待ち受けていた罠(前編)
第90話です。宜しくお願いします。
壊れかけのビルを出た瞬間、外の空気が肌に触れた。
冷たい。
風が強いわけではない。
けれど、東京の中で感じる空気とは明らかに違っていた。
整えられた空気ではない。
どこか乾いていて、埃っぽくて、壊れた街の匂いが混じっている。
俺たちは声を出さず、瓦礫の陰を縫うように進み始めた。
先頭は犬飼。
その少し後ろにチャン爺。
俺、陸斗、未来、阿川、色谷が続く。
全員、足音を殺していた。
不用意に走らない。
焦らない。
できるだけ建物の影を使い、道路の真ん中は避ける。
SPМ本部は、遠くから見た時よりも近くで見る方が威圧感があった。
崩壊した街の中にあって、そこだけがまだ形を保っている。
大きく、硬く、重い建物。
本来なら、人を守るための砦に見えたはずだ。
だが今の俺には、どうしてもそうは見えなかった。
むしろ、何かを閉じ込めている檻のように見える。
避難民を。
門脇たちを。
そして、おそらく桜井の正体を。
「……」
俺は前を歩く犬飼の背中を見る。
犬飼は一度も振り返らない。
ただ、歩く速度だけは慎重だった。
自分の知っている場所。
自分が所属していた組織。
尊敬する上司がいるはずの場所。
そこへ、敵地として潜入する。
それがどれだけきついことなのか、俺には想像することしかできない。
それでも犬飼は前を歩いている。
だったら、俺も迷っている場合じゃない。
◇
未来のカラスが、空を静かに旋回していた。
黒い翼が曇った空を切る。
建物の屋上。
崩れた看板の上。
電柱の残骸。
カラスたちは一定の距離を保ちながら、SPМ本部周辺を見張っている。
足元近くでは、ヤモリたちが壁や瓦礫の隙間を這っていた。
小さな身体を使い、俺たちよりも先へ進み、視界の届かない場所を確認していく。
未来は歩きながらも、時折ほんの少しだけ目を細めていた。
カラスやヤモリの視界を共有しているのだろう。
彼女の意識は、今この場だけではなく、周囲一帯に広がっている。
「未来、大丈夫か?」
小声で聞くと、未来は前を向いたまま頷いた。
「大丈夫」
「今のところ、こっちに気づいてる人はいないわ」
「カラスも、屋上や外周に大きな動きは見つけてない」
「ヤモリの方も?」
「壁沿いと地面付近を見てるけど、異常なし」
頼もしい。
だが、それと同時に嫌な感覚もある。
順調すぎる。
ここまで目立った妨害がない。
見張りの配置も、未来の索敵通り。
こちらが想定した通りに動けている。
それはありがたい。
ありがたいはずなのに、胸の奥に小さな引っかかりが残っていた。
桜井が犬飼を逃がした可能性。
犬飼を使って俺たちを誘い出した可能性。
その疑いが消えない以上、順調であればあるほど気味が悪い。
◇
「悠真」
犬飼が小さく声を出した。
俺はすぐに意識を戻す。
「何だ?」
「もう少しで裏門だ」
「この先、瓦礫の陰を抜けたら見える」
「分かった」
俺は手で合図を出し、全員を止めた。
一度、周囲を確認する。
未来が目を閉じる。
数秒後、静かに言った。
「裏門には、やっぱり二人」
「門番がいる」
「周囲の巡回は?」
「今のところ近くにはいない」
「ただ、少し離れたところに隊員の反応はあるわ」
「長引かせるとまずいな」
色谷が低い声で呟く。
「あぁ」
俺は頷く。
「短時間で無力化する」
殺す必要はない。
できる限り殺さず止める。
相手が本当に桜井に操られているなら、SPМ隊員たちは本来助けるべき相手でもある。
もちろん、避難民を虐げていたことが事実なら簡単に許せる話ではない。
だが、少なくとも今この場で殺すべき相手ではない。
「色谷」
「分かってる」
色谷は静かに頷いた。
「俺が先に止める」
「チャン爺」
「お任せください」
チャン爺は仕込み杖を軽く握り直した。
いつも通り落ち着いている。
落ち着きすぎていて、逆に怖いくらいだ。
「陸斗、何かあったらバリア」
「はい」
「阿川、周囲に異変があったら撤退経路を考えてくれ」
「あぁ」
「犬飼は場所の確認を頼む」
「分かった」
短いやり取り。
それだけで十分だった。
◇
俺たちは瓦礫の陰から、裏門の様子を覗いた。
未来の言った通り、門番は二人。
一人は槍のような武器を持ち、もう一人は銃を肩にかけている。
ただ、警戒しているようには見えなかった。
片方は壁にもたれ、もう片方はだるそうに首を回している。
何かを話しているらしく、時折小さく笑い声が聞こえた。
「……まったく、緊張感ないな」
阿川が小さく呟く。
犬飼が苦い顔をした。
「あそこは裏門だからな」
「正面に比べれば人の出入りは少ない」
「それでも、昔ならもう少しちゃんとしてたはずだ」
昔なら。
その言葉が重かった。
今のSPМは、犬飼の知っているSPМではない。
それが表情だけで分かる。
「行くぞ」
俺が小さく言う。
色谷が一歩前へ出た。
彼の表情が引き締まる。
普段は穏やかな印象が強いが、スキルを使う直前の色谷は別人のように集中していた。
門番二人は、まだこちらに気づいていない。
その瞬間、色谷が低く告げた。
「ボウリング場」
音もなく、門番二人の足元にボウリングレーンが展開された。
まるで地面が突然、光沢のある細長い床に変わったように見える。
そのレーンが門番二人を捉えた瞬間、二人の身体が硬直した。
「っ!?」
「な、何だ!?」
門番たちは何が起きたのか分からないまま、身体を動かそうとする。
だが、動けない。
足が床に縫いつけられたように固定されている。
腕を動かそうとしても、上手く力が入らないのか、ぎこちなく震えるだけだった。
片方の門番が、顔を歪めて口を開く。
「て、敵――」
叫び切るより早く、チャン爺が動いた。
「一卵性兄弟」
静かな声だった。
次の瞬間、チャン爺の隣にもう一人のチャン爺が現れた。
まったく同じ顔。
まったく同じ姿勢。
まったく同じ気配。
二人のチャン爺が、次の瞬間には姿を消すような速度で動いた。
いや、消えたように見えただけだ。
実際には、高速で門番二人の背後へ回り込んだのだろう。
気づいた時には、門番二人の首筋に仕込み杖の先が突きつけられていた。
片方のチャン爺が、穏やかに微笑む。
もう片方のチャン爺も、まったく同じ表情で口を開いた。
「大声を出されると、首がなくなりますよ」
声まで同じだった。
門番二人は、完全に固まった。
叫ぼうとしていた口が、途中で止まる。
喉が震えている。
だが、声は出ない。
色谷の拘束。
二人のチャン爺の仕込み杖。
目の前で何が起きているのか理解できないまま、門番二人は戦意どころか声すら奪われていた。
◇
阿川は少し引いた顔をしている。
「チャン爺が二人はやっぱり反則だな……」
陸斗だけは真面目に頷いていた。
「戦力としては非常に強力ですね」
「そうなんだけど、絵面がすごいんだよ」
そんな小声のやり取りをしている間にも、チャン爺たちは手際よく動いていた。
あらかじめ用意していた布で門番二人の口を塞ぎ、ロープで手足を縛る。
色谷の拘束が解けても動けないよう、しっかり固定する。
門番の一人が抵抗しようとしたが、チャン爺の仕込み杖がほんの少し喉元に沈んだだけで、大人しくなった。
殺してはいない。
だが、完全に制圧している。
短時間。
音もほとんどなし。
完璧だった。
「二人とも流石だな……」
俺は思わず言った。
「こんな簡単に無力化できるとは……」
色谷は苦笑する。
「二人が油断してたのもあるがな」
「それでも十分すごい」
俺が言うと、チャン爺が二人揃って一礼した。
「お褒めの言葉、ありがたき幸せでございます」
「二人で言うな。怖いから」
思わず言ってしまう。
チャン爺二人は同時に微笑んだ。
怖い。
いや、味方で本当に良かった。
チャン爺の片方がふっと光のように薄れ、元の一人に戻る。
どうやら《一卵性兄弟》で生み出したもう一人は、必要な時だけ出せるらしい。
未来が周囲を確認するように目を閉じる。
「今のところ、周囲に反応なし」
「誰も気づいてないと思う」
「よし」
俺は頷き、縛られた門番二人を見る。
二人をここに放置するわけにはいかない。
隠す場所はあるが、誰かに見つかれば警戒される。
それに、目を覚まして暴れられても厄介だ。
◇
「阿川」
「何だ?」
「この二人を中央会館まで連れて行って、部屋に閉じ込めておいてくれ」
阿川が少し目を細める。
「今か?」
「あぁ」
「二人をここに置いておくと目立つし、誰かに気づかれてもまずい」
「門番二人がいないとなると、時間が経てば怪しまれるだろうが……ここに転がしておくよりはマシだ」
阿川はすぐに頷いた。
「なるほどな。了解した」
阿川が一歩前へ出る。
そして、地面に手をかざした。
「配管工」
空間が歪む。
俺たちの近くに、大きな配管の入口が現れた。
太い金属製の管。
だが、いつもの配管と少し違う。
床部分が、ゆっくりと動いていた。
ベルトコンベアだ。
「これが新しく解放されたやつか」
俺が呟くと、阿川は頷いた。
「あぁ」
「動かない物を運ぶには便利だ」
縛られた門番二人を、チャン爺と色谷が慎重に配管の入口へ乗せる。
門番たちは口を塞がれたまま、目を見開いて暴れようとした。
「んんっ! んーっ!」
だが、手足を縛られている上に、チャン爺が横に立っている。
大きな抵抗はできない。
ベルトコンベアがゆっくりと動き、二人の身体を配管の奥へ運んでいく。
あまりにも自然に吸い込まれていくので、少し変な光景だった。
「中央会館の空き部屋に入れてくる」
阿川はそう言って、自分も配管へ入った。
数秒後、配管の入口が一度閉じる。
周囲に静寂が戻った。
俺たちはその間も警戒を続けた。
未来のカラスが上空を旋回し、ヤモリが壁を這っている。
チャン爺は門の方を見ている。
色谷はすぐにスキルを使えるように構えている。
陸斗は静かに手を開閉していた。
ほんの少しの時間。
だが、妙に長く感じた。
やがて、空間が再び歪んだ。
配管の入口が現れ、阿川が戻ってくる。
「終わった」
「中央会館の空き部屋に閉じ込めておいた」
「助かる」
「暴れてたか?」
「暴れてたが、縛ってるから問題ない」
阿川は平然と言った。
頼もしい。
これで少なくとも、門番二人がすぐに警報を鳴らすことはない。
◇
「犬飼、隠し通路は?」
「こっちだ」
犬飼が裏門から少し離れた場所へ歩く。
草と瓦礫に覆われた、ただの荒れた地面にしか見えない場所。
俺たちはそこへ近づいた。
犬飼は膝をつき、地面の一部を手で探る。
「……ここだ」
そう言われても、俺にはまったく分からない。
地面と同じ色。
同じ質感。
周囲のひび割れや土の汚れまで自然に馴染んでいる。
知らなければ、絶対に気づかない。
「よく分かるな」
「一応、戦術隊だからな」
犬飼は少しだけ笑う。
「非常時の避難経路は覚えてる」
犬飼と阿川が蓋に手をかける。
チャン爺も手伝った。
「ゆっくり開けるぞ」
犬飼が言う。
ギ……。
金属が軋むような小さな音。
全員が息を止める。
未来がすぐに周囲を確認する。
「大丈夫。気づかれてない」
「よし」
蓋の下には、暗い階段があった。
地下へ向かって、まっすぐに降りている。
冷たい空気が下から上がってきた。
湿った匂い。
埃の匂い。
古い鉄の匂い。
まるで長い間、誰にも使われていなかった場所の空気だ。
俺は小さく息を吐いた。
ここから先は、本当に敵の腹の中だ。
「未来、先にヤモリを」
「分かってる」
未来が壁にいたヤモリの一匹へ意識を向ける。
ヤモリは階段の壁へ張りつき、そのまま暗闇へ滑るように降りていった。
少し待つ。
未来が頷く。
「階段の下、今のところ誰もいない」
「行こう」
犬飼が先頭に立つ。
続いてチャン爺。
俺、陸斗、未来、阿川、色谷の順。
階段を降りていく。
靴音が小さく響いた。
壁は冷たく、ところどころ湿っている。
非常灯のような赤い光が、薄く通路を照らしていた。
◇
階段を降りきると、地下通路に出た。
思っていたより広い。
横幅も高さも十分ある。
大人が数人並んでも歩けるほどだ。
陸斗が小さく呟いた。
「意外と中は広いんですね……」
犬飼が頷く。
「あぁ。元は隊員の避難通路だからな」
「隊員の数も多いし、怪我人を運ぶことも想定してる」
「狭すぎると、非常時に使えない」
「なるほど……」
陸斗は納得したように通路を見る。
たしかに、ただの隠し通路にしては広い。
担架や荷物を運ぶことも考えられているのかもしれない。
床には薄く埃が積もっている。
足跡は、今俺たちがつけているもの以外ほとんどない。
頻繁に使われている場所ではなさそうだ。
阿川が周囲を軽く見回す。
「ここなら配管も出せそうだな」
「覚えられるか?」
「もう覚えた」
「早いな」
「記憶力が上がってるからな」
阿川は淡々と言う。
前にステータスで見た《記憶力》。
こういう場面ではかなり役立つ。
これで、少なくともこの場所に撤退用の配管を繋げる可能性ができた。
俺は少しだけ安心する。
だが、その安心はすぐに壊れた。
通路を進み始めて、数十歩。
何の前触れもなかった。
カチリ。
そんな小さな音がした気がした。
「え――」
未来の足元が、突然消えた。
床が開いた。
四角く切り取られたように、真下へ落ちる。
その上にいた未来の身体が、一瞬宙に浮いた。
「キャー!!」
「未来!!!」
俺は反射的に手を伸ばした。
だが、届かない。
陸斗も咄嗟に手を動かそうとしたが、間に合わなかった。
未来の姿が暗闇へ落ちていく。
そして次の瞬間。
ガシャン、と重い音を立てて、床が閉じた。
何事もなかったかのように。
さっきまで床だった場所が、またただの床に戻る。
俺は駆け寄り、膝をついて床を叩いた。
「未来!」
返事はない。
床はびくともしない。
硬い。
分厚い。
ただの落とし穴ではない。
明らかに仕組まれた罠だ。
血の気が引く。
同時に、怒りが込み上げてきた。
「どういうことなんだ、犬飼!」
思わず声が荒くなる。
「落とし穴があるなんて聞いてないぞ!」
犬飼は顔を青くしていた。
完全に動揺している。
「俺も知らなかった……」
「本当に、知らなかったんだ」
犬飼は床を見つめ、唇を噛む。
「本当にすまない……」
「俺の責任だ……」
その顔を見て、俺は一瞬だけ言葉に詰まった。
犬飼は嘘をついていない。
それは分かる。
今の反応も、演技には見えない。
犬飼自身、この落とし穴を知らなかったのだ。
つまり、誰かが後から仕掛けた。
あるいは、犬飼の知らないところで用意していた。
そして俺たちは、まんまとそこに踏み込んだ。
「……いや」
俺は奥歯を噛みしめながら言った。
「今は責めてる場合じゃない」
怒鳴ったところで、未来は戻ってこない。
必要なのは、助ける方法だ。
「どうにかして未来を助けに行こう」
◇
俺がそう言った時だった。
壁を這っていたヤモリの一匹が、こちらへ近づいてきた。
小さな身体。
黒い目。
そのヤモリが、俺たちの前で止まる。
そして、未来の声が聞こえた。
「大丈夫、私は無事よ……!」
「未来!」
俺は思わずヤモリに向かって叫びそうになり、慌てて声を抑えた。
ヤモリを通して未来が話している。
つまり、意識はある。
無事だ。
それだけで、胸の奥に詰まっていたものが少しだけほどけた。
「良かった……無事で……」
俺は息を吐く。
だが、安心している場合じゃない。
「今からそっちに向かう」
「索敵でそっちの場所を探れるか?」
ヤモリの口元が動いたわけではない。
だが、未来の声がはっきり聞こえる。
「いや、時間がかかりそうだから、先に行って!」
「何だか、先に行けそうな道が広がってるの」
「出られるかどうか、そっちを進んでみるわ!」
「だが……」
俺は即座に言い返しかけた。
未来を一人にするわけにはいかない。
ここは敵地だ。
しかも、今の落とし穴は明らかな罠。
未来だけを分断したようにも見える。
索敵役であり、召喚役である未来。
もし桜井側がこちらの戦力を把握しているなら、真っ先に足止めしたい相手の一人だ。
それを考えると、このまま進ませるのは危険すぎる。
だが、ヤモリを通した未来の声は強かった。
「私のこと、見くびらないでくれる?」
「私は強いんだから!」
その一言に、俺は息を呑んだ。
未来は、守られるだけの存在じゃない。
東京の索敵を支え、動植物を操り、モンスターすら召喚できる。
Bランクまで操作できるようになり、シャドウウルフも、ジャイアントオーガも、レッドワイバーンも扱えるようになった。
さっき確認したばかりだ。
未来は強い。
それを俺が一番分かっていなければいけない。
なのに、落ちた瞬間、俺はただ助けなければと思った。
信じるより先に、守ろうとした。
未来はそれを見抜いたのかもしれない。
「……分かった」
俺はゆっくり頷いた。
「でも、絶対に無理はするな」
「危ないと思ったらすぐに知らせろ」
「うん」
未来の声が少しだけ柔らかくなる。
「そっちも気をつけて」
「あぁ」
俺はヤモリを見つめた。
「必ず合流する」
「分かってる」
ヤモリは小さく頷くように身体を動かし、壁へ戻っていった。
その小さな背中を見送りながら、俺は拳を握りしめる。
未来を信じる。
そう決めた。
だが、心配が消えるわけではない。
胸の奥はまだざわついている。
怒りもある。
焦りもある。
それでも、立ち止まるわけにはいかない。
◇
犬飼が、苦しそうな顔で俺を見る。
「悠真……」
「犬飼」
俺は短く言った。
「案内を続けてくれ」
「……あぁ」
犬飼は強く頷いた。
「必ず、会議室まで連れて行く」
「頼む」
俺は一度だけ閉じた床を見た。
この下に未来がいる。
そして、俺たちはこの先へ進む。
分断された。
それは間違いない。
だが、まだ終わっていない。
俺たちはまだ、動ける。
「行くぞ」
俺は小さく告げた。
陸斗が悔しそうに手を握りしめながら頷く。
チャン爺の表情は静かだが、目の奥には怒りがあった。
阿川も無言で周囲を確認している。
色谷は唇を結び、床を一度だけ見た後、前を向いた。
犬飼が再び先頭に立つ。
俺たちは、未来と分断されたまま、地下通路の先へ進み始めた。




