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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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81/119

受け入れの条件

第81話です。宜しくお願い致します。


 俺たちはそのまま、翔太を連れて中央会館の中へ入った。

 会議室に着くと、先ほどその場にいなかったメンバーも集まってきた。

 俺。

 陸斗。

 美咲。

 未来。

 チャン爺。

 一葉、二葉、三葉。

 ルドルフ。

 阿川。

 色谷。

 芹沢。

 そして浮田、コン太、翔太。

 かなりの人数だ。

 会議室の空気は重かった。

 当然だろう。

 浮田が攫われ、コン太も行方不明になった。

 戻ってきたと思えば、見知らぬ男を連れている。

 しかもその男が、浮田を攫った張本人の一人だという。

 美咲はコン太の無事を確認して、少し涙目になっていた。

「コン太ちゃん……よかった……」

「心配かけてごめんだコン……」

 三葉もコン太のそばに寄っている。

「本当に無事でよかったですー……」

 一葉と二葉も、静かにコン太の状態を確認していた。

 芹沢は普段の甘い雰囲気を消して、翔太を見ていた。

「あなたが、コンちゃんと浮田先生を攫った人ねぇ……」

 声は柔らかい。

 だが、かなり怖い。

 翔太は深く頭を下げた。

「……本当にすみませんでした」

 俺は席に座り、翔太にも座るよう促した。

 だが翔太は座らなかった。

 立ったまま、頭を下げ続けている。

「座れ」

 俺が言うと、翔太はようやく椅子に腰を下ろした。

 ただし、背筋は固く、今にも立ち上がりそうな緊張感だった。

「浮田」

 俺は浮田を見る。

「まず、お前から話してくれ」

「あぁ」

 浮田は頷き、事の経緯を話し始めた。

 コン太、チャン爺、浮田の三人で東京の街を散策していたこと。

 コン太が初めての外出に喜んでいたこと。

 そろそろ戻ろうとした瞬間、後ろから袋を被せられ拉致されたこと。

 拉致したのは、そこにいる翔太と、その弟の恭太であること。

 連れて行かれた先はゲストハウスだったこと。

 そしてそこには、カーストアンデットというBランクモンスターに呪われた翔太たちの姉、今井涼香がいたこと。

「カーストアンデット……」

 俺はその名前を繰り返した。

 また新しいBランクモンスターだ。

 茨城ではレッドワイバーン。

 神奈川方面ではカーストアンデット。

 やはり、地域ごとに出現するモンスターは違う。

 そして、その危険性も多様化している。

「呪いを使うモンスターか……」

 陸斗が静かに呟く。

「物理的な攻撃だけではないとなると、かなり厄介ですね」

 未来も表情を曇らせる。

「触られたら駄目ってことだよね……」

「あぁ」

 浮田が頷く。

「翔太から聞いた話だと、触れた相手を呪うらしい」

「症状は高熱や衰弱、黒い斑点」

「最後は死に至る」

 会議室の空気がさらに重くなる。

 俺は翔太を見た。

「ここから先は、お前が話せ」

 翔太は一度、唇を噛んだ。

 そして、ゆっくりと話し始めた。

「俺の名前は今井翔太です」

「弟は今井恭太」

「姉は今井涼香」

「俺たちは元々、神奈川に住んでいました」

 声は震えていたが、逃げる様子はなかった。

「東京が社会を取り戻し始めているって噂を聞いたんです」

「銀行ができたとか、電車が走り始めたとか、人が普通に暮らしているとか……」

「俺たちは、もう神奈川で逃げ続ける生活に限界を感じていました」

「だから、姉貴と恭太と三人で、バンに乗って東京へ向かったんです」

 翔太は続ける。

 途中でゲートが開き、カーストアンデットが現れたこと。

 涼香が瓦礫につまずき、カーストアンデットに触れられて呪われたこと。

 翔太がバンでカーストアンデットに突っ込み、重傷を負わせたこと。

 恭太が涼香を抱えて車へ乗せ、何とか逃げたこと。

 本来なら数時間の距離が、崩壊した道路と瓦礫のせいで一日かかったこと。

 東京に着き、ゲストハウスを借りて涼香を寝かせたこと。

 そして、翔太のスキル《水晶玉》で、呪いを治せる可能性がある相手を探したこと。

「俺のスキルは《水晶玉》です」

 翔太は言った。

「対象の情報を確認できます」

「名前、種族、スキル、状態……見ようと思えば、色々な情報が見えます」

「レベルは関係ありません。そういう能力です」

 ルドルフが少しだけ興味深そうに目を細めた。

「対象情報の開示……かなり強力なスキルですね」

 翔太は頷く。

「そのスキルで、浮田さんの《手術室》を見つけました」

「その中の手術空間には、“いかなる外的要因も受けない”と書かれていて……」

「もしかしたら、呪いを弾けるかもしれないと思ったんです」

 俺は浮田を見る。

 浮田は腕を組んだまま、少し複雑そうな顔をしていた。

「それで、恭太のスキルを使ったのか」

 俺が聞くと、翔太は深く頭を下げた。

「はい」

「恭太のスキルは《透明人間》です」

「自分か他者を透明化できます」

「透明化されている対象は、音も遮断されます」

「ただし、一度に透明化できるのは一人までです」

 チャン爺が静かに口を開いた。

「私が気付けなかった理由は、それでございましたか」

 その声には、悔しさが滲んでいた。

 コン太が慌てて言う。

「でも、匂いは消えてなかったコン!」

 俺はコン太を見た。

「それで気づいたのか」

「うんだコン」

「知らない匂いが急に近づいてきたコン」

「姿も音もなかったけど、匂いだけはしたコン」

 チャン爺はコン太へ向き直り、静かに頭を下げた。

「コン太様、よくぞお気づきになられました」

「オイラも役に立てたコン?」

「もちろんでございます」

 コン太は少しだけ照れたように耳を動かした。


 ◇


 その後、浮田が話を引き継いだ。

 コン太が恭太の匂いに気づいていたこと。

 浮田が攫われた瞬間、黒いバンを追いかけたこと。

 車の上にしがみつき、そのままゲストハウスまでついて行ったこと。

 途中で変身が切れて、フォック族の姿に戻ったこと。

 物陰に隠れていたが、花瓶を落として見つかったこと。

 そこまで聞いた俺は、思わずコン太を睨んだ。

「コン太、お前な……」

「ごめんなさいだコン……」

「無茶しすぎだ」

「でも、浮田が……」

「分かってる」

 俺はため息を吐いた。

「浮田を心配して追ったんだよな」

「うん……」

「そこは、ありがとう」

 コン太が顔を上げる。

「でも、次からは一人で追うな」

「車の上にしがみつくなんて、落ちたら終わりだぞ」

「分かったコン……」

 チャン爺も静かに続ける。

「コン太様。勇気ある行動ではございましたが、命を危険に晒す行為であったことも事実でございます」

「はいだコン……」

 コン太はしょんぼりとうなだれた。

 その姿を見て、美咲が心配そうにしていたが、ここは甘やかす場面ではないと思ったのか、何も言わなかった。

 浮田はさらに話を続けた。

 翔太たちの事情を聞いたこと。

 医者として、助けられるものなら助けたいと思ったこと。

 手術室の手術空間を発動したこと。

 すると、涼香の体を侵していた黒い斑点から蒸気が出るようにして、呪いが消えていったこと。

 涼香の呼吸が落ち着き、命の危機から脱したこと。

「俺も初めて知った」

 浮田は言う。

「手術空間が呪いまで弾けるとはな」

「凄いな……俺のスキル」

 少しだけ照れ隠しのように言ったが、会議室の皆は真剣だった。

 陸斗が静かに言う。

「スキルの説明にある“外的要因”の解釈が、かなり広いということですね」

 ルドルフも頷く。

「病原菌や傷だけでなく、呪いも外部から受けた干渉として扱われたのでしょう」

「スキルは、本人が思っている以上に応用範囲が広いのかもしれません」

 その言葉に、俺は少しだけ考える。

 コン太のスキルもそうだ。

 外に出たいという願いから《化けぎつね》が生まれた。

 スキルは、想いと解釈によって広がっていくのかもしれない。

 だが今は、それよりもこの場の判断が先だった。


 ◇


 浮田が俺を見た。

「悠真」

「何だ」

「俺は、翔太たちを許している」

 会議室が静かになった。

 浮田は続ける。

「拉致されたのは事実だ」

「褒められたことじゃねぇ」

「むしろ普通なら警察沙汰だ」

 翔太は俯く。

 だが、浮田の声はそこで少し柔らかくなった。

「ただ、こいつらは姉を助けたかっただけだ」

「やり方は最悪だった」

「でも、理由まで腐ってたわけじゃねぇ」

 浮田は俺をまっすぐ見た。

「俺たちは、あいつらみたいな避難民を助けるために、この東京を作り直したんじゃねぇのか」

 その言葉は、俺の胸に刺さった。

 そうだ。

 最初は、ただ自分たちが生き延びるためだった。

 でも、いつの間にか人が増えた。

 逃げてきた人たちを受け入れ、住む場所を作り、仕事を作り、社会を作った。

 今井三兄弟もまた、救いを求めて東京へ来た人間だ。

 その途中で、間違えた。

 焦り、恐怖に呑まれ、浮田を攫った。

 それは許されることではない。

 だが、だからといって、追い返せばいいのか。

 俺は黙って浮田を見る。

 浮田は言った。

「だから、こいつらを東京に住まわせてやれないか」

 翔太が顔を上げた。

「こんなことをした俺たちを……?」

 浮田は短く答える。

「反省してるならな」

 翔太は立ち上がった。

 そして、深く頭を下げる。

「俺からもお願いします!」

「俺たち兄弟三人を、東京に住まわせてください!」

「俺は何でもします」

「もう二度と、こんな真似はしません」

「お願いします!!」

 翔太の声は震えていた。

 だが、嘘ではないと思った。

 必死だった。

 姉を助けるために間違った。

 でも今、その間違いと向き合おうとしている。

 俺はしばらく黙っていた。

 そして、ゆっくり口を開く。

「……あの後、こっちは本当に大変だったんだからな」

 翔太は顔を上げない。

「浮田は攫われるわ、コン太は行方不明になるわ」

「未来が動植物図鑑でシャドウウルフやカラスを出して捜索しても見つからない」

「警察も動いた」

「みんな本当に心配していた」

 俺はチャン爺を見る。

「チャン爺なんか、かなり責任を感じていたぞ」

 チャン爺は静かに目を伏せる。

「私の落ち度でございます」

「違う。相手のスキルが特殊すぎた」

 俺はすぐに言った。

 そして、翔太へ視線を戻す。

「だから、簡単に許すとは言えない」

「はい……」

「でも」

 俺は浮田を見る。

「攫われた本人の浮田が許すと言うなら、俺たちもそれを尊重する」

 会議室の中で、皆が少しずつ頷いた。

 未来も。

 陸斗も。

 チャン爺も。

 ルドルフも。

 阿川も、色谷も、芹沢も。

 美咲も、少し不安そうではあったが、最後には小さく頷いた。

「ただし」

 俺は言葉を強めた。

「条件がある」

 翔太が顔を上げる。

「今後、本当に拉致や悪事をしないかどうか」

「東京の住民に危害を加えないかどうか」

「コン太のことを外部に漏らさないかどうか」

「ルドルフの真実の口の前で誓ってもらう」

 翔太はルドルフを見る。

 ルドルフは静かに座っていた。

 その表情は穏やかだが、どこか厳粛さもある。

 浮田が翔太に説明する。

「真実の口は嘘をつけないスキルだ」

「嘘をつけば、それなりに怖い目を見る」

「手を噛みちぎられる幻覚を見るらしい」

 コン太が小さく震える。

「怖かったコン……」

 翔太は一瞬だけ息を呑んだ。

 だが、すぐに頷いた。

「分かった」

「俺だけじゃない」

「恭太も、姉貴も受ける」

「それで信用してもらえるなら、全員やる」

 俺はその目を見た。

 逃げる気はない。

 そう感じた。

「なら、住んでいい」

 翔太の目が大きく見開かれた。

「……本当に?」

「あぁ」

「ただし、ルールは守ってもらう」

「この東京で暮らすなら、もうただの避難民じゃない」

「住民だ」

「働いて、ルールを守って、ちゃんと生きてもらう」

 翔太は、もう一度深く頭を下げた。

「本当に……ありがとう……ございます……!」

 その声は、震えていた。


 ◇


 会議はそこで一旦終わった。

 翔太はその日のうちにゲストハウスへ戻り、恭太と涼香の元へ向かった。

 そして、後日。

 今井翔太、今井恭太、今井涼香の三人が中央会館を訪れた。

 涼香はまだ少し足元がふらついていたが、自分の足で歩いていた。

 顔色も完全ではない。

 だが、命の危険があった時とは比べ物にならないほど落ち着いていた。

 涼香は、まず浮田の前で深く頭を下げた。

「弟たちが、大変なご迷惑をおかけしました」

「そして……」

 声が震える。

「助けてくださって、本当にありがとうございました」

 浮田は少し居心地悪そうに頭をかく。

「助かったならいい」

「ただ、しばらくは安静な」

「はい」

 涼香は素直に頷いた。

 その後、三人はルドルフの前へ立った。

 真実の口。

 巨大な口が現れた時、涼香は少し怯えた様子を見せた。

 翔太と恭太も緊張していた。

 それでも、逃げなかった。

 ルドルフは静かに問いかける。

「あなた方は、今後この東京の住民に危害を加える意思がありますか?」

「ありません」

 三人が順に答える。

 真実の口は反応しない。

「東京で犯罪行為をするつもりがありますか?」

「ありません」

 反応なし。

「コン太さんの存在を外部へ漏らすつもりがありますか?」

「ありません」

 真実の口は静かにそこにあるだけだった。

 そして最後に、ルドルフは翔太と恭太を見る。

「あなた方は、今回の拉致行為を反省していますか?」

 翔太は、まっすぐ答えた。

「しています」

「二度としません」

 恭太も続ける。

「反省しています」

「本当に、申し訳ありませんでした」

 真実の口は何も反応しなかった。

 嘘ではない。

 それが、この場にいる全員に伝わった。

 ルドルフは静かに頷く。

「終了です」

 真実の口が消えていく。

 重かった空気が、少しだけ軽くなった。

 三人は改めて俺たちに向かって深く頭を下げた。

「本当に、ありがとうございます」

 翔太が言う。

「この恩は、必ず返します」

 恭太も続ける。

「もう逃げるだけの生活は終わりにしたいです」

 涼香も静かに言った。

「ここで、ちゃんと生きていきます」

 俺は三人を見た。

 拉致という最悪の形で始まった出会いだった。

 それでも彼らは、救いを求めて東京へ来た。

 間違えた。

 でも、反省した。

 そして、やり直す意思がある。

 なら、受け入れる。

 甘くはしない。

 でも、救えるなら救う。

 それが、この東京の在り方だ。

「この街に住むなら、ルールは守ってもらう」

 俺は三人に言った。

「働いて、助け合って、ちゃんと生きてくれ」

「ここは、逃げ込んで終わりの場所じゃない」

「もう一度、生き直す場所だ」

 三人は揃って頷いた。

「はい」

 その返事を聞いて、俺は小さく息を吐いた。

 また新しい住民が増えた。

 問題も増えた。

 神奈川方面のBランクモンスター、カーストアンデット。

 水晶玉と透明人間という新たなスキル。

 そして、東京へ救いを求めてやって来た三兄弟。

 やることは、また増える。


 でも――


「……まあ」

 浮田が隣で呟く。

「患者が助かって、住む場所も見つかったなら、悪くねぇ結末だろ」

 俺は少しだけ笑った。

「そうだな」

 コン太が小さく手を上げる。

「オイラも頑張ったコン!」

「お前は無茶しすぎだ」

「ごめんなさいだコン……」

 その場に、少しだけ笑いが起きた。

 張り詰めていた空気がようやくほどける。


 ◇


 こうして、今井三兄弟は東京に受け入れられることになった。

 条件付きで。

 誓いを立てて。

 そして、もう一度生きていくために。

 この街は、また一つ大きくなった。

 ただ守るだけではなく、罪や過ちを抱えた人間も、やり直せる場所として。

 それが正しいのかは、まだ分からない。

 だが、俺はそういう東京にしたいと思った。

 救いを求めて来た人間を、ただ突き放すだけの場所にはしたくなかった。

 もちろん、ルールは必要だ。

 甘さだけでは街は守れない。

 でも、厳しさだけでも人は救えない。

 その間を探しながら、俺たちは進んでいくしかない。

 俺は、三人が中央会館を出ていく背中を見送った。

 翔太は何度も振り返り、深く頭を下げていた。

 恭太は涼香を支えながら歩いている。

 涼香はまだ弱々しいが、それでも確かに生きている。

 その姿を見て、俺は静かに思った。

 また一つ、日常が戻った。

 誰かにとっては、命そのものが。

 誰かにとっては、やり直す場所が。

 東京は今日も、少しずつ変わっていく。

 守るべきものが増えていく。

 そして俺は、その重さを胸に抱えながら、もう一度前を向いた。

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