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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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80/119

2人の帰還

第80話です。少し短めですが宜しくお願い致します。


 浮田は、涼香の容体をもう一度確認していた。

 ゲストハウスの一室。


 カーテンの閉められた部屋の中で、先ほどまで死の気配を漂わせていた女性――今井涼香は、今は静かに眠っている。


 顔色はまだ万全とは言えない。

 長く高熱に苦しみ、呪いによって体力を削られていたのだから当然だ。

 それでも、先ほどまで体を侵していた黒い斑点はもうない。

 呼吸も落ち着いている。

 脈も安定している。

 命の危機は、ひとまず越えたと言ってよかった。

「……よし」

 浮田は小さく息を吐いた。

 その横で、今井翔太と今井恭太が、まだ信じられないような顔で涼香を見ている。

 特に恭太は、ベッドの脇に座り込んだまま、姉の手を握っていた。

 強く握りすぎないように気をつけながらも、離したくない。

 そんな様子だった。

「本当に……助かったんだよな……?」

 恭太が震える声で呟く。

 浮田は涼香の額から手を離し、淡々と答えた。

「あぁ。呪いは消えてる」

「ただ、体力はかなり落ちてる。しばらくは安静だ」

 翔太が深く頷く。

「分かった」

「水分は?」

「起きてから少しずつだ。無理に飲ませるな」

 浮田は、医者としての顔のまま指示を出す。

「急に飲ませると吐く可能性もある。まずは口を湿らせる程度から始めろ」

「食事も、いきなり普通のものは駄目だ。消化にいいものから少しずつ」

「熱がぶり返す可能性もある。今夜は必ず誰かが見てろ」

 翔太と恭太は、まるで医師の言葉を一言も逃すまいとするように、真剣に聞いていた。

「それと」

 浮田は二人を見る。

「俺たちはそろそろ中央会館へ戻らなきゃならん」

 その言葉に、コン太が耳を伏せた。

 部屋の隅にいたコン太は、先ほどから少し落ち着かない様子だった。

 浮田が攫われたこと。

 自分がチャン爺に何も言わずに車を追ったこと。

 そして、変身が解けて元の姿に戻ってしまったこと。

 色々なことが一気に起きたせいで、ようやく今になって緊張が戻ってきたらしい。

「チャン爺……怒ってるコン……?」

 ぽつりと呟く。

 浮田は即答した。

「怒ってるだろうな」

「うぅ……」

「ただ、怒ってるっていうより心配してる」

「それが一番つらいコン……」

「分かってるなら、次から無茶するな」

「でも浮田が攫われたから……」

 コン太は小さく言った。

「放っておけなかったコン」

 浮田は一瞬だけ黙る。

 そして、少しだけ表情を緩めた。

「……まあ、それについては助かった」

「お前がついてきてなかったら、説明がもっと面倒になってたかもしれねぇしな」

「本当コン?」

「あぁ」

 コン太の耳が少しだけ上がる。

 だが、浮田はすぐに付け足した。

「でも車の屋根にしがみつくのは二度とやるな」

「はいだコン……」

 その横で、翔太が深く頭を下げた。

「本当にすみませんでした」

「姉貴を助けてもらった上に、こんなことまで……」

 浮田は手で制する。

「謝罪は後だ」

「まずは戻るぞ」

 そして、翔太と恭太へ視線を向けた。

「一人は残って姉の世話をしてやれ」

「起きた後、さっきも言ったが水分補給は少しずつ飲ませるようにしてくれ」

「熱がぶり返すかもしれない。今夜は絶対に目を離すな」

 二人は真剣に頷く。

「それと、一人は俺とコン太を送ってもらう」

「そのまま悠真に会って、全部話してもらうからな」

 恭太が顔を上げた。

「俺が残る」

 迷いのない声だった。

「姉貴の世話は俺がする」

 翔太が恭太を見る。

「いいのか?」

「あぁ」

 恭太は涼香の手を握ったまま言う。

「兄貴は、浮田さんたちを送って、ちゃんと話してきて」

「俺たちがしたことは、逃げられるようなことじゃない」

「……分かった」

 翔太は苦しそうに頷いた。

「なら、俺があんたらを送る」

「悠真という人にも、俺から話す」

 浮田は頷いた。

「分かった。その流れで行こう」

 恭太はもう一度、深く頭を下げた。

「すまない。本当に何から何までありがとう……」

「礼は涼香が元気になってからでいい」

 浮田はそう言って、扉の方へ向かう。

 コン太も慌ててついていく。

「コン太」

 浮田が声をかける。

「何だコン?」

「今から戻るまで、絶対に勝手に動くな」

「分かったコン」

「絶対だぞ」

「分かったコン!」

「返事だけは一人前だな」

 コン太は少しだけ不満そうに頬を膨らませたが、反論はしなかった。


 ◇


 それから、浮田、コン太、翔太の三人はゲストハウスを出た。

 黒いバンは、まだ外に停められていた。

 浮田にとっては、つい先ほど拉致された車だ。

 それにもう一度乗るのは、さすがに気分のいいものではない。

 だが、戻るためには仕方がなかった。

 翔太が運転席に座る。

 浮田とコン太は後部座席に乗った。

 車内には、重い沈黙が流れていた。

 最初に口を開いたのは翔太だった。

「……本当に、すみませんでした」

 ハンドルを握る手に力が入っている。

「姉貴のことで頭がいっぱいで……」

「正常な判断ができてなかった」

 浮田は窓の外を見たまま答えた。

「謝る相手は俺だけじゃねぇ」

「分かってます」

「悠真たちにも、チャン爺にも、かなり心配かけてる」

「はい……」

 コン太も小さく言う。

「チャン爺、きっとすごく心配してるコン」

 翔太はバックミラー越しにコン太を見た。

 小さなフォック族。

 先ほどまで、翔太にとっては正体不明の存在だった。

 だが、今は少し違って見えた。

 浮田を追って、車の屋根にしがみついてきた小さな存在。

 恐怖よりも、仲間を助けたいという気持ちで動いた存在。

「……コン太にも、怖い思いをさせたな」

「怖かったけど、浮田の方が心配だったコン」

「そうか……」

 翔太はそれ以上、何も言えなかった。

 バンは東京の街を走る。

 中央会館へ近づくにつれ、道路は整備され、人の気配も増えていく。

 翔太は改めて、東京という場所の異質さを感じていた。

 神奈川では、崩れた建物と瓦礫、隠れるように生きる人々しか見ていなかった。

 だがここでは、人が歩いている。

 店が開いている。

 車が普通に走っている。

 警察官が立ち、信号が機能し、駅には電車が走っている。

 噂では聞いていた。

 でも実際に見ると、まるで別世界だった。

「……本当に、社会が戻ってるんだな」

 翔太が小さく呟く。

 浮田は短く答える。

「まだ途中だ」

「でも、動き始めてる」

「……すごいな」

 翔太の声には、羨望にも似た響きがあった。


 ◇


 だが、その直後。

 中央会館が見えてきた瞬間、翔太の表情は一変した。

 黒いバンが中央会館の前へ近づく。

 その周囲には、すでに人影が集まっていた。

 いや、人影だけではない。

 バンの前方に、悠真が立っている。

 その隣には陸斗。

 少し後ろには未来。

 チャン爺は無言で立ち、杖に手を添えていた。

 さらに、未来が動植物図鑑で出していたシャドウウルフたちが、低く身構えている。

 空にはカラスが旋回していた。

 周囲には東京の警察官たち。

 東部の楢沢。

 西部の白沢。

 北部の山田。

 南部の川原。

 他にも数人の警官が配置され、バンを包囲するように立っている。

 翔太は、思わずブレーキを踏んだ。

 車がゆっくり止まる。

 冷たい汗が背中を流れた。

 完全に包囲されている。

 それはただの警戒ではなかった。

 東京という街そのものを敵に回したような圧だった。

「……っ」

 翔太は息を呑む。

 コン太も窓の外を見て、少し怯えた顔になった。

「みんな……顔が怖いコン……」

 いつも優しい悠真。

 穏やかなチャン爺。

 落ち着いた陸斗。

 柔らかい未来。

 その全員が、今は鋭い顔をしている。

 無理もない。

 浮田が攫われ、コン太が消えたのだ。

 彼らにとっては、最悪の事態だった。

 悠真が一歩前に出る。

「浮田! コン太!」

 声が強く響く。

「お前ら大丈夫か!!」

 浮田はゆっくりと車のドアを開けた。

 不用意な動きはしない。

 車から降りると、両手を軽く上げて見せた。

「大丈夫だ」

 落ち着いた声だった。

「俺もコン太も無事だ。怪我一つしてねぇ」

 続いて、コン太も後部座席から顔を出す。

「無事だコン……」

 その瞬間、チャン爺の表情がわずかに揺れた。

 普段ほとんど感情を表に出さない彼が、ほんの一瞬だけ、明らかに安堵した。

「コン太様……」

 チャン爺はゆっくりと近づく。

「ご無事で何よりでございます」

 コン太は耳を伏せた。

「チャン爺……ごめんなさいだコン……」

 チャン爺は叱らなかった。

 ただ、深く頭を下げる。

「私がお守りすると申し上げながら、見失ってしまいました」

「その責は、私にございます」

「違うコン!」

 コン太は慌てて首を振る。

「オイラが勝手についていったんだコン!」

「浮田が連れていかれたから……」

 チャン爺は静かにコン太を見た。

 怒りよりも、安堵と責任感の方が大きい表情だった。

 悠真は、車の運転席にいる翔太へ鋭い視線を向ける。

 翔太は完全に固まっていた。

 バンを降りることすらできない。

 浮田が間に入るように言った。

「事情は俺と、そこにいる翔太から話す」

「ここで騒ぐより、中で話した方がいい」

 悠真は浮田を見た。

 その表情は険しい。

 だが、攫われた本人である浮田がそう言うなら、聞くしかない。

「……分かった」

 俺は短く答えた。

 怒りも心配も、まだ胸の奥で暴れていた。

 だが、浮田が無事で、コン太も無事。

 まずはそれが分かっただけで、少しだけ息ができた。

「ただし」

 俺は運転席の翔太を見た。

「妙な真似をしたら、その場で止める」

 翔太は震えながら頷いた。

「……はい」

 俺は警察官たちに目を向けた。

「楢沢、白沢、山田、川原」

「一旦通常業務に戻ってくれ」

「ただし、周辺警戒は少し強めで頼む」

 楢沢が頷く。

「了解しました」

 白沢も優しく頷くが、目は鋭い。

「何かあればすぐに動きます」

 山田は無言で敬礼し、川原はいつもの穏やかな顔で言った。

「では、周辺に人が集まりすぎないようにしておきますね」

 未来も、シャドウウルフたちを見た。

「戻って」

 影が揺れ、シャドウウルフたちは動植物図鑑へ戻っていく。

 空のカラスも少しずつ散っていった。

 それでも、場の緊張は完全には消えない。

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