火縄銃と火炎瓶
第95話です。宜しくお願い致します。
セイコと凛堂の戦いが、会議室の中央でさらに熱を帯びていく。
砕けた天井から差し込む日の光。
その下で、凛堂はまるで獣のように笑っていた。
世良の《美魔女》による強化。
そして、再び浴び始めた日光。
ただでさえ厄介だった凛堂の圧が、さらに増している。
セイコは二本のステッキを構えたまま、まったく怯んでいない。
だが、あの凛堂を相手に、どれだけ押し返せるかは分からない。
俺はその戦いから目を離したくなかった。
だが、会議室で動いているのは、凛堂とセイコだけではない。
◇
別方向では、アルとソックスが強襲隊の隊員たちを相手にしていた。
「ヒャッハァァァ!! ほらほら、足元注意でありますよぉ!!」
アルが機関銃を乱射する。
乱射。
そう言いたくなるくらい派手な撃ち方だ。
だが、実際には無茶苦茶ではない。
隊員の足元。
武器を構えようとする腕の近く。
前に出るために踏み込んだ足。
殺さないように。
それでも動きを止めるように。
派手な銃声とは裏腹に、狙いはかなり細かい。
一方、ソックスは相変わらず静かだった。
机の陰に身を隠しながら、必要な時だけ銃口を出す。
一発。
隊員の武器を撃ち落とす。
また一発。
別の隊員の足元を撃ち抜き、前進を止める。
無駄弾がない。
アルが場を荒らし、ソックスが確実に潰す。
その連携によって、強襲隊の一般隊員たちはなかなか前へ進めずにいた。
「くそっ!」
「何なんだ、あいつら!」
「近づけねぇ!」
隊員たちが苛立ちの声を上げる。
当然だ。
前に出ればアルに足元を撃たれる。
武器を構えればソックスに撃ち落とされる。
しかも、倒れた者から順番に阿川の配管で中央会館へ送られていく。
戦場から味方が消えていく。
敵にとっては、かなり嫌な状況のはずだ。
◇
だが、その状況を見て、強襲隊の後方にいた男が動いた。
柿原紅蓮。
強襲隊副隊長。
以前、スケルトンキング戦で共闘した男。
火縄銃と火炎瓶。
そして《聖火》というスキルを使う、火の扱いに長けた超人族。
柿原は、隊員たちの情けない姿を見て、苛立ったように肩を回した。
「やっぱり、お前達じゃあいつらには勝てないよなぁ!!」
その声は大きく、会議室に響いた。
「俺がやってやるぜ!」
柿原が前に出る。
それを見たアルが、ぱっと顔を輝かせた。
「オオー! 何か強そうな人来たーー!」
緊張感がない。
本当にない。
ソックスは銃を構えたまま、冷静に答える。
「前、共闘したことがある強襲隊の柿原紅蓮副隊長だ」
「そうだっけ……?」
アルが首を傾げる。
俺は思わず額を押さえたくなった。
確かに、あの時は凛堂や門脇の印象も強かった。
だが、柿原も一緒に戦っていた。
それを忘れているのは、さすがに相手に失礼だ。
案の定、柿原の顔が引きつった。
「舐めてやがるな……」
柿原が火縄銃を構える。
その目に、明確な怒りが宿った。
「じゃあ、今度は忘れることができないようにしてやるよ!」
俺は息を呑む。
来る。
柿原のスキルは、普通の火ではない。
火を付けた道具や武器に、無限に火を灯し続ける。
火縄銃。
火炎瓶。
単純だが、戦場ではかなり厄介な能力だ。
特に、閉鎖された会議室では危険度が跳ね上がる。
◇
「スキル、聖火!」
柿原の火縄銃に、火が灯る。
普通の火縄銃なら、撃つまでに時間がかかる。
連射などできない。
だが、柿原の持つそれは違った。
火花が弾ける。
次の瞬間、火縄銃から弾丸が放たれた。
しかも、一発ではない。
連続で。
「うおっ!? 火縄銃ってそんな連射できるものなの!?」
アルが慌てて机の陰へ飛び込む。
ソックスもすぐに別の遮蔽物へ身を隠した。
「普通はできない。あれはスキルだ」
「ですよねー! 俺も火縄銃ってもっとこう、じっくり撃つ武器だと思ってた!」
アルが叫ぶ。
銃弾が机の角を削った。
木片が飛び散る。
柿原は笑いながら火縄銃を構え直す。
「隠れてばっかじゃ勝てねぇぞ!」
「いやいや、撃たれたら痛いので隠れるのは大事であります!」
アルは軽口を叩くが、表情はいつもより少し真剣だった。
柿原の弾は速い。
そして、普通の射撃とは違う。
弾そのものだけでなく、火の勢いが乗っている。
当たれば、ただの傷では済まない。
ソックスが机の陰から一瞬だけ顔を出し、撃つ。
一発。
柿原の手元を狙った射撃。
だが、柿原は身体を捻って避けた。
「おっと」
「……速いな」
ソックスが小さく呟く。
柿原は火縄銃を片手で構えたまま、もう片方の手で何かを取り出した。
火炎瓶。
瓶の先には、すでに火がついている。
「隠れるなら、上から燃やせばいいだけだろ!」
柿原が火炎瓶を投げた。
放物線を描き、アルとソックスが隠れている机の上へ落ちてくる。
「うわっ、何か来た!」
「撃ち落とすぞ」
「了解であります!」
アルとソックスが同時に銃口を向ける。
空中の火炎瓶へ射撃。
弾丸が瓶に当たる。
パァンッ!!
火炎瓶が空中で割れ、炎が飛び散った。
床や机の一部に火が移る。
すぐに大きく燃え広がるわけではない。
だが、油断すれば危ない。
火が広がりすぎれば会議室全体が危険になる。
柿原はそれも狙っているのかもしれない。
火を使えば、こちらの動ける範囲が狭まる。
逃げ道も塞げる。
視界も悪くなる。
単純な攻撃役ではない。
戦場を作るタイプの敵だ。
ソックスが、火の広がりを見て舌打ちした。
「アル、火炎瓶を先に落とす」
「アイアイサー!」
◇
再び柿原が火炎瓶を投げる。
今度は二本。
アルとソックスがそれぞれ撃ち落とす。
空中で炎が弾ける。
その瞬間だった。
柿原が笑った。
「そっちに意識向けすぎだ」
柿原の火縄銃が、アルへ向けられていた。
アルも気づいた。
だが、一瞬遅い。
「アル!」
ソックスが叫ぶ。
銃声。
火を纏った弾丸が、アルの足を掠めるように撃ち抜いた。
「ぐっ……!」
アルの身体が崩れる。
膝をつく。
完全に直撃ではない。
それでも足に傷が入った。
血が滲む。
アルはすぐに銃を構え直そうとしたが、足に力が入りきっていない。
柿原は火縄銃を肩に担いで笑った。
「へぇ、今のを完全に食らわねぇのか」
「けど、足には当たったよなぁ?」
その瞬間、ソックスが動いた。
隠れていた場所から飛び出し、アルの腕を掴む。
「下がるぞ」
「え、いや、まだ撃てる!」
「動きが鈍ってる。ここにいたら次で抜かれる」
「それは困る!」
ソックスはアルを半ば抱えるようにして、別の机の陰へ移動した。
柿原の弾が、さっきまでアルがいた場所を撃ち抜く。
床に火花が散った。
危なかった。
ソックスの判断が一瞬でも遅れていれば、次は足では済まなかったかもしれない。
俺は思わず拳を握る。
「アル!」
声をかけたくなる。
だが、今の俺が不用意に動けば、桜井の思うつぼになる。
それに、アルとソックスはまだ戦える。
信じるしかない。
◇
机の陰で、ソックスがアルの足を見る。
「アル、大丈夫か?」
「これくらい、なんてことない……!」
アルはそう言って笑おうとした。
だが、いつものような勢いは少し薄い。
足の傷は浅くない。
動ける。
だが、機動力は落ちる。
柿原はそれを分かっている。
真正面から倒しにきたのではない。
まず動きを奪いにきた。
射撃戦で足を潰されるのは、かなり厄介だ。
ソックスはアルを見て、小さく息を吐く。
「無理はするな」
「むしろ、俺は無理してからが本番みたいなところ!」
「その考え方をまず直せ」
「えー」
こんな時でも二人のやり取りはいつも通りだった。
だが、ソックスの目は笑っていない。
柿原の火縄銃。
火炎瓶。
そして、こちらの意識を散らした上で狙撃する判断力。
強い。
アルとソックスの凸凹コンビでも、油断すれば一気に崩される。
俺は戦況を確認する。
セイコは凛堂と対峙している。
凛堂は世良の支援と日光でさらに強化されている。
アルは足を負傷。
ソックスはそのフォローに回っている。
色谷とチャン爺は、まだ一般隊員を抑えている。
阿川は倒れた隊員たちを配管で中央会館へ送り続けている。
陸斗は全体を守れる位置にいる。
だが、相手の隊長格はまだ全員が本格的に動いたわけではない。
門脇。
影山駿。
影山潤。
まだ、厄介な相手が残っている。
そして桜井は、相変わらず動いていない。
ただ、見ている。
それが一番不気味だった。
◇
柿原が、隠れているアルとソックスの方へゆっくり歩き出す。
火縄銃を肩に担ぎ、余裕の笑みを浮かべている。
「あれを避けたのはやるな……」
柿原の声が響く。
「ただ、足には当たっただろ?」
火縄銃の銃口が、再びアルたちのいる遮蔽物へ向けられる。
「さぁ、どうやって反撃しにくるかな?」




