第17話 緊急事態
くっ、また投稿が遅くなってしまった……。
城内にある、とある一室。会議に使われた食堂の半分程の大きさがあり、僅かな隙間風で揺れる今にも消えそうで頼りない蝋燭が照らすそこには、フードで顔を隠した者達が10人、丸い机を囲んで座っていた。
彼らはファンムーゲン国の先代魔王ルシフェルを支えていた者たち。そして、魔族こそが至高の存在と考える、『古参派』の者たちであった。
「どうなっている。このままではあんな子供に乗っ取られてしまうぞ」
「いやいや、流石にそれはないでしょう。ただ、国民からの支持はある程度取られることは覚悟しなければいけないでしょうけど」
机を強く叩いて叫ぶ隣の男に答えながらも、自分自身も思考を巡らせ、顎に手を当てながら答えるのはローブでさえ隠せないようは巨峰を持った、フードの女。机を叩いていた男は、拳に力を入れながら体を震わせ。爆発するように告げる。
「それはあってはならんだろ! 我らが王になれるのは同じ魔族という種族のみ。召喚されたのが異世界の魔族ならまだしも……人間が、それもまだ年端もいかない子供に魔王としての称号を取られるなど、恥るべきだっ」
「しかし——そんな彼の何気ない一言のおかげで戦争を回避出来なかった時、そして形式が『チェス』になってしまっても、慌てずに対処できるようになったのですから」
「ふん! 型を作ればなどと簡単に言ってくれる。そういうものは、長い年月をかけてようやくできるような代物だというのに」
「印を彫るのではなく、か。石ではなく、金属を使用するということはコストも馬鹿にはならないはずだ、出来るはずがない」
彼らの口々からは先日の夜に開かれた会議で、ガゼルが提案した魔術印を施した矢の作成。それがどれだけ非現実かを表す言葉だった。
「まぁ、もしできなかったとすればあの餓鬼と一緒に消し去るまでだ。精々頑張って頂こうではないか」
嘲笑う一人の男。彼は他の物と違い、フードでも隠しきれない一本の角が顔を出していた。
その男から始まり、その笑いは横へ横へと伝染していき、部屋の中に彼らの声が響き渡った。
そんな中、一人だけ。彼らと共に笑いあうこともせず虚空を見つめ続ける者がいた。その男は、顔に笑みを貼り付けたまま、呟く。
「試させてもらうぞ。現・魔王様よ」
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会議にも出てきた、魔族は聖剣を扱うことが出来ないという説明をワイバーン速伝種に文を渡し、イーリリン王国へと送ってもらってから3日も経過してしまった。
3日も、だ。
ようやく頭を冷やしたなトゥレリオス。だけどもう布告の文を送ってしまっては後の祭り。布告した後に『ごめん、間違いだったわー』では済まされないのはどの世界でも共通のようだな。日本もそうだった。
とことん悩みやがれ。
何故こんなにも嫌ってるのか? そう思う人もいなくもないはず。
まあ、それはおいおい分かるとして。
「お願いお兄ちゃん! 僕もダンジョン行かせてっ」
「ダーメーだ。まだ行かせられない」
「なんで! ちゃんと魔法使えるよ?」
「まだダメだ。魔法が使えるだけではな」
「ヤダヤダ! いーきーたーいー」
俺はただいま、ワガママ坊主と化している。
それは昨日のことだった。その夜俺はアノマリア家の人たちと食事を取っていた。
何気ない話を聞きながら食べていたとき。扉を強くノックする音がリビングに響き渡った。
「ングッ。……プハッ。誰だ」
突然の事で一瞬喉を詰まらせたルフォートだが、アイモネから水を貰い流しこむと扉の向こうにいるものへと声を掛けた。
「ヴァリーです。緊急の話があって参りました」
「そうか、入れ」
失礼します。と礼儀正しく入ってきた彼はある程度目上の人に必要な動作をした後、さっきまでの丁寧さが嘘のようにルフォートの元へと、猫のように音をさせないたまま駆け寄っていき、耳打ちをしだした。何か報告を聞いていくうちにルフォートの顔が百面相よろしくに変化していく。
「は!? それはどういう」
「く、詳しくはスティーンの部屋で。ガゼルもお呼びしております」
「分かった。食事が終わり次第向かうと言ってくれ」
「畏まり」
そう言って部屋を出て行く。ヴァリーさん、どんなに慌てても礼儀を忘れないんですね。ある意味凄いです。
「さて、楽しい話を続けていたかったのだが、どうやらそうもいかなくなったようだ」
「いいんだよルフォート。例の、アレでしょ? 『チェス』攻略の鍵が見つかったですから」
「そうだぜ。だけど飯はしっかり食うのな」
「当然だ。昔知り合った奴の言葉なんだが、『腹が減っては戦はできぬ』ってね」
「ぶふ! ごほごほっ」
「大丈夫コタロウちゃん!?」
思わず口の中の物を吹きそうになってしまった。それって日本の古い言葉だよな。
それよりも、何があったのだろうか。ガゼルも呼ばれているということは、型を使った魔術武器作成の件だろう。
スティーン、スティーン……。
あ、素材探しは任せろとか言ってた奴の名前がそうだった気がする。
ふむぅ、これは俺も……聞きに行った方がいいかもな。
「お、お兄ちゃん!」
「 なんだい?」
「僕もお話きいても、いいかな?」
「別に構わないとは思うが……。件の話が実行に移せたのも、コタロウのおかげだからな。分かった、一緒に行こうか」
「うん!」
「えー! コタロウちゃんと遊びたかったのにぃ」
ルフォートに許可は貰ったが、アイモネとバーレンはどうやら嫌らしい。子供と遊ぶのがそんなに楽しいのか?
「ごめんね、レン姉ちゃん。アイ姉ちゃん。また、遊ぼ?」
「「もちろんさ(よ)!」」
「……姉ちゃんじゃなくてババァだろいでででででっ!」
ちょろいお二方はラッジの一言にお怒りなようです。しかし正論なのでフォローできなかった。
食事が終わり、ルフォートに肩車して貰いながら、スティーンとガゼルの待つ部屋へと向かっていった。スティーンの部屋の前には、女バトラーが立っていた。
「ルフォート様、どうぞお入り下さい。皆様お待ちにございます」
「あぁ」
そう短く答え、部屋に入っていくルフォート。俺はチャイルドスマイルを浮かべながら深くお辞儀して、中へと入っていった。顔に変化がないのは結構心にくるのな。
「遅かったな。ルフォート殿……と、これはこれは。コタロウ様、こんばんは」
「こんばんはっ!」
部屋にはヴァリーの言った通り、ガゼルとスティーン。それともう2人。
「ガキ? おいおいなんでガキを、連れて来やがった。あぁ?」
「本当よね。深刻な話のはずなのに」
ガキ扱いしてきたのは、黒い短髪の巨漢の男。ため息を吐いたのは、白い長髪の痩せた漢。違いは彼らの口調で分かってくれ。
「バンカス、ルシアン。この方は現代魔王であるコタロウ・ヤマオカ様であるぞ」
「はぁ? このチビが魔王……? プフッ」
「ありえないわね。魔王様が誕生したなんて話、聞いたことないもの。それに……こんなちっこいのがねぇ」
盛大に笑うバンカスと、手で口を押さえ、堪えてるつもりだろうけど手の隙間からクックックッと笑ってるのが聞こえてくる。
「お、お前たち!」
オロオロしだしたスティーン。彼の知り合いなのだろうけど。
「(ほう? いい度胸してるな)」
「「!?」」
突然耳元から声が聞こえたことに驚き、首を回して周囲を警戒しだした二人。
「どうかしたか?」
「い、いや何でもない。“自称”魔王様はおかえり願えねぇのか?」
「無理だ。そもそも魔王様がいなければ、今回お前たちにも利益のあるこの話は無かったんだからな」
「へぇ……」
おい、こっちをジロジロ見るなオカマ。
化粧なんかしやがって、おかげで中途半端に女性らしいからたちが悪いのなんの。ゴリマッチョなら気持ち悪がれるのにさ。胸と声だけだよ男らしいのは。
「まぁいいや。“自称”魔王様はほっといて話を始めるぞ。まずはこれを見てくれ」
ルフォートから僅かに殺気が漏れてるが別段気にしてないようだ。バンカスは懐から、布に包まれた何かを取り出した。
「これは俺たちが所有しているドンスト鉱山で雇っている冒険者のパーティが珍しいものを見つけたって渡してきたものなんだが——」
いいながら、まるで壊れ物のように丁重に布から取り出す。
その瞬間、俺は。俺たちは。自分の目を疑った。
バンカスの掌にぽつんと置かれたソレは一見、黄色い半透明な鉱石のカルストレードストーンという発光石にも似ている。しかし、その鉱石の中には何かがいた。
何かとは、妖精のコア。それ即ちここにあるこの鉱石は、琥珀だということである。
そして、琥珀があるということは。
「もう察していると思うが。ドンスト鉱山に新たなダンジョンが出来上がった可能性がある」
あぁもう、幸先悪いことありゃしない。
さて、いよいよ冒険がはじ……まるといいなうん。




