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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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86/121

SPМの戦力

第86話です。宜しくお願いします。


 チャン爺が皆を呼びに向かった後、俺はしばらく医務室に残っていた。

 ベッドの上では、犬飼が横になっている。

 顔色はまだ悪い。

 浮田の話では命に別状はないらしいが、スキルを使って長距離を飛んできた反動はかなり大きいらしい。

 犬飼本人はすぐにでも起き上がって話し合いに参加したそうだったが、浮田に「動くな」と一喝され、今は大人しくしていた。

 ……いや、大人しくしているというより、無理やり大人しくさせられている、という方が近い。

「犬飼」

 俺が声をかけると、犬飼は少しだけこちらを見た。

「何だ……?」

「この後、皆に話す」

「……分かった」

「その前に、ルドルフの真実の口を受けてもらう」

「もちろん」

 犬飼はすぐに頷いた。

「疑われるのは当然だからな」

「いや、犬飼を疑いたいわけじゃない」

 俺は少しだけ息を吐いた。

「でも、今回は相手が悪すぎる」

 桜井晴彦。

 まだ会ったこともない特殊隊隊長。

 だが、犬飼の話が本当なら、そいつはSPМの中枢をほぼ一夜にして変えてしまった。

 門脇、凛堂、柿原、影山。

 SPМの隊長格たちが、あり得ない思想を当然のように受け入れている。

 しかも、犬飼だけが会議に呼ばれなかった。

 その犬飼が、俺たちの元へ逃げてきた。

 これを偶然と考えるには、あまりにも都合がよすぎる。

「お前が嘘をついていないことは、たぶん本当だと思ってる」

「でも、お前自身が知らないうちに利用されている可能性はある」

 犬飼は悔しそうに目を伏せた。

「……あぁ」

「それでも、俺はお前がここまで来てくれたことには感謝してる」

「悠真……」

「ただ、皆を巻き込む以上、確認は必要だ」

「分かってる」

 犬飼は、はっきりと言った。

「俺は何でも受けるさ」

「門脇さんたちを助けられるなら」

 その声には、疲労と焦りと、それでも折れない意志が混じっていた。


 ◇


 しばらくして、会議室に主要メンバーが集まった。

 俺、陸斗、美咲、未来、浮田、チャン爺。

 一葉、二葉、三葉。

 ルドルフ、阿川、芹沢、色谷、コン太。

 そして、ベッドから移動するのは無理だと判断された犬飼は、浮田に付き添われながら車椅子で会議室へ連れてこられた。

 本人は「歩ける」と言い張っていたが、浮田が即座に却下した。

「お前は黙って座ってろ」

「でも……」

「でもじゃねぇ。患者は医者の言うことを聞け」

「……すまない」

 犬飼は完全に負けていた。

 そのやり取りだけ見れば少しだけ空気が緩みそうなものだったが、会議室全体には重い緊張が漂っている。

 皆、何かが起きていることは分かっていた。

 犬飼が空から落ちてきた。

 しかも、SPМの内部崩壊を告げるような話を持ってきた。

 それだけで普通ではない。

 俺は全員を見渡し、口を開いた。

「急に集まってもらって悪い」

 皆の視線が集まる。

「かなりまずい話だ」

 美咲が不安そうに俺を見る。

 未来は真剣な表情で腕を組み、陸斗はいつも通り落ち着いているが、目だけは鋭い。

 コン太は椅子の上で少し縮こまっていた。

 俺はまず、ルドルフを見た。

「ルドルフ。先に頼む」

「承知しました」

 ルドルフは静かに立ち上がった。

 そして犬飼の前へ進む。

「犬飼様」

「はい」

「これから《真実の口》を使用します」

 犬飼は頷いた。

「お願いします」

 ルドルフは軽く目を伏せ、静かに告げた。

「真実の口」

 その瞬間、会議室の空気が変わった。

 ピリ、と肌を刺すような圧。

 空間が歪む。

 黒い影のようなものが床から広がり、そこからゆっくりと巨大な口が現れた。

 何度見ても慣れない。

 石でできているようで、でも確かに生き物のような気配がある。

 不気味で、厳粛で、嘘を許さない存在。

 コン太が小さく震える。

「やっぱり怖いコン……」

「大丈夫よぉ、コンちゃんは今回は関係ないから♡」

 芹沢が小声でなだめる。

 ただ、芹沢自身も普段より表情は真剣だった。

 ルドルフは犬飼へ問いかける。

「犬飼様」

「はい」

「あなたが見た、SPМ管轄下で避難民が奴隷のように扱われていたという話に、嘘はありますか?」

「ありません」

 真実の口は、何も反応しなかった。

 ルドルフは続ける。

「門脇誠司様や凛堂明日香様たちが、別人のように変わっていたという証言に、嘘はありますか?」

「ない」

 反応なし。

「あなたは、私たちを騙す目的でここへ来ましたか?」

「いや、それはない」

 反応なし。

 犬飼の声は掠れていたが、迷いはなかった。

 ルドルフはさらに問いを重ねる。

「あなたは、桜井晴彦様の命令によって、この東京へ来たという自覚がありますか?」

 犬飼は一瞬だけ目を閉じた。

 そして、はっきり答えた。

「ない」

「俺は、自分の意思でここへ来た」

 真実の口は何も起こさない。

 つまり、少なくとも犬飼本人はそう認識している。

 ルドルフは静かに頷いた。

「終了です」

 真実の口が消えていく。

 空間に漂っていた圧がゆっくりと薄れ、会議室の空気が戻った。

 俺は皆を見た。

「犬飼が嘘をついているわけじゃない」

 そう言った上で、すぐに続ける。

「ただし、犬飼自身が知らないうちに利用されている可能性はまだ消えない」

 犬飼の肩がわずかに揺れた。

 でも、それを否定する者はいなかった。

 陸斗が静かに言う。

「本人が嘘をついていなくても、情報そのものが誘導されている可能性があるということですね」

「あぁ」

 俺は頷いた。

「でも、少なくともSPМで異常事態が起きていることは間違いないと思っていい」

 犬飼は安静の為、医務室に戻った。

 そして、皆に軽く状況を説明した。

 犬飼が千葉のSPМ管轄区域で見た光景。

 避難民が鎖で繋がれ、労働力のように扱われていたこと。

 SPМが超人族絶対至上主義を掲げていること。

 門脇や凛堂たちが、桜井という男に従っているらしいこと。

 犬飼だけが会議に呼ばれず、異常に気づいて東京まで逃げてきたこと。

 そして、桜井が犬飼をわざと逃がした可能性があること。

 皆の表情は重くなっていく。

「門脇さんが……?」

 美咲が小さく呟く。

 あまり面識があるわけではないが、それでも門脇が以前、東京を訪れた時のことは覚えているのだろう。

 未来も眉をひそめる。

「凛堂も、柿原も……全員?」

「犬飼の話ではな」

 浮田が低く言う。

「まあ、普通じゃねぇよな」

「普通じゃないどころじゃない」

 阿川が腕を組んで言う。

「人間を奴隷扱いなんて、明らかに異常だ」

 コン太は耳を伏せた。

「人族同士でそんなことするの、怖いコン……」

 俺は頷く。

「だからこそ、慎重に動く」

 そのために、まず必要なのは情報だった。

 SPМの隊長、副隊長たちのスキル。

 こちらが相手を知らずに突っ込めば、確実に潰される。

 だから俺は、会議の前に犬飼から可能な限り情報を聞いていた。


 ◇


 少し前。

 医務室で、俺は犬飼に尋ねた。

「犬飼。SPМの隊長や副隊長たちのスキルを教えてくれ」

 犬飼はベッドの上で、少しだけ表情を引き締めた。

「分かりました」

「俺が知ってる範囲になりますけど……」

「あぁ。それでいい」

 犬飼は一度息を整え、話し始めた。

「まずは強襲隊隊長、凛堂明日香」

 その名前には、俺もすぐ反応する。

 凛堂。

 あの女の強さは、実際に見ている。

 スケルトンキングを拳で殴り飛ばした、化け物みたいな戦闘力。

 味方なら頼もしい。

 敵なら最悪。

「知ってるとは思うが、純粋な戦闘力はSPМ内でも一番と言われてる」

 犬飼は続けた。

「スキル名は《日光浴》」

「太陽を浴びる時間が長いほど、自分の身体能力を上げる能力だ」

「日照時間を貯めることも可能で、屋内や夜でも蓄積分を使って身体能力を強化もできる」

「ただし、一応倍率上限があるらしい」

「なるほどな……」

 俺はスケルトンキング戦を思い出す。

 あの時も、凛堂は日光浴を使って一気に戦闘力を上げていた。

 十メートル級のAランクを相手に正面から殴り合っていた。

 敵に回った時、真っ先に警戒すべき相手だ。

「次に強襲隊副隊長、柿原紅蓮」

 犬飼は少し顔をしかめる。

「あいつもかなり厄介なんだよな」

「スキル名は《聖火》」

「火をつけることで、使う道具や武器に無限に火を灯すことができる」

「主に火縄銃と火炎瓶を使う」

「火縄銃に関しては、スキルによって連射が可能だ」

 俺は頷く。

「あいつの炎も見た」

「市街地で暴れられると厄介だな」

「はい」

 犬飼は即答した。

「火力もありますし、火災による二次被害も怖いしな」

 凛堂が近接最強なら、柿原は広範囲火力。

 この二人だけでも十分面倒だ。

 だが、まだ知っている相手だから対策のしようはある。

 問題は、その先だ。

 犬飼は少しだけ間を置いた。

「次が……俺の上司で、尊敬する人物」

 声に、感情が混じった。

「戦術隊隊長、門脇誠司」

 門脇。

 犬飼にとっては、ただの上司ではないのだろう。

 今の状況でその名を出すだけでも、きついはずだ。

 犬飼はそれでも話を続けた。

「スキル名は《ガチャカプセル》」

「ガチャカプセルを対象に当てることに成功すると、その対象を縮めて閉じ込めることができる」

「閉じ込める対象の大きさには上限がある」

「カプセルは内側からは壊せない」

「ただ、外からなら簡単に壊せる」

「壊れた場合、閉じ込められていた対象は元の大きさに戻る」

「あぁ、見たことある」

 俺は頷いた。

「スケルトンキングを閉じ込めてたな」

「あれは拘束としてかなり強い」

「はい」

 犬飼は目を伏せる。

「門脇さんは、戦術隊って名前通り、能力の使い方がうまいんだ」

「真正面から派手に戦うタイプじゃないけど、戦況を変える力がある」

「分かる」

 門脇は軽いようでいて、かなり頭が回る。

 敵に回った場合、単純な火力よりも厄介かもしれない。

 犬飼はそこから、俺がまだ会ったことのない面々について話し始めた。


 ◇


「次から言う人たちとは、悠真は会ったことがないと思う」

「あぁ」

「まずは影撃隊隊長、影山駿」

 犬飼は言葉を選ぶように言う。

「基本的には、上からの指示には絶対って感じの性格だ」

「かなりお堅い奴って印象だな」

「規律重視で、感情をあまり表に出さない」

「スキル名は《影法師》」

「生物すべての影に入り込むことができる」

「さらに、対象の影を切り取って操作することもできる」

「その他にも影は、対象の大きさより大きくすることも可能らしい」

「影に入る……」

 俺は眉をひそめた。

「潜入や奇襲向きだな」

「あぁ」

「しかも影を切り取って操作できるなら、拘束にも使える」

「かなり嫌な相手だ」

 影。

 どこにでもあるものだ。

 屋内でも、照明があれば影はできる。

 むしろ光があるから影が生まれる。

 単純に暗闇を消せばいいという話でもない。

「次に影撃隊副隊長、影山潤」

 犬飼は続けた。

「隊長の影山駿とは双子の兄弟」

「顔が全く同じに見えるんだよ」

「俺は正直、全然見分けがつかない……」

「兄をかなり慕ってます」

「スキル名は《雨宿り》」

「対象の上に小さい屋根を召喚する」

「そして、対象の周りに酸性雨を降らせることができる」

「酸性雨……?」

「あぁ」

 犬飼は表情を険しくする。

「屋根の下にいれば雨には当たらない」

「でも、一歩でも屋根の外に出ると、身体を溶かす酸性雨が降りかかるっていう事だ」

「拘束にも使えますし、攻撃にも使える」

「しかも影山駿の能力と相性が悪い意味で良くて……」

「影で作った人型の人形で対象を屋根の外へ押し出して、酸性雨で溶かす」

「そういう連携をしてくる奴らだ」

「……かなり嫌な組み合わせだな」

 俺は思わず呟いた。

 影で押し出し、酸性雨で溶かす。

 直接触れずに相手を削れる。

 しかも拘束型。

 まともに受けたら、かなり厳しい。

「影撃隊は、そういう嫌な戦い方が得意なんだよ」

 犬飼は言った。

 次に出てきたのは支援隊だった。

「次は、基本的に後方支援を主にしている部隊だ」

「支援隊隊長、世良芽衣」

「結構年齢がいってるおばさんだけど、見た目はスキルによって女子高生みたいにも見える」

「言い方」

「いや、本当にそうなんだよ」

 犬飼は少しだけ困ったように言う。

「本人も若く見えることにかなりこだわっている」

「スキル名は《美魔女》」

「対象の自己免疫力や潜在能力を大幅に向上させることができる」

「見た目を若々しくしたり、病気や怪我をしにくい身体にしたり」

「それ以外にも、身体能力の向上ができる」

「バフ役か」

「はい」

 俺はすぐに最悪の組み合わせを考えた。

「凛堂にそれをかけられたら最悪だな」

「その可能性は全然あるだろうな」

 犬飼は頷く。

 ただでさえ強い凛堂を、さらに強化する。

 考えただけで面倒くさい。

「そして支援隊副隊長、安藤桃香」

「基本的には、だらしない世良隊長のお守りみたいな役割になってるな」

「スキル名は《診察》」

「対象の内部、つまり内臓とか中身が透けるように見えて、どうやってその人の病気や怪我を治したらいいかを適切に診察することができる」

「安藤自身にも医療経験があるから、大抵の治療ができると本人が言っていた」

「支援隊という事もあって、あまり第一線の戦場には出ないけどな」

「浮田とは違うタイプの医療スキルか」

 俺は呟く。

 浮田の《手術室》は治療空間を作る力。

 安藤の《診察》は診断と治療方針を見抜く力。

 敵側に回った場合、相手の負傷者をすぐ復帰させる役になり得る。

 長期戦では厄介だ。

 そして、いよいよ本題だった。

 犬飼の表情が変わる。

「そして、この騒動の首謀者の可能性が高い、特殊隊隊長」

「桜井晴彦」

 俺は黙って聞いた。

「あいつのスキルは……俺も知らない」

「知らない?」

「あぁ」

 犬飼は悔しそうに言った。

「そもそも、あいつがスキルを使ったところを見たことがない」

「普段、何の任務をしているかも知らない」

「任務をしているかどうかすら分からない」

 俺は眉をひそめた。

「何で、誰もスキルを使ったところを見たこともないし、任務をしているかどうかも分からないやつが隊長に?」

 犬飼は言葉に詰まった。

「それは……分からない」

「じゃあ何故、そのことに対して誰も疑問を持たないんだ?」

「……それも、分からない」

 その返答は、明らかにおかしかった。

 犬飼自身も、答えながら自分の言葉に違和感を覚えたような顔をしている。

 普通なら疑問に思う。

 スキル不明。

 任務不明。

 なのに隊長。

 そんな人物が組織の中枢にいれば、誰かしら疑うはずだ。

 それなのに、誰も疑わなかった。

 犬飼ですら、今まで深く考えていなかった。

(これは……相当根深いな)

 俺は静かに思った。

 桜井の影響は、あの会議から始まっただけではないのかもしれない。

 もっと前から、少しずつ認識に干渉していた可能性がある。

 誰も桜井を疑問に思わないように。

 誰も桜井の空白を気にしないように。

 もしそうなら、かなり厄介だ。

「最後は特殊隊副隊長、佐々木金次郎」

 犬飼は話を続けた。

「あいつはかなり影が薄くて、基本無口なやつだ」

「スキル名は《幽体離脱》」

「自らを霊体化させることができる」

「霊体化している状態では、物体には触れられないらしい」

「物理攻撃は効かないのか?」

「たぶん」

「偵察や潜入向きだな」

「あぁ」

 特殊隊。

 桜井も、佐々木も、情報が薄い。

 それがまた不気味だった。

「犬飼、情報ありがとう」

 俺が言うと、犬飼は苦しそうに頷いた。

「俺が知ってるのは、これくらいだ」

「十分だ」

 俺はそう答えた。

 だが、心の中ではまったく十分だと思えなかった。

 相手の主力の能力は分かった。

 だが、一番重要な桜井だけが分からない。

 分からないまま、そいつと戦わなければならない。

 それが一番の問題だった。

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