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追放された転生王子、呪われた森を《浄化》スキルで聖域化する ~のんびり辺境開拓していたらいつの間にか国ができてました~  作者: 戸津 秋太
第三章

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第61話 国王ゼスの一日

 王城が完成したことで、ゼスの生活の拠点は再びユグシル村、改め王都ユグシルへ戻ることとなった。

 そうして本当の意味で始まったゼスの国王としての一日は、まず、城に勤めるメイドに起こされるところから始まる。


「ゼス様、朝でございます」

「うん、おはよう」


 身支度を整えたゼスは寝室を出て、用意された朝食をとる。

 その後、早速廷臣たちによる会議に顔を出し、オルサ王国の現状の報告を受ける。


「開拓地ディーネへ監督役として派遣したジージジ殿の報告では、開拓は順調とのことです。やはりエルフ族の集落の長老であった彼の統率力は流石の一言かと」

「エルフ族は精霊への信仰も厚いからか、ディーネとも上手くやれているみたいだし」


 邂逅以来、ゼスと行動を共にしていたディーネだが、最近は依代である湖近くの開拓地に滞在している。

 どうやら自らを封印した影響で、依代が不安定になっているとのことで、契約者であるゼスの傍であれば動き回れるとはいえ、王都に滞在し続けるのはよくない状況らしい。


 ということで、今はジージジと共に開拓地の管理を担ってもらっていた。


 会議の間、ゼスが口を挟むことはあまりない。

 それでも、理解できなかったことについては訊ねるようにしていた。


 会議が終わるとその足で王城内の執務室へ顔を出す。

 机には書類の山が積まれていて、それら一枚一枚に目を通し、サインを書くのが王になったゼスの仕事の一つだった。


「はぁ〜、やっと終わったぁ」

「ご苦労であったな」


 最後の書類にサインを記し、羽ペンを握ったまま椅子の背もたれに体を預ける。

 胸元から飛んでくる声に「フリルもね」と微笑みかけつつ、頭上を見上げた。


 作業時間自体は、シルク商会の頼みで中古商品を《洗浄》していた時と変わらない。

 だが、のし掛かる疲労感と時間の感じ方は雲泥の差だった。


「ステータスは伸びたんだけどなぁ」


 羽ペンを置きながら、心の中で「ステータス」と念じる。



――――――――――――


名前:ゼス

種族:人族

職業:【清浄王?】

レベル:77

筋力:C

防御力:C

敏捷性:A

精神力:S S

持久力:C


スキル

《洗浄》《浄化》《修整》

《精霊の眼》《清浄王の加護》


――――――――――――



 神獣フリルと大精霊ディーネを立て続けに《浄化》したことでレベルが上がり、《修整》を授かった。そしてその《修整》で土地の改良を行ったことで、さらにレベルが上がっていた。


「……でも、精神力は伸び悩んでいるんだよな」


 大樹海全域の浄化に必要な精神力は最低でもSSS。

 そのSSSが遠い。


「ゼスは感覚がおかしくなってる。SS自体、大抵の人類が到達できないステータス」

「ユグシル! それにハクも」


 ノックもなしに執務室に入ってきたのは、ハクを胸元に抱き抱えたユグシルだった。

 この王城で、許可を待たずに入室してくるのはこの二人かソニアぐらいだ。


 パタパタと頭へ向けて飛んでくるハクを受け止めながら、ユグシルへ訴える。


「図らずも神獣や大精霊にスキルを使ったわけだけど、これで精神力が伸びないなら、大樹海全域の浄化なんて夢のまた夢じゃないか。というか、どうしてユグシルはそんなに余裕なんだ?」


 大樹海の浄化はユグシルの方から持ち出してきた話。

 この地を清浄にするために生まれた彼女にとっては、死活問題のはずだ。


 執務机の前で歩みを止めたユグシルは、微笑を湛えて答える。


「ゼスはまだ、小さい。これから何十年と伸び代を残してる」

「うむ、そなたのいうとおり」

「……そりゃあ、もう少しでやっと十六になる若造だけども。でも、それについてはユグシルやフリルの感覚がおかしいんだって」


 百年、下手をすれば千年単位で物事を語る神獣と大精霊を前にすれば、十年なんて短い時間かもしれないが、人としての時間感覚を持つゼスにとっては数十年後のことなんて気の遠くなりそうなぐらい先の話だ。


(あれ、そういえばちょうど誕生日じゃん)


 ふと、諸外国へ向けて案内した建国祭の日程と符合する。


「? ゼス、どうかした?」

「ガルゥ?」

「いや、なんでもないよ」


 不思議そうにする二人へ笑い返す。

 そうしながら一つの可能性に思い至った。


「そうだ、《修整》を大樹海全域にかければ、ステータスも伸びるんじゃ――」

「それならゼスが大樹海に《浄化》をする度に伸びるはず。それが恒久的なものだったら世界への影響力は強いかもしれない。でもゼスの《修整》は、あくまでその瞬間に限られる」

「……そっか、影響力か」


 以前、他でもないユグシルの口から説明されたことを思い返してがっくしと項垂れていると、執務室の扉が丁寧に叩かれた。

 ゼスが入室の許可を出すと、「失礼します」といつもの真面目な態度でロバートが現れる。


「ゼス様、昼食後のご予定についてですが」

「スターロードさんとの謁見でしょ? 覚えてるよ」


 国王となったゼスの主な仕事は、国政に関連する書類に目を通し、許可を出すこと。

 そしてもう一つが、要人たちとの面会だ。





    ◆ ◆ ◆





「シルク商会、商会長……ええっと」

「スターロード殿です」

「! スターロード殿の、お目見え……」

お見え(・・・)ですよ」

「!! お見えです!!」


 王の間の大扉の向こうから、ソニアの威勢のいい声と、セグウィンの焦った声が響いてくる。

 ややもたつきながら開かれた大扉から、前世でいうところのスーツに似た衣装を纏ったすらりとした男――スターロードが現れた。


 いつもは被っているつば広のハットは、御前(・・)だからか手にしてすらいない。

 スターロードは優美な足取りで、部下と共に玉座の袂へと歩みを進めると、その場で静かに膝をついた。


「ご無沙汰しております、ゼス陛下」

「久しいな、スターロード殿。……面をあげよ」


 玉座へふんぞり返り、スターロードを睥睨して告げる。

 ゼスの言葉にスターロードは厳かに顔を上げ、しばし見つめ合い――傍で佇むユグシルが小さく吹き出した。


「っ、笑わなくてもいいだろ」

「だって、あんまりにも、似合わないから……ッ」


 口元に手を合わせて笑うユグシルをジト目で睨みつつ、こほんと咳払いをする。


「すまぬな、スターロード殿。そなたであれば普段通りでも良いと思っていたが、ロバートが『知った仲だからこそ厳格に対応するべき』と申してな」

「いえ、理解しております」


 ここが私的な場所であれば、普段通りの口調で問題ない。

 だが、ここは謁見の場。

 王と一商人の公式での面会。


 私的な交流のある相手だからこそ、威厳ある振る舞いと言葉遣いで接するべきという、ロバートの提言に従っていた。

 そしてそれは多くの要人と接点を持つスターロードも理解している。


 特に気にした様子もなく、スターロードは部下から受け取った巻物を書記官へ手渡す。


「改めまして、この度は国号制定、おめでとうございます。こちらは細やかではございますが、お祝いの品々になります」

「感謝する。そなたのシルク商会には、建国祭でも世話になるな」


 大樹海は、アークライト王国側を除いていまだ浄化が進んでいない。

 そのため、各国の要人たちを王都へ招く手段として、シルク商会の有する《交易路》を利用させてもらう手筈となっている。

 それ以外にも建国祭で必要な物資の調達など、かなりの部分をシルク商会に頼っていた。


 とはいえ、それ相応の対価は支払っており、そうした事務的なやりとりのために謁見を求めるとは考えにくい。


「それでスターロード殿、今日は一体どのような要件かな」


 これまでのやり取りはただの前座。

 単調直入にゼスが問うと、スターロードは躊躇うことなく口を開いた。


「はっ、単調直入に申し上げます。我々シルク商会を、オルサ王家御用達商会として認定していただきたいのです」

「王家御用達商会……」

「はい。建国祭を無事終えられましたら、大陸中の商会がこの地に雪崩れ込んでくることでしょう。私どもシルク商会は急速に成長しているとはいえ、いまだ新参者。規模の大きい商会は五万とございます。そこで、陛下から御用達の認定をいただき、他商会との差を作りたいのです」


 スターロードは赤裸々に思惑を語る。


(スターロードさんの言ってることは理解できるし、あくまで平等な商取引の結果ではあるけど、それだけで終わらせられない恩義もある。ただ……)


 一商会を優遇し、依存する状況もまた国家運営として望ましくはない。


(俺が決められることじゃないな)


 眼下に控える文官たちに目配せを送りながら、ゼスはスターロードへ告げる。


「そなたの用向きは理解した。持ち帰り、前向きに検討しよう」

「――ありがとうございます」





    ◆ ◆ ◆





「ふぅ……こんな感じでどうだったかな?」


 スターロードたちが王の間を去っていき、ゼスは玉座にずるりと座り込む。


「大変素晴らしかったです。王としての威厳と風格で我々も圧倒されておりました」

「……ユグシルは笑ってたけどね」


 ロバートの賛辞の言葉を素直に受け取れない要因を睨んでいると、書状を携えた秘書官が王の間へと入ってきた。


「ゼス様、エグリス帝国からの返書です!」

「! なんて書いてる!?」


 思わず背筋を正して玉座に座り直す。

 建国祭に諸国が列席してくれるか――言い換えれば、オルサ王国を認めてくれるかどうかは、この返書の内容次第。


 この場にいる全員が固唾を飲んで見守る中、書状を受け取ったロバートが代表して読み上げる。


「『貴国よりの親書、確かに拝受した。大樹海という呪われた地を切り拓きし英傑からの招待、大変光栄である。』――と」

「……ということは」

「まだ安心はできませんが、帝国はオルサ王国建国に好意的かと」


 ロバートの言葉に、廷臣たちが湧き立つ。

 ゼスもまたほっと胸を撫で下ろした。


(大陸随一の武力を有する帝国とことを構えたらどうなるかわからないしね)


 弛緩した空気が流れる中、ロバートはさらに書状へ目を滑らせ――。


「……はぁ!?」


 彼らしからぬ、絶叫を上げた。


「どうかしたの?」

「そ、それが」


 ただならぬ気配を感じて訊ねるゼスへ、ロバートは書状を掲げながら答えた。


「迎えを待ちきれないから、これよりこちらへ向かう――と」

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