成長した戦力
第88話です。宜しくお願いします。
東京を出てからしばらく、車内にはほとんど会話がなかった。
運転席には阿川。
助手席には犬飼。
後部座席には俺、陸斗、未来、色谷。
そして、チャン爺は別車両で後方を警戒している。
今回は目立つわけにはいかない。
大人数で押しかけるわけでもない。
正面からSPМに喧嘩を売りに行くわけでもない。
目的はあくまで潜入。
そして、桜井晴彦の捕獲だ。
ただ――車窓の外に広がる景色を見ていると、嫌でも思い知らされる。
東京の外は、まだ壊れたままだ。
ひび割れた道路。
横転したまま放置された車。
半分崩れた建物。
店の看板は傾き、ガラスは割れ、電柱はあちこちで倒れている。
東京の中では、もうあまり見なくなった光景だ。
俺の《日常生活》スキルで修復し、電気や水道を戻し、人が働き、電車が走り、店が開き始めている東京。
そこにいると、世界が少しずつ戻ってきているような錯覚すら覚える。
でも、外は違う。
世界はまだ、壊れたままだ。
そして、その壊れた世界の先に、人を救うはずだった組織の本部がある。
「……見えてきた」
助手席の犬飼が低く呟いた。
俺は前方を見る。
遠くに、巨大な建物が見えた。
SPМ本部。
正確には、SPМの本部兼関東支部。
千葉にある、今この国を守るための中心になるはずだった場所。
だが今、その中では避難民が奴隷のように扱われている。
門脇たちが別人のように変わり、桜井に従っている。
犬飼の話は、ルドルフの真実の口で確認済みだ。
犬飼が嘘をついているわけではない。
それでも、まだ信じたくない気持ちがどこかにあった。
門脇が。
凛堂が。
柿原が。
そんなことを本当にしているのか、と。
だが、その甘さは捨てなければならない。
ここから先は、敵地だ。
「阿川、そこのビルの陰に入ってくれ」
犬飼が言う。
「あそこなら、本部から直接見えにくい」
「分かった」
阿川は短く答え、車を左へ曲げた。
少し進んだ先に、壊れかけのビルがあった。
外壁はひび割れ、窓ガラスはほとんど割れている。
入り口の自動ドアは半分開いたまま止まり、内側には埃と瓦礫が溜まっていた。
だが、車を隠すにはちょうどいい。
SPМ本部からは、およそ二キロ。
近すぎず、遠すぎない距離だ。
阿川が車をビルの裏側へ回し、瓦礫の陰に停める。
エンジンが止まると、一気に静かになった。
遠くで風が吹く音だけが聞こえる。
俺たちは車を降りた。
チャン爺も後方の車から降り、静かにこちらへ歩いてくる。
「坊ちゃま、周囲に今のところ大きな動きはございません」
「分かった」
俺は頷き、壊れかけのビルの中へ入った。
床にはガラス片が散らばっている。
踏むたびに、じゃり、と小さな音がした。
元はオフィスビルか何かだったのだろう。
受付カウンターらしきものが倒れ、観葉植物の鉢が割れ、壁には誰かが急いで逃げたような跡が残っている。
東京の中ではもう見なくなった、生々しい崩壊の名残。
俺は少しだけ息を吐いた。
「ここを拠点にする」
皆が頷く。
「まずは索敵だ。未来、頼む」
「分かった」
未来は一歩前へ出ると、静かに手をかざした。
その表情が、普段より少し鋭くなる。
未来のスキルは《動植物愛護》。
その中の内訳スキルである《動植物図鑑》によって、登録した動植物を召喚できる。
そして今、その能力は以前よりも格段に強くなっている。
「出てきて」
未来が呟く。
次の瞬間、彼女の周囲に光が走った。
小さな輪郭がいくつも生まれる。
羽音。
足音。
壁を這う小さな音。
現れたのは、複数のカラス。
数匹の犬。
そして、壁や天井に張りつくヤモリたちだった。
カラスたちは黒い翼を広げ、壊れた窓枠へ飛び乗る。
犬たちは鼻を動かしながら周囲の匂いを嗅ぐ。
ヤモリは壁にぴたりと張りつき、じっと未来の指示を待つようにしていた。
犬飼が、少し驚いたように目を細める。
「こういう索敵もできるのか……」
「まあね」
未来は少しだけ得意げに言った。
「カラスは上空から本部周辺を確認」
「犬は地上と門周辺、人の匂い」
「ヤモリは壁や隙間から内部確認」
未来が淡々と指示を出す。
動物たちは、それぞれ一斉に動き出した。
カラスは割れた窓から外へ飛び立つ。
犬たちは音を立てすぎないように瓦礫の間を抜けていく。
ヤモリは壁を這い、建物の外へ消えていった。
その様子を見ながら、色谷が小さく息を吐く。
「改めて見ると、すごいな……」
「索敵能力としてはかなり便利だよな」
阿川も頷く。
未来は肩をすくめた。
「便利って言い方は少し引っかかるけど、否定はしないわ」
俺は苦笑しつつ、周囲を見渡した。
索敵には少し時間がかかる。
SPМ本部の外だけではなく、内部まで確認する必要がある。
その間に、やっておくべきことがあった。
「待っている間に、ステータスを確認しておこう」
俺が言うと、陸斗がこちらを見た。
「ステータスですか?」
「あぁ」
俺は頷く。
「最後にちゃんと見たの、だいぶ前だからな」
今回の作戦は危険だ。
相手はモンスターではない。
人間で、しかもスキル持ち。
それもSPМの隊長、副隊長クラスが揃っている。
こちらの戦力を正確に把握しておく必要がある。
「まずは俺から確認する」
俺は自分のステータス画面を開いた。
正直、最近はあまり開いていなかった。
スキルは日常的に使っている。
テリトリー修復も、環境維持も、住民登録も、警備も、派遣も。
使っているからこそ、わざわざ数字を見直すことが減っていた。
だが、表示された内容を見た瞬間、俺は思わず固まった。
【ステータス】
名前:黒瀬悠真
年齢:22
種族:超人族
Lv:25
《日常生活 Lv25》
■テリトリー最大登録数:35
■テリトリー登録/解除
■テリトリー置換
■テリトリー掌握
■テリトリー周知
■自動配置
【内訳スキル】
■テリトリー修復 Lv25
・同時登録数:無制限
・修復時間:0.01秒
・警備スキル連携
・内装変更
・外装変更
・材質変更
・複数同時建物修復:90
■環境維持 Lv25
・温度調整
・菌・ウイルス遮断
・電気・水道・ガス維持
・空気清浄
・身体能力アップ4.6倍
■商品生成 Lv25
■ネットショッピング Lv25(25回)
■召使い Lv25
・チャン爺
・戦闘力19倍
・「一卵性兄弟」Lv7
・一葉
・戦闘力15倍
・「爆弾魔」Lv1
・二葉
・戦闘力15倍
・「鉄球召喚」Lv1
・三葉
・戦闘力15倍
・「四肢ワープ」Lv1
■住民登録 Lv25
・最大120名
・スキル共有
■警備 Lv25
・30人召喚
・武器強化威力3.5倍
・会話機能
・自我機能未開放
■派遣3人
・アル
・武器強化威力10倍
・「自動小銃召喚」Lv1
・ソックス
・武器強化威力10倍
・「特殊弾」Lv1
・セイコ
・武器強化硬度3倍
・「巨大化」Lv1
■監視システム
・テリトリー外周囲40キロ範囲
・警備隊連携
■職業選択Lv25
・都知事Lv12
・テリトリー範囲:2700平方キロ
■支持率
■秘書
「……」
俺は無言で画面を見つめた。
いや。
多い。
項目が多すぎる。
自分のステータスなのに、改めて見ると普通に引く。
《日常生活》という名前のくせに、もうほとんど都市運営スキルだ。
いや、それだけならまだいい。
警備隊30人召喚。
派遣3人。
召使いたちの戦闘力強化。
武器強化。
監視システムと警備隊の連携。
完全に、都市運営兼軍事スキルになっている。
「……俺、本当に日常生活スキルなんだよな?」
思わず呟く。
犬飼が横から画面を覗き込み、顔を引きつらせた。
「これ、本当に日常生活スキルなのか……?」
「俺が聞きたい」
未来が呆れたように肩をすくめる。
「相変わらず、悠真だけ項目多すぎよね……」
「俺も今そう思ってた」
特に目についたのは、召使いと派遣の項目だった。
チャン爺には《一卵性兄弟》Lv7。
一葉には《爆弾魔》Lv1。
二葉には《鉄球召喚》Lv1。
三葉には《四肢ワープ》Lv1。
アルには《自動小銃召喚》Lv1。
ソックスには《特殊弾》Lv1。
セイコには《巨大化》Lv1。
名前だけ見ると、全体的に物騒すぎる。
「何か、みんな恐ろしそうな名前ばかりなんだけど……」
一葉の《爆弾魔》も物騒だし、二葉の《鉄球召喚》も分かりやすく危ない。
三葉の《四肢ワープ》に至っては、字面だけでは何が起こるのか分からないが、たぶんかなりトリッキーだ。
さらにアル、ソックス、セイコにも追加スキル。
セイコの《巨大化》に関しては、あの淑女風の見た目で巨大化して殴る姿が容易に想像できて、少し頭が痛くなった。
「セイコ、絶対喜ぶだろうな……」
俺が呟くと、陸斗が真面目な顔で言った。
「戦力としてはかなり強そうですね」
「まあ、そうなんだけどな」
それに、警備隊も30人になっている。
武器強化威力3.5倍。
そして監視システムとの連携。
つまり、テリトリー外周囲40キロ範囲で監視システムが作動し、その情報を警備隊と連携できる。
しかも、警備隊自体を召喚できる範囲も大幅に広がっている可能性が高い。
自分で言うのも何だが、もう一つの軍隊を持っているようなものだ。
「……自分で見ても怖いな」
俺は小さく呟いた。
自分の力が強くなるのはありがたい。
でも同時に、少し怖くもある。
日常を取り戻したいだけだったはずの力が、いつの間にか人を守るための軍事力になっている。
それが今の世界では必要だと分かっていても、どこか複雑だった。
「でも、今は頼れるものは全部頼るしかないな」
俺は画面を閉じた。
◇
「次は未来だ」
未来が頷き、自分のステータスを開く。
【ステータス】
名前:黒川未来
年齢:17
種族:超人族
Lv20
《動植物愛護 Lv20》
■操作 Lv20
■共有 Lv20
■強化 Lv20
【操作 Lv20】
・周囲20キロ圏内の動植物を登録し、自分の手足のように操作できる
・操作可能対象:制限なし
・同時操作可能数:35体
■動植物図鑑
・登録した動植物はコピー召喚可能
■モンスター操作:Bランク以下
【共有 Lv20】
・視覚、感覚共有
・動植物を通して会話可能
・同時共有可能
・好感度上昇
【強化 Lv20】
・身体能力強化:6.6倍
■植物の材質変更
「Bランクを35体操作できるようになったのか……」
俺が呟くと、未来は少し得意げに笑った。
「そうなのよね」
「これで、ジャイアントオーガもレッドワイバーンも操れるし!」
「ジャイアントオーガやレッドワイバーンが35体まで召喚って……」
俺は思わず遠い目をした。
「この間のフトゥーロのゲートを思い出すレベルだよな……」
あの時は大量のモンスターが押し寄せてきた。
その中にはジャイアントオーガもいたし、レッドワイバーンもいた。
あの光景を思い出すと、今の未来がどれほど危険な戦力になっているかよく分かる。
しかも、未来の場合はただ召喚するだけじゃない。
操作できる。
視覚や感覚を共有できる。
動植物を通して会話もできる。
つまり、索敵、連絡、戦闘、足止め、そのすべてに使える。
「恐ろしすぎる……」
陸斗が真顔で呟いた。
未来が少し不満そうに陸斗を見る。
「ちょっと、恐ろしいって何よ」
「すみません。でも、正直に言うと恐ろしいです」
「そこは言い直しても同じでしょ」
少しだけ空気が緩む。
だが、実際に未来の成長はとんでもない。
身体能力強化も6.6倍。
未来は、もう完全に東京の索敵と自然系戦力の要だ。
「頼りにしてる」
俺が言うと、未来は一瞬だけ目を丸くした後、ふっと笑った。
「任せなさい」
ただ、その直後、彼女の視線が少しだけ遠くなった。
索敵中の動物たちと感覚共有しているのだろう。
ステータスを見ながらでも、意識の一部は外に飛ばしている。
本当に器用だ。
◇
「次は陸斗だな」
「はい」
陸斗は静かに頷き、自分のステータスを開いた。
【ステータス】
名前:瀬川陸斗
年齢:14
種族:超人族
Lv:25
《手遊び Lv25》
■準備 Lv25
■バリア Lv25
■光線 Lv25
【準備 Lv25】
・攻撃の溜めを行う
・溜め効率上昇
・0.1秒ごとの威力倍率:15倍
・最大蓄積:1800秒相当
・最大到達時間:約0.5秒
・発動中、バリア、光線同時発動可
【バリア Lv25】
・自分または対象を状態異常攻撃以外から完全防御
・持続時間:20分
・クールタイム:2秒
・発動中、準備、光線同時発動可
・バリア召喚解放
自分から300メートル先までバリアを召喚可能。
【光線 Lv25】
・対象へ強力な光線を放つ
・威力、持続時間は準備量に依存
・光線数:15本
■分散
■集中
■追尾
■貫通
・発動中、準備、バリア同時発動解放
「とうとう、バリアを召喚できるようになったのか……」
俺は思わず声を漏らした。
前から陸斗のバリアは強力だった。
状態異常以外から完全防御。
それだけでも反則級だ。
だが、今までは基本的に自分や近くの対象を守る形だった。
それが、300メートル先まで召喚できるようになっている。
つまり、離れた仲間を瞬時に守れる。
これは大きい。
「はい」
陸斗は真面目な顔で頷いた。
「これで誰かが危ない時に、素早くバリアを展開できます」
「かなり助かる」
俺は本心から言った。
今回の相手には、影山潤の《雨宿り》のような即座に危険な状況を作るスキルがある。
酸性雨。
拘束。
奇襲。
そういった攻撃に対して、陸斗のバリアは切り札になり得る。
しかも持続時間20分。
クールタイム2秒。
ほぼ常時守れるようなものだ。
そして、光線数15本。
追尾、貫通、分散、集中。
さらに準備と同時発動可能。
「光線15本って、単純に五本増えただけじゃないよな」
色谷が画面を見ながら言った。
「威力も上がってるなら、15本を集中スキルで一本にした時の火力は想像がつかないな……」
「必要なら使います」
陸斗は淡々と言う。
その声は落ち着いていた。
だが、俺は少しだけ胸が重くなる。
陸斗はまだ14歳だ。
本来なら、こんな戦いに出る年齢じゃない。
それでも、今の東京にとって陸斗は間違いなく重要な戦力だ。
頼りにしている。
それは本当だ。
でも同時に、無茶はさせたくない。
俺は陸斗を見る。
「陸斗」
「はい」
「頼りにしてる。でも、無理はするな」
陸斗は少しだけ目を細めた。
「分かっています」
「僕は、美咲を守るためにも、ちゃんと帰ります」
その言葉を聞いて、俺は頷いた。
陸斗は強くなった。
でも、守る理由を忘れていない。
それが何より大事だ。
◇
「次は色谷だな」
「あぁ」
色谷が少し照れたように頭をかいた。
「俺のステータスを見るのは初めてか」
「そうだな」
「何か、ちょっと緊張するな」
色谷はそう言いながら、ステータスを開いた。
【ステータス】
名前:色谷祐一
年齢:26
種族:超人族
Lv15
《ボウリング場Lv15》
■ボウリング玉 Lv15
■ボウリングレーン Lv15
■拘束 Lv15
【ボウリング玉 Lv15】
・自分の手元に重さ5キロ程のボウリング玉を召喚する。投げた後は重さ、威力、大きさが変わる。
・投げた後の重さ:150キロ
・投げた後の威力:12倍
・クールタイム:10秒
・ボウリング玉複数召喚解放:2個
【ボウリングレーンLv15】
・対象の大きさに合わせたボウリングレーンを展開する。
・レーンの最大全幅
【拘束 Lv15】
・レーンの最大全幅までの対象を固定する事が出来る。
・拘束数:15
・拘束秒数:16秒
「やっぱり、攻撃と拘束を両方できるのは強いな」
俺は素直に言った。
色谷の《ボウリング場》は、名前だけ聞けばふざけているように思える。
だが、実際はかなり強力だ。
対象に合わせたレーンを展開し、拘束する。
そこへ重さ百五十キロ、威力十二倍のボウリング玉を叩き込む。
普通の人間なら間違いなく耐えられない。
モンスター相手にも十分通用する。
しかも拘束数15。
拘束時間16秒。
戦闘において16秒はかなり長い。
「あぁ」
色谷は頷いた。
「このスキルでみんなを助けることができるなら、それが何よりだ」
その言葉に、色谷らしさが出ていた。
自分の能力を誇るのではなく、誰かを助けるために使う。
だからこそ、安心して背中を預けられる。
阿川が画面を覗き込んで言った。
「それに、ボウリング玉を複数投げられるってヤバいな」
「そうだな」
色谷は頷く。
「今まであまりなかったが、もし一投目で倒せなくても、クールタイムを無視してもう一度投げることが可能になる」
「単純に二連撃か」
「そうなるな」
拘束して、二発叩き込む。
相手が人間なら、殺さないように力加減が必要になるかもしれない。
だが、隊長格を足止めするには十分使えるはずだ。
◇
「次は阿川だな」
「俺か」
阿川は少し面倒そうにしながらも、自分のステータスを開いた。
阿川のステータスを見るのも、これが初めてだった。
【ステータス】
名前:阿川洋介
年齢:23
種族:超人族
Lv10
《配管工Lv10》
空間に大きな配管を召喚し、その配管を通り一度行った場所に行く事が出来る。配管内の歩く距離を最大数メートルにする事が出来る。
■配管召喚 Lv10
■配管サイズLv10
■記憶力 Lv10
【配管召喚 Lv10】
・行き先と目的地に触れられない配管の入り口と出口をそれぞれ召喚出来る
・同時配管数:3
・クールタイム:10分
・ベルトコンベア召喚解放
配管の床がベルトになり、物などの動かないものを運ぶ事が出来る。
【配管サイズLv10】
・配管のサイズを最大値まで上げる事が出来る。
・サイズ:身長×4倍
【記憶力 Lv10】
・自分が一度見た場所や物、出来事などの記憶力を常人よりも上げる事が出来る。
・記憶力:常人の3.5倍
「実は複数召喚できたんだなお前……」
俺が言うと、阿川は平然と答えた。
「あぁ。最初から実はできてたな」
「言えよ」
「聞かれなかったからな」
「いや、こういうのは自分から言ってくれ」
思わずツッコむ。
阿川は悪びれた様子もなく肩をすくめた。
「まあ、今分かったからいいだろ」
「よくはないけど、まあいい」
同時配管数3。
クールタイム10分。
これはかなり大きい。
撤退ルートを複数確保できる可能性がある。
しかも、配管サイズは身長の4倍。
さらに、記憶力。
一度見た場所や出来事を常人より3.5倍覚えられる。
地味だが、阿川のスキルとは相性がいい。
一度行った場所へ繋げるためには、場所の記憶が重要になる。
その補助として、この《記憶力》はかなり役立つはずだ。
そして、気になるのはベルトコンベア召喚。
チャン爺が、画面を見ながら静かに口を開いた。
「しかし、ベルトコンベアを召喚できるということは……」
「仮に小さな小屋などを囲うように、床がベルトコンベアとなる配管を召喚すれば、移動させることも可能なのでしょうか?」
阿川は少し考えた後、頷いた。
「理屈ではできると思う」
「動かない物を運べるって書いてあるしな」
「ただ、サイズと重量によるとは思うが」
「それは今後かなり便利そうだな……」
俺は素直にそう思った。
物資の運搬。
避難民の救助。
怪我人の移動。
場合によっては、瓦礫や障害物の撤去にも使えるかもしれない。
戦闘向きではないように見えて、阿川のスキルは都市運営にも救助にも欠かせない。
今回も、潜入と撤退の要になる。
「阿川」
「何だ」
「今回はお前の配管工が頼りだ」
「あぁ」
阿川は短く頷いた。
「道は作る」
その言葉は、派手ではないが頼もしかった。




