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追放された転生王子、呪われた森を《浄化》スキルで聖域化する ~のんびり辺境開拓していたらいつの間にか国ができてました~  作者: 戸津 秋太
第三章

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第62話 神呪の暴威

「ああもう、めちゃくちゃだろ!!」


 エグリス帝国皇帝がこちらへ向かっている――。

 その知らせを受けたゼスは、すぐさま『神権の王笏』で大樹海西域を見渡した。

 そうして帝国との国境近くにそれらしき馬車列を発見し、今またハクの背に乗って急ぎその場へと向かっていた。


 何せ大樹海西域は浄化が進んでいない。

 大樹海の代名詞とも言える魔物は山ほど出るし、長く滞在し続ければ、それこそ神呪に冒されるリスクだってあるのだ。

 後者はさておき、前者は帝国側も承知のはずで、だからこそこれまで大樹海を支配下に置くことはしてこなかったはず。


「それがどうしてこんなことになるんだよぉ!」


 ゼスの叫びは、まだ面識のない皇帝へと向けられている。

 建国祭を前にして大陸随一の国力を誇るエグリス帝国皇帝に大樹海で万が一のことがあれば、他の国々も参加を見送るかもしれない。

 それだけは避けなければならない。


「変なところで行動力があるのは、ゼスに似てる」

「俺と一緒にしないでよ!」


 後ろに乗るユグシルからの言葉へ抗議と共に振り返る。

 ちなみに今回の同行者はユグシルとロバート、そして親衛隊隊長ソニアの面々。

 ことあるごとに同乗しているロバートは、すっかり空の旅に慣れたようで、かつてのような絶叫は消えている。


 代わりに、ユグシルの言葉に同調するような、何かいいたげな眼差しを向けてきていた。


「……ま、まあ、とにかく。皇帝の一団と合流して一緒に王都へ戻ろう。受け入れの準備は進めているんだよね?」

「はい。ゼス様のご報告を下に、帝国のご一行を受け入れられるよう指示を出しております」

「それはよかった」

「……ですが、やはり私は、ゼス様が直接出向かれることについては反対です。皇帝の安全は大事ですが、ゼス様であれば王城に残ったままお力を振るうことも可能だったのでは?」

「まあね」


 王笏で皇帝の一団を見守り、何か脅威が迫っていたなら、その存在を《浄化》すればいい。

 そうすれば王城にいたまま皇帝たちを守ることが可能だ。


 だが――。


「何が起こるかわからないからね。万全は期しておいた方がいい」


 神獣フリルを鎮める際、懐に飛び込まなければ《浄化》できなかったように。

 大精霊ディーネが眠る湖の奥底を見通せなかったように。

 王笏も決して万能ではない。


 どんな不測の事態が起きてもいいように、できれば現地へ足を運んでおきたい。

 何よりも。


「ロバートは俺の威厳を気にしているようだけど、今はそれ以上にこちらの誠意を見せないと。それに、売れる恩は売っておいた方がいいでしょ?」

「! そこまでお考えでしたか……。失礼いたしました」

「大袈裟だなぁ」


 がばりと頭を下げるロバートに笑いながら、ゼスは前へ向き直る。


「……! ガルルゥ、ガルゥ!!」


 足元からハクの唸り声が轟き、長い首が持ち上がる。

 黄金の瞳は今いる場所よりもさらに上空を睨みつけていた。


「ハク、どうかしたのか?」


 普段のハクらしからぬ様子にゼスもまた彼女の視線を追い、目を見開いた。


「! あれは……ッ」


 西の方の空に、数多の漆黒の点が浮かんでいた。

 それは次第に大きくなり、それぞれの輪郭が薄らと浮かび上がってくる。

 その輪郭にゼスが既視感を抱いた瞬間、ハクが叫んだ。


「ガルゥ!」

「しっかり掴まれって、ハクが!」


 ハクの叫びをユグシルが通訳する。

 ロバートたちはわけもわからず純白の体躯にしがみつく。


 その瞬間、全身にとてつもないGがかかった。


「ひ、ひぃいいいいい!」

「主様、大丈夫!?」

「俺は大丈夫!」


 ハクがとんでもない角度で上昇を始め、ロバートの絶叫が轟く。

 ゼスはなんとか目を開き続け――眼下を、いくつもの漆黒の炎の奔流が突き抜けていく光景を目にした。


「今のってまさか、息吹(ブレス)……?」


 全身を襲う重圧が収まり、ハクが体勢を地面と平行に戻す中、ゼスは前方を見据える。

 漆黒の点たちはいつの間にかさらに接近していて、その輪郭がはっきりとあの生物の形を象った。


「竜の、群れ……!」

「ガルルルゥ!」


 漆黒の靄を纏った竜たちへ向けて、ハクが威嚇する。

 しかし狂気に冒されている彼らは、気にも留めず、口元へエネルギーを集約していく。


「ゼス!」

「わかってる! ――《浄化》!!」


 二桁に迫る漆黒の竜たちの体躯が浄化の光に包まれる。

 口元へ収束していたエネルギーは霧散し、空間に漂っていた重圧が掻き消える。


 ロバートが頭を抱えて蹲り、ソニアがゼスを庇うように前へ割り込む中、ハクはただ、浄化されていく同胞たちを、黄金の瞳で静かに見据えていた。





    ◆ ◆ ◆





「ガルルルル……」

「ガルゥ」

「ガルルゥゥ……」

「ガル」


 ゼスの《浄化》により漆黒の靄が取り払われ、赤茶色の体躯と正気を取り戻した竜たち。

 彼らは今、地上に降り立った先でハクと言葉を交わしていた。


「わ、私は死んだのでしょうか」

「いやいや、生きてるって」


 数体の竜とハクが地上で向き合い、意思疎通する光景を前に、大樹海で再会した時のような言葉を発するロバート。

 そんな彼へ苦笑しつつ、ハクと竜たちの間に立つユグシルへ声をかける。


「彼らはなんて?」

「ゼスに感謝してる。それと事情を話してた。神呪は、ここ最近で竜たちの間に瞬く間に広がったみたい」

「瞬く間に?」


 ユグシルはこくりと頷く。


「元々、竜のように古い存在ほど神の影響を受けやすい。だけどこれまでは同格の存在によって守られてきた」

「それって……」


 巨躯を保ったままのハクを見上げる。

 彼女は神竜だ。竜の神でありながら、しかし同胞たちに迫害を受け、天空を追い落とされた。


(……ということは、やっぱり彼らはハクの記憶で視た竜たちと同じ存在なのか。あの時の夢だと、竜たちはもう少し数がいたと思うけど)


 ハクやユグシルと出会い、大樹のそばで初めて一夜を明かした日に視た、ハクの記憶の夢を思い返す。

 複雑な気持ちでいると、ハクがユグシルへ何事か訴え始めた。


「ガルガルゥ! ガルゥ!」

「! ゼス、大変。他にも六体、神呪を発症した竜がいるみたい」

「……まさか」


 ユグシルが深刻な顔で西側の空を見る。


「そのまさか。ちょうど私たちが行く先に、竜たちがいる」

「ッ! ハク、頼めるか!」

「ガルゥ!!」


 もちろん、と答えるように両翼を広げ、ゼスへ背を向ける。

 飛び乗るゼスの後をソニアとロバートが慌てて追い、全員が乗ると、ハクは翼に力を込め、空へと飛び立った。


「ハク」

「ガルッ?」

「……いや、なんでもない」


 地上に止まったままの竜たちを見下ろし、彼らとのことについて訊ねようとして、ゼスは思い止まった。

 無神経に触れていい問題ではないと思ったし、何よりも今は皇帝と合流することが先決だ。


(無事でいてくれ……っ)


 王笏を両手で握り込んだゼスは、そのまま神の視座から大樹海を見下ろした。





    ◆ ◆ ◆





「お逃げください、陛下!」

「相手は竜だぞ? 逃げ場などないだろう! それに、皆をここへ連れてきたのは他でもない余だ! その余が皆を置いて逃げ出していいわけがないだろう!」

「大変ご立派ですが、そうお思いなら大樹海へ繰り出そうなどとなされないでください!」

「ふははっ! さぁ来るぞ!」


 大樹海西域。

 オルサ王国へ向かっていたエグリス帝国の一団は、これまで会敵した魔物たちを精強な皇帝親衛隊が難なく退け、その歩みを進めていた。


 しかし今、その足取りが完全に止まった。

 頭上に現れたのは、神話の時代に生まれた世界最古の生物。

 自然界の、生態系の頂点に君臨する最強の生物――竜だった。


 選び抜かれた兵士たちは取り乱すことなく剣を抜くが、その表情には絶望の影が見える。

 そんな中、金髪の青年だけは余裕綽々といった態度で空を見上げていた。


「大丈夫だ。余の選択が間違うことはない」


 竜たちの喉奥へエネルギーが集まっていく。

 狂気に冒され、破壊の衝動に飲み込まれし竜たちの暴威を前に、それでも青年は逃げ出すことなく悠然と佇み――。


「ギョァアアアアアアッ!?!?」


 突如、竜たちが純白の光に包まれた。


「ふははははっ! これが浄化の力か!」


 困惑に包まれる周囲をよそに、青年は諸手を広げる。

 そして、空に新たに現れた純白の竜――その背中に乗る少年へ向けて名乗りをあげた。


「竜を従え、大樹海を飲み込む力を有する、新たな王よ。歓迎しよう。余はアイザック。エグリス帝国が皇帝、アイザック・フルード=エグリスである」

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