第8節
「こ、これは成功じゃないのか!? もはやジャンプの域を超えているぞ! ほら見ろ!」
「言われなくても見えてる!」
私は久しぶりに熱くなりながら宙を舞う彼を見つめていた。
だが、すぐに聞こえてきたのは彼の焦りの声だった。
「母さん逃げて!」
私は再度、彼の母親が駆けつけていたところを見やった。
あの猛犬がいる玄関があった。
出てきた家主が吠える犬をなだめながら、散歩のためにリードを持って施錠された玄関を開けていた。
そのとき、家主の手からリードがするりと抜け、犬が玄関の前を通っていた彼の母親に向かって猛進したのだ。
母親はとっさに逃げ出したが、犬はしつこく追いかけてくる。
小柄な体躯を駆使して逃げ惑い、追いつかれながらも捕まえられずにいたが、最後に飛び出した先が悪かった。
そこは道路からのびる溝に囲まれた小さな川だった。
だが、段差が非常に高く水の量も少なかったので、岩やコンクリートがむき出しの状態になっていた。
犬は悔しそうにガードレールの前で止まったが、母親は下に向かって落下していった。
そのまま落ちていけば、岩に衝突してしまうだろう。
ハクビシンの彼は翼に繋がる紐を操作して向きを変えながら、落ちる母親に急行した。
順調に距離をつめる。
翼の上に母を受け止めようと、彼が低い位置に降下したときだった。
一際強い風が羽を打ち、彼のバランスを崩させた。
それでも何とか持ちこたえ墜落を免れたが、翼の箇所が母親に向いており、このままではキャッチするどころではなく、衝突してしまう危険があった。
しかし彼は、複雑に紐を動かし続けた。




