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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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75/119

走り出す日常

第75話です。宜しくお願いします。


 中央会館を出ると、空はよく晴れていた。

 雲は薄く、遠くまで見渡せる。

 数ヶ月前までなら、こんな風に空を見上げる余裕なんてなかった。

 ゲート。

 モンスター。

 避難民。

 食料。

 住む場所。

 守ること。

 ただ目の前の問題に追われて、それどころじゃなかった。

 だが今は、少し違う。

 もちろん、問題がなくなったわけじゃない。

 むしろ、コン太の存在や翡翠球の話で、問題はさらに大きくなったと言ってもいい。


 それでも――東京は、確実に前へ進んでいる。


「では、最初の駅から確認するぞ」

 俺がそう言うと、近くに待機していた鉄道関係者たちが一斉に背筋を伸ばした。

 元駅長。

 元運転士。

 元車掌。

 元整備士。

 バス会社の関係者。

 それから、やたら目を輝かせている鉄道好きの住民たち。

 中には、首からカメラを下げているやつもいる。

 ……いや、今はまだ試作段階なんだが。

「黒瀬さん」

 元駅長だという初老の男が、一歩前に出た。

 名前は片桐さん。

 白髪交じりの髪をきっちり整え、背筋が綺麗に伸びている。

 長年駅で働いていた人間らしい、どこか人前に立つことに慣れた雰囲気があった。

「本当に、駅を復活させられるんですね」

「あぁ」

 俺は頷く。

「ただし、昔そのままにはしない」

「今の東京に合わせて、安全性と使いやすさを優先する」

「もちろんです」

 片桐さんは深く頷いた。

「今の時代に必要な駅にするべきです」

 その横で、元整備士の男が興奮を隠しきれない様子で言う。

「線路も、本当に戻せるんですか?」

「戻せる」

 俺が答えると、彼はぐっと拳を握った。

「なら、やれます」

「線路さえ生き返るなら、電車は走らせられます」

 その言葉には、ただの職人としての自信だけじゃない。

 また自分の仕事ができる。

 その喜びが滲んでいた。

 元運転士の女性も、少し震えた声で言う。

「また……運転席に座れるんですね」

「あぁ」

「ちゃんと安全確認もしてからになるけどな」

「もちろんです」

 彼女は何度も頷いた。

「準備は、いくらでもします」

 そう言いながら、少し目元が赤くなっていた。

 無理もない。

 世界が壊れてから、それぞれが仕事を失った。

 鉄道関係者なんて、特にそうだろう。

 線路は壊れ、電車は止まり、駅は人の流れを失った。

 自分が人生をかけてきたものが、突然意味を失ったように感じたはずだ。

 だが今、それが戻ろうとしている。

 それはきっと、ただの仕事復帰じゃない。

 自分が生きていた日常の一部を取り戻すことなのだと思う。


 ◇


「じゃあ、始める」

 俺は、目の前の廃駅に向き直った。

 そこはかつて駅だった場所だ。

 屋根は一部崩れ、壁にはひびが入り、看板は傾き、改札機は壊れていた。

 ホームには雑草が生え、線路は錆び、踏切の遮断機も折れている。


 だが――形は残っている。


 なら、戻せる。

「テリトリー修復」

 手をかざす。

 次の瞬間。

 駅舎全体に、淡い光が走った。

 ひび割れた壁が塞がる。

 崩れた屋根が元に戻る。

 割れたガラスが再構築される。

 傾いていた看板がまっすぐになり、古びた塗装が剥がれ落ちるように消えていく。

 ホームに生えていた雑草が消え、床が整えられる。

 止まっていた時計が、カチリと音を立てた。

「……動いた……」

 誰かが呟いた。

 駅舎の時計が、再び時を刻み始める。

 その小さな音に、周囲が静まり返った。

 たぶん、この場にいる鉄道関係者たちにとって、それはただの時計の音じゃない。

 駅が目を覚ました音だった。

「続けるぞ」

 俺はさらに意識を集中する。

「外装変更」

 古びた駅舎が、今の東京に合わせた外観へ変わっていく。

 ただ新しくするだけじゃない。

 丈夫に。

 分かりやすく。

 避難所としても使えるように。

 広めの屋根。

 強化された壁。

 大きな案内板。

 非常時用の誘導灯。

 駅前広場へ繋がる広い出入口。

「内装変更」

 次は内部だ。

 改札を整える。

 券売機の位置を分かりやすくする。

 ただし、今は電子決済が完全に復活しているわけではない。

 だから円で支払える窓口も用意する。

 銀行との連携も必要だ。

 待合スペースを広げ、休憩できる椅子を増やす。

 子供連れや高齢者が使いやすいように、段差を減らす。

 案内板は大きく、読みやすく。

 ホームには転落防止の柵。

 さらに、もしゲートやモンスターが出た時に備え、緊急避難用の通路も作る。

 ただの駅ではない。

 今の世界で使うための駅だ。

「……すごい」

 元車掌の男が呟いた。

「昔の駅じゃない……でも、ちゃんと駅だ」

 その言葉に、片桐さんが深く頷く。

「これなら、人を運べる」

 俺は少しだけ笑った。


 ◇


「次は線路だ」

 駅舎を出て、線路沿いに立つ。

 錆びたレール。

 ところどころ歪み、途切れ、砂利も崩れている。

 だが、これもまた、かつて東京を支えていた血管みたいなものだ。

 人を運び、物を運び、街と街を繋いできた道。

「テリトリー修復」

 光が線路に沿って走る。

 錆びついたレールが銀色を取り戻す。

 歪みが直り、途切れた部分が繋がる。

 枕木が整い、砂利が均される。

 折れていた踏切の遮断機が持ち上がり、警報機が形を取り戻す。


 カン、カン、カン――と試し鳴りのような音が響いた瞬間、周囲の人間たちが息を呑んだ。


「踏切の音だ……」

「懐かしい……」

 誰かが小さく言う。

 たかが音。

 でも、それは日常の音だった。

 学校へ向かう朝。

 仕事帰りの夕方。

 駅前の喧騒。

 電車を待つ時間。

 そういうものが、一瞬だけ戻ってきたような気がした。

「車両もやるぞ」

 近くの車両基地に残されていた電車。

 何両かは壊れ、ガラスが割れ、車体に傷が入り、内部も荒れていた。

 だが、修復できる。

「テリトリー修復」

 車体に光が流れる。

 割れた窓が戻る。

 へこんだ外装が直る。

 錆びが消え、車輪が整い、内部の座席が綺麗になる。

「外装変更」

 車両の外観を、新しく塗り替える。

 昔の雰囲気を残しつつ、今の東京の交通網として分かりやすい色とデザイン。

 ただし、鉄道好きの住民たちがやたら熱く語っていた“昔の面影”も少し残す。

 完全に新しくしすぎると、彼らが泣きそうだったからだ。

「内装変更」

 車内は清潔に。

 座席も整え、吊り革も戻す。

 案内表示もつける。

 非常時用の防護機能もできる限り入れる。

 完璧ではない。

 だが、十分だ。

 ふと横を見ると、鉄道関係者たちが言葉を失っていた。

 元運転士の女性は、手で口元を押さえている。

 整備士の男は、震える手で車両の側面に触れた。

「……戻った」

 ぽつりと、彼が言う。

「本当に、戻った……」

 その言葉に、俺は何も言わなかった。

 言えなかった。

 こういう瞬間を見ると、改めて思う。

 俺のスキルは、ただ便利なだけじゃない。

 誰かの失われたものを、もう一度形にできる。

 それは責任でもある。

 そして、少しだけ誇らしいことでもあった。 


 ◇


 その後も、作業は続いた。

 主要地点に駅を作る。

 元々駅だった建物を修復し、必要に応じてテリトリー置換で移動させる。

 人の流れ。

 仕事場へのアクセス。

 学校や病院、役所、銀行への距離。

 農業地帯や工業地帯へ物を運ぶ導線。

 全てを考慮しながら、駅の位置を決めていく。

「ここはバスと繋げた方がいいです」

 バス会社の関係者が地図を指差して言う。

「駅から少し離れた住宅地があります。そこはバスで拾った方が効率的です」

「なるほど」

「それから、農業区画の近くにもバス停を。通勤だけじゃなく、収穫物の簡易輸送にも使えます」

「バスで物も運ぶのか」

「専用便を作れば可能です」

 なるほど。

 交通網は人だけじゃない。

 物も運ぶ。

 社会を動かす血流だ。

 駅前にバス停を整備する。

 屋根付きの待合所。

 分かりやすい路線図。

 乗り場番号。

 バス会社の人間たちは、まるで子供みたいに目を輝かせながら配置を考えていた。

「またバスを走らせられるのか……」

「停留所の名前、どうします?」

「昔の名前を残すところと、新しく変えるところを分けましょう」

「いいですね。住民にも分かりやすいように」

 どんどん話が進んでいく。

 俺一人では絶対にできない。

 専門家がいるからこそ、形になる。

 俺のスキルは材料と手段を与えるだけだ。

 それを社会として機能させるのは、やっぱり人なんだと思う。


 ◇


 そして、約一ヶ月。

 試運転。

 安全点検。

 運転士と車掌の訓練。

 駅員の配置。

 時刻表の作成。

 料金設定。

 バス路線との接続確認。

 警察による混雑整理の打ち合わせ。

 何度も確認し、何度も修正した。

 その間、住民たちの間でも噂は広まっていった。

「電車が走るらしい」

「本当に?」

「駅が復活するって」

「バスも動くらしいぞ」

「通勤が楽になるな」

「学校行くのも楽になる!」

 期待が広がっていく。

 その期待に応えるために、鉄道関係者たちは本当に必死だった。

 駅員たちは接客練習を繰り返し、運転士は何度も試運転を行い、整備士は車両の状態を細かく確認した。


 撮り鉄たちは――まあ、相変わらずだった。


「復活一番列車、どこから撮るのがベストだ……?」

「ホーム先端は混むぞ」

「マナー守れよ! この世界で撮り鉄の評判落とすわけにはいかない!」

「いや、元の世界でも守れよ」

 思わずツッコんだら、なぜか全員が「はい!」と返事した。

 その勢いは嫌いじゃない。


 そして――


 運行開始の日が来た。


 ◇


 朝。

 駅前には、信じられないほど多くの人が集まっていた。

 通勤する人。

 学校へ向かう学生。

 買い物へ行く親子。

 ただ見に来ただけの住民。

 鉄道関係者。

 バス運転士。

 警察官たち。

 そして、カメラを構えた鉄道好きたち。

 警察官たちは交通整理をしながら声を上げる。

「押さないでください!」

「順番にお願いします!」

「ホームでは黄色い線の内側まで下がってください!」

 楢沢たち警察組も、各駅に人員を配置している。

 スキルを使うような状況ではない。

 だが、こういう時こそ警察の存在はありがたい。

 人が集まれば、混乱も起こる。

 それを未然に防ぐ。

 今の東京では、それも立派な役割だ。

 俺はホームの端に立ち、全体を見ていた。

 隣には未来と陸斗。

 少し離れた場所に浮田、ルドルフ、チャン爺もいる。

 美咲は目をキラキラさせながらホームを見ていた。


 コン太は――中央会館の窓から見ているはずだ。


 外には出せないが、見せてやりたいと言ったら、チャン爺が見える場所を用意してくれた。

 あいつも今頃、窓に張り付いているかもしれない。

 その時だった。

 駅のスピーカーから、震えるような声が響く。

『まもなく、一番線に電車が参ります』

 その瞬間。

 ホーム全体がざわめいた。

 ただのアナウンス。

 でも、その声には少し震えがあった。

 元駅員の人だ。

 きっと、色々な感情が込み上げているのだろう。

『危険ですので、黄色い線の内側までお下がりください』

 懐かしい言葉。

 当たり前だった言葉。

 それが、今は胸に染みる。

 遠くから、音が聞こえた。

 ガタン、ゴトン。

 ガタン、ゴトン。

 線路を走る音。

 電車が近づいてくる音。

 子供たちが歓声を上げる。

「来た!」

「電車だ!」

「本当に動いてる!」

 やがて、ホームの向こうから車両が姿を現した。

 朝日を受けて、車体が光る。

 綺麗に整えられた車両。

 でも、どこか昔の東京の電車の面影も残している。

 電車はゆっくりとホームへ滑り込んできた。

 ブレーキ音。

 空気の抜ける音。

 そして、停止。

 ドアが開く。

 その瞬間、拍手が起きた。

 誰からともなく。

 最初は小さく。

 やがて大きく。

 ホーム全体に拍手が広がっていく。

 元運転士の女性が、運転席で涙を拭っているのが見えた。

 片桐さんも、帽子を軽く押さえながら深く頭を下げていた。

 整備士たちは、互いに肩を叩き合っている。

 撮り鉄たちは、なぜか号泣しながらシャッターを切っていた。

「泣きながら撮れるのかよ……」

 俺が呟くと、未来が小さく笑った。

「それだけ嬉しいんだよ」

「まあな」

 俺はホームを見る。

 住民たちが順番に電車へ乗り込んでいく。

 学生が友達と笑いながら座席に座る。

 親子が窓の外を見ている。

 仕事へ向かう人が、鞄を膝に置いて静かに息を吐く。

 その光景を見て、胸の奥がじんわりと熱くなった。

 これは、ただの交通手段じゃない。

 電車が走る。

 それだけのことかもしれない。


 でも、それは――日常がまた一つ戻ってきた音だった。


 ◇


「……走り出したな」

 浮田が隣に来て、ぽつりと言う。

「あぁ」

 俺は頷く。

「本当に、少しずつ戻ってきてる」

「お前、よくここまでやったよ」

「俺だけじゃない」

 俺は即答した。

「みんながいたからだ」

 駅員がいて。

 運転士がいて。

 整備士がいて。

 バス関係者がいて。

 警察がいて。

 住民がいて。

 みんなが自分の役割を取り戻したから、ここまで来た。

「俺はきっかけを作っただけだ」

 浮田は少し笑う。

「そう言うと思ったよ」

 やがて、発車の時刻になる。

 車掌が笛を鳴らす。

 ドアが閉まる。


 そして――


 電車が、動き出した。

 ゆっくりと。

 確実に。

 ホームを離れていく。

 窓の中から、子供たちが手を振っている。

 美咲も全力で手を振り返していた。

「いってらっしゃーい!」

 その声が、ホームに明るく響く。

 電車は線路の上を進んでいく。

 ガタン、ゴトン。

 ガタン、ゴトン。

 懐かしくて、新しい音。

 その音を聞きながら、俺は空を見上げた。

 翡翠球。

 パラレルワールド。

 SPМ。

 ゲート。

 問題は、まだ山ほどある。

 でも。

 それでも。

 俺たちは、止まっていない。

 この東京は、ただ守られるだけの場所じゃなくなっている。

 自分たちで働き、作り、動き、進んでいる。

 電車の音が遠ざかっていく。

 その音はまるで、止まっていた時間がまた動き出したことを告げているようだった。

「……次は、もっと遠くまで繋げたいな」

 自然と、そんな言葉が漏れた。

 未来が隣で笑う。

「東京の外?」

「あぁ」

 俺は頷く。

「いつかはな」

 今すぐじゃない。

 まだやるべきことは多い。

 でも、いつか。

 東京の中だけじゃなく、外の世界にもこの音を戻せたら。

 そう思った。

 その時、遠くから二台のバスが駅前へ入ってきた。

 新しく整備されたバス停に停まる。

 バスの扉が開き、乗客が降りる。

 電車とバス。

 線路と道路。

 人の流れが生まれる。

 街が、さらに動き出す。

 俺はその光景を見ながら、小さく息を吐いた。

「よし」

 誰に言うでもなく、呟く。

「また一つ、日常が戻ったな」

 その言葉に、隣の陸斗が静かに頷いた。

「はい」

 未来も笑って頷く。

「うん」

 ホームには、まだ拍手と歓声が残っていた。

 そして線路の向こうへ走っていく電車の音が、東京の朝に響いていた。

 世界が壊れても。

 人は、また道を作る。

 止まっていた駅に人が戻り、錆びた線路に車輪が乗り、誰かの行きたい場所へ向かって走り出す。

 その光景を見て、俺は改めて思った。

 俺たちは、ただ生き延びているだけじゃない。

 ちゃんと、生きている。


 この東京は――今日もまた、前へ進んでいた。

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