第11節
「やめろ」
陽太がいって、男子から本を取り上げたのだ。
男子はぽかんとしていたが急にニヤけていった。
「あれ~認めるんですかぁ? あれほど否定してたのにぃ? やっぱり香住のこと愛してるんだぁ」
否定していた陽太に耳をかさず、好き放題いっていた身のくせに何をいっていると叱責したくなる気持ちをおさえて私は陽太を見守り続けた。
「……勝手にしてくれ」
男子はさらにきょとんしてしまった。
「ど、どうしたんだ陽太、ほんとに認めるのかよ」
彼はどうやら陽太が否定してくると思い、さらに冷やかす準備をしていたに違いない。
私も彼から否定する言葉が飛ぶと思っていた。
そのとき、陽太は迷うように瞳を泳がしていた。
拳を握る。
空乃を見つめる。
決意を固めるように、緊張を解くように息を吐く。
一条の汗が頬を伝い、床に水滴をつくった。
そして、何かを決断して見開かれた瞳は、凛と輝いていた。
陽太が空乃の手をとった。
そして一緒に、教室を出ていった。
残された者たちは呆然と立ち尽くしているだけだった。
ちょうど掃除の終わりをつげるチャイムが鳴った。
あのあと、二人がどういう会話を交わしたのかはわからない。
私はあえて、追及しないことにした。
アマリリスもそれがいいと賛同した。
陽太はきっと、しどろもどろになりながら自分の行いに後悔していただろう。
空乃はそれを冷静に見つめていたに違いない。
でも、陽太に手をとられたとき、びっくりした表情を張り付けた空乃が、一瞬だけ微笑んでいたのを思い出すと、きっと好意的なやりとりをしていたと私は思っている。