて想定できるわけないでしょ」

「……それは」

「それにさ、全部丸く収まったんだからめでたしめでたしってことで」

「…………」

「……いえ、なんでもありません」


 むすぅとした表情で睨まれて、ゼスはまたしても押し黙る。


「諦めるのだ。そなたに勝ち目はない。彼女の心境も組んでやるのだな」

「フリルまで……俺ってそんなに信用ないかな」

「ゼスのこと、信用してる」

「ユグシル……!」


 突然、他でもないユグシルに庇われて、驚きと共に顔を上げる。

 すると彼女は慈愛に満ちた微笑みを向けてきた。


「ゼスがまた絶対、勢いで突拍子もないことをしでかすって、私、信用してるから」

「……その信用はなんか違う」


 思わず項垂れる。

 そんなゼスの頭に、室内を飛び回っていたハクがパサパサと降り立ち、「ガルゥ」と鳴き声を上げた。

 何かを訴えるような声に、ユグシルが頷く。


「ゼス、今日と明日は大事な日。遊んでいる場合じゃない」

「遊んでたつもりはないけど、確かに二人の言う通りだ」


 正座を解いてベッドを降りながら、ゼスは今日の予定を振り返る。


「なんたって今日は、明日の建国祭に向けて来賓が王都に来る日だからね」





    ◆ ◆ ◆





 朝食を済ませ、朝の定例会議に顔を出したゼス。

 その後、王都に設置された《水門(ゲート)》を通じて、開拓地ディーネへ足を向けた。


 水に全身を包まれる独特の感覚が収まると、目の前には広大な湖の景色が広がる。

 一瞬にして全身を包んでいた空気や鼻腔をくすぐる匂いが一変する。

 離れた別の地点へ一瞬で移動することで、転移先の環境への適応に体の反応が遅れる。

 そんな転移独特の感覚を味わうゼスたちを待っていたかのように、湖から声がした。


「ゼス、シルちゃん、いらっしゃい」

「久しぶり、ディーネ」


 湖面に浮かぶのは瑠璃色の女性――湖の大精霊ディーネの出迎えに笑い返す。


「ふふっ、相変わらず仲良しさんね。あら? けど少し、ひっつきすぎじゃない? ふふっ、シルちゃんは甘えん坊さんね」


 ゼスの傍に並び立つユグシルを見て、ディーネが揶揄うように言う。

 するとユグシルはゼスから少し距離を取ると、抗議の目を向けた。


「甘えてるわけじゃない。……私が傍にいないと、ゼスがまた何かしでかす」

「素直じゃないわね〜」

「だから違う!」


 本当の姉妹のようなやり取りを繰り広げる二人を穏やかな気持ちで眺めるゼス。

 その視線を感じ取ったディーネがハッと顔を上げる。


「ごめんなさい、わたくしを迎えにきてくれたんだったわね」

「うん、明日が建国祭だからね」


 建国祭の行事の大半を占めるのが、セレスティア教に則った祭事だ。

 ゼスの王権を神と精霊が認め、国の正統性を対外的に示すもの。

 その祭事の流れ自体は獣人族のシャーマンや、ロバートを始めとした文官たちがアークライト王国時代を参考にして纏めてくれている。


 そして祭事には精霊の存在が不可欠。

 神々から職業やスキルを授かる神託の儀が精霊なくしてなし得ない奇跡である以上、精霊の存在は、何よりも重要なものだ。


 神聖セレスティア教国を除けば、祭事には明確な自我や存在を有さない微精霊を呼び、神官が精霊の声を代弁する形で儀式を進める。

 だが、オルサ王国には彼女たちがいる。


「二人とも、引き受けてくれてありがとう」

「断るわけない」

「わたくしも、シルちゃんに同じですわ。頼まれたからではなく、わたくしもシルちゃんも、あなたが王様に相応しいと心から思っているわ」

「あ、ありがとう」


 ディーネからの裏表ない賛辞の言葉に気恥ずかしさを覚える。


「それにしても、ゼスも律儀ね。わざわざわたくしを迎えにきてくれるなんて。依代と契約者であるあなたの傍にしかいられないといっても、わたくしはゼスの傍に《水門(ゲート)》を開けばそちらへ行けるのに」

「それはなんとなく申し訳なかったというか……それに、俺も久しぶりにここを見ておきたかったからね」


 そう言って、ゼスは湖から視線を外し、人々の活気が聞こえる開拓地の方を見つめる。

 そんなゼスの言葉にディーネは嬉しそうに微笑んだ。


「それじゃあわたくしが案内してあげるわ。きっと驚くわよ。あなたがいない間も、開拓は進んでるんだから」


 言うや否やゼスの前へ飛んでいくディーネ。

 その後を慌てて追いかける。


「ディーネ、喜んでる」

「うん。建国祭が終わったら、ここでもお祭りを開こう」

「賛成」

「ガルゥ!」

《お知らせ》


突然ですが、本日(8/27)発売の月刊コミックアライブ10月号に

本作のコミカライズ第一話が掲載されています!

上原ひろき先生の素敵な漫画をご堪能ください……!


また、来月10日には本作の2巻がカドカワBOOKS様より刊行されます。

こちらも併せてよろしくお願いいたします……!

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