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追放された転生王子、呪われた森を《浄化》スキルで聖域化する ~のんびり辺境開拓していたらいつの間にか国ができてました~  作者: 戸津 秋太
第三章

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第54話 獣人族の課題

「ゼス様、ささっ、こちらをくいっと」

「いや、お酒はちょっと」

「ゼス様、足がお痛いのでは? こちらをお敷きいたします」

「大丈夫ですよ。というかそれ、毛皮の服ですよね!?」

「ゼス様ゼス様、肩をお揉みいたします」

「凝ってない凝ってない!」


 神獣フリルとの一連の騒動を経て営地へと戻ったゼスを出迎えたのは、獣人族たちからの厚い……いや、熱い歓待だった。

 今現在、ゼスは営地内の大きなゲルにて、次から次へと押しかけてくる獣人族の対応に追われていた。


 その筆頭とも言えるのがガウフィンであり、先ほどから隣に座ってはにこにこと酒を勧めてくる。

 大樹海で邂逅して一日も経っていないが、物凄い変わり身にゼスは圧倒される。


「いやぁソニア、お前はいい主を持ったな!」

「ふふん、当然! 父ちゃんたちもようやくわかってくれた! 主様は凄いんだから!」


 遂にはソニアが得意げにゼスの武勇伝(?)を語り始めた。

 そうした話には目がない獣人族たちがソニアに群がることで、ようやく彼らから解放されたゼスは、小さく嘆息した。


「どうしてこんなことに」

「無理からぬことだ。そなたは神獣である我との戦いに勝利したのだから」


 ゼスの目の前。小さなローテーブルの上に載った石――霊石から、フリルの声が聞こえてくる。

 ハクと違って、フリルは自在に体の大きさを変えることができない上に、顕現しているだけでとてつもない力を使うらしい。

 正気を取り戻して営地へ戻ったフリルは、シャーマンが用意した新たな霊石に宿り直していた。


「戦いって、あれはそんなんじゃないのに」


 正面きっての戦いで勝利していたなら、確かに獣人族たちからの信頼を集めるのも理解できる。

 だが、ゼスは戦ったわけではない。

 ただ目の前の汚れを綺麗にしただけで、お互いに戦う意志はなかった。


「肝要なのは、客観的にどう見えるかであるぞ」

「そう、ゼスに足りないのは客観視。王様なんだから、これから大切になる」

「……なんだろう、圧が増した感じがする」


 ユグシルとフリル。二人の正論に居心地の悪さを覚えていると、ゲル内に現れたシャーマンがこちらへ近づいてきた。


「ご歓談中のところ失礼致しますわ。守り神様、そろそろ現在の営地を放棄せねばならず……次なる営地の移設場所を導いていただきたいのです」

「ふむ……呪いが晴れ、こうして言葉を話せるようになった今、以前よりもより詳細な位置を伝えられるであろうな」


 霊石が考え込むように明滅する。

 二人のやりとりを聞いていたゼスは、ふとシャーマンの言葉が気に掛かった。


「あの、口を挟んで申し訳ないんですけど、放棄せねば(・・・・・)ってことは、できればこの営地から離れたくないってことですか?」


 獣人族は、特定の居住地を持たず、いくつもの営地を渡り歩く。

 それは彼らが望んで行っている暮らし方だと思っていた。


 ゼスの疑問に答えたのは、いつの間にかソニアの集まりを離れてこちらへ来ていたガウフィンだった。


「昔のように、この草原でいくつもの部族がそれぞれ暮らしていた時代ならばよかったのです。だが、群れが大きくなった今、一つの場所に根を下ろしたいというのが正直なところです」

「どうしてそうしないんですか?」

「この草原では、作物が育ちにくいからです」

「え、でも場所によっては草木も育ってましたけど……」


 上空から眺めた草原地帯を思い返す。

 確かに今営地が築かれている場所は比較的緑が少ないが、他の場所では草花が咲き誇っている場所もあった。


「ゼス、視る方が早いと思う」

「視るって? ……あ、そっか」


 ユグシルの言葉に、ゼスはふと彼女との契約で手に入れた力を思い出す。

 ゲルを出て、ゼスは足元の地面を見つめる。


「《精霊の眼》」


 ユグシルとの契約の証。大精霊の眼が、この地の情報を浮き彫りにする。



――――――――――――

土壌情報

地力:最低

pH:10(高アルカリ性)

保水性:不安定

排水性:不安定

毒性:強

――――――――――――



「……なんだか色々と出てきたけど、全部悪いことだけはわかる。つまり、耐性のある雑草は育つけど、食用に適した作物は枯れちゃうってことかな」

「その通りです。だからこそ俺たちは、家畜と共に草原地帯の草地を転々と移動するしかないのです」

「なるほど……」


 ゲル内から追いかける形で出てきたガウフィンの言葉に頷く。


(それならユグシル村で――と言いたいところだけど、現状の移住希望者たちを招き入れることができていない状態で、無闇に誘うのはいい加減すぎるよなぁ)


 せめて邪神の呪いのようにこの土地そのものを綺麗にできればいいのに。

 そんなことを思ったゼスは、不意に顔を顰めた。


「ゼス?」

「いや、大丈夫」


 脳裏に走った鈍い痛み。それはすぐに過ぎ去った。


(ステータスが伸びたとはいえ、今日一日でたくさん精神力を消耗したからかな)


 そんなことを考えながらゲル内へと戻ることにした。





    ◆ ◆ ◆





 獣人族の営地で一夜を明かしたゼスたちは、当初の目的を果たすべく、大樹海へと戻っていた。

 紆余曲折あり時間はかかったものの、ハクに乗って移動すれば、本来それほどかかる距離ではない。


「あ、あそこだ」


 鬱蒼と生い茂る大樹海の景色。その中でぽつんと開けた場所が見えてきた。

『神権の王笏』で見つけた新拠点の候補地へ降り立つと、ロバートが興奮した様子で捲し立てる。


「ゼス様、ここはいいですよ! 開けた土地で周囲の木々には低木や細木が多い。これなら開墾も捗るでしょう! 近くには湖もあるようですし、水の確保も困りませんね!」

「よかった」

「ただ……」


 それまで絶賛していたロバートが、ふと表情を翳らせる。


「ユグシル村からここまでを繋ぐ道を作ることは至難かと」

「まあそれは仕方ないかなぁ。樹海である以上、道作りが大変なのはわかっていたことだし。解決策が見つかるまでは、スターロードさんの《交易路》に頼るしかない」

「そうですね。……しかし、国の大事を商会に委ね続ける状況は望ましくありません。早急に対策を見つけなければ」

「うん、そうだね」


 将来のことを考えて難しい顔をするロバート。

 そんな彼を頼もしく思っているゼスの胸元から声が聞こえてくる。


「改めてそなたの力には驚かされるものだ。ここがあの忌まわしい邪神の最期の地だとは、とても信じられぬ」


 ゼスの胸元ではペンダントが揺れていた。その先端には、石枠で囲われたフリルの宿る霊石が据えられている。


「ユグシルのおかげだけどね。それにしても、本当に俺たちについてきてよかったの? フリルは獣人族の守り神なんじゃ」

「結果としてそうなっていただけのこと。我は本来、世界の守護者。その任を果たすためには、そなたの傍にいるのが一番であろう。それに、彼らを見放すわけではない」

「ならいいけど」


 フリルが同行することについては獣人族たちから反対意見は出ず、それどころかドワーフの王笏の一件と同じように、むしろ背中を押される形となってしまった。


 彼らはそれでいいのか、と内心で突っ込んでいると、フリルが「むむ?」と困惑の声を上げ、霊石が一際強く輝いた。


「わわっ」


 霊石から溢れた光は徐々に形を成していく。

 そうして光が収まると、すぐ傍に白銀の毛並みを靡かせるフリルの姿があった。


「と、突然どうしたの。現界って疲れるんじゃ」

「鼻を効かせようと思ったのだ」

「鼻を?」


 言いながら、フリルはふんふんと鼻をひくつかせる。

 そうして、ユグシルに視線を向けながら告げた。


「やはりか。微かではあるが……この地に、そなた以外の大精霊の気配を感じる」

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