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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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77/118

初めての街と攫われた医者(前編)

第77話です。宜しくお願い致します。


 悠真が浮田のいる部屋を訪ねたのは、午後三時を少し過ぎた頃だった。

 中央会館の中は、昼の慌ただしさが落ち着き、少しだけ静かな時間が流れている。

 浮田は診療用の資料を整理していた。

 この街に来てからというもの、彼の仕事は増え続けている。

 怪我人の治療。

 住民の体調管理。

 新しく入ってきた住民の健康確認。

 そして最近では、農業や工業に従事する者たちの作業中の怪我にも対応している。

 東京が社会として動き出せば出すほど、医者の仕事もまた増えていく。

 そんな浮田に向かって、悠真は扉を開けるなり言った。

「浮田、少しいいか?」

 浮田は顔を上げる。

「何だ? また何か面倒事か?」

「……まあ、面倒事と言えば面倒事だな」

「お前がそう言う時は大体かなり面倒なんだよ」

 浮田は嫌な予感を隠さず、椅子にもたれかかった。

 悠真は少しだけ苦笑しながら、事情を説明した。

 コン太がスキル《化けぎつね》を得たこと。

 今、人間の少年の姿に変身していること。

 そして、外に出たいと言っていること。

 話を聞き終えた浮田は、数秒だけ黙った。

 そして、眉間にしわを寄せる。

「……待て」

「あぁ」

「コン太が、人間になった?」

「見た目だけな」

「しかもスキル?」

「そうらしい」

「お前の周り、本当に毎日何か起こるな」

「俺もそう思ってる」

 悠真が即答すると、浮田は深いため息を吐いた。

「で? 俺に何をしろって?」

「外出に付き添ってほしい」

「チャン爺がいるんだろ?」

「いる。ただ、チャン爺だけだと少し過保護になりすぎるかもしれない」

「まあ、分からんでもない」

「それに、何かあった時に医者がいた方が安心だ」

 浮田は面倒くさそうに頭をかいた。

 だが、断る気はなさそうだった。

「……初めて外に出るなら、確かに誰かが付いてた方がいいな」

「あぁ」

「それに、あいつが妙なもの拾って食った時に止める役も必要だろ」

「それは本当に必要かもしれない」

「だろ?」

 浮田は立ち上がった。

「分かった。付き合ってやるよ」

「助かる」

「ただし、面倒事はごめんだぞ」

「それは俺も願ってる」

 その願いが、この後あっさり裏切られるとは、この時の二人はまだ知らなかった。


 ◇


 悠真と浮田がコン太の部屋へ向かうと、そこにはすでにチャン爺とコン太が待っていた。

 コン太は、少年の姿のまま椅子に座っている。

 見た目は完全に人間の子供だ。

 小柄で、目が大きく、どこか素朴な雰囲気がある。

 ただし、服装が少し目立っていた。

 地球の今の子供服というより、どこか素朴で古風な服装。

 街を歩けば、かなり浮くだろう。

 浮田はその姿を見るなり、目を細めた。

「……本当にコン太なのか?」

「コン太だコン!」

「その語尾でだいたい分かるな」

「語尾には気を付けるコン!」

「もう失敗してるぞ」

 浮田のツッコミに、コン太は慌てて口を押さえた。

 悠真はコン太の服装を見て、軽く腕を組む。

「その服のまま外に出るのは目立つな」

「そうなのかコン?」

「あぁ。かなり目立つ」

 チャン爺も静かに頷いた。

「現在の東京で一般的な子供服とは、少々異なりますな」

「本当なら服屋で買うべきなんだが……」

 悠真は少しだけ考える。

 今の東京では、少しずつ経済が回り始めている。

 銀行ができ、円が流通し、店が開き、人々が働き始めた。

 だから本来なら、必要なものは店で買うのが正しい。

 何でも商品生成で済ませてしまえば、せっかく生まれ始めた社会の循環を潰してしまう。

 しかし、今は状況が違った。

 コン太の変身時間には制限がある。

 三時間。

 しかも初めての外出だ。

 子供服を用意するためだけに時間をかけるのは惜しい。

 それに、今この場には合う服がない。

「今回は仕方ないな」

 悠真は手をかざす。

「商品生成」

 次の瞬間、手元に子供用の服が現れた。

 シンプルなパーカー。

 動きやすいズボン。

 スニーカー。

 それから帽子。

 派手すぎず、地味すぎず、街にいても不自然ではない服装だ。

「本当は買う方がいいんだが、今回は急だからこれで我慢してくれ」

「これ、オイラが着るコン?」

「そうだ」

「人族っぽいコン!」

「人族って言い方も外では控えろ」

「難しいコン……」

「頑張れ」

 コン太は着替えを済ませると、鏡の前でくるりと回った。

「どうだコン? 都会の子供っぽいコン?」

「語尾以外はな」

 浮田が即座に言う。

 コン太は、また口を押さえた。

「どうだ……です?」

「無理に丁寧にすると逆に変だな」

「難しすぎるコン!」

 悠真は苦笑した。

「とにかく、外ではなるべく喋りすぎないこと」

「分かったコン!」

「今の感じだと不安しかないな」

 悠真は改めて外出時のルールを確認することにした。

「まず一つ。絶対に一人で離れるな」

「分かった!」

「二つ。変身が切れる前に必ず戻る」

「三時間だコン……あ、三時間!」

「三つ。道路へ飛び出さない」

「飛び出さない!」

「四つ。変なものを拾って食べない」

「……分かった」

「今、迷ったな?」

「迷ってない!」

 浮田が腕を組む。

「こいつ、絶対なんか食おうとするぞ」

「ちゃんと見ておきます」

 チャン爺が静かに言った。

「コン太様から目を離すことはございません」

「頼む」

 悠真はコン太の前にしゃがむ。

「初めての外だ。楽しいだろうけど、危ないこともある」

「うん」

「チャン爺と浮田の言うことをちゃんと聞け」

「分かった!」

 今度は語尾が出なかった。

 コン太は少し誇らしげに胸を張る。

「どうだコン……あっ」

「まだ先は長いな」

 悠真はそう言って笑いながらも、コン太の目線に合わせて言葉を続けた。

「楽しんでこい」

 その一言に、コン太の表情が一気に明るくなる。

「うん!」

 こうして、コン太の初めての東京散策が始まった。


 ◇


 中央会館の外へ出た瞬間、コン太は固まった。

 窓から何度も見ていた景色。

 だが、実際に外へ出て立つと、全く違うものに見えた。

 高層ビルが、空へ向かって伸びている。

 ガラスの壁が光を反射し、道路には車が走り、人々が行き交っている。

 遠くからは電車の走る音も聞こえた。

 コン太はゆっくりと上を見上げる。

「……高い」

 小さく呟いた。

 そして、首が痛くなったのか、両手で首を押さえる。

「高すぎるコン……じゃなくて、高すぎる……!」

 浮田が横で笑う。

「そこまで頑張って言い直さなくてもいいぞ」

「でもバレたら困るって悠真が言った」

「まあ、人前では気をつけろ」

 コン太は何度も頷いた。

 チャン爺は、その横で静かに周囲を見ている。

 歩行者。

 車。

 周囲の気配。

 不審な動き。

 すべてを確認していた。

 コン太が道路の方へ目を向けた時、一台の車が目の前を通り過ぎた。

 ブォン、とエンジン音が響く。

 コン太は思わずチャン爺の後ろに隠れた。

「鉄の箱が速い……!」

「車でございます」

「怒ってない? 音が大きい」

「怒っているわけではございません。エンジン音でございます」

「えんじん……?」

 コン太は聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 浮田が言う。

「まあ、簡単に言うと、あの箱を動かしてる仕組みだ」

「箱が自分で走るの、やっぱり変だ……」

「翡翠球にはないのか?」

「ない。荷車とか、ホーズ族に引いてもらう車はある」

「ホーズ族ねぇ……」

 浮田は少し興味深そうに呟いた。

 コン太は車が通り過ぎた後、空気をくんくんと嗅いだ。

「……この街、少し苦い匂いがする」

「苦い匂い?」

「翡翠球より、空気が重い感じ」

 チャン爺が穏やかに答える。

「排気ガスや、舗装された道路の匂いでございましょう」

「翡翠球は森の匂いが多い。土とか草とか花とか」

「こちらは都市でございますから」

「都市……すごいけど、ちょっと鼻が疲れる」

 コン太は顔をしかめた。

 フォック族だからだろうか。

 鼻がいいのかもしれない。

 チャン爺はその反応を静かに覚えておいた。

 やがて三人は横断歩道の前に立った。

 赤信号。

 コン太は信号機を見上げる。

「赤い人がいる」

「あれが赤なら止まる」

 浮田が説明する。

「青になったら進む」

 やがて信号が青に変わる。

「青い人になった」

「進むぞ」

「この世界の人族は、光の人に従うのか」

「言い方」

 浮田が思わずツッコむ。

 チャン爺は少しだけ微笑んだ。

「交通の安全を守るための仕組みでございます」

「仕組みが多い……」

 コン太は感心したように呟いた。

 街を歩くたび、コン太の反応は新鮮だった。

 コンビニの自動ドアが開けば驚き、ビルのエレベーターを見れば「箱が上下するのか」と目を丸くし、駅前の広場では人の多さに圧倒された。

 だが、チャン爺と浮田がそばにいるため、必要以上に騒ぐことはなかった。

 いや、騒ぎそうになるたびに、チャン爺が静かに声をかけていた。

「コン太様、声量を少し抑えましょう」

「分かったコン!」

「語尾も」

「……はい」

 コン太は必死だった。

 だが、見たもの全てが新鮮で、目が輝いている。

 その表情を見ると、浮田もあまり強くは言えなかった。

「……まあ、楽しそうで何よりだな」

 浮田が呟く。

「そうでございますな」

 チャン爺も頷く。


 ◇


 それから三人は駅へ向かった。

 つい最近、復活したばかりの駅だ。

 ホームには人が行き交い、駅員が案内をし、電車の到着を待つ人々が並んでいる。

 コン太は改札の前で足を止めた。

「ここが、駅」

「そうだ」

 浮田が答える。

「ここから電車に乗る」

「みんな、この長い箱に乗るの?」

「そうだ」

「この箱、どこまで行くの?」

「路線による」

「道を間違えない?」

「線路の上しか走らねぇからな」

「賢い箱だ……」

「箱ではないでございますよ」

 チャン爺がやんわり訂正する。

 ホームへ入ると、ちょうど電車が到着するところだった。

 ガタン、ゴトン。

 線路の音が近づく。

 コン太は思わず息を呑んだ。

 目の前に、車よりもずっと大きな車両が滑り込んでくる。

 扉が開く。

 人々が降り、また乗っていく。

「……すごい」

 コン太は小さく呟いた。

「これに乗る」

「そうだ」

 浮田が言う。

「短い区間だけな。初回だから」

 三人は電車に乗り込んだ。

 コン太は窓際に座ると、すぐに外を見た。

 電車が動き出す。

 ゆっくりとホームが流れ、駅の景色が後ろへ遠ざかっていく。

「動いた……!」

 コン太が窓に張り付く。

「地面の上を、家が走ってるみたい……!」

「コン太様」

 チャン爺が小声で言う。

「語尾は出ておりませんが、少々目立っております」

「ご、ごめんなさい」

「よろしいかと」

 浮田は少し笑った。

「今さら丁寧語になるのも変だけどな」

 電車の中では、アナウンスが流れた。

 次の駅名。

 乗り換え案内。

 扉が開く方向。

 コン太はその度に反応する。

「声が天井からする」

「アナウンスだ」

「誰か隠れてる?」

「隠れてねぇよ」

「この世界、仕組みだらけ」

「まあ、そうだな」

 短い乗車体験だったが、コン太にとっては十分すぎるほど刺激的だった。

 電車を降りる時、コン太は名残惜しそうに車両を振り返った。

「また乗りたい」

「また機会を作りましょう」

 チャン爺が言うと、コン太は嬉しそうに頷いた。


 ◇


 その後、三人は服屋へ向かった。

 最初に着ている服は悠真が商品生成したものだ。

 だが、今後も変身して外出する可能性があるなら、ちゃんと店で買った服を用意しておく必要がある。

 店に入ると、コン太はまた目を輝かせた。

「服がいっぱい」

 浮田が言う。

「変なの選ぶなよ」

「変なのって何?」

「派手すぎるやつとかだ」

 コン太は周囲を見渡す。

 色とりどりの服。

 帽子。

 靴。

 鞄。

 初めて見るものばかりで、何を選べばいいのか分からない様子だった。

 チャン爺が丁寧にサイズを確認し、動きやすい服を選ぶ。

「こちらなど、いかがでしょう」

「それ、かっこいい?」

「落ち着いていて、自然でございます」

「自然が一番だ」

 浮田が言う。

「目立たないのが大事だからな」

「目立たない……」

 コン太は真剣に頷いた。

 試着室では少し戸惑った。

「この小さい部屋で変身するの?」

「着替えるだけだ」

「服を変えるのも変身みたい」

「まあ、ある意味そうかもな」

 服を何着か選び、帽子と靴も買った。

 支払いは円。

 チャン爺がきちんと会計を済ませる。

 店員は普通に接客し、コン太をただの子供として扱った。

 それだけのことなのに、チャン爺は少しだけ安心していた。

 今の姿なら、コン太は街を歩ける。

 もちろん、完全に安全ではない。

 だが、少なくとも今は、誰にも疑われていない。

 その後もしばらく、三人は街を歩いた。

 パン屋の前で、コン太が足を止める。

「いい匂い……」

「買うか?」

 浮田が聞くと、コン太は一瞬迷った。

「……買っていい?」

「少しだけな」

 チャン爺が微笑む。

「おやつは既に召し上がっておりますので、食べすぎには注意でございます」

「分かった」

 パンを一つ買い、コン太は少しずつ食べた。

 目を輝かせながら。

「この世界は、美味しそうな匂いが多い」

「食い物基準で世界を見るな」

 浮田が呆れる。

 公園にも立ち寄った。

 子供たちが遊び、ベンチでは老人が話している。

 コン太は遠くからそれを眺めた。

「みんな、普通に暮らしてる」

「あぁ」

 浮田は静かに答えた。

「ここは、そういう場所を目指してるからな」

「悠真が作った?」

「悠真だけじゃない」

 浮田は言う。

「みんなで作ってる」

 コン太はその言葉をしばらく考えるように聞いていた。

「みんなで作る……いいな」

 小さく呟いたその声には、翡翠球への想いも少しだけ混じっているようだった。


 ◇


 楽しい時間は、思ったより早く過ぎた。

 チャン爺が懐中時計を確認する。

「コン太様」

「何?」

「そろそろ変身が解ける時間でございます」

「……もう?」

「はい。戻りましょう」

 コン太は少しだけ寂しそうな顔をした。

「もう少し見たい」

「次の機会にいたしましょう」

 チャン爺は穏やかに言った。

「今日は初めての外出でございます。無理は禁物です」

「……分かった」

 浮田も軽く肩を回しながら言う。

「初回にしては十分歩いたろ」

「うん」

 コン太は名残惜しそうに街を見渡した。

 高い建物。

 車。

 人々。

 店。

 駅。

 公園。

 どれも、コン太にとっては初めてのものだった。

 チャン爺はコン太の様子を見て、少しだけ表情を和らげた。

「また参りましょう」

「うん!」

 その直後だった。

 後ろを歩いていた浮田の足音が、一瞬だけ止まった。

「……っ!?」

 だが、チャン爺が振り返るより早かった。

 浮田の頭に、黒い袋が被せられる。

 それはあまりにも突然だった。

 周囲に気配はなかった。

 足音もない。

 声もない。

 まるで、何もない空間から手だけが現れたような一瞬。

 黒いバンのスライドドアが開いていた。

 覆面を被った二人組の男。

 一人が浮田の頭に袋を被せ、もう一人がその体を押し込むようにしてバンの中へ引きずり込む。

「浮田様!」

 チャン爺が動いた。

 だが、一歩遅れた。

 街中。

 住民がいる。

 コン太がいる。

 状況を確認する一瞬が、命取りになった。

 黒いバンのドアが閉まる。

 エンジンが唸る。

 次の瞬間、バンは急発進した。

 チャン爺は即座に追おうとした。

 だが、目の前には人通りがある。

 無理に剣を抜いて暴れれば、周囲を巻き込む。 


 それに――コン太を置いていくわけにはいかない。


「コン太様!」

 チャン爺は振り返った。

 だが。

 そこに、コン太はいなかった。

「……コン太様?」

 周囲を見回す。

 人々は突然の出来事にざわついている。

 黒いバンは遠ざかっていく。

 浮田が攫われた。

 そして、コン太の姿も消えた。

 チャン爺は瞬時に判断する。

 未来の元へ行き、索敵してもらうべきだ。

 しかし、その前に頭の中で一つの疑問が浮かんだ。

 チャン爺は気配を感じなかった。

 音もなかった。

 守るべき相手を、見失った。

 だが、今すべきことは悔やむことではない。

 報告と追跡。

 すぐに悠真へ知らせなければならない。

 チャン爺はその場を駆け出した。

 初めての外出は、楽しい思い出だけでは終わらなかった。

 東京の街の中で、医者が攫われた。

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いつ変身したかも分からないのに日を改めないのですか
敵対的なら警報なるはず
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