第25話 甲殻類はお好きですか?
暴走しました。やっちゃった感が否めない
俺たちが転移した白いドームの部屋。スタジアムと程の大きさがあるそれは、キングカルキノッシュの甲殻から作ったものだと製作者本人であるガゼルが言う。
「キングカルキノッシュって、確か夜に活動する、養殖した魚を喰らうあいつの事だよね?」
「そうだアスタロト。しかもその上位種と言われるキングエルダーカルキノッシュ。その堅さは古代龍のブレスから身を守る事の出来るほど。まあ、二発でダメになる代物なんだが」
「十分過ぎるよ。ね、コタロウ」
「普通ならな」
ここで古代龍が出てきますか。なるほど、それなら安心して全力出せるだろう。普通の強者ならな。
アスタロトは「普通? 普通じゃないってこと?」と少し前のガゼルのようにブツブツ言いながら首が限界まで傾ける。
「舞台は整ったな。後は……っとその前に二人とも、壁方によっておいてくれ」
「へ? 二人って、闘うのコタロウとベルゼじゃないの」
キョトンと俺とガゼルを交互に見るフィーシ。
「あー。ちゃんと話してなかったっけ」
「いや、そもそもあの時は偽名で——」
あー。しまったと天を仰ぐガゼル。なんで連れてきた。
「……二人とも。ちょっといいかしら?」
「な、なんだい?」
「一体どうしたんだよ」
声をかけられ何もないよう取り繕う。
額から汗が止まらないんだがどうしよう。
フィーシには前世この世界の住人だということを話したことがある。ただ、住人だったということだけだ。
ガゼルに視線を送り何かないかと訴えるも、返ってきたのは申し訳ないという顔だった。仕方ない、これを使う時が来たか。
「あ! そういえば二人とも飯食ったか?」
「いや? アスタロトはどうなんだ」
「そうですね、私も食べてないですし」
突然なんだと二人が俺を見てくるのをよそに、ストレージを開く。目の前に半径30センチの穴が現れる。そこに手を突っ込み取り出したい物をイメージする。手に何かがぶつかったのでそれを掴んで引き抜く。
取り出したのは取っ手のついた紙の箱。それを地面に置きふたを開けると、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
中にあるのは、6つのドーナッツ。どこのメーカーなのかは黙秘権を使わせてもらう。
一つずつ、ガゼルとフィーシに渡す。
「なんだ? この輪っかは」
「ん? なんか甘い香り」
「ドーナッツっていうんだ。食べてみて」
そう言いながら俺は砂糖が塗されたプレーンドーナッツを一口。
アノマリア家で食べるお菓子も美味しいけど使っている砂糖が違うのか、しつこくない。
美味いな。やっぱりドーナッツはライオンなマスコットのあそこだけだ。
俺の食べる姿を見てた二人は、一口かじる。
「どれ……!? 甘いが僅かにほろ苦さもある。それでいてお互いを邪魔しているわけじゃない……なんだこれは」
「チョコドーナッツだよ。この世界で言うなら……確かツリータートルだったか? あれから摂れる木の実を処理すればつくれるんだ。既にルフォートに頼んでいるよ」
「こっちは甘酸っぱいよ? もしかして……アスプロの実?」
良く雑草の中に紛れて生える木の実のことをアスプロと呼ぶ。確かに苺と似ているような気がしなくもないのだが、あっちはどちらかというとサクランボに似ていたはず。
「まだ他にもお菓子とかあるけど、どう?」
「食べる食べる!」
俺から箱を奪うようにとったフィーシはすごい勢いで腹に収めていくのだった。
「……」
ガゼル、なんでそんなに引いているんだ?
ふぅ、食った食ったとおっさんのような言葉を言うフィーシのお腹は妊婦化してた。
ドーナッツ、ケーキ、プリン、チョコ菓子、駄菓子。
改めて女子の胃袋が凄まじいことを見せられた気がする。
「うわぁ、食べ過ぎてお腹いっぱい。眠い〜」
よしよし、このままぐっすり眠っておいてくれよ?
「まぁこれはこれでおいといて……そろそろ一体何隠しているのか、教えてもらいましょうか」
「へ?」
錆びたロボの首のように動かしたその先には、悪鬼も尻尾巻いて逃げる存在がそこにはいた。
「……そう。貴方がお父さんを」
俺は、自分の正体を彼女に伝えた。聖剣の事も。
話終わった時フィーシはうつむき、肩を震わせていた。
まあ、そうだろうな。これまでずっと遊んでいた相手が、実は親の仇だなんて。信じられないに決まっている。
「今まで話せなくて、ごめん」
腰を折り曲げ、深く頭を下げる。この世界には土下座なんてものは存在しない。ただ、誠心誠意謝るしか、俺にはなかった。
「——いい」
「え?」
殴られることも覚悟した俺だったが、その一言に怪訝な顔をして顔を上げると、目の前にフィーシの顔があった。それも、息がかかる程に近い。
あれ、なんでこんなに顔近いのかな? というかさっき絶対泣いてたよね。なのにその笑顔はなんぞや!?
「私は大丈夫。だから安心して」
頭をワシャワシャと撫でられる。
「……嘘は吐くなよ」
「嘘じゃないよ? だって……あんな筋肉にしか頭のない文字通りの脳筋野郎いなくなって清々したもん!」
……はい? 何か笑顔で凄く親不孝な発言された気がするんだが。
「え、ちょっとまてそれはどういう」
「あー。その、なんだ。彼女の言っていることは事実ではあるよ」
「へ?」
ガゼルが渋い顔をしている。この体だ、同志と思われたに違いない。
「私のお父さんね、いっつも朝早く起きたら必ず70キロの重りを全身に付けて走ったりして鍛えてたの。それは私やお母さんを放置してしまうほどに」
「うそつけ」
「嘘なんかじゃないよ! 働き手はお母さんだけ、お父さんは城にも行かずただただ鍛えるだった! だからお母さんは……」
「違うな」
「何が違うって言うのよ!」
ヒステリック叫ぶフィーシ。だが、俺は慌てず、彼女の頭を撫でる。
「お前のお父さんはな。ちゃんと働いていたさ。それも、人と魔族が共存していることから一部の人たちからホープと呼ばれる街クラウーヌで」
「え——?」
驚いた顔をするフィーシ。ガゼルも初耳だったのか、目を見開いて俺を見てきた。
「その地域でとある話を聞いてな。裏組織が地下で何かをやってるって。プライベートと称して俺が向かった先にあったのは……人と魔族のコロシアムだったよ」
「コロ……シアム?」
「そういえば、昔何度か魔族が行方不明になるという事件が起こっていたんだが、それと何か関連しているのか?」
「あぁ。しかもその行方不明って、子供だろ?」
「っ!? どうして」
「……そのコロシアムは、富裕層の馬鹿どものために開催されていたんだ。その内容は、魔族の子供と人間の大人によるガチファイトだったんだ」
その言葉に絶句した二人。この件はブチ切れた俺とルシフェルがめちゃくちゃにして店仕舞いさせたことで終わりを告げたんだ。
「そんな中、更衣室に入ったさい、驚くものがあったんだよ。それはな……先代アスタロトのトロフィーだよ」
「へ?」
「は?」
「お前のお父さん、コロシアム幼い頃コロシアムに出場していたんだよ」
「おとう、さんが」
「あぁ。俺と会う前までコロシアムにいる魔族の子供を鍛えていたそうなんだ」
「ちょっと待て、『鍛えていた』? 逃したわけじゃないのか」
まぁ、自分も同じ事をさせられていたのなら逃がそうと考えるだろうな普通。
「だけど、それは無理だったんだ。あの時、俺とルシフェルの二人で潰しに行ったさい、フードの男に二人がかりで挑み、その正体を知った瞬間俺たちは他国も関与しているという事実を知った」
「その時は確か魔族と人間だけの問題とされてたよね」
「まぁな。だけどその名前を聞いたら、納得すると思うがな」
ブルリッ。
俺の中で今か今かとと待っているフーが怯えたような気がしたのは、気のせいではないだろう。
「なんせ、その正体は——アッシュ・ハンニバル。俺より前の聖剣使いだったエルフ族の男だ」
それから話したのは、ハンニバルの冷徹さ。強さ。そして、暴力性。
「倒したのか?」
「倒せてたらもっと明るく振舞っている。俺とルシフェルで挑んでも余裕で逃げたやつだ。これだけでどんなやつか分かるだろ」
「二人が、苦戦していた?」
「魔法剣で俺の疑似聖剣とルシフェルの精霊剣デュラハンを相手取ったんだ。聖剣を使えば俺たちもバレるからな」
疑似聖剣なら出せる人がいなくもないし、天子族がやってきたと思わせることもできる。疑似聖剣は彼らの主要魔法だから。
「そんなビックが他にもいたんだ。逃げてくれたからいいものの、戦うことになっていれば抜いていたかもしれない」
「根は深そうだな」
頭を掻くガゼル。どこの科学の進んだあっちの世界でも、裏組織が関与していることは何度もあったからな。
「ま、そういうわけだ。ところでそろそろフーが限界なんだ。用意してもいいか?」
「あ、あぁ……」
俺が離れると、フィーシもなんとなく分かっていたのか結界を張っていた。
「でておいで、聖剣ファトム」
それを見て安心した俺は、俺は娘を外に呼び出した。
次回、ついにフーが人型に!?
お楽しみ下さい。
また、感想、評価よろしくお願いします。




