超人族絶対至上主義
第92話です。宜しくお願い致します。
罠だった。
その事実を理解した瞬間、会議室の空気が一気に重くなった。
目の前には桜井晴彦。
その左右には、凛堂、柿原、門脇、影山駿、影山潤、世良。
さらに、その背後には大勢のSPМ隊員たち。
俺たちは完全に囲まれていた。
未来は別の場所に落とされたまま。
こちらにいるのは、俺、陸斗、チャン爺、阿川、色谷、犬飼。
人数だけで見れば、圧倒的に不利。
しかも相手はただの隊員ではない。
SPМの隊長、副隊長クラスが揃っている。
真正面からぶつかれば、ただでは済まない。
それでも、俺は目の前の男から視線を外さなかった。
桜井晴彦。
穏やかな笑みを浮かべている。
怒っているわけでもない。
焦っているわけでもない。
勝ち誇っているようにも見えるが、それすら露骨ではなかった。
まるで、予定通りに来客を迎えただけ。
そんな顔だった。
◇
「悠真君」
桜井が口を開いた。
声は柔らかい。
耳に入るだけなら、むしろ丁寧で落ち着いた声だ。
だが、その声を聞いた瞬間、背筋の奥が冷える。
「単刀直入に言おう」
桜井は俺を見ていた。
真っ直ぐに。
だが、その視線には熱がない。
「君は本当に素晴らしいスキルを持っている」
「……」
俺は答えなかった。
口を開かない。
頷きもしない。
否定もしない。
ただ、桜井を見据える。
桜井のスキルは不明だ。
犬飼も知らない。
使ったところを誰も見たことがない。
普段何の任務をしているのかすら分からない。
それなのに、SPМの特殊隊隊長という立場にいる。
その異常さに、誰も疑問を持たなかった。
そういう男だ。
迂闊に返事をするわけにはいかない。
返事が条件かもしれない。
問いかけに答えること。
目を合わせること。
名前を呼ばれること。
一定時間会話を成立させること。
否定でも肯定でも、とにかく反応すること。
どれが条件でもおかしくない。
だから、今は黙る。
怒りを飲み込んで、黙る。
桜井は俺の沈黙を気にした様子もなく、ゆっくりと言葉を続けた。
「だからこそ、私と一緒にこの関東を――」
そこで、わずかに間を置く。
「いや、東京を私たちで作り直さないか?」
東京。
その言葉に、胸の奥がわずかに反応する。
俺たちが必死に守り、作ってきた場所。
崩壊した世界の中で、少しずつ日常を取り戻そうとしている場所。
そこを、桜井は「作り直す」と言った。
俺と共に。
いや、俺のスキルを使って。
◇
「私はずっと思っていたんだ」
桜井は穏やかに語る。
まるで、昔から抱えていた夢を話すように。
「理不尽な社会格差」
「有能な者が上に立つことなく、いつだって下で泥水をすするだけ」
その声には、ほんの少しだけ熱が混じった。
「努力しない者が守られ、才能ある者が使い潰される」
「正しい能力を持つ者が、くだらない制度や感情論で押し潰される」
「私は、そんな世界がずっと嫌いだった」
SPМ隊員たちは動かない。
隊長たちも動かない。
ただ、桜井の声だけが会議室に響く。
「そんな時、願ってもないことが起こった」
桜井の口元が、少しだけ歪んだ。
「ゲートが開き、クソみたいな世界は崩壊した」
その言葉に、俺の中で何かが軋んだ。
世界が崩壊した。
人が死んだ。
家族を失った者がいる。
住む場所を失った者がいる。
美咲のような子供が泣き、陸斗のような子供が妹を守るために必死になった。
涼香は呪いに苦しみ、翔太と恭太は姉を助けるために間違ったことまでした。
コン太は別の世界から流れ着き、裏切られた傷を抱えていた。
多くの人が傷ついた。
多くの人が死んだ。
その出来事を、桜井は「願ってもないこと」と言った。
怒りで喉が熱くなる。
だが、俺はまだ答えない。
桜井は続けた。
「そして、選ばれし超人族と旧人類」
「世界は分けられた」
「力を持つ者と、持たざる者」
「支配する者と、支配される者」
桜井は両手を軽く広げる。
「優秀な者が道具を扱う世の中を作ることができるチャンスだと、私は思った」
犬飼が隣で歯を食いしばる音が聞こえた。
おそらく、今すぐ飛びかかりたいのだろう。
でも、犬飼は動かない。
必死に耐えている。
俺も同じだった。
桜井の言葉は、聞いているだけで気分が悪くなる。
旧人類。
道具。
支配。
こいつは本気でそう思っている。
人間を、人間として見ていない。
◇
「君のスキルは、超人族絶対至上主義の世の中に変えるためには必要なスキルだよ」
桜井の視線が、さらに俺へ向いた。
「テリトリーを作り、環境を整え、物資を生み、住民を管理し、警備を置き、都市を動かす」
「君の力があれば、東京は完成する」
「いや、東京だけじゃない」
「関東全域を、新しい秩序で満たすことができる」
桜井は微笑んだ。
「私と共に行こう」
「……」
俺は何も答えなかった。
会議室の中が、静まり返る。
桜井の言葉が終わっても、俺は口を開かない。
怒りはある。
吐き捨てたい言葉もある。
ふざけるな、と言いたい。
東京をお前の支配の道具にするな、と言いたい。
だが、それを口に出すことが危険かもしれない。
桜井のスキル条件が分からない以上、感情で反応してはいけない。
俺はただ、桜井を睨み続けた。
桜井はしばらく俺を見ていた。
そして、少しだけ肩をすくめる。
「私のスキルを警戒して、何も答えないのかな?」
その一言に、場の空気がさらに張り詰めた。
こいつは分かっている。
俺が何を警戒しているのか。
そして、それを口に出す余裕がある。
つまり、警戒されること自体も想定内。
あるいは、警戒させることすら利用している。
「それなら安心していい」
桜井は穏やかな声で言った。
「そんな簡単に発動しない……」
少し間を置く。
「まぁ、言っても信じてもらえないかな……」
当たり前だ。
信じるわけがない。
そもそも、その言葉自体が誘導かもしれない。
簡単に発動しない。
それが本当なら、条件は複雑なのかもしれない。
逆に嘘なら、今この瞬間にも何かが進んでいる可能性がある。
何を信じるべきか分からない。
だから、桜井と会話を成立させるべきではない。
俺は視線だけで、陸斗たちへ意識を向ける。
全員、緊張していた。
陸斗は俺のすぐ近くで、いつでもバリアを出せるように手を構えている。
チャン爺は静かに仕込み杖を握っている。
阿川は背後と周囲の位置を確認していた。
色谷は足元に意識を向け、いつでも《ボウリング場》を発動できる状態。
犬飼は、桜井を睨みつけている。
怒りを堪えている顔だった。
◇
桜井が小さく息を吐いた。
「残念だ」
まったく残念そうではない声で、そう言う。
「では、力尽くで君をこちらにつかせるとしようか」
桜井はゆっくりと周囲を見渡した。
隊長たち。
副隊長たち。
SPМ隊員たち。
その全員へ向けて、優しく問いかける。
「君たち」
「私のために戦ってくれるかな?」
瞬間。
会議室の空気が変わった。
「はい、桜井総督府様」
声が重なった。
隊員たちが一斉に返事をする。
凛堂も。
柿原も。
門脇も。
影山たちも。
世良も。
全員が、当然のように桜井へ従う。
犬飼の顔が歪んだ。
特に、門脇の声を聞いた瞬間、犬飼の拳が震えたのが分かった。
俺も胸の奥が冷たくなる。
門脇。
あの人が、こんな声で桜井に従っている。
以前、東京の復興を見て涙を流した男が。
今は桜井の命令に迷いなく従っている。
許せない。
だが、ここで感情に任せて動けば、桜井の思うつぼだ。
「みんな、構えろよ!」
俺はようやく声を出した。
ただし、桜井へではなく仲間へ向けて。
「桜井はああ言っているが、絶対に桜井の問いかけには答えるな!」
陸斗が頷く。
「分かりました、悠真さん」
チャン爺も静かに頭を下げる。
「承知いたしました」
阿川が短く答える。
「了解だ」
色谷も表情を引き締める。
「あぁ」
犬飼は何も言わず、桜井を睨んだまま頷いた。
◇
その時、凛堂が一歩前へ出た。
強襲隊隊長、凛堂明日香。
以前、スケルトンキングとの戦いで共闘した女。
拳を鳴らし、獰猛に笑う。
「悠真!」
その呼び方は、以前と変わらない。
「あの時の戦いの続きをしようじゃねぇか……」
「……操られてても、お前の性格は変わらないんだな……」
思わず呟いた。
凛堂の口調。
態度。
戦いを楽しむような笑み。
そこには、以前と同じ凛堂らしさがある。
人が完全に別人になったわけではない。
それに気づいた瞬間、頭の中で一つの推測が浮かぶ。
桜井のスキルは、人格そのものを塗り替える力ではないのかもしれない。
あくまで、命じられたことに従わせる。
命令に逆らえなくする。
あるいは、桜井への忠誠心だけを上書きする。
だから、凛堂の性格は残っている。
門脇の人格も、どこかに残っている可能性がある。
なら、助ける余地はある。
だが、同時に厄介でもある。
人格が残っているなら、戦い方も本人のまま。
凛堂は凛堂のまま強い。
柿原は柿原のまま火を使う。
門脇は門脇のまま戦術を使う。
操られているから弱くなる、なんて都合のいい話ではない。
(まだ、条件は分からない)
俺は奥歯を噛む。
(慎重に動くしかない)
◇
俺は片手を前に出した。
ここで出し惜しみはしない。
相手はSPМの隊長格と、大勢の隊員。
こちらの人数は少ない。
なら、使える手札は最初から使う。
「派遣」
俺のスキルが発動する。
空間が揺れた。
光が三つ、生まれる。
その中から、見慣れた三人が姿を現した。
一人目は、銃を担いだ男。
妙にテンションが高く、登場した瞬間に片手を上げた。
「呼ばれて飛び出て――アルであります!!」
二人目は、無表情に近い顔で周囲を見回す男。
落ち着いた声で、小さく呟く。
「……はい、呼ばれました」
三人目は、縦ロールを揺らしながらステッキを持つ女。
胸を張り、堂々と微笑む。
「わたくしの出番ですのね!」
アル。
ソックス。
セイコ。
クセの強すぎる三人。
だが、今はこれ以上なく頼もしい。
俺は三人へ短く告げる。
「相手を殺すなよ……」
アルが勢いよく敬礼した。
「アイアイサー!」
ソックスは静かに頷く。
「はい……」
セイコは優雅にステッキを掲げた。
「お任せあれ!」
返事だけ聞けば、不安と安心が半々だった。
特にアルとセイコは、殺さない加減が本当にできるのか少し不安になる。
だが、今は信じるしかない。
会議室の奥で、SPМ強襲隊の隊員たちが動き出した。
武器を構え、俺たちへ向かって一斉に走り出す。
その動きは速い。
統制も取れている。
だが、その先頭へアルが躍り出た。
「ヒャッハァァァ!!」
叫び声と共に、機関銃を構える。
そして、会議室に銃声が響いた。
世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件が100万PV突破致しました!!
皆様のお陰でこの作品を書くモチベーションが保たれています。改めて感謝申し上げます。
そして、これからもこの作品を宜しくお願い致します!




