第5話 世界樹は、壊れかけている
世界樹の近くまで来ると、その巨大さがさらに分かった。
幹は見上げても頂上が見えない。
俺は首が痛くなってきた。
「……これ、本当に樹なのか?」
「世界樹です」
「だから、それは分かったけど……」
近づいて見ると、異常はさらに明確だった。
樹皮の一部が黒い。
まるで病気になっているようだった。
俺は手を伸ばす。
「触ってもいいですか?」
「待ってください」
リナの声が少し強くなった。
「危険です」
「危険?」
「この黒い部分には、触れないでください」
俺は手を止めた。
「何があるんです?」
「分かりません」
「管理者なのに?」
リナは黙った。
「……私にも分からないことがあります」
その答えが妙に引っかかった。
俺は黒い部分を見る。
工場で見た異常と同じ。
正常なものの中に、明らかな異常が混じっている。
「ちょっとだけ」
俺は指先を近づけた。
「駄目です!」
しかし。
触れてしまった。
瞬間。
頭の中に映像が流れ込んできた。
暗い。
どこまでも暗い。
巨大な根。
世界樹の内部を這う黒い何か。
そして。
誰かの声。
『まだ……終わっていない』
俺は慌てて手を離した。
「……今の、何?」
リナが俺を見る。
「何が見えました?」
「黒い根……」
リナの顔から血の気が引いた。
「それを……見たのですか?」
「見た」
俺は答えた。
「世界樹の中に、何かいる」
リナは何も言わなかった。
そして。
初めて俺は気づいた。
彼女は世界樹を管理している。
なのに。
世界樹のことを、本当には知らない。




