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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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66/167

外の脅威と新たな戦場(前半)

第66話です。宜しくお願い致します。


 会議室に、重い沈黙が落ちていた。

 俺が最後に投げた問い。


 ――なぜ、地震の時に来なかったのか。


 それに対して、門脇はすぐには答えなかった。

 紅茶のカップに視線を落としたまま、しばらく黙っている。

 隣に座る犬飼も、いつもの軽さを消していた。


 ただ、その沈黙は“答えたくない”というより――どう言えばいいのかを探しているように見えた。


「……それに関しては、すまなかったと思っている」

 やがて、門脇が静かに口を開いた。

 その声には、いつもの気の抜けたような雰囲気は少なかった。

「地震については、こちらでも会議は行ったんだ」

「……会議はしたのか」

「あぁ」

 門脇は頷く。

「だが、一旦見送りになった」

「見送り……」

 思わず、俺はその言葉を繰り返していた。

 その響きが、妙に引っかかった。

 東京で大地震が起こるかもしれない。

 それを聞いておいて、見送り。

 普通に考えれば、納得できる言葉ではない。


 だが――同時に、俺はSPМの全体像を知らない。


 あいつらにもあいつらの事情があるのかもしれない。

 そう思いながら、黙って続きを待つ。

「ただ、東京以外の関東の県にも、少なからず被害は出た」

 門脇は続ける。

「東京ほどではないにしろ、建物の倒壊、避難民の移動、ゲートの活性化……色々とな」

「そっちの対処をしていたんだ」

 犬飼も小さく頷いた。

「本当に、人手が足りなかったんすよ」

「東京に来なかったことを正当化するつもりはないっすけど……俺らも完全に手が空いてたわけじゃなかったんす」

 犬飼の言葉遣いは崩れているが、門脇に対してはしっかり敬意がある。

 ただ、今の言葉には、部下としてだけじゃない本音が混じっているように聞こえた。

「……そうか」

 俺は小さく息を吐いた。

「なら、仕方ないよな」

 完全に納得したわけではない。

 でも、責めるつもりもなかった。

 少なくとも、目の前の二人は嘘をついているようには見えない。

 門脇は、少しだけ俺を見た。

「あぁ。地震のことは、本当に助かった」

 その声は、真っ直ぐだった。

「改めて、東京の街を救ってくれてありがとう」

「……あぁ」

 俺は短く返す。

 感謝されるのは、やっぱり少し慣れない。

 だけど、門脇の言葉に嘘がないことは分かった。

 俺はコーヒーを一口飲み、カップを置く。


 ◇


「モンスター討伐には、俺と数名で行く」

 そう言うと、門脇の表情がわずかに緩んだ。

「本当か」

「あぁ。ただし、何日もは無理だ」

 俺ははっきり言った。

「こっちもまだまだやることが多い。駅の件もあるし、産業の方も完全に軌道に乗ったわけじゃない」

「分かっている」

 門脇は頷く。

「数日だけでも、本当に助かる」

 俺は軽く頷きながらも、内心では別のことを考えていた。

(……それに、SPМの内情も気になるしな)

 フトゥーロの言葉。

 内部崩壊。

 命令、思想、支配、恐怖。

 あの言葉が、今でも耳の奥に残っている。

 門脇の話を聞いても、違和感は完全には消えなかった。

 見送り。

 会議。

 地震対応。

 全部、筋は通っている。


 でも――何かが引っかかる。


 俺は、その違和感を胸の奥にしまったまま、門脇の差し出した地図を受け取った。

「ここか?」

「あぁ」

 門脇が地図上の一点を指す。

「茨城方面だ。ゲートが複数確認されている」

「複数……」

「少数の部隊では対処しきれなくなっている」

 犬飼が少しだけ苦笑した。

「正直、隊長たちが出れば何とかなるって思うかもしれないっすけど……範囲が広すぎるんすよ」

「一ヶ所潰してる間に、別の場所で湧く。そんな感じっす」

「なるほどな」

 東京は俺のテリトリーになっている。

 だから、状況を把握できる。

 修復もできる。

 人員配置もできる。

 でも、外は違う。

 東京の外に出れば、俺の支配領域ではない。

 それだけで、危険度は一気に上がる。

「準備ができ次第、この場所に来てくれ」

 門脇が言う。

「俺たちも、向こうで調整しておく」

「あぁ。分かった」

 そこで話は一旦終わった。

 門脇と犬飼は立ち上がる。

「今日は時間を取らせたな」

「いや、こっちも聞きたいことが聞けた」

「……そうか」

 門脇は一瞬だけ何かを言いかけたように見えた。

 だが、結局それ以上は何も言わず、静かに頷いた。

「では、また現地で」

「あぁ」

 犬飼も軽く頭を下げる。

「じゃあ、よろしくお願いします」

「おう」

 二人は会議室を出ていった。

 扉が閉まる。

 静寂。

 俺はしばらく、その扉を見つめていた。


 ◇


「……悠真さん」

 陸斗が声をかけてくる。

「行くんですか?」

「あぁ」

 俺は短く答えた。

「行く」

 それはモンスター討伐のためでもある。

 だが、それだけじゃない。

 SPМの今を、もう少し知る必要がある。

 そのためには、実際に外へ出て、あいつらの戦場を見るのが早い。

(……何もなければ、それでいい)

 そう思う。

 だが、胸の奥では別の自分が呟いていた。

(何かあるなら、今のうちに見ておかないとまずい)

 俺は、ゆっくりと息を吐いた。

「駅の件は、一旦もう少し話を詰めておく」

「はい」

「モンスター討伐から戻ったら、着手する」

 陸斗が頷く。

「分かりました」

 俺は席を立った。

 やることは決まった。

 なら、準備するだけだ。


 ◇


 門脇と犬飼が帰ってから、一週間が経った。

 その間、俺は駅の計画について、元駅員や建設関係者たちと改めて話し合った。

 路線をどうするか。

 駅の場所をどうするか。

 まずは地上路線から始めるのか。

 貨物輸送も考慮するのか。

 思っていた以上に話し合うことは多かった。

 だが、今すぐ全部を決める必要はない。

 大枠だけ決めて、工事の本格着手は討伐から帰った後にすることにした。

 街は、俺が少し離れても動く。

 銀行も、第一次産業も、第二次産業も、少しずつ自走し始めている。

 だからこそ、俺も外へ出られる。

 その事実は、少しだけ嬉しかった。

 そして出発当日。

 中央会館前には、一台のミニバンが用意されていた。

 今回のメンバーは、俺、陸斗、未来、色谷、阿川。

 そして、現地で俺が派遣スキルを使い、アル、ソックス、セイコを召喚する予定だ。

 本当は戦闘できるメンバー全員を連れていきたいところだが、それはできない。

 東京の守りを空にするわけにはいかないからだ。

 チャン爺、一葉、二葉、三葉、浮田、芹沢、警察組たち。

 彼らには東京を守ってもらう。

 今回は、少数精鋭だ。


 ◇


「阿川、今回は戦闘しなくていいからな」

 俺が確認すると、阿川は軽く肩をすくめた。

「するつもりもねぇよ」

「だよな」

「俺の仕事は、向こうまで行って場所を覚えることだろ?」

「あぁ」

 阿川のスキル“配管工”は、一度行った場所に繋ぐことができる。

 つまり、今回茨城方面の現地に行けば、次からは配管で繋げられるようになる。

 帰りも同じだ。

 戦闘よりも、その価値の方が遥かに大きい。

「何かあったら即撤退もできるしな」

「それは任せろ」

 阿川はいつも通り気だるそうに言ったが、その声には頼もしさがあった。

「未来、索敵頼む」

「うん!」

 未来はどこか楽しそうに頷いた。

 何となく嫌な予感がする。

「……お前、ちょっと嬉しそうじゃないか?」

「だって、東京以外のモンスターが見られるかもしれないんでしょ?」

「あぁ、まあな」

「新しいモンスター、登録できるかもしれないじゃん」

「やっぱりそれか」

 未来のスキル“動植物図鑑”。

 新しい生き物やモンスターを登録できるなら、確かに戦力拡張にもなる。

 だが、その目は完全に図鑑を埋めたい人間のそれだった。

 陸斗は少し呆れたように言う。

「未来さん、危険な場所に行くんですからね」

「分かってるって」

「本当ですか?」

「分かってる分かってる」

 明らかに軽い。

 陸斗は小さくため息をついた。

 十四歳なのに、相変わらず大人びている。

「色谷は?」

 俺が聞くと、色谷は明るく笑って拳を握った。

「久しぶりの本格戦闘だし、気合い入ってるぞ」

「頼りにしてる」

「任せろ。まとめて吹っ飛ばしてやる」

 爽やかに言っているが、内容はかなり物騒だ。

 まあ、こいつのスキル的には間違っていない。

「よし、行くか」

 俺は運転席に座る。

 全員が乗り込む。

 エンジンをかける。

 東京の門を出る。

 その瞬間、少しだけ空気が変わった気がした。

 整った道路。

 整備された街。 


 その外に広がるのは――まだ崩壊したままの世界だ。


 俺たちは、その外へ向かって進み始めた。


 ◇


 車内は、思ったよりも穏やかだった。

 久しぶりにみんなで外へ向かうということもあって、緊張よりも少し浮ついた空気がある。

 不謹慎かもしれない。

 これからモンスター討伐に行くのだから、楽しい遠足じゃない。


 だが――


(……少し、ワクワクしてるな)

 自分でもそう思った。

 東京以外でモンスターを討伐するのは、これが初めてだ。

 外の世界を知る。

 それは危険であると同時に、俺にとって必要なことでもあった。

「悠真さん」

 助手席の陸斗が声をかけてくる。

「何だ?」

「今回は、東京外ですよね」

「あぁ」

「テリトリー修復は使えないんですよね?」

「少なくとも、東京みたいには使えないな」

 俺はハンドルを握りながら答える。

「だから、いつもより慎重にいく」

「分かりました」

 陸斗は真剣に頷いた。

 後部座席では、未来が窓の外を見ていた。

「やっぱり、外は全然違うね」

 その声は少し低い。

 さっきまでの図鑑テンションとは違う。

 窓の外には、崩れた建物や放置された車が並んでいる。

 人の気配は少ない。

 東京の中にあった活気とは、まるで別世界だ。

「……東京だけが特別なんだな」

 色谷が呟いた。

「あぁ」

 俺は頷く。

「だから、広げないといけない」

 その言葉に、車内が少し静かになった。

 国を統一する。

 あの時言った言葉が、また胸の中に浮かぶ。

 東京だけじゃ足りない。

 日本全体を戻さなければ意味がない。

 だが、今はまだ一歩目だ。

 焦るな。

 そう自分に言い聞かせる。

「でもまあ」

 阿川が後ろでぼそっと言う。

「俺、戦わなくていいんだよな?」

「まだ言ってるのか」

「大事な確認だろ」

 その言い方に、少しだけ笑ってしまう。

「お前は配管担当だ」

「ならいい」

「ただ、逃げる時は頼むぞ」

「それは得意分野だな」

 阿川が軽く笑う。

 その一言で、車内の空気が少し緩んだ。

 こういう緩さはありがたい。

 戦闘前に張り詰めすぎても、いいことはない。


 ◇


 やがて、目的地に近づくにつれ、空気が変わってきた。

 まず、音がなくなった。

 鳥の声も少ない。

 風の音だけが、妙に大きく聞こえる。


 そして―― 


「……見えた」

 未来が低く呟いた。

「ゲート、複数ある」

 俺は車を減速させる。

 遠くの空間が、黒く歪んでいた。

 一つじゃない。

 二つ。

 三つ。

 さらに奥にも、ひび割れたような空間が見える。

 その周辺を、黒い影が飛び回っていた。

「……何だ、あれ」

 色谷が眉をひそめる。

 車を止め、全員で降りる。

 空気が重い。

 東京の外。

 荒れた土地。

 崩れた建物。

 そして、空を飛び回る無数の影。

 コウモリに似ている。

 だが、普通のコウモリより遥かに大きい。

 少なくとも五倍はある。

 鋭い牙。

 赤く光る目。

 昼間だというのに、まるで夜の生き物のように飛び回っている。


 そして地面には――


「……っ」

 俺は思わず息を呑んだ。

 干からびたような死体がいくつか転がっていた。

 人間か。

 あるいは、元は人間だったものか。

 血が抜けたように肌は白く、体は不自然にしぼんでいる。

 未来が小さく口元を押さえる。

「……吸われた、の?」

 俺は奥歯を噛む。

「秘書」

『はい、悠真様』

「あれは何のモンスターだ」

『Cランクモンスター、ヴァンパイアバットです』

「ヴァンパイアバット……」

『鋭い牙で対象に噛みつき、吸血します』

『通常の人間であれば、約五秒で全身の血液を吸い尽くされます』

「五秒……」

 陸斗の表情が険しくなる。

 色谷も真剣な顔になった。

「やべぇな」

「あぁ」

 Cランク。

 それでも、普通の人間にとっては十分すぎる脅威だ。

「初めて見るモンスターだが、普通にいるものなのか?」

『東京には出現しておりません』

「やっぱりか」

『茨城周辺で多くの目撃情報があります』

「……そういうことか」

 俺は、空を飛び回るヴァンパイアバットを見上げた。

 今まで俺たちが見てきたモンスターは、ほとんど限られていた。

 Dランクのシルバーウルフ。

 Cランクのシャドウウルフ。

 Bランクのジャイアントオーガ。

 Aランクのスケルトンキング。

 だが、それは東京周辺の話だったのかもしれない。

 地方によって、出現するモンスターが違う。

 そう考えれば、納得できる。

(……世界が、広がったな)

 同時に、危険も広がった。

 俺は深く息を吸う。


 ◇ 


「未来」

「うん」

「登録できそうか?」

 その瞬間、未来の目が少し輝いた。

「できると思う」

「嬉しそうだな」

「だって新種だよ」

「危険な新種な」

「分かってるって」

 未来は手をかざす。

「でも、登録できればこっちの戦力にもなる」

「あぁ。頼む」

 俺は次に、空へ視線を向ける。

 ヴァンパイアバットの群れが、こちらに気づいた。

 赤い目が、一斉に向く。

 羽音が増える。

 ギチギチとした不快な鳴き声。

 群れが、こちらへ向かって動き始めた。

「来るぞ」

 俺は右手を上げる。

 ここは東京じゃない。

 俺自身に攻撃能力はない。

 だから、やることは決まっている。

「派遣」

 空間が揺れる。


 次の瞬間――三つの影が現れた。


「ヒャッハァァ!!久々の出番だァ!!」

 アル。

「……状況確認。敵多数」

 ソックス。


 そして――


「オッホッホ! わたくしの華麗なる初陣ですわね!」

 セイコ。

 金髪縦ロール。

 警備服。

 魔法少女みたいなステッキ。

 相変わらず見た目の情報量が多い。

 セイコはステッキをくるりと回し、ヴァンパイアバットの群れを見上げた。

「吸血など、淑女にあるまじき蛮行ですわ!」

「……お前が言うと何か変だな」

 思わず呟く。

 だが、セイコは聞いていない。

 アルが銃を構え、笑う。

「撃ち落としゃいいんだろォ?」

 ソックスも冷静に構える。

「空中目標。対応可能です」

 陸斗が一歩前に出る。

「バリア、準備できます」

 色谷が肩を回す。

「空飛んでても、まとめて叩き落とせばいいんだろ」

 未来は、目を輝かせながらも真剣な顔で前を見る。

「まずは登録する」

 阿川は、少し後ろへ下がった。

「俺、後方でいいよな」

「あぁ」

 俺は頷く。

「何かあったら撤退路を頼む」

「任せろ」

 その返事を聞いて、俺は前を向く。

 ヴァンパイアバットの群れが、空を黒く染めるように迫ってくる。

 数は多い。


 だが――


「やるぞ」

 俺の声に、全員が構えた。

 そして、初めての東京外での戦闘が始まった。

読んで頂きありがとうございます!!


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