②
「君、お名前は?」
マヤが角の生えた少年に名前を訊ねると
「……バキュス」
「バキュス君か〜、私はマヤ。マヤお姉さんって呼んでね」
「う、うん」
マヤの笑顔の圧に少したじろぐバキュス
マヤが体にしがみついたバキュスの頭を撫でながらギーナの話を聞く
「討伐してもらいたいのはエビルハウンドです」
「エビルハウンドですか?」
「はい、依頼主の魔族曰く「王都から北の廃墟に住み、力をつけてきているから早めに討伐してほしい」とのことです。まあ、自分の脅威になる前に処分して、その責任は人間に押し付けて自分は悠々と力をつける算段ですかね」
「魔族さんも面倒くさいですね〜」
「魔王がいた時はこんなじゃなかったのに…」
「魔王がいた時ですか〜?」
「あ、いや……とにかくよろしくお願いします!」
ギーナは無理矢理誤魔化して馬車の手配のため、その場を後にする。
「魔王がいた時…ですか…」
マヤは亡き夫のことを思い出す。
筋骨隆々でオールバックでどんな時でも笑顔を絶やさなかった。
吸収魅力が効かず、常に真摯に接してくれた旦那。
(懐かしいな…)
マヤが思い出に耽っていると
「馬車来ましたよー!」
ギーナの声が聞こえた。
現在、人間と魔族の関係は魔王時代からの遺恨が根深く、魔王が討伐されてから人間と魔族などの和平が進んでいるが、
魔族に命を奪われた者の遺族、魔族に捕まり奴隷にさせられていた者達、次の魔王になろうとする者、それらが重なり魔族を根絶やしにせんとする動きが強い。
本来なら魔王が倒れた時点でギルドは少しづつ縮小化する予定だったのだが、討伐依頼が魔王がいた時よりも舞い込み、
依頼を捌くために新設のギルドが次々に生まれ、冒険者パーティーのライセンス制や育成機関も設立を検討されている現状だ。
マヤ自身は父親が淫魔なので魔族には偏見が無くこれと言って興味もない、夫のアーノも「悪い魔族の方が多いけど良い魔族もいる」と偏見を持っていなかった。
(アーノが魔王を倒しても、この世界は魔王がいた時より酷くなっている)
マヤは馬車の外の流れる景色を見つめ、マヤの膝枕で寝ている角の生えた少年の頭を撫でていた。
その時、馬車に黒い犬が飛び込んできた。
マヤはバキュスを抱えて馬車から飛び出ると馬車の周りをコウモリの羽が生えた黒い犬が取り囲んでいた。
「ニンゲン…エサ…」
「エビルハウンド……逃げてください!」
マヤは運転手に逃げるように伝えた。
運転手は一目散に逃げた。
(この子は子供ですから吸収魅力は効かないはずですね。なんとか吸収魅力にもっていければ…)
腰の辺りにしがみついているバキュスを一瞥し
(………でもどうすれば…?)
吸収魅力は体から相手を興奮させるフェロモンを出し、欲情した相手の生命力を奪う技
種族が違うものには効き目が遅く、生命力も段違いに高いためとにかく時間がかかる。
一気にフェロモンを出す方法もあるが
(う〜ん、どうしましょう〜)
マヤがそう考えていると
バキュスが突然、マヤの背中に飛びついてきた
「こ、こら〜!バキュス君!今イタズラはダメですよ〜」
マヤがバキュスを嗜めようと顔を見ると目の色が赤く染まっていた。
「この子…もしかして、インキュバス?」
バキュスはマヤのフェロモンを近くで浴び続けたことが淫魔の共鳴を引き起こしてしまい、一時的にインキュバスの血が覚醒してしまった。
同じ淫魔だから吸収魅力の効果は無く
「それなら、気にせず戦えますね〜」
マヤはにっこりと笑った。




