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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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翡翠球の記憶

第74話です。少し長めですが宜しくお願いします。


 コン太がこの東京に来てから、一週間が経った。

 最初は、正直どうなることかと思っていた。

 何せ、突然ゲートから現れた小さなキツネのような存在だ。

 フォック族。

 翡翠球。

 パラレルワールド。

 口にするだけでも頭が痛くなるような情報を引っ提げて現れた、別世界からの来訪者。

 普通に考えれば、警戒するべき相手だった。

 いや、今でも警戒はしている。

 完全に何もかも信用したわけじゃない。


 それでも――


「コン太ちゃん、こっち向いて!」

「こうかコン?」

「違う違う、もうちょっと首を傾げて!」

「こうかコン?」

「可愛いー!」

「もふもふですー!」

「ちょ、くすぐったいコン! 尻尾は優しく触るコン!」

 ……うん。

 完全に馴染んでいた。

 中央会館の一室。

 コン太は、美咲と三葉に囲まれながら、今日も朝から毛並みを整えられていた。

 美咲は目を輝かせ、三葉は嬉しそうに尻尾の手入れをしている。

 そして、少し離れた場所では芹沢が頬に手を当てて、うっとりした顔でコン太を眺めていた。

「やだぁ♡ 今日もコンちゃん可愛すぎるんだけどぉ♡」

「芹沢、近いコン……!」

「だって可愛いんだもん♡」

「可愛いは認めるけど、抱きしめるのは許可制だコン!」

「もう、ちゃんと自己主張できて偉い♡」

 何なんだ、この空間。

 数日前まで、異世界から来た存在をどう扱うかで真剣に会議をしていたはずなのに。

 今では完全に中央会館のマスコットだ。

 いや、本人も分かっているのか、最近は少しだけ調子に乗っている気もする。

「オイラ、この場所では人気者だコン!」

 コン太が胸を張る。

 俺はその横を通り過ぎながら、軽く言った。

「調子に乗るなよ」

「乗ってないコン! 事実を言っただけだコン!」

「そういうところだよ」

 浮田がコーヒーを片手に呆れたように笑う。

「もう完全に居候じゃねぇか」

「居候じゃないコン。保護されてるコン」

「言い方だけ立派になったな」

 コン太はふんすと鼻を鳴らした。

 その後ろでは、ルドルフがメモを片手に真面目な顔をしている。

「コン太さん、その“コン”という語尾は、意識して発しているのですか? それとも種族的な言語習慣なのでしょうか」

「またその質問だコン?」

「大事なことです」

「コンはコンだコン」

「なるほど……」

「それで納得するのかよ」

 浮田がすかさずツッコむ。

 ルドルフは真面目な顔で頷いた。

「言語文化というものは、外部から見れば不可解でも、当事者にとっては当然のものですから」

「まあ、それはそうかもしれねぇけどよ」

 コン太はルドルフの難しい言葉に首を傾げながらも、どこか嬉しそうだった。

 最初は、少し怯えていた。

 当然だ。

 仲間に裏切られ、モンスターの囮にされかけ、偶然ゲートに落ちて別世界へ来た。

 そんな状態で安心しろという方が無理がある。

 だが、この一週間。

 コン太は少しずつ、この場所に馴染んでいった。

 チャン爺の料理を毎回楽しみにし、美咲と三葉に遊ばれ、芹沢に可愛がられ、ルドルフに質問攻めにされ、浮田にツッコまれる。

 そういう日常の中で、ほんの少しずつだが、コン太の表情から怯えが薄れていった気がする。

 もちろん、外にはまだ出していない。

 住民に知られれば騒ぎになる。

 モンスターと勘違いされる可能性もある。

 何より、噂がSPМに届くのは避けたい。

 だから今は、中央会館内の決まった範囲で生活してもらっている。

 不自由はあるだろう。

 だが、コン太は文句一つ言わなかった。


 むしろ――


「チャン爺、今日の朝ご飯は何だコン?」

「本日は和風の朝食をご用意しております」

「和風……!」

「炊きたての白米、味噌汁、焼き魚、卵焼き、漬物でございます」

「すごいコン! 言葉だけで美味しそうだコン!」

 ……かなり満喫しているようにも見える。

 まあ、それならそれでいい。

 元の世界で傷ついた分くらい、ここでは安心して過ごしてほしい。

 そんなことを考えながら、俺は応接室へ向かった。


 ◇


 この一週間、俺たちは何度かコン太から翡翠球について話を聞いていた。

 初日に真実の口で確認した通り、コン太が話している内容に嘘はない。

 もちろん、コン太自身が知らないことや勘違いしていることはあるかもしれない。

 それでも、翡翠球という世界の輪郭は少しずつ見え始めていた。

 そして今日、その情報を改めて整理することになっていた。

 応接室にはすでに何人か集まっていた。

 未来、陸斗、浮田、ルドルフ、チャン爺。

 それからコン太。

 美咲も、コン太の隣に座っている。

 メモ係のように、二葉が端に控えていた。

 三葉はコン太の後ろで尻尾を撫でようとして、一葉に静かに止められている。

「三葉、会議中ですよ」

「ちょっとだけですー」

「ちょっとだけでも駄目です」

「コン太は別にいいコン」

「コン太様も甘やかさないでくださいませ」

「ごめんだコン」

 すでに会議前から若干ゆるい。

 俺は席に座り、軽く息を吐いた。

「じゃあ、始めるか」

 その言葉で、全員の視線が集まる。

 コン太は少しだけ背筋を伸ばした。

「まず、翡翠球について改めて整理する」

「あの星は……コン太の話では、緑色で自然に囲まれた星らしい」

 俺が言うと、コン太がこくこく頷いた。

「そうだコン」

「翡翠球は、森がたくさんあるコン」

「山も川も広い草原もあるコン」

「空気も綺麗で、花の匂いがよくするコン」

 その言い方には、懐かしさが混じっていた。

 ただの説明じゃない。

 自分の故郷を思い出している声だ。

「この東京みたいな高い建物はないんだよな?」

「ないコン!」

 コン太は即答した。

「最初に窓から外を見た時、オイラびっくりしたコン!」

「建物が空まで伸びてるみたいだったコン!」

「あと、鉄の箱が道路を走ってたコン!」

「車な」

「車って怖いコン。音がするし速いコン」

「慣れれば便利だぞ」

「でも生き物じゃないのに動くコン。変だコン」

 そう言われると、確かに。

 コン太からすれば、車は相当奇妙なものに見えるんだろう。

 陸斗が興味深そうに聞く。

「翡翠球には乗り物はないんですか?」

「あるコン」

 コン太は考えながら答える。

「荷車とか、ホーズ族に引いてもらう車とかはあるコン」

「でも、地球の車みたいに勝手にブーンって走るのはないコン」

「ホーズ族……?」

 ホーズ族というのはこちらの世界でいう馬である。

 浮田が眉をひそめる。

「馬も喋るのか?」

「喋るコン」

 コン太は当然のように言った。

「翡翠球では、会話できる動物が多いコン」

 ここが、地球との大きな違いだった。

 翡翠球には人族がいる。

 だが、それだけじゃない。

 フォック族のように、動物が種族として分かれ、言葉を持ち、文化を持っている。

 コン太の話では、翡翠球の動物の八割以上は人族や他種族と会話ができるらしい。

「八割以上……」

 ルドルフが小さく呟く。

「かなり高い割合ですね」

「残りの動物は?」

 俺が聞くと、コン太は耳を動かしながら答えた。

「特定の種族同士だけで話せる動物もいるコン」

「例えば、バーディ族同士だけなら分かるけど、人族やフォック族とは話せないとか、そういう感じだコン」

 バーディ族とは鳥類の事である。

「完全に話せない動物もいるのか?」

「いるけど、少ないコン」

「それでも昔よりずっと減ったって聞いたことあるコン」

 未来が少し身を乗り出した。

「昔は話せなかったの?」

「大昔は、ほとんどの動物が話せなかったらしいコン」

 コン太は、どこか昔話を語るように続ける。

「でも、人族と動物が一緒に生きていく中で、人族が言葉を教えたって言われてるコン」

「最初は簡単な合図だったらしいコン」

「危ない、とか、食べ物、とか、こっち、とか」

「それが長い時間をかけて、言葉になって……」

「そこから、動物たちも変わっていったって聞いたコン」

 陸斗が静かに言う。

「進化……ということでしょうか」

「そうだコン」

「フォック族も、昔はただの狐だったって言われてるコン」

 コン太は自分の胸を軽く叩いた。

「でも、人族と一緒に暮らして、言葉を覚えて、道具を使うようになって、今のフォック族になったって聞いたコン」

「なるほどな……」

 俺は腕を組む。

 面白い。

 いや、面白いなんて言葉で済ませていい話じゃないかもしれない。

 地球では、人間は人間中心に文明を築いた。

 動物と共存すると言いつつも、基本的には人間が環境を支配し、動物はその外側に置かれていた。

 だが翡翠球では違う。

 人族と動物がもっと近い距離で生き、言葉を共有し、共に進化した。

 その結果、フォック族のような種族が生まれた。

(……もし地球の人間が、太古から動物と本気で共存する道を選んでいたら)

 俺は思う。

(翡翠球みたいな世界になっていたのかもしれない)

 そう考えると、秘書の言っていたパラレルワールド説が、さらに現実味を帯びてくる。

 別の星というより、別の可能性。

 人間が違う選択をした世界線。

 それが翡翠球なのかもしれない。 


 ◇


「でも、全部の種族が仲良しってわけじゃないんだよな?」

 浮田が聞いた。

「そうだコン」

 コン太は少しだけ表情を真面目にする。

「肉食の種族もいるし、草食の種族もいるコン」

「追う側と、追われる側はあるコン」

「言葉が通じるからって、みんな仲良しとは限らないコン」

 その言葉は、少し意外だった。

 可愛い見た目のコン太が言うから余計にだ。

「自然は、優しいだけじゃないコン」

 コン太は小さく言う。

「食べるために追う種族もいるコン」

「でも、言葉が通じるから、縄張りの約束とか、狩りをしちゃいけない場所とか、そういう決まりもあるコン」

「なるほどな」

 浮田が頷く。

「弱肉強食は残ってるが、言葉があるぶんルールもあるってことか」

「そうだコン」

 コン太は頷いた。

「フォック族は小さいから、危ない種族には近づかないコン」

「逃げ足は速いんだコン!」

「今回も逃げ切れなかったけどな」

 俺が言うと、コン太はしゅんとした。

「それを言わないでほしいコン……」

「悪い悪い」

 軽く謝る。

 だが、コン太がそうやって少しずつ冗談っぽく返せるようになってきたのは、悪いことじゃない。

 少なくとも、完全に塞ぎ込んではいない。

「それから、能力についてだ」

 俺は次の話題に移る。

「コン太、翡翠球ではゲートが出てから、人族の中に超人族みたいな存在は出たのか?」

 コン太は首を傾げた。

「超人族っていうのは知らないコン」

「でも、人族は昔から不思議な力を使える人がいるコン」

「不思議な力?」

 未来が聞く。

「占星術とか、呪術とかだコン」

 コン太は一生懸命思い出しながら話す。

「星を読んで未来を少しだけ見たり、まじないで獣よけをしたり、病気がよくなるように祈ったりする人、他にも魔術のようなものを操るものがいるコン」

「それは、元から人族が持っていた能力なのか?」

「そう聞いてるコン」

「ただ、ゲートが開いてから、その力が強くなった人族もいるらしいコン」

 陸斗が目を細める。

「地球ではスキルとして発現して、翡翠球では既存の術が強化された……ということでしょうか」

「可能性はあるな」

 浮田も頷く。

「世界ごとに“変化の出方”が違うのかもしれねぇ」

 ルドルフが静かに続ける。

「もともとある文化や能力体系に合わせて、力の形が変わる……と考えると、興味深いですね」

「コン太は、人族が種族として変わったかどうかは知らないんだよな?」

「知らないコン」

 コン太は首を振る。

「超人族っていう言葉も聞いたことないコン」

「でも、ゲートが開いてから強くなった人族がいるとは聞いたコン」

「そうか」

 俺は頷く。

 この情報も大きい。

 地球では、人間の中から超人族が生まれた。

 スキルを得て、種族として変わった。

 だが翡翠球では、少なくともコン太の知る範囲では、もともとあった占星術や呪術が強化された。

 つまり、ゲート現象は全ての世界に同じ影響を与えているわけではないのかもしれない。

 世界ごとに違う。

 文化ごとに違う。

 生き方ごとに違う。

(……ますます分からなくなってきたな)

 俺は心の中で呟いた。

 だが、分からないことが増えるのは、前進している証拠でもある。

 何も知らないよりは、ずっといい。


 ◇


「ここまで聞く限り」

 俺は全員を見渡した。

「翡翠球は、地球とはかなり違う世界だ」

「でも、完全に無関係とも思えない」

「人族がいて、似た名前の道具や文化があって、ただ発展の方向性が違う」

「人間が人間だけで発展していったのが地球」

「人族が動物たちと共存共栄していった世界線が、翡翠球」

「そう考えると、やっぱり秘書の言っていたパラレルワールド説は現実味を増してくる」

 チャン爺が静かに頷いた。

「なるほど……選択の違いが世界そのものを変えた、ということでございますか」

「あぁ」

 俺は頷く。

「もちろん、まだ仮説だ」

「でも、ただの別の星と考えるよりはしっくりくる」

 未来が静かに言う。

「地球にも、昔は人と動物がもっと近かった時代があったもんね」

「そうだな」

 俺は頷く。

 昔話。

 神話。

 動物と話す人間。

 狐や狸が人を化かす話。

 そういうものは地球にもある。

 単なる空想と言い切るには、今の俺たちはあまりにも色々な現実を見すぎている。

「だから、今後もコン太からは少しずつ話を聞く」

「ただし、無理には聞かない」

 俺はコン太を見る。

「思い出すのがつらいこともあるだろうからな」

 コン太は、少しだけ目を丸くしてから、こくりと頷いた。

「ありがとうだコン」

「でも、オイラに分かることなら話すコン」

「ここにはお世話になってるコン」

 素直だ。

 本当に。

 この素直さは、強さでもあり危うさでもある。


 ◇


「次に、今後の方針だ」

 俺は話を切り替えた。

 空気が少し引き締まる。

「まず、SPМについて」

「向こうの動きが分からない以上、こちらから余計な情報は出さない」

「向こうから接触があれば、今まで通り、何も知らない顔で対応する」

 浮田が頷く。

「門脇たちの件もあるしな」

「あぁ」

 未来が索敵で見たこと。

 門脇たちが、ヴァンパイアバット戦を観察していたこと。

 それなのに“今来た”ように振る舞ったこと。

 あれは無視できない。

「門脇個人を完全に敵視するつもりはない」

「だが、SPМ全体は警戒する」

「フトゥーロが言っていた第二の厄災、内部崩壊」

「それがある以上、軽率に信用はできない」

 陸斗が静かに言う。

「コン太さんの情報は、特に伏せるべきですね」

「あぁ」

「もし知られれば、SPМがどう動くか分かりません」

「そうだな」

 コン太の存在は、情報として大きすぎる。

 ゲートの先に別世界がある証明。

 平行世界の住人。

 それを今のSPМに見せるのは危険すぎる。

「コン太については、引き続き中央会館内で保護する」

「外に出る方法については、今はまだ考え中だ」

「しばらくは不自由をかけるが、我慢してくれ」

 コン太は大きく頷いた。

「分かったコン!」

「チャン爺のご飯があれば平気だコン!」

「そこなのかよ」

 浮田が呆れたように笑う。

 だが、コン太らしい返事に、少しだけ空気が和らいだ。


「それから――もう一つ」


 俺は、少しだけ息を吸った。

「交通網の件だ」

 この話をすると、部屋の空気がまた別の方向に変わった。

 重い話ばかりではない。

 この一週間で、東京はまた一つ前へ進もうとしていた。


 ◇


「モンスター討伐に行く前から話していた、駅と路線の整備」

「それが、もう間もなく本格的に形になる」

 その言葉に、美咲の顔が明るくなる。

「電車が走るの?」

「あぁ」

「本当に?」

「本当だ」

 美咲はぱっと笑顔になった。

 コン太は首を傾げる。

「電車って何だコン?」

「車よりでかくて、線路の上を走る乗り物だ」

「線路?」

「まあ、見れば分かる」

「楽しみだコン!」

 コン太は目を輝かせた。

 外には出せないが、中央会館の窓からなら見られる場所もあるだろう。

 それくらいなら、いつか見せてやってもいいかもしれない。

「東京は広い」

 俺は説明を続ける。

「今まではタクシー、車、自転車、徒歩が中心だった」

「だが、人が増え、産業が動き始めた今、それだけでは限界がある」

「農業や工業、銀行、役所、商業施設、学校」

「全部が動き始めれば、人も物も移動しなきゃいけない」

「だから、鉄道とバスを復活させる」

 浮田が口元を緩める。

「また一気に社会っぽくなってきたな」

「あぁ」

「やるなら早い方がいい」

 銀行を作った。

 第一次産業を始めた。

 第二次産業も動き始めた。

 なら、次に必要なのは人と物を運ぶ仕組みだ。

 東京は、かつて交通網が発達していた都市だ。

 駅があり、線路があり、バス停があり、道路がある。

 壊れたものを直せるなら、それを使わない手はない。

「旧駅舎や線路、電車、踏切」

「使えるものは全部修復する」

「さらに、必要な場所にはテリトリー置換で駅を移動させる」

「内装変更、外装変更で使いやすくする」

 陸斗が頷く。

「既存のインフラを利用できるのは大きいですね」

「あぁ」

「ゼロから作るよりずっと早い」

 そして、俺は少しだけ笑った。

「何より、鉄道関係者たちの熱量がすごい」

 この一週間、元駅長、元運転士、元車掌、整備士、バス会社関係者、都市交通の元職員。

 そして、なぜかやたら熱い鉄道オタクたち。

 彼らと話し合いを重ねていた。

 最初は半信半疑だった。

 本当に電車を走らせられるのか。

 線路は直るのか。

 車両は動くのか。

 駅は機能するのか。

 だが、俺が実際に古い駅舎を修復し、錆びた線路を戻し、車両の内装を蘇らせると、空気が一変した。

 あの瞬間の鉄道関係者たちの顔は、今でも忘れられない。

 まるで失った夢をもう一度手渡されたような顔だった。


 そして、撮り鉄たちは――まあ、別の意味で大変だった。


「復活一番列車を撮りたい」とか、「駅名標は昔のデザインも残してほしい」とか、「車両の外装は当時の色を再現できないか」とか。

 正直、やたら細かかった。

 だが、その細かさが意外と役に立った。

 昔の駅や車両の資料を持っている住民もいて、かなり参考になったからだ。

「じゃあ、次はその交通網の仕上げだ」

 俺は立ち上がる。

「ここから先は、実際に見た方が早い」

 会議室の空気が少し明るくなる。

 コン太も目を輝かせる。

「オイラも見たいコン!」

「窓から見える範囲ならな」

「分かったコン!」

 素直に頷くコン太を見て、俺は少し笑った。

 翡翠球の話。

 SPМの警戒。

 パラレルワールド。

 重い問題は山ほどある。

 だが、それでも東京の日常は止めない。

 むしろ、進める。

 止まっている暇なんてない。

 俺は窓の外を見る。

 かつて壊れた東京。

 その中に、もう一度線路が走ろうとしている。

 また一つ、日常が戻ってくる音が近づいていた。

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