表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬神さまの子を産むには~犬神さまの子を産むことになった私。旦那様はもふもふ甘々の寂しがり屋でした~  作者: 四片霞彩
春と雷、そして真名を貴方にーー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/24

【24】

「しゅん……らい……?」

「言っただろう。君が呼んだ時はすぐに駆けつけると。……会いたかった。睡蓮」


 睡蓮と呼ばれた時、ようやく華蓮は全てを思い出した。彼氏と喧嘩して、家を飛び出して当てもなく歩いた後、拝殿で雨宿りをしていると春雷に声を掛けた。春雷の子供を身ごもり、つわりで苦しんでいると黒犬姿の春雷が会いに来てくれた。一緒にかき氷を食べて笑い合って、春雷の過去を聞いて涙を流した。

 春雷の父親に殺されそうになったが、無事に春雷の子供である雷都を出産した。

 最後に家族三人で過ごした後、華蓮は記憶を消されて元の人間界に帰された。


「しゅんらい……春雷!」

「元気にしていたか? あれから雷都も成長したんだ。君が好きだと言っていたイチゴも畑に実った。まだ粒も小さく、少ししか採れないが、雷都が大きくなる頃にはきっと大きなイチゴが採れるようになる……」


 春雷の言葉を遮るように華蓮は抱き付く。


「私、辛かったの。春雷や雷都のことを思い出せそうで思い出せなくて。身体は覚えているのに、私は覚えていないの。あんなに二人を大切に想っていたのに……愛していたのに……」

 

 堪え切れなくなって涙を流すと、春雷も抱き締め返してくれる。


「一度は忘れてしまったかもしれないが、それでも君は思い出してくれた。普通はきっかけがないと思い出せないが、君が俺と雷都を心底大切に想ってくれたから、記憶を消しても心のどこかで覚えていられたんだ。これは奇跡のように凄いことだ。誇ったっていい」

「本当に……?」

 

 涙声で尋ねると、春雷は穏やかな顔のまま深く頷いて答えてくれる。華蓮の目から涙が溢れると、春雷に縋り付いて再び泣き出したのだった。

 涙が止まるまで抱き合っていた二人だったが、やがて番傘の下で手を繋ぐと、どちらともなく指を絡める。ゆっくりとした足取りで拝殿に向かいながら、春雷から雷都たちの様子を聞かされる。

 華蓮が住む人間界では随分と時間が流れたが、ゆっくりと成長するあやかしの雷都はまだまだ乳飲み子だということ、春雷が不在の隙を狙って、春雷の父親が雷都の様子を見に来ていることを聞かされる。

 実子である春雷には冷たく接していても、孫である雷都は気になるのか、春雷が雪起に雷都を預けた時を狙って、よく家にやって来るようになったらしい。雷都を抱き上げるだけではなく、おしめを変え、雪起が用意した牛乳を与え、風呂にも入れているとのことだった。

 春雷も雪起も育児はまだまだ不慣れのため、雷都に対して行き届かないところがあると、春雷の父親に怒られるらしい。

 父親というよりは口煩い姑のようで、春雷たちは辟易しているとのことだった。


「孫に弱いなんて、春雷のお父さんも怖い人じゃないのね」

「ああ見えて、親父は子供好きなんだ。今はまともに口も聞かないが、子供の頃はよく遊び相手になってくれたよ」


 華蓮が小さく笑うと、釣られた春雷も笑みを浮かべる。

 二人は拝殿の前で話していたが、やがて春雷が真顔になったので、華蓮もじっと春雷を見つめ返す。


「約束だったな。全てを忘れても君が俺を想ってくれるのなら、君の好きにしていいと。……あの日から想いは変わらないのか?」

「変わらないよ。私は春雷たちと一緒に生きる。春雷と結婚して、雷都の母親になるの」

「それは嬉しいが……俺が言おうと思っていた言葉を先に言わないでくれ」

「何を言おうとしていたの?」


 華蓮が不思議そうな顔をすると、驚いて顔を赤くした春雷がわざとらしく咳払いをして片手を差し出す。


「俺と結婚して、妻になってくれないか?」


 華蓮は迷わず手を握り返すと、そっと口を開く。


「春雷、私の本当の名前はね……」


 そして二人は唇を重ねる。もう切れることのない縁で結ばれた二人は、長く甘い口付けを交わしたのだった。

 身体を離した後、華蓮は春雷に身体を抱えられる。春雷によると、埃が堆積して床板がひび割れている拝殿の中を歩かせたくないからということだった。

 そして以前も入ったことのある部屋の前に着くと、春雷はその場に下ろしてくれる。


「来い。華蓮」


 春雷が差し出した手を握り締めると、一緒に部屋の中に入る。迷いも何も無かった。

 この先に本当の幸せが待っていると分かっていたから。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ