第9節
すると、風の影響もあり少しだけ持ちあがった。
それから彼は落下する母親を自分の腕でキャッチした。
が、安堵する暇もなく、彼らはそのまま、川の両面を囲うコンクリートに突っ込んでいった。
私は心底、アマリリスを呼んで正解だったと痛感している。
いち早く飛び立っていた彼は、ハクビシンの親子がコンクリートに激突する寸でのところで掴みあげたのだ。
それから優雅に翼を広げ、二匹を地面に降ろした。
「小さな英雄よ。ご夫人ともに怪我はないか?」
羽を胸の前で折り畳み、かしこまった姿勢をつくったアマリリスはすっかりハクビシンの彼を気にいったようだった。
「平気だよ。ありがとう」
母親は一連の状況に戸惑いを隠せない様子で、放心したようにどこかの方向を眺めているだけだった。
それから我が子の姿を認めると、すぐさま抱きしめた。
「ごめんよ。僕が無謀なことをしたばかりに」
「いいの。いいのよ。あなたが無事だっただけで。ずっと心配してたんだから、空を飛ぶなんて言い張るから」
「そうか、僕はいつも空を飛ぶことだけを考えてた。母さんは僕に怪我をしてほしくなかったんだよね。ごめんよ。母さんが食べられなくてほんとによかった」
結局、翼は失敗作だった。いいところまで完成したが、やはりうまく操作することはできなかった。
その後彼は、やはりアマリリスの存在にびっくりした母と一緒に頭を下げながら、我々に感謝と謝罪を繰り返した。私はいった。
「飛んだ感想はどうだ。あのとき少しながらも飛べただろう」
「とても気持ちよかったよ。いろいろとありがとう。アマリリスさんも」
彼はいつのまにか自然体でアマリリスと向かい合っていた。




