第26話 お遊戯
戦闘少なめになっちゃったぜよ。
説明癖がどうにも取り除けない。
俺は風魔法を使用し、空を飛んだ。
「準備はいいな? フー」
俺は自分の相棒でもあり、娘として扱っている聖剣ファトムに呼び掛ける。
「うん、いつでもいいよパパ」
その声は俺の頭の中に直接ではなく、耳から伝わってきた。俺が視線を向ける先には、1人の小さな。俺よりも少し背の大きな少女。人化したフーである。彼女もまた同じように空中を浮遊していた。
無造作に切ったような白髪を指先で弄り、背に似合わない大きな胸と肩を激しく上下させ、荒い息を吐く。白い肌を火照らせ、黒い瞳を潤ませながら見つめる姿は、好きモノからすれば艶めかしいと思うだろう。
しかし、あのスカーレットゴーレムの一件で再認識させられた、フーの好戦的な性格。それが今度は俺に向けられているのだ。背中からは冷や汗しか湧いてこない。
「それでは、二人ともいいな?」
審判を務めるガゼルが確認をしてきた。その後ろでフィーシが頑張れーと棒読みで応援してくるが無視して、俺とフーはガゼルに向けて頷く。
「では」
スッと腕が出される。
ゆっくり、己の中にある魔力をエンジンを温めるように高めていく。
高めた魔力を足と腕にそれぞれ二割送り込み、残った二割のうち一分を脳に、残りを胴体へと振った。
「———はじめ……ぐうっ!?」
「きゃぁっ」
ガゼルの手が振り下ろされたその瞬間、俺の右拳とフーの左拳がぶつかり、それにより起こった衝撃波が空気を震わせた。
フーは衝突した左拳を開き、俺の右手がグッと掴んで引き寄せ、膝蹴りを繰り出す。
——衝撃波!
俺は側面から自身に風魔法をぶつけそれを避け、さらにそのまま回し蹴りをかました。
「うぅらぁ!」
「いたっ」
手が離され、フーとの間に距離ができた。
なんとか背中に入ったが、蹴りがくる方とは逆方向にされたため、ダメージはないと見た方がいいな。
だが、当たっただけで十分。
「泥の繭」
「ほえ!?」
俺が魔法名を告げると、フーの背中から大量の泥が溢れ出し、彼女を卵状に覆っていく。
「枯風」
泥の卵に火と風の二重魔法で乾いた風を送り乾燥させる。
これはあまり使われていない水と土の二重魔法である泥系の魔法使った戦法である。
足に術式を載せ、蹴ると同時に相手に付ける。そしてキーワードを唱えれば今のようになる、というわけだ。
きっかけだが、保育園で同い年の子たちが泥で城を作っていて、それが日が経つにつれ乾き、硬くなったことから思いついた戦法だ。しょうもない言うな。
だけどまぁ、なんとか意表をつくことはできたな。
乾燥しきった泥は、茶色から黄土色に変わっていた。この泥なんだが、セメントに近いものにしており、おまけに金剛を付加させてある。そうそう破壊はできないさ。
普通ならな。
卵状のそれに、ひびが入る。メキメキと音を立てながら、ついに粉砕された。中に閉じ込めたフーは……ピンピンしている。むしろ楽しそうだ。
今度は突っ込んでくることなく、上に移動したかとおもえば、彼女の周りに大小様々な火の玉が現れ、こちらへ雨の如く降り注いだ。
対抗して俺も水を生み出し、放つ。
水と火が激突し、俺とのフーで大規模の水蒸気爆発が起こった。
その衝撃波に、後ろへ飛ばされる。
態勢を立て直したときには、爆発により起こった土埃を突き抜け、蹴りを決めようとしていた。
その足を止めようと上から踏みつけた。
フーの蹴りは止めることができた。しかしここが、空中なのを利用し踏まれた勢いのまま回転。逆の足による踵蹴りを繰り出してきたのを両手を交差して受け止めたかが、あまりの重さに地面へ落とされた。
「ぐぁっ」
風魔法でなんとか減速させることはできたものの、落下は止められず、打ち付けてしまう。
肺から酸素が抜けた。息が苦しい。
しかし、フーは関係ないとばかりに、隕石の如く俺に迫ってくる——。
「そこまで!」
トドメの一撃が俺に決まる前に、ガゼルのこの言葉で、動きを止めた。
後一秒遅かったら、俺の腹は貫通されていた。ナイスだガゼル。
「コタロウ!」
フィーシがやってきて、俺の小さな体を抱いた。胸の柔らかさや彼女の心臓の鼓動、体温が心地良いとそう感じながら、俺は思った。
やっぱり勝てなかった、と。
体に回復魔法をかけた俺は、水の入った水筒を取り出し喉の渇きを潤す。
「とても上手かったよパパ!」
「あー、でもこの世界の人達からしたら卑怯な手なんだがな」
「ううん。昔は足に陣を構成できなかった」
「あ、そっち? 人間の体を構造が書かれた本があるんだが、それを使ってイメージトレーニングしていたんだ」
そんなものがあるのかと横からガゼルの声が聞こえたのでその本を取り出しガゼルに渡した。
「ほら。これだ」
「どれどれ」
興味深いとその本を開いた瞬間。
「な、なんだこのぐちゃぐちゃな絵は!?」
そう言って開いたページを俺に見せてきた。あー、血管のところか。
「ガゼル。これは血管だ」
「血管……名前の通りなら血が通る管のようだが、この赤と青はなんだ?」
「これは親切に色分けされてるんだよ。まぁ、詳しく話そうとしたら小一時間はかかりそうだからパスだ」
「例えとかはないのか!?」
「ホース」
「ほー……す? なんだそれは」
まぁわからんよな。ゴムとか言う素材だっけか。で作られた管なんて。
思考の渦に嵌ったガゼルは放っておいて、俺はフィーシに顔を向ける。彼女は自分の足を椅子にして俺を座らせていた。
「どうだった? フィーシ」
「え。えーっとその……かっこよかった」
何故かぽっと顔を赤らめるフィーシ。どこがかっこいいんだよ。俺負けたじゃん。
ねぇ、とフーに呼びかけられる。その声には何か威圧的なものか含まれている気がした。
「そのコ、消していい?」
「「ヒィッ!?」」
黒い笑みを浮かべたフーに二人して悲鳴を上げてしまった。
フィーシが思わず後退。俺も上に乗ってるので同じく後ろに下がることになった。
「な、なんで怒ってるのかなぁフーさんや」
「っ。バーカ!」
フーは突然粒子状物質になったかと思うと俺の中に戻ったしまった。
愛娘にバカと言われた俺の心にクレイモアが突き刺さる。
「ど、どうしちゃったんでしょ……ってコタロウ!?」
「ぐす、フーに嫌われた」
容姿が押さなくてよかった。昔の俺なら男泣きなんてカッコ悪いところ、見せれなかった。
「お前、意外に馬鹿なのか?」
横からそんな声が聞こえたので氷魔法で即座に氷塊を作り出し頭にぶつけてやった。
まあそれはさておき、なんとかフーのストレスは解消させることができたと思う。最後のアレはよくわからないが。泣いてなんかいない!
そろそろ戻るかと伝えたら二人に驚かれた。
「もう帰るの? まだ二時間も経ってないよ」
「だろうな。だけどフーとのじゃれ合いで15分も生き残ることができたんだ。上場だろ」
「……15分、“も”?」
「自己新記録達成したってことだ。ちなみに前世だった頃の自己記録は7分だ」
「なんだよそれ。どんだけ強いんだよ聖剣ファトムの人化したそれは」
「まぁ、娘であり師匠といったところだ。ところで一つ疑問に思ったことはないか?」
「——? おかしいと思うところなんてなかったとおもうけど」
「いやあるだろ。なんで転移で逃げなかったのかとか」
そういえばとフィーシが目を大きくする。
「俺は空間魔法と転移魔法、そのどちらも習得できていないんだ」
「はぁ? じゃあなんであの時とかは転移魔法つかえたんだよ。おかしいじゃねーか」
「フーだよ」
「フー? ファトムに何かあるのか」
「あるわあるわ、山のようなチート能力。空間や転移はもちろん、俺の使っている便利なストレージだってそう。他にも変装能力やらなんやらてんこ盛りだよ」
「チートはよくわからん。だが、そうだな。それを聞いてると。聖剣の凄さがらよくわかった。だが」
「あの時俺には聖剣がなかった。だけと聖剣の力には加護がらあって、それを使えば二つまでだが能力を使用することができるんだ」
聖剣の加護は所持していないときにも効果はあるのだ。
「そういうことか……ところでなんだが、どうして俺たちは平気だったんだ。聖剣が現れたのにも関わらず」
「あー。それはだな。聖剣は顕現したときのみ、魔族に対して大ダメージを与える光を放つんだよ。顕現といってもそれは剣でのことを指す。人化して現れたのならその効果は現れないんだ」
まぁ前回のスカーレットゴーレツとの戦い(戦いといっていいのか?)では俺に憑依したときその力がだだ漏れだったんだがな。離れていて正解だったわ。
「さぁ、さっさと帰ろうぜ」
小鹿のように足をプルプル震わせながら立ち上がろうとするが、上手く立つことができない。
魔力をふんだんにまとったんだ、仕方ない。
「すまんがフィーシ。肩を貸してくれな……いか?」
とりあえずフィーシに頼もうとしたら俺の体をガゼルが持ち上げていた。
「なんだ、悪いか?」
キョトンとした顔で見ていると、苦笑いされた。一瞬、カッコイイと思ってしまったのはさておいて。
「……とりあえず、姫さま抱っこはやめろ」
「あ、悪い」
さて、次回は2人の視点になるとおもいます。
コタロウvs聖剣ファトムの格闘と魔道対決。それを見た感想回になるかな?
では次回もお楽しみでござる。




