第10節
男子は「わりぃ」といったきり、違う机のところへ向かった。
陽太が散らばった教科書類を片付けようとしたとき、もう一つの手がのびてきた。
空乃だった。
「この本、読んでるの?」
陽太は固まった。
空乃は穴を手に取って、陽太を見つめている。
咄嗟に首を縦に振った。
うそつけと言いたいところだったが、私は見守ることしかできない。
「香住も読んでるのか」
陽太は思い切った様子で尋ねていた。
「うん。とてもおもしろいよね」
陽太も激しく同意する。
内容を聞かれたらどうするんだとひやひやしていたが、空乃はこういった。
「あ、わたしと話すと迷惑なんだよね。君はやっぱりわたしを好きなんじゃないんだよ。いつもわたしを避けてるし」
「それは……」
陽太は彼女が怒っていないか不安の様子だったが、特別腹を立てている雰囲気はなかった。
陽太の前から黙然と立ち去ったあのときも、怒りの感情は抱いていなかったのだろう。
本を隠した犯人が陽太ではないことは、空乃ならばわかっていたはずだ。
本を隠されたストレスから少しだけきつく当たってしまったのかもしれない。
空乃は黙って立ち上がった。
「掃除、しないと」
陽太は先生がこちらを観察していることに気が付き、穴を机において止まっていた手を動かした。
そのときの陽太は、箒を力強く握りしめていた。
何かに対して腹を立てているようだった。
先生が立ち去ったことをいいことに、さっきの男子がターゲットを変えて空乃に近づいてきた。
空乃は無視していたが、無防備だった背中を陽太の方に押された。
前にあった机に衝突して、机の上にあげられていた椅子が落ち、甲高い音をたてた。
教室にいた面々が振り向いた。
廊下掃除の班も、もれなく教室を覗いてきて空乃に注目した。
「なにやってんだよ。いっつも陰気に本ばっか読んでるからだぞ。ほらもっと読ませてやるよ」
と、先ほど陽太が机においた穴を取りさって、適当に開いたページを空乃の顔にこすりつけた。
ここは私たちがいっちょ登場して場を鎮めてやるかと、アマリリスと決意を共にしたとき別の影が空乃に近づいた。




