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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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90/119

待ち受けていた罠(前編)

第90話です。宜しくお願いします。


 壊れかけのビルを出た瞬間、外の空気が肌に触れた。

 冷たい。

 風が強いわけではない。

 けれど、東京の中で感じる空気とは明らかに違っていた。

 整えられた空気ではない。

 どこか乾いていて、埃っぽくて、壊れた街の匂いが混じっている。

 俺たちは声を出さず、瓦礫の陰を縫うように進み始めた。

 先頭は犬飼。

 その少し後ろにチャン爺。

 俺、陸斗、未来、阿川、色谷が続く。

 全員、足音を殺していた。

 不用意に走らない。

 焦らない。

 できるだけ建物の影を使い、道路の真ん中は避ける。

 SPМ本部は、遠くから見た時よりも近くで見る方が威圧感があった。

 崩壊した街の中にあって、そこだけがまだ形を保っている。

 大きく、硬く、重い建物。

 本来なら、人を守るための砦に見えたはずだ。

 だが今の俺には、どうしてもそうは見えなかった。

 むしろ、何かを閉じ込めている檻のように見える。

 避難民を。

 門脇たちを。

 そして、おそらく桜井の正体を。

「……」

 俺は前を歩く犬飼の背中を見る。

 犬飼は一度も振り返らない。

 ただ、歩く速度だけは慎重だった。

 自分の知っている場所。

 自分が所属していた組織。

 尊敬する上司がいるはずの場所。

 そこへ、敵地として潜入する。

 それがどれだけきついことなのか、俺には想像することしかできない。

 それでも犬飼は前を歩いている。

 だったら、俺も迷っている場合じゃない。


 ◇


 未来のカラスが、空を静かに旋回していた。

 黒い翼が曇った空を切る。

 建物の屋上。

 崩れた看板の上。

 電柱の残骸。

 カラスたちは一定の距離を保ちながら、SPМ本部周辺を見張っている。

 足元近くでは、ヤモリたちが壁や瓦礫の隙間を這っていた。

 小さな身体を使い、俺たちよりも先へ進み、視界の届かない場所を確認していく。

 未来は歩きながらも、時折ほんの少しだけ目を細めていた。

 カラスやヤモリの視界を共有しているのだろう。

 彼女の意識は、今この場だけではなく、周囲一帯に広がっている。

「未来、大丈夫か?」

 小声で聞くと、未来は前を向いたまま頷いた。

「大丈夫」

「今のところ、こっちに気づいてる人はいないわ」

「カラスも、屋上や外周に大きな動きは見つけてない」

「ヤモリの方も?」

「壁沿いと地面付近を見てるけど、異常なし」

 頼もしい。

 だが、それと同時に嫌な感覚もある。

 順調すぎる。

 ここまで目立った妨害がない。

 見張りの配置も、未来の索敵通り。

 こちらが想定した通りに動けている。

 それはありがたい。

 ありがたいはずなのに、胸の奥に小さな引っかかりが残っていた。

 桜井が犬飼を逃がした可能性。

 犬飼を使って俺たちを誘い出した可能性。

 その疑いが消えない以上、順調であればあるほど気味が悪い。


 ◇


「悠真」

 犬飼が小さく声を出した。

 俺はすぐに意識を戻す。

「何だ?」

「もう少しで裏門だ」

「この先、瓦礫の陰を抜けたら見える」

「分かった」

 俺は手で合図を出し、全員を止めた。

 一度、周囲を確認する。

 未来が目を閉じる。

 数秒後、静かに言った。

「裏門には、やっぱり二人」

「門番がいる」

「周囲の巡回は?」

「今のところ近くにはいない」

「ただ、少し離れたところに隊員の反応はあるわ」

「長引かせるとまずいな」

 色谷が低い声で呟く。

「あぁ」

 俺は頷く。

「短時間で無力化する」

 殺す必要はない。

 できる限り殺さず止める。

 相手が本当に桜井に操られているなら、SPМ隊員たちは本来助けるべき相手でもある。

 もちろん、避難民を虐げていたことが事実なら簡単に許せる話ではない。

 だが、少なくとも今この場で殺すべき相手ではない。

「色谷」

「分かってる」

 色谷は静かに頷いた。

「俺が先に止める」

「チャン爺」

「お任せください」

 チャン爺は仕込み杖を軽く握り直した。

 いつも通り落ち着いている。

 落ち着きすぎていて、逆に怖いくらいだ。

「陸斗、何かあったらバリア」

「はい」

「阿川、周囲に異変があったら撤退経路を考えてくれ」

「あぁ」

「犬飼は場所の確認を頼む」

「分かった」

 短いやり取り。

 それだけで十分だった。


 ◇


 俺たちは瓦礫の陰から、裏門の様子を覗いた。

 未来の言った通り、門番は二人。

 一人は槍のような武器を持ち、もう一人は銃を肩にかけている。

 ただ、警戒しているようには見えなかった。

 片方は壁にもたれ、もう片方はだるそうに首を回している。

 何かを話しているらしく、時折小さく笑い声が聞こえた。

「……まったく、緊張感ないな」

 阿川が小さく呟く。

 犬飼が苦い顔をした。

「あそこは裏門だからな」

「正面に比べれば人の出入りは少ない」

「それでも、昔ならもう少しちゃんとしてたはずだ」

 昔なら。

 その言葉が重かった。

 今のSPМは、犬飼の知っているSPМではない。

 それが表情だけで分かる。

「行くぞ」

 俺が小さく言う。

 色谷が一歩前へ出た。

 彼の表情が引き締まる。

 普段は穏やかな印象が強いが、スキルを使う直前の色谷は別人のように集中していた。

 門番二人は、まだこちらに気づいていない。

 その瞬間、色谷が低く告げた。

「ボウリング場」

 音もなく、門番二人の足元にボウリングレーンが展開された。

 まるで地面が突然、光沢のある細長い床に変わったように見える。

 そのレーンが門番二人を捉えた瞬間、二人の身体が硬直した。

「っ!?」

「な、何だ!?」

 門番たちは何が起きたのか分からないまま、身体を動かそうとする。

 だが、動けない。

 足が床に縫いつけられたように固定されている。

 腕を動かそうとしても、上手く力が入らないのか、ぎこちなく震えるだけだった。

 片方の門番が、顔を歪めて口を開く。


「て、敵――」


 叫び切るより早く、チャン爺が動いた。

「一卵性兄弟」

 静かな声だった。

 次の瞬間、チャン爺の隣にもう一人のチャン爺が現れた。

 まったく同じ顔。

 まったく同じ姿勢。

 まったく同じ気配。

 二人のチャン爺が、次の瞬間には姿を消すような速度で動いた。

 いや、消えたように見えただけだ。

 実際には、高速で門番二人の背後へ回り込んだのだろう。

 気づいた時には、門番二人の首筋に仕込み杖の先が突きつけられていた。

 片方のチャン爺が、穏やかに微笑む。

 もう片方のチャン爺も、まったく同じ表情で口を開いた。

「大声を出されると、首がなくなりますよ」

 声まで同じだった。

 門番二人は、完全に固まった。

 叫ぼうとしていた口が、途中で止まる。

 喉が震えている。

 だが、声は出ない。

 色谷の拘束。

 二人のチャン爺の仕込み杖。

 目の前で何が起きているのか理解できないまま、門番二人は戦意どころか声すら奪われていた。


 ◇


 阿川は少し引いた顔をしている。

「チャン爺が二人はやっぱり反則だな……」

 陸斗だけは真面目に頷いていた。

「戦力としては非常に強力ですね」

「そうなんだけど、絵面がすごいんだよ」

 そんな小声のやり取りをしている間にも、チャン爺たちは手際よく動いていた。

 あらかじめ用意していた布で門番二人の口を塞ぎ、ロープで手足を縛る。

 色谷の拘束が解けても動けないよう、しっかり固定する。

 門番の一人が抵抗しようとしたが、チャン爺の仕込み杖がほんの少し喉元に沈んだだけで、大人しくなった。

 殺してはいない。

 だが、完全に制圧している。

 短時間。

 音もほとんどなし。

 完璧だった。

「二人とも流石だな……」

 俺は思わず言った。

「こんな簡単に無力化できるとは……」

 色谷は苦笑する。

「二人が油断してたのもあるがな」

「それでも十分すごい」

 俺が言うと、チャン爺が二人揃って一礼した。

「お褒めの言葉、ありがたき幸せでございます」

「二人で言うな。怖いから」

 思わず言ってしまう。

 チャン爺二人は同時に微笑んだ。

 怖い。

 いや、味方で本当に良かった。

 チャン爺の片方がふっと光のように薄れ、元の一人に戻る。

 どうやら《一卵性兄弟》で生み出したもう一人は、必要な時だけ出せるらしい。

 未来が周囲を確認するように目を閉じる。

「今のところ、周囲に反応なし」

「誰も気づいてないと思う」

「よし」

 俺は頷き、縛られた門番二人を見る。

 二人をここに放置するわけにはいかない。

 隠す場所はあるが、誰かに見つかれば警戒される。

 それに、目を覚まして暴れられても厄介だ。


 ◇ 


「阿川」

「何だ?」

「この二人を中央会館まで連れて行って、部屋に閉じ込めておいてくれ」

 阿川が少し目を細める。

「今か?」

「あぁ」

「二人をここに置いておくと目立つし、誰かに気づかれてもまずい」

「門番二人がいないとなると、時間が経てば怪しまれるだろうが……ここに転がしておくよりはマシだ」

 阿川はすぐに頷いた。

「なるほどな。了解した」

 阿川が一歩前へ出る。

 そして、地面に手をかざした。

「配管工」

 空間が歪む。

 俺たちの近くに、大きな配管の入口が現れた。

 太い金属製の管。

 だが、いつもの配管と少し違う。

 床部分が、ゆっくりと動いていた。

 ベルトコンベアだ。

「これが新しく解放されたやつか」

 俺が呟くと、阿川は頷いた。

「あぁ」

「動かない物を運ぶには便利だ」

 縛られた門番二人を、チャン爺と色谷が慎重に配管の入口へ乗せる。

 門番たちは口を塞がれたまま、目を見開いて暴れようとした。

「んんっ! んーっ!」

 だが、手足を縛られている上に、チャン爺が横に立っている。

 大きな抵抗はできない。

 ベルトコンベアがゆっくりと動き、二人の身体を配管の奥へ運んでいく。

 あまりにも自然に吸い込まれていくので、少し変な光景だった。

「中央会館の空き部屋に入れてくる」

 阿川はそう言って、自分も配管へ入った。

 数秒後、配管の入口が一度閉じる。

 周囲に静寂が戻った。

 俺たちはその間も警戒を続けた。

 未来のカラスが上空を旋回し、ヤモリが壁を這っている。

 チャン爺は門の方を見ている。

 色谷はすぐにスキルを使えるように構えている。

 陸斗は静かに手を開閉していた。

 ほんの少しの時間。

 だが、妙に長く感じた。

 やがて、空間が再び歪んだ。

 配管の入口が現れ、阿川が戻ってくる。

「終わった」

「中央会館の空き部屋に閉じ込めておいた」

「助かる」

「暴れてたか?」

「暴れてたが、縛ってるから問題ない」

 阿川は平然と言った。

 頼もしい。

 これで少なくとも、門番二人がすぐに警報を鳴らすことはない。


 ◇


「犬飼、隠し通路は?」

「こっちだ」

 犬飼が裏門から少し離れた場所へ歩く。

 草と瓦礫に覆われた、ただの荒れた地面にしか見えない場所。

 俺たちはそこへ近づいた。

 犬飼は膝をつき、地面の一部を手で探る。

「……ここだ」

 そう言われても、俺にはまったく分からない。

 地面と同じ色。

 同じ質感。

 周囲のひび割れや土の汚れまで自然に馴染んでいる。

 知らなければ、絶対に気づかない。

「よく分かるな」

「一応、戦術隊だからな」

 犬飼は少しだけ笑う。

「非常時の避難経路は覚えてる」

 犬飼と阿川が蓋に手をかける。

 チャン爺も手伝った。

「ゆっくり開けるぞ」

 犬飼が言う。

 ギ……。

 金属が軋むような小さな音。

 全員が息を止める。

 未来がすぐに周囲を確認する。

「大丈夫。気づかれてない」

「よし」

 蓋の下には、暗い階段があった。

 地下へ向かって、まっすぐに降りている。

 冷たい空気が下から上がってきた。

 湿った匂い。

 埃の匂い。

 古い鉄の匂い。

 まるで長い間、誰にも使われていなかった場所の空気だ。

 俺は小さく息を吐いた。

 ここから先は、本当に敵の腹の中だ。

「未来、先にヤモリを」

「分かってる」

 未来が壁にいたヤモリの一匹へ意識を向ける。

 ヤモリは階段の壁へ張りつき、そのまま暗闇へ滑るように降りていった。

 少し待つ。

 未来が頷く。

「階段の下、今のところ誰もいない」

「行こう」

 犬飼が先頭に立つ。

 続いてチャン爺。

 俺、陸斗、未来、阿川、色谷の順。

 階段を降りていく。

 靴音が小さく響いた。

 壁は冷たく、ところどころ湿っている。

 非常灯のような赤い光が、薄く通路を照らしていた。


 ◇


 階段を降りきると、地下通路に出た。

 思っていたより広い。

 横幅も高さも十分ある。

 大人が数人並んでも歩けるほどだ。

 陸斗が小さく呟いた。

「意外と中は広いんですね……」

 犬飼が頷く。

「あぁ。元は隊員の避難通路だからな」

「隊員の数も多いし、怪我人を運ぶことも想定してる」

「狭すぎると、非常時に使えない」

「なるほど……」

 陸斗は納得したように通路を見る。

 たしかに、ただの隠し通路にしては広い。

 担架や荷物を運ぶことも考えられているのかもしれない。

 床には薄く埃が積もっている。

 足跡は、今俺たちがつけているもの以外ほとんどない。

 頻繁に使われている場所ではなさそうだ。

 阿川が周囲を軽く見回す。

「ここなら配管も出せそうだな」

「覚えられるか?」

「もう覚えた」

「早いな」

「記憶力が上がってるからな」

 阿川は淡々と言う。

 前にステータスで見た《記憶力》。

 こういう場面ではかなり役立つ。

 これで、少なくともこの場所に撤退用の配管を繋げる可能性ができた。

 俺は少しだけ安心する。

 だが、その安心はすぐに壊れた。

 通路を進み始めて、数十歩。

 何の前触れもなかった。

 カチリ。

 そんな小さな音がした気がした。


「え――」


 未来の足元が、突然消えた。

 床が開いた。

 四角く切り取られたように、真下へ落ちる。

 その上にいた未来の身体が、一瞬宙に浮いた。

「キャー!!」

「未来!!!」

 俺は反射的に手を伸ばした。

 だが、届かない。

 陸斗も咄嗟に手を動かそうとしたが、間に合わなかった。

 未来の姿が暗闇へ落ちていく。

 そして次の瞬間。

 ガシャン、と重い音を立てて、床が閉じた。

 何事もなかったかのように。

 さっきまで床だった場所が、またただの床に戻る。

 俺は駆け寄り、膝をついて床を叩いた。

「未来!」

 返事はない。

 床はびくともしない。

 硬い。

 分厚い。

 ただの落とし穴ではない。

 明らかに仕組まれた罠だ。

 血の気が引く。

 同時に、怒りが込み上げてきた。

「どういうことなんだ、犬飼!」

 思わず声が荒くなる。

「落とし穴があるなんて聞いてないぞ!」

 犬飼は顔を青くしていた。

 完全に動揺している。

「俺も知らなかった……」

「本当に、知らなかったんだ」

 犬飼は床を見つめ、唇を噛む。

「本当にすまない……」

「俺の責任だ……」

 その顔を見て、俺は一瞬だけ言葉に詰まった。

 犬飼は嘘をついていない。

 それは分かる。

 今の反応も、演技には見えない。

 犬飼自身、この落とし穴を知らなかったのだ。

 つまり、誰かが後から仕掛けた。

 あるいは、犬飼の知らないところで用意していた。

 そして俺たちは、まんまとそこに踏み込んだ。

「……いや」

 俺は奥歯を噛みしめながら言った。

「今は責めてる場合じゃない」

 怒鳴ったところで、未来は戻ってこない。

 必要なのは、助ける方法だ。

「どうにかして未来を助けに行こう」


 ◇


 俺がそう言った時だった。

 壁を這っていたヤモリの一匹が、こちらへ近づいてきた。

 小さな身体。

 黒い目。

 そのヤモリが、俺たちの前で止まる。

 そして、未来の声が聞こえた。

「大丈夫、私は無事よ……!」

「未来!」

 俺は思わずヤモリに向かって叫びそうになり、慌てて声を抑えた。

 ヤモリを通して未来が話している。

 つまり、意識はある。

 無事だ。

 それだけで、胸の奥に詰まっていたものが少しだけほどけた。

「良かった……無事で……」

 俺は息を吐く。

 だが、安心している場合じゃない。

「今からそっちに向かう」

「索敵でそっちの場所を探れるか?」

 ヤモリの口元が動いたわけではない。

 だが、未来の声がはっきり聞こえる。

「いや、時間がかかりそうだから、先に行って!」

「何だか、先に行けそうな道が広がってるの」

「出られるかどうか、そっちを進んでみるわ!」

「だが……」

 俺は即座に言い返しかけた。

 未来を一人にするわけにはいかない。

 ここは敵地だ。

 しかも、今の落とし穴は明らかな罠。

 未来だけを分断したようにも見える。

 索敵役であり、召喚役である未来。

 もし桜井側がこちらの戦力を把握しているなら、真っ先に足止めしたい相手の一人だ。

 それを考えると、このまま進ませるのは危険すぎる。

 だが、ヤモリを通した未来の声は強かった。

「私のこと、見くびらないでくれる?」

「私は強いんだから!」

 その一言に、俺は息を呑んだ。

 未来は、守られるだけの存在じゃない。

 東京の索敵を支え、動植物を操り、モンスターすら召喚できる。

 Bランクまで操作できるようになり、シャドウウルフも、ジャイアントオーガも、レッドワイバーンも扱えるようになった。

 さっき確認したばかりだ。

 未来は強い。

 それを俺が一番分かっていなければいけない。

 なのに、落ちた瞬間、俺はただ助けなければと思った。

 信じるより先に、守ろうとした。

 未来はそれを見抜いたのかもしれない。

「……分かった」

 俺はゆっくり頷いた。

「でも、絶対に無理はするな」

「危ないと思ったらすぐに知らせろ」

「うん」

 未来の声が少しだけ柔らかくなる。

「そっちも気をつけて」

「あぁ」

 俺はヤモリを見つめた。

「必ず合流する」

「分かってる」

 ヤモリは小さく頷くように身体を動かし、壁へ戻っていった。

 その小さな背中を見送りながら、俺は拳を握りしめる。

 未来を信じる。

 そう決めた。

 だが、心配が消えるわけではない。

 胸の奥はまだざわついている。

 怒りもある。

 焦りもある。

 それでも、立ち止まるわけにはいかない。


 ◇


 犬飼が、苦しそうな顔で俺を見る。

「悠真……」

「犬飼」

 俺は短く言った。

「案内を続けてくれ」

「……あぁ」

 犬飼は強く頷いた。

「必ず、会議室まで連れて行く」

「頼む」

 俺は一度だけ閉じた床を見た。

 この下に未来がいる。

 そして、俺たちはこの先へ進む。

 分断された。

 それは間違いない。

 だが、まだ終わっていない。

 俺たちはまだ、動ける。

「行くぞ」

 俺は小さく告げた。

 陸斗が悔しそうに手を握りしめながら頷く。

 チャン爺の表情は静かだが、目の奥には怒りがあった。

 阿川も無言で周囲を確認している。

 色谷は唇を結び、床を一度だけ見た後、前を向いた。

 犬飼が再び先頭に立つ。

 俺たちは、未来と分断されたまま、地下通路の先へ進み始めた。

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― 新着の感想 ―
相手が来るように誘導してるのになんの警戒もしないでピクニックのように進行してて頭がお花畑しかいないのかな
ポリシーだか信念だか知らんがテリトリー登録すれば索敵も合流も容易なのにまだしないの意味わからん テリトリー登録に所有権とかそんなルールないはずでは? もしくは探索中の場所がスキル無効化の建物とかそんな…
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