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追放された転生王子、呪われた森を《浄化》スキルで聖域化する ~のんびり辺境開拓していたらいつの間にか国ができてました~  作者: 戸津 秋太
第三章

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第50話 親子喧嘩

「紹介するね! 戦士長のガスロに、シャーマンのミナ、それとあたしの父ちゃん!」


 ソニアが全身で獣人族の集団を順々に示しながら、ゼスたちへと紹介を始める。

 見るからに屈強な戦士が四人。その先頭にいた虎のような男がこちらに睨みを効かせ、フード越しに蛇のような目を向けてくる女性はすっと頭を下げてきた。


 そして最後の一人。父ちゃん、と紹介された壮年の男性は、ソニアと同じ狼耳をピンと立て、困惑の眼差しを娘へ向ける。


「ソニア、こいつらは誰だ?」

「んーっとね、この人はあたしの主様!」

「!? ぬぁんだとぉッ!?」


 なんの引け目もなく、ソニアはいつもの調子で答える。

 その瞬間、獣人族たちの空気が変わった。


「貴様が、娘の、主ぃぃ……ッッ!?!?」


 それまでの警戒と探りに満ちた態度が一転、明確な敵意を全身に纏い、ゼスたちに向き直る。

 その殺気に、後ろでロバートが「ひぃっ」とか細い悲鳴をあげてその場に尻餅をつく。


 そんな中――。


「〜〜〜〜っ!! 《洗浄》!!」


 獣人族の集団が、泡状の光に包まれた。


「な、なんだぁ!?」

「めくらましか! いや、でもなんだこの感覚はッ」

「き、気持ちぃぃ……!」


 獣人族の混乱の声は、次第に弛緩した恍惚の声へと変わっていく。

 そして、この事態を生み出した張本人であるゼスもまた、あわあわになる獣人族たちを眺めて、ほぅと満足げな吐息を零す。


「満たされる……」


 ソニアの態度と先ほどの紹介からして、目の前の集団は、彼女が飛び出してきたという群れ(・・)であることは明らか。

 そんな彼らがどうしてこの大樹海にいるのか理由はわからない。

 そんなことよりもゼスにとって大事なのは、彼らが長旅で汚れに汚れ切っていたことだ。


 泡の光が消え、綺麗になった獣人族の集団を眺め、ゼスはうんうんと頷く。


(こうしてまともに《洗浄》したのはいつぶりかな。新拠点探しを申し出てよかった……!)

 

 ロバートの申し出を受けた時の自分の判断を内心で褒め称えるゼスをよそに、傍らのユグシルたちは嘆息するのだった。




  ◆ ◆ ◆




「おいおい、泥汚れも返り血も全部綺麗さっぱり無くなってるぜ」

「あれだけ洗っても取れなかったのに」

「へへっ、なんか得した気分だぜ」


 戦士然とした三人がくねくねと身を捩り、自分の体を不思議そうに確認する。

 特に汚れの酷かった彼らの服は、他の獣人族同様に傷以外の汚れが消え、新品同様に生まれ変わっている。


「ふふん、主様凄いでしょっ」

「今のが、この人間の力だと……?」


 得意げに鼻を鳴らすソニアの言葉に、戦士やシャーマンの女性たちの警戒や敵意はどこへやら。

 驚き半分、畏敬半分といった様子でゼスを見つめる。


 そんな彼らへ、ゼスは歩み出る。


「初めまして、俺はゼス。一応、この大樹海を治める立場にあります。ソニアの知り合いみたいですけど、ここへは何をしに?」

「俺の名はガウフィンだ。……大樹海を治める立場と言ったな。そうか。この森に新たな国が建ったと耳に挟んだが、もしやお前がその国の」


 ソニアが父親として紹介した狼の獣人が名乗り、険しい顔付きでゼスを睨む。

 彼の後方で「あの話って本当だったのか」「どうやってこんな呪われの森に?」と、《洗浄》の影響かどこか浮ついた空気でざわつく獣人たち。


 だが、そんな弛緩した空気を切り裂く鋭い声が響く。


「――お前たち、静かにしろ!!」

「……っ」


 声で空気がビリビリと震える。

 顔を顰めるゼスを、ガウフィンは鬼の形相で睨んでいた。


「……この際、お前の立場などどうでもいい」

「えっ?」

「問題は、お前が娘の主ということだ! 俺は認めん! お前なんかに娘はやらんぞぉお!!」

「うわ、ちょ、ええっ!?」


 ガウフィンの足元がボコンと陥没したかと思えば、彼の拳がゼスの眼前へと迫り来る。

 大樹海の日々で猛烈なレベルアップを続け、ステータスが向上した影響か、辛うじてその動きを目で追うことはできる。


 だが、肝心の戦闘経験は皆無。戦闘技術も能力もない。

 取り柄は綺麗にすることだけ。


 屈強な獣人である彼の奇襲に、ゼスはなすすべなく――。


「ぐぼはぁ――ッ!?」

「……へっ?」


 目の前で風が吹いたかと思えば、真横から衝撃音が轟く。

 音のした方を見ると、樹木の幹に大の字でガウフィンがめり込んでいた。


 呆気に取られるゼスの視線を遮る形でソニアが割って入り、鼻息荒くガウフィンへ怒鳴る。


「主様に失礼なことしたら、いくら父ちゃんでも許さないから!」

「ソ、ソニア、これは違う、俺はお前に悪い虫がつかないように」

「がるぅ! 父ちゃんなんか嫌い!」

「うぐはッ……!」


 追撃を受けたわけでもないのに、娘の言葉にガウフィンはその体躯をさらに木の幹へめり込ませていた。


「っ、ぐぅ……ゼス、と言ったな……いいだろう。娘の顔に免じて、お前を娘の主と認めてやる」


 苦虫を噛み潰したような顔で言葉を搾り出すガウフィンだが、そこでゼスはにこやかに笑いかける。


「安心してください。俺はソニアの主じゃないですから」


 そもそもがソニアが勝手に言い始めたことであり、ゼス本人は彼女の主になったつもりはない。

 余計な軋轢を生まないよう、キッパリと否定した。


(誤解も解ければ、落ち着いて話も聞けるだろう)


 果たして、ガウフィンはあんぐりとゼスを見つめ、次第にその両肩をブルブルと振るわせる。


「〜〜〜〜ッ! 小僧! 娘では不足だとでもいうのかぁ! その舐めた性根、叩き潰してくれる!!」

「なんでそうなるんですか!?」

「黙れぇい!! うぉおお、鉄拳制裁ぃぃいいい――ぶぐぼらぁっ!!」


 顔を真っ赤にし、めり込んでいた木の幹を踏み台にして飛びかかってくるガウフィン。

 そんなガウフィンの顔にソニアの拳が叩き込まれ、中空をくるくると回転して吹き飛んでいく。


「がるるぅ……父ちゃん、二度も主様襲った! もう許さない!」

「ま、待て、俺はお前のことを思って」

「がるるるぅ!! がるぅ!」


 再び始まった親子喧嘩。それを見てやれやれと嘆息する獣人たち。


「ゼス様、ここは静観するしかありません」

「ソニアが増えたみたい。すごくカオス」

「…………うん、まあ落ち着くまで待とうか」


 ロバートとユグシルの言葉に、ゼスも苦笑混じりに応えるのだった。

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