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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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翡翠球と真実の口(後半)

第73話です。宜しくお願いします。


 俺の言葉に、部屋の空気が静かに引き締まった。

 真実の口。

 ルドルフのスキル。


 嘘を見抜くための能力であり、同時に――相手にとってはかなり強い精神的負担を与えるスキルでもある。


 実際、俺も初めて見た時はかなり驚いた。

 いや、驚いたなんてもんじゃない。

 あれは、スキルというより“裁き”に近い。

 嘘をつけば、手を噛みちぎられる幻覚を見せられる。

 本当に傷つくわけではない。

 だが、それでも恐怖は本物だ。

 コン太にそれを受けさせる。

 正直、気が進まない。


 でも――必要だった。


「……分かりました」

 ルドルフは、静かに頷いた。

 その表情は真剣だった。

 コン太は、俺とルドルフを交互に見て、首を傾げる。

「真実の口……だコン?」

「あぁ」

 俺はコン太に向き直った。

「コン太、すまない」

 最初に、そう言った。

 コン太の耳がぴくりと動く。

「俺は、お前のことを信じたいと思ってる」

「でも、お前の話がもし嘘だった場合、笑い事では済まない」

 コン太は黙って聞いている。

 さっきまで軽食を気にしていた顔ではない。

 真剣に、俺の言葉を聞いていた。

「お前が悪いやつかどうかを疑いたいわけじゃない」

「ただ、この話は大きすぎる」

「翡翠球、フォック族、パラレルワールド、ゲートの先……全部が本当なら、俺たちの今後に大きく関わる」

 一拍置く。

「それに、俺たちはお前を守りたい」

 コン太が目を丸くする。

「守る……だコン?」

「あぁ」

 俺は頷いた。

「でも、守るためには安心材料がいる」

「お前が嘘をついていないと、俺たち全員が納得できる材料だ」

 コン太はしばらく黙っていた。

 小さな手で、自分の服の裾を握る。

 不安そうではある。

 だが、逃げようとはしなかった。

「……どういう事だコン?」

 コン太が尋ねる。

 すると、ルドルフが静かに口を開いた。

「今から、私のスキルを使います」

 ルドルフはコン太の目線に合わせるように、少しだけ身を屈めた。

「真実の口、というスキルです」

「私が質問したことに、正直に答えてください」

「私の前では、嘘をつくことができません」

「嘘をつかなければ、何も起きません」

 コン太はごくりと喉を鳴らした。

「嘘をついたら……どうなるコン?」

 その質問に、ルドルフは少しだけ困ったような顔をした。

 答えにくいのだろう。

 すると、芹沢が横からさらっと言う。

「ちょっと怖い目に遭うだけよぉ♡」

「芹沢、言い方」

 浮田がすぐに突っ込む。

「え〜、でも本当じゃない♡」

「余計怖くなるだろ」

 コン太は、耳をぺたんと倒して俺にしがみついた。

「こ、怖いコン……」

「だから、最初に謝っただろ」

 俺は苦笑しながら、コン太の頭を軽く撫でる。

「でも、お前が嘘をついてないなら大丈夫だ」

 コン太は俺を見上げる。

 しばらくしてから、小さく頷いた。

「……分かっただコン」

「オイラ、嘘ついてないコン」

「だから、大丈夫だコン」

 その言葉を聞いて、俺は頷いた。

「ありがとう」

 ルドルフが一歩前に出る。

 場の空気が、さらに静かになった。

 美咲が少し不安そうにコン太を見る。

 三葉も、さっきまでの元気な表情を引っ込めていた。

 チャン爺はいつも通り静かだが、視線だけは真実の口の発動を見守っている。

 そして、ルドルフが低く告げた。


「――真実の口」


 ◇


 その瞬間だった。

 空気が、変わる。

 ピリ、と肌に刺さるような圧。

 部屋の温度が一段下がったように感じた。

 次の瞬間、コン太の前の空間が歪む。

 黒い影のようなものが床から広がった。

 それは水のように揺れながら形を作り、ゆっくりと盛り上がっていく。


 そして――現れた。


 巨大な口。

 石でできているような、無機質な質感。

 だが、ただの石像ではない。

 確かにそこに“生きている”と感じさせる、奇妙な存在感。

 歯は重厚で、奥は暗く、見ているだけで背筋がざわつく。

「ひぇぇぇぇ!? 食べられるコン!?」

 コン太が悲鳴を上げた。

 俺の腕にしがみつこうとしたが、その前にコン太の片手が、真実の口の方へ引き寄せられる。

「うわっ、うわわわわ!?」

「落ち着いてください」

 ルドルフが静かに言う。

「嘘をつかなければ大丈夫です」

「本当に大丈夫コン!?」

「はい」

「絶対コン!?」

「はい」

 それでもコン太の手は、ゆっくりと真実の口の中に吸い込まれていく。

 巨大な歯の間に、小さな手が入る。

 見ているだけで、こっちまで緊張する。

 コン太の体がぷるぷる震えている。

「こ、これ、怖いコン……!」

「頑張れ、コン太ちゃん……!」

 美咲が小さく声をかける。

「嘘つかなきゃ平気ですー!」

 三葉も応援する。

「その応援、微妙に怖いコン!」

 コン太が泣きそうな顔で言う。

 だが、真実の口は静かにそこにある。

 ルドルフが、問いを始めた。

「コン太さん」

「は、はいだコン……!」

「あなたは、今まで私たちに話した内容について、嘘をついていましたか?」

 部屋の空気が止まる。

 コン太は、震えながらもはっきり答えた。

「ついてないコン!」


 真実の口は――動かない。


 何も起きない。

 噛まない。

 反応しない。

 俺は、ほんの少しだけ息を吐いた。

 まだ一つ目だ。

 ルドルフは続ける。

「あなたは、これから私たち全員を騙そうと考えていますか?」

 その問いに、コン太は大きく目を見開いた。

 そして、ぶんぶんと首を横に振る。

「そんなこと考えてないコン!」

「助けてくれた人たちを騙すなんて、そんな酷いことしないコン!」

「ご飯もくれて、優しくしてくれて……オイラ、そんなこと絶対しないコン!」

 声が震えている。

 でも、それは恐怖だけじゃない。

 必死に伝えようとしている声だった。

 真実の口は、やはり何も反応しなかった。

 俺は思わず、強く息を吐いた。

「……良かった」

 声が漏れた。

 無意識だった。

 コン太が嘘をついていない。

 少なくとも、今まで話したことについては。

 そして俺たちを騙そうともしていない。

 それだけで、胸の奥につかえていたものが少しだけ落ちた。

 ルドルフも静かに頷く。

「終了です」

 その言葉と共に、真実の口がゆっくりと消えていく。

 黒い影が床へ沈むように薄れ、空間の歪みも元に戻る。

 圧が消える。

 空気が、元に戻った。

 コン太はその場にへたり込んだ。

「た、助かったコン……」

 その姿に、少しだけ笑いが起こる。

 美咲がすぐに近寄る。

「コン太ちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫だコン……たぶん寿命が十年縮んだコン……」

「大げさだな」

 浮田が苦笑する。

「でも、よく頑張ったな」

 珍しく優しい声だった。

 コン太はうるっとした目で浮田を見る。

「浮田も優しいコン……!」

「俺“も”ってなんだよ」

 また少し笑いが広がる。

 だが、その直後。

 芹沢がにこにこしながらコン太に近づいた。

「コンちゃん♡」

「何だコン?」

「ちなみにぃ、もしあそこで嘘をついてたら、手を噛みちぎられる幻覚を見てたのよ♡」

「えーーー!!」

 コン太が跳ねた。

「怖すぎるコン!!」

 そのまま俺の方へ走ってきて、また胸元に飛び込んでくる。

「悠真ぁぁぁ!怖かったコン!怖かったコン!」

「だから最初に謝っただろ?」

 俺は苦笑しながら、コン太を受け止める。

「でも、ちゃんと嘘じゃないって分かった」

「それは大事なことだ」

 コン太は俺の服をぎゅっと掴みながら、こくこく頷いた。

「オイラ、嘘ついてないコン……」

「あぁ、分かったよ」

 頭を撫でると、コン太は少しだけ落ち着いたようだった。

 その様子を見て、浮田がまたニヤニヤする。

「お前、完全に懐かれてるな」

「うるさいな」

「いや、もう飼い主じゃん」

「誰が飼い主だ」

 コン太が顔を上げる。

「飼われるのは嫌だコン。でもご飯は欲しいコン」

「欲望が素直すぎるだろ」

 また笑いが起きる。

 重い話が続いた分、その笑いは少しだけありがたかった。

 だが、俺はすぐに表情を戻す。

 コン太が嘘をついていないと分かった。

 それは大きい。

 しかし、問題が解決したわけではない。

 むしろ、ここからが本番だ。


 ◇


「これで、コン太の話が嘘じゃないことは確認できた」

 俺は全員を見渡す。

「少なくとも、俺たちを騙そうとしているわけじゃない」

 陸斗が頷く。

「安心材料にはなりましたね」

「あぁ」

 ルドルフも静かに言う。

「信頼の第一段階としては、十分だと思います」

 チャン爺が一礼する。

「では、コン太様の生活環境については、こちらで整えます」

「頼む」

「まずは中央会館内の一室をお使いいただくのがよろしいかと」

「そうだな」

 住民に不用意に見られない場所。

 それでいて、監視というより保護に近い形にしたい。

「閉じ込めるつもりはない」

 俺はコン太に言う。

「ただ、今は外に出ると危ない」

「お前にとっても、俺たちにとってもな」

 コン太は素直に頷く。

「分かってるコン」

「オイラ、しばらくここにいるコン」

 そして、少しだけ不安そうに聞く。

「……でも、チャン爺のご飯は食べられるコン?」

「食べられる」

「なら大丈夫だコン!」

「本当に飯で安心するんだな」

「大事だコン!」

 胸を張るコン太に、三葉が元気よく頷く。

「ご飯は大事ですー!」

「お前ら気が合いそうだな」

 俺は思わず笑う。

 美咲も嬉しそうに言う。

「コン太ちゃん、明日一緒に遊ぼうね!」

「遊ぶコン!」

 二葉がすかさず釘を刺す。

「ただし、コン太様が疲れない範囲でお願いしますね」

「はーい!」

「分かったコン!」

 返事だけはいい二人だった。

 一葉は穏やかに微笑んでいる。

「お部屋の準備を進めてまいります」

「ありがとう」

 一葉が静かに下がる。

 チャン爺もそれに続こうとしたが、俺が声をかけた。

「チャン爺」

「はい、坊ちゃま」

「念のため、コン太の部屋は中央会館の中でも外から見えにくい場所にしてくれ」

「承知いたしました」

「それから、服も用意してやってくれ」

 コン太の服は、まだ薄汚れている。

 ボロボロだ。

 いくら可愛い見た目でも、あれはさすがにそのままにはできない。

「サイズは……難しいかもしれないが」

「問題ございません」

 チャン爺は即答した。

「採寸の上、適切な衣服を用意いたします」

「さすがだな」

「お任せください」

 コン太が感動したように目を輝かせる。

「新しい服ももらえるコン!?」

「あぁ」

「すごいコン……ここ天国コン……?」

「天国ではないな」

 浮田が即答する。

「でもまあ、外よりはマシだろ」

 その言葉に、コン太は静かに頷いた。

「……うん」

「外は、怖いコン」

 その一言に、少しだけ空気が重くなる。

 翡翠球で起きたこと。

 仲間に押されたこと。

 ゲートへ落ちたこと。

 コン太は、まだその全部を飲み込めていないはずだ。

 今日ここで笑っているからといって、傷が消えたわけじゃない。

 俺はそれを忘れないようにしないといけない。

「コン太」

「何だコン?」

「今日はもう休め」

「話はまた明日以降、少しずつ聞く」

 コン太は少しだけ安心したように頷いた。

「分かったコン」

「いっぱい寝るコン」

「いっぱい食ってからな」

「食べるコン!」

「そこは譲らないんだな」

 場にまた笑いが戻る。


 ◇


 だが、俺の頭の中では、すでに次の問題が動き始めていた。

 コン太の話は本当だった。

 翡翠球という別世界が存在する可能性が高い。

 そして、その世界にもゲートが開き、モンスターが現れている。

 つまり、これは地球だけの問題ではない。

 もしかすると、いくつもの世界が同時に崩れ始めている。

 その原因は何なのか。

 フトゥーロはどこまで知っているのか。

 ゲートは何のために開いているのか。


 そして――SPМは、この情報を知った時にどう動くのか。


(……問題が増えたな)

 思わずため息が出そうになる。

 だが、今この瞬間だけは、コン太が嘘をついていないと分かったことを喜んでもいい気がした。

 俺は全員を見渡す。

「今日のところは、一旦ここまでにする」

「コン太の件は、今この場にいるメンバーだけで共有する」

「外部には漏らさない」

 全員が頷いた。

 浮田が言う。

「SPМにも、住民にも、今は伏せる」

「あぁ」

 陸斗も続ける。

「情報管理は徹底した方がいいですね」

「万が一漏れた場合、コン太さん自身も危険ですし、東京全体も混乱します」

「そうだな」

「まずはコン太の保護」

「それと、翡翠球についての情報収集」

「そして、SPМへの警戒」

「この三つを進める」

 そうまとめると、チャン爺が一礼した。

「承知いたしました」

 浮田も頷く。

「了解だ」

 未来も、少し真剣な顔で頷いた。

「分かった」

 コン太は、まだ全部理解しきれていないようだったが、それでも一生懸命頷いていた。

「オイラも、分かったコン!」

「お前はまず休め」

「分かったコン!」

 その返事に、また少しだけ笑いが起きる。

 会議はそこで一旦終わった。

 チャン爺と一葉、二葉、三葉がコン太の部屋の準備へ向かう。

 美咲は「また明日ね」と言ってコン太に手を振っている。

 芹沢は最後まで「コンちゃん可愛い♡」と名残惜しそうだったが、浮田に軽く引っ張られて離されていた。

 コン太は、チャン爺の後ろをちょこちょこと歩いていく。

 その姿は、小さくて頼りない。

 でも、さっきより少しだけ安心しているように見えた。

 俺はその背中を見送りながら、小さく息を吐く。

「……翡翠球、か」

 聞き慣れない言葉。

 だが、これから何度も向き合うことになるのかもしれない。

 隣に立った未来が、静かに言う。

「また、分からないことが増えたね」

「あぁ」

 俺は頷く。

「でも、分からないからって放っておけない」

「うん」

 未来は小さく頷いた。

 その表情は、どこか決意を固めているようにも見えた。

 俺は窓の外を見る。

 東京の夜。

 中央会館の灯り。

 その下で、人々は今日も生きている。

 そして今、この場所には別世界から来た小さなキツネがいる。

 世界は、まだまだ俺たちの知らない顔を隠している。

 それでも。

 俺は、守ると決めた。

 この東京を。

 この日常を。

 そして、ここに助けを求めて辿り着いた者たちを。

「……やることは変わらないな」

 俺は小さく呟いた。

 未来がこちらを見る。

「守るんでしょ?」

「あぁ」

 俺は頷いた。

「守る」

 たとえ、それが地球だけの問題じゃなくなったとしても。

 まずは、目の前の一人から。

 コン太の小さな背中が廊下の奥へ消えていくのを見届けながら、俺はもう一度、そう心の中で誓った。

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