第6話 俺の前に、もう一人いた
その夜。
俺は世界樹の管理小屋で休ませてもらうことになった。
ベッドに横になる。
十六歳の身体。
なのに頭の中には、五十二年間の記憶がある。
不思議な感覚だった。
「……俺、本当に若返ったんだな」
手を握る。
力がある。
身体が軽い。
だが。
心は五十二歳のままだ。
その時。
棚に一冊の古い本があるのに気づいた。
「これ、何です?」
リナに尋ねる。
「古い記録です」
「読んでもいい?」
「……構いません」
ページをめくる。
知らない文字。
だが。
なぜか読めた。
「……日本語?」
違う。
文字は異世界のものなのに、意味が理解できる。
そして。
一つの記述に目が止まった。
異界より来た者。
俺はページをめくる。
最初の来訪者は、世界樹の声を聞いた。
「最初の……?」
リナがこちらを見る。
「その記録、どこで?」
「ここにありました」
俺は続けて読む。
しかし。
途中からページが破られていた。
「誰が破ったんです?」
「分かりません」
「また分からない、か」
俺はため息をつく。
すると、本の隅に小さな文字が残っているのに気づいた。
ミサキ
「……ミサキ?」
その名前を見た瞬間。
リナの表情が変わった。
「その名前を……どこで?」
「ここに書いてあります」
俺はページを指差した。
リナはしばらく黙っていた。
「……彼女も、あなたと同じです」
「日本人?」
リナは答えなかった。
その沈黙が。
答えだった。




