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追放された転生王子、呪われた森を《浄化》スキルで聖域化する ~のんびり辺境開拓していたらいつの間にか国ができてました~  作者: 戸津 秋太
第三章

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第51話 獣人族の目的

「ソニアを探していた?」

「……そうだ。我々の営地へと連れ戻すためにな」


 ボロボロになったガウフィンの口から、大樹海にいた理由が説明された。

 どうやら彼らは、ソニアを連れ戻すために彼女の所在を探し回った末、ここに辿り着いたとのことだった。


 ソニアが元いた獣人族の群れは、猫族や狼族など、いくつもの部族が集まって構成されている。

 彼らは特定の居住地を持たず、この大樹海からアークライト王国を挟んだ西側の草原地帯に設けたいくつもの営地を季節ごとに渡り歩く。


 ソニアはその群れを飛び出していたわけだが――。


「あたし、主様の傍から離れない! がるるぅ……絶対、帰らないから!」

「ソニア、そこをなんとか……」


 ふんすと鼻息荒く突っぱねる娘に、ガウフィンは狼耳をぺたんとする。

 周りの獣人たちもおろおろと困り果てつつも、こうなることを予期していたかのような、そんな反応を示す。


「しつこい! あたしに指図できるのは、主様だけ! よわっちぃ父ちゃんたちが命令するな!」

「……わふぅ」


 遂にはガウフィンの口からため息めいた鳴き声が零れる。

 見かねたゼスは、つい口を挟んだ。


「そもそも、皆さんはどうしてソニアを連れ戻しに? 彼女が群れを飛び出した時は止めなかったはずでは?」

「…………俺たち獣人族には、旧くから祀り続けてきた守り神様がおられる」

「守り神?」


 ガウフィンは躊躇いがちに話す。


「ただの伝承ではない。守り神様は実在するのだ。季節の巡りを報せ、恵みの多き場所を示してくださる。俺たちは守り神様と共に生き、繁栄してきたのだ」

「へぇ……ユグシルみたいな存在なのかな」


 日本人的な感覚では、単なる信仰の話と片付けてしまいそうになる。

 しかしこの世界には精霊がいて、かつては神もいた。

 彼らの言う守り神がユグシルと同じ大精霊なら、一度会ってみたいし、会わせてあげたい。


 そんな思いと共にユグシルへ視線を送ると、彼女はゼスの意を察して小さく首を振る。


「草原地帯から、私と同格の存在の気配は感じない。それにゼス、私のことは心配いらない」

「心配してるつもりはないんだけどなぁ」


 完全に見透かされていることに、気まずさと照れを抱きながら笑い返す。

 一連のやり取りを、ガウフィンは奇妙な目で見ていた。


 咳払いを交えつつ、彼らへ向き直る。


「それで、その守り神がどうしたんですか?」

「……俺たちを守護されていた守り神様が、最近、突然その牙を俺たちへ向けるようになったのだ」

「がるぅ?」


 退屈そうにしていたソニアが、ぴくりと耳を立てる。


「守り神様のお力で俺たちの営地は荒れ、今は辛うじて封じているところだが、このままというわけにもいかない。……そこで、守り神様をお諌めするためにも、俺たちの中で一番強く、族長でもあるソニアに力を貸してほしいのだ」

「そういう事情だったんですね……というかソニア、族長だったの?」

「強い奴に従う、それが群れの掟。あたし一番強い。だから一番偉い!」

「なのに群れを飛び出してきちゃったのか……」


 彼女と初めて言葉を交わした時、ソニアが口にした〝家出〟と言う言葉の意味合いと重みが、かなり変わった気がする。


「ソニア、この通りだ。群れのためにも力を貸してくれんか」

「お願いいたします、族長!」


 ガウフィンたちが改めてソニアへと頭を下げる。


「がるぅ……暴れてる守り神には確かに興味ある……けど」


 強者(守り神)との対決に心揺れるソニアの背中をゼスも後押しする。


「ソニア、君たちの文化というか、考え方に口を挟むつもりはないけど、家族は大事するに越したことはないと思うよ。ふとした瞬間に別れないといけなくなるかもしれないんだ」

「主様……」

「私も同感。ソニアはゼスのこと、強いって認めてる。だけどゼスは全然戦えない。弱いし、すぐ吹き飛ぶ」

「急に罵倒された!?」

「だからソニア自身、腕っぷしだけが強さじゃないことはわかってるはず。ソニアが認めるゼスなら、こう言う時、どうすると思う?」


 ゼスのツッコミを華麗に無視して、ユグシルは語りかけた。


「主様なら、どうするか……」


 ユグシルの言葉は彼女の中に染み入ったらしく、自分の中で咀嚼するようにソニアは顔を伏せる。

 そして、顔を上げるや否や、ガウフィンたちの方を向いた。


「わかった! あたしが行って、なんとかしてあげる!」

「ソニア……!」


 ガウフィンたちの顔が一斉に明るくなる。

 彼らが拝むようにして向けてくる感謝の眼差しに少しだけ居心地の悪さを覚えつつも、ゼスは何気なく言う。


「このままソニアだけを送り出すのも心配だし、俺もついていこうかな」

「ゼス様!?」


 ロバートが悲鳴を上げる。


「もちろん、ガウフィンさんたちがよければ……だけど」

「……歓迎しよう。ソニアが来てくれるのは、お前たちのお陰だからな。……さっきは色々と早合点して失礼した」

「いやうんまあ、それは本当にそう」

「勝手に話を進めないでください! 彼らがよくても私が困ります! 大樹海の外へ赴くなど、あなたの身に……いえ、御身にもしものことがあれば!」

「がるぅ、あたしが主様をぜったい守る!」

「心意気の問題では……ああもう、こうなったゼス様を止めるには……ユグシル様!」


 助けを求めるロバートの叫びに、ユグシルは口を開く。


「ゼス、何か考えがある?」

「……いや、でも気にはなってるかな。その守り神のことが」

「さっきも言ったけど、草原地帯に大精霊の気配はない」

「もちろんそっちの方向性でも気にはなってるけど」


 旧くから存在するのなら、他の大精霊の手がかりも得られるかもしれない。

 そんな打算もあるが、それ以上に――。


「ユグシルは引っかからない? これまで彼らを守ってきた守り神が、突然暴れ始めた理由」

「! まさか……」


 ゼスの言葉にユグシルは目を見開く。

 翡翠の瞳が不安で揺れた。


「もし俺の仮説が正しかったら、ソニアだけを送り出すのは危ないかもしれない。まっ、全部ただの杞憂で済めばそれでいいわけだし、俺も行ったほうがいいと思わない?」

「……ゼスの言いたいことはわかった。わかったけど、そんな楽しそうな顔をして言うことじゃない」


 ユグシルに指摘されたゼスは、自分の顔に手を添える。

 不謹慎にも、口角が上がっていた。


「……わかりました。ただし、ゼス様の身の安全を第一に考えてくださいよ」

「ありがとう、ロバート。それじゃあハク、頼めるかな」

「ガルルゥッ!」


 ゼスの言葉で、それまで近くの草を食んで遊んでいたハクが鳴き声を上げて体のサイズを大きくしていく。


「りゅ、りゅりゅ、竜ぅ!?!?」


 突然現れたかのように見える白竜に、ガウフィンたちの絶叫が轟いた。

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