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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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98/124

淑女は強くあれ

第98話です。宜しくお願い致します。


 場面は、再び会議室の中央へ戻る。

 砕けた天井から、日の光が差し込んでいた。

 まるで、凛堂のためだけに用意された光みたいだった。

 会議室の床には、瓦礫が散らばっている。

 机は倒れ、椅子は吹き飛び、あちこちに戦闘の跡が刻まれていた。

 だが、その中心で向かい合っている二人だけは、まだ止まっていない。

 凛堂明日香。

 そして、セイコ。

 凛堂は、世良の《美魔女》によって自己免疫力と身体能力を大幅に引き上げられている。

 さらに、天井を破壊したことで日光を浴びながら戦える状態になっていた。

 もともと強い。

 それは分かっていた。

 だが今の凛堂は、さっきまでとは明らかに違う。

 立っているだけで、圧が違った。

 空気が重い。

 近くにいるだけで、肌がぴりつく。

 凛堂は拳を握りしめ、獰猛に笑った。

「さぁ、続きだ」


 ◇


 次の瞬間、凛堂の姿がぶれた。

「っ……!」

 俺が反応するより早く、凛堂はセイコの懐へ入り込んでいた。

 速い。

 さっきまでの踏み込みとは比べ物にならない。

 セイコは二本のステッキを構え、凛堂の拳を受け流そうとする。

 右のステッキで拳の軌道をずらす。

 左のステッキで次の攻撃に備える。

 先ほど凛堂を押し込んだ時と同じ動き。

 だが、今度は通じなかった。

 凛堂の拳が重すぎる。

 ステッキで流そうとしても、勢いを殺しきれない。

 軌道をずらしても、その衝撃ごとセイコの身体へ突き刺さる。

「オラオラオラオラオラァァァー!」

 凛堂の連打が、セイコへ襲いかかる。

 右。

 左。

 肘。

 拳。

 踏み込み。

 すべてが速い。

 セイコは二本のステッキを交差させ、防ぎ、受け流し、反撃の隙を探そうとする。

 だが、凛堂の攻撃はそれを許さない。

 ステッキで受けたはずの拳が、そのまま押し込んでくる。

 受け流したはずの拳が、次の瞬間には別角度から飛んでくる。

 セイコの身体が、少しずつ後ろへ押されていく。

「世良のバフは強いからな……!」

 凛堂は笑っていた。

「本当は真剣勝負でお前に勝ちたかったがよ……」

 さらに一撃。

 セイコの右肩へ拳が入る。

「まぁ、仕方ないよな……!」

 さらに踏み込む。

「俺達は敵だからよぉー!」

 凛堂の拳が、セイコの腹へ突き刺さった。

「ぐっ……!」

 セイコが初めて苦しそうな声を漏らす。

 その声を聞いた瞬間、俺の胸が冷たくなった。

 まずい。

 セイコは強い。

 それは分かった。

 でも、今の凛堂はさらにその上を行っている。

 世良の支援。

 日光による充電。

 そして、本人の戦闘能力。

 それらが合わさった凛堂は、想像以上に厄介だった。

 セイコは何とか体勢を立て直そうとする。

 だが、凛堂はそれを許さない。

「これで終わりだァァァー!」

 凛堂の身体から、さらに圧が噴き上がる。

「10%解放ー!」

 凛堂の拳に、日光の力が一気に乗った。

 さっき、セイコを吹き飛ばした時と同じ。

 蓄積した日光を瞬間的に消費し、火力を跳ね上げる一撃。

 それが、今度は完全にセイコへ直撃した。

 轟音。

 セイコの身体が吹っ飛ぶ。

 壁へ叩きつけられ、会議室全体が揺れた。

 壁に大きな傷穴ができる。

 破片が床へ落ちる。

 白い埃が舞う。

「セイコーー!!」

 俺は思わず叫んでいた。


 ◇


 セイコは、壁にもたれるようにうなだれていた。

 返事がない。

 動かない。

 数秒。

 たった数秒だったのかもしれない。

 けれど、俺にはその時間が異様に長く感じられた。

 まさか。

 そんな考えが頭をよぎる。

 いや、あり得る。

 あれだけの拳を受けた。

 凛堂の10%解放をまともに食らった。

 いくらセイコでも、無事で済む保証はない。

「……」

 会議室の空気が、一瞬だけ静まり返ったように感じた。

 凛堂も、拳を下ろしながらセイコを見ている。

 その顔には、勝利を確信したような笑みがあった。

 だが――。

 ゆっくりと、セイコの指が動いた。

「……」

 セイコは顔を上げる。

 口元から血が流れていた。

 それでも、セイコは慌てなかった。

 どこから取り出したのか、花柄のハンカチを手にして、優雅な仕草で口元の血を拭う。

 そして、汚れた警備服を一度召喚し直し、新しいものへ取り替えた。

 こんな戦場のど真ん中で。

 凛堂に吹き飛ばされた直後に。

 セイコは、服の乱れを整えた。

「お風呂に入りたいですわ……」

「いや、最初に言う言葉それかよ!」

 反射的に突っ込んでしまった。

 でも、声が出たことで少し安心した。

 生きている。

 立てる。

 いつも通り、意味の分からないことを言っている。

「まぁいい……無事で良かった……」

 俺がそう言うと、セイコはキッとこちらを見た。

「悠真様、無事ではございません!!」

「え?」

「私の美しい顔に傷が付きました!」

 セイコは自分の頬を指差す。

 確かに、小さな傷があった。

「服も泥だらけでした!」

「今、取り替えたよな?」

「取り替える前に泥だらけでしたわ!」

「そこ重要なのかよ……」

「重要ですわ!」

 セイコは、凛堂の方へ向き直る。

「これは許せませんわ!」

 凛堂の顔が、わずかに引きつった。

「あれだけ俺のパンチをくらって、まだあんな口が叩けるってのか……?!」

 その驚きは、俺にも分かる。

 あれは普通なら倒れて終わりの一撃だった。

 それでもセイコは立っている。

 しかも、怒っている理由が顔と服。

 本当に、どこまで本気でどこまでズレているのか分からない。

 だが、そのズレた怒りが、今は妙に頼もしかった。

 セイコは二本のステッキを握りしめる。

「うるさいですわ!」

 そして、はっきりと言った。

「もう、スキル使いますわ!」


 ◇


 その言葉に、俺は思わずセイコを見た。

 そういえば。

 セイコはここまで、ほとんどステッキで殴っていただけだ。

 派遣スキルによる強化はある。

 だが、セイコ自身のスキルを本格的に使ったわけではない。

 セイコが、胸を張って宣言する。

「スキル、巨大化!」

 次の瞬間、セイコの身体が大きくなった。

 本当に、そのままだった。

 腕が伸びる。

 脚が伸びる。

 身体全体が大きくなる。

 それに合わせて、両手に持った二本のステッキも巨大化していく。

 会議室の高い天井いっぱいに、セイコの身体が迫る。

 先ほど凛堂が天井に穴を開けていなければ、頭をぶつけていたかもしれない。

「巨大化というのは、やはりそのまま巨大化するスキルなのか……」

 俺は呟いた。

 名前通りすぎる。

 だが、単純だからこそ分かりやすく強い。

 体格が大きくなれば、当然、筋力も上がる。

 防御力も上がる。

 ステッキの大きさも、攻撃範囲も、すべてが変わる。

 凛堂は、巨大化したセイコを見上げていた。

「何だ、これは……」

 セイコは巨大化しても、なぜか優雅さを崩さなかった。

 むしろ、巨大な身体で堂々と胸を張る。

「私の優雅さを、めいいっぱい見せつけますわ!」

「こんなの、見かけ倒しな筈だ!」

 凛堂が床を蹴った。

 世良の強化を受けた凛堂の速度は、相変わらず凄まじい。

 一瞬で距離を詰め、巨大化したセイコへ拳を叩き込む。

 だが。

 セイコはびくともしなかった。

「何だ……と?!」

 凛堂の顔が変わる。

 さっきまで、拳一つでセイコを押し込んでいた。

 十%解放で壁まで吹き飛ばした。

 それなのに、巨大化したセイコは、その拳をほとんど受け流す必要すらなかった。

 身体そのものが、壁のように凛堂の攻撃を受け止めている。

 セイコは巨大なステッキをゆっくりと振り上げた。

「お返しですわ」

 そして、振り下ろす。

 凛堂は避けようとした。

 だが、攻撃範囲が広すぎる。

 巨大なステッキが、まるで柱のように凛堂を打ち据えた。

 轟音。

 凛堂の身体が横へ吹き飛ぶ。

 壁まで叩きつけられ、瓦礫が散った。

「ぐっ……!」

 凛堂は、それでもすぐに立ち上がろうとする。

 世良の支援が効いているのか、倒れきらない。

 だが、さすがに余裕の笑みは消えていた。

「クソが、世良に強化して貰ってこれかよ……」

 凛堂は口元の血を拭い、セイコを見上げる。

 その目には、怒りだけでなく、確かな認める色があった。

「お前は強い……」

 凛堂が拳を握りしめる。

「出し惜しみなしで、最大火力でいくぜ」

 会議室の空気が変わった。

 凛堂が、砕けた天井から差し込む日光を全身に浴びる。

 その身体から、今までよりもさらに大きな圧が噴き上がった。

 まずい。

 さっきの10%解放ですら、とんでもない威力だった。

 それ以上を使うつもりなら、会議室そのものが壊れかねない。

 凛堂が、ゆっくりと腰を落とす。

 次の瞬間、床を蹴った。

「70%解放!」

 凛堂の身体が、巨大化したセイコへ向かって一直線に飛ぶ。

 凄まじい速度。

 凄まじい圧。

 拳には、ありったけの日光の力が乗っている。

 凛堂の渾身の一撃。

 それが、セイコへ向かう。


 ◇


 セイコは逃げなかった。

 二本の巨大なステッキを構える。

 一方のステッキで、凛堂の拳を受ける。

 もう一方のステッキで、その軌道をずらす。

 轟音が響いた。

 床が割れる。

 壁が震える。

 周囲の瓦礫が跳ねる。

 それでも、セイコは防ぎきった。

「なっ……!」

 凛堂の表情に、初めて明確な驚きが浮かぶ。

 セイコは、巨大な身体で一歩踏み込んだ。

「今度はこちらの番ですわ」

 そして、二本のステッキを持ったまま回転した。

 巨大化した身体が回る。

 それに合わせて、巨大なステッキが円を描く。

 会議室の中に、凄まじい風圧が生まれた。

 机の残骸が吹き飛ぶ。

 瓦礫が転がる。

 倒れていた椅子が壁へ叩きつけられる。

 あの、自称バレエ。

 それの巨大化版だった。

「それ、まだバレエって言い張るのかよ……!」

 俺は思わず叫ぶ。

 だが、セイコは当然のように言った。

「淑女の舞ですわ!」

 凛堂が回避しようとする。

 だが、攻撃範囲が広すぎる。

 巨大なステッキが、逃げ場を潰す。

 セイコは回転の勢いを乗せ、最後にステッキを大きく振り抜いた。

「これで、終わりですわ!」

 渾身の一撃。

 巨大なステッキが、凛堂を打ち抜く。

 凛堂の身体が、今までとは比べ物にならない勢いで吹っ飛んだ。

 その先にいたのは、世良だった。

 世良は目を見開く。

「ちょっとちょっと待って……?!」

 だが、間に合わない。

 凛堂の身体が、そのまま世良へ突っ込んだ。

 ドンッ!!

 凛堂が世良の上へ倒れ込む。

 二人まとめて床へ叩きつけられた。

 凛堂は動かない。

 世良も、下敷きになったまま意識を失っている。

 会議室の中央に、一瞬だけ静けさが生まれた。

 セイコは巨大なステッキを軽く振り、ゆっくりと元の大きさへ戻っていく。

 身体が縮む。

 ステッキも元のサイズに戻る。

 元の大きさに戻ったセイコは、さすがに少し疲れたように息を吐いた。

「流石に疲れましたわね……」


 ◇


 俺は凛堂と世良を見る。

 二人とも、動かない。

 倒した。

 あの凛堂を。

 しかも、世良ごと。

 正直、驚いた。

 セイコが強いことは分かっていた。

 だが、ここまでとは思っていなかった。

「ありがとう……!」

 俺はセイコに言った。

「正直、お前がここまで強いとは思わなかったよ……」

 セイコはステッキを肩に乗せ、少しだけ得意げに微笑んだ。

「淑女は強くあるべきですもの……」

 相変わらず意味はよく分からない。

 けれど、その言葉が、今は妙に頼もしく聞こえた。

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