表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/71

外の脅威と新たな戦場(前半)

第66話です。宜しくお願い致します。



会議室に、重い沈黙が落ちていた。


 俺が最後に投げた問い。


 ――なぜ、地震の時に来なかったのか。


 それに対して、門脇はすぐには答えなかった。


 紅茶のカップに視線を落としたまま、しばらく黙っている。


 隣に座る犬飼も、いつもの軽さを消していた。


 ただ、その沈黙は“答えたくない”というより――どう言えばいいのかを探しているように見えた。


「……それに関しては、すまなかったと思っている」


 やがて、門脇が静かに口を開いた。


 その声には、いつもの気の抜けたような雰囲気は少なかった。


「地震については、こちらでも会議は行ったんだ」


「……会議はしたのか」


「あぁ」


 門脇は頷く。


「だが、一旦見送りになった」


「見送り……」


 思わず、俺はその言葉を繰り返していた。


 その響きが、妙に引っかかった。


 東京で大地震が起こるかもしれない。


 それを聞いておいて、見送り。


 普通に考えれば、納得できる言葉ではない。


 だが――同時に、俺はSPМの全体像を知らない。


 あいつらにもあいつらの事情があるのかもしれない。


 そう思いながら、黙って続きを待つ。


「ただ、東京以外の関東の県にも、少なからず被害は出た」


 門脇は続ける。


「東京ほどではないにしろ、建物の倒壊、避難民の移動、ゲートの活性化……色々とな」


「そっちの対処をしていたんだ」


 犬飼も小さく頷いた。


「本当に、人手が足りなかったんすよ」


「東京に来なかったことを正当化するつもりはないっすけど……俺らも完全に手が空いてたわけじゃなかったんす」


 犬飼の言葉遣いは崩れているが、門脇に対してはしっかり敬意がある。


 ただ、今の言葉には、部下としてだけじゃない本音が混じっているように聞こえた。


「……そうか」


 俺は小さく息を吐いた。


「なら、仕方ないよな」


 完全に納得したわけではない。


 でも、責めるつもりもなかった。


 少なくとも、目の前の二人は嘘をついているようには見えない。


 門脇は、少しだけ俺を見た。


「あぁ。地震のことは、本当に助かった」


 その声は、真っ直ぐだった。


「改めて、東京の街を救ってくれてありがとう」


「……あぁ」


 俺は短く返す。


 感謝されるのは、やっぱり少し慣れない。


 だけど、門脇の言葉に嘘がないことは分かった。


 俺はコーヒーを一口飲み、カップを置く。


「モンスター討伐には、俺と数名で行く」


 そう言うと、門脇の表情がわずかに緩んだ。


「本当か」


「あぁ。ただし、何日もは無理だ」


 俺ははっきり言った。


「こっちもまだまだやることが多い。駅の件もあるし、産業の方も完全に軌道に乗ったわけじゃない」


「分かっている」


 門脇は頷く。


「数日だけでも、本当に助かる」


 俺は軽く頷きながらも、内心では別のことを考えていた。


(……それに、SPМの内情も気になるしな)


 フトゥーロの言葉。


 内部崩壊。


 命令、思想、支配、恐怖。


 あの言葉が、今でも耳の奥に残っている。


 門脇の話を聞いても、違和感は完全には消えなかった。


 見送り。


 会議。


 地震対応。


 全部、筋は通っている。


 でも――何かが引っかかる。


 俺は、その違和感を胸の奥にしまったまま、門脇の差し出した地図を受け取った。


「ここか?」


「あぁ」


 門脇が地図上の一点を指す。


「茨城方面だ。ゲートが複数確認されている」


「複数……」


「少数の部隊では対処しきれなくなっている」


 犬飼が少しだけ苦笑した。


「正直、隊長たちが出れば何とかなるって思うかもしれないっすけど……範囲が広すぎるんすよ」


「一ヶ所潰してる間に、別の場所で湧く。そんな感じっす」


「なるほどな」


 東京は俺のテリトリーになっている。


 だから、状況を把握できる。


 修復もできる。


 人員配置もできる。


 でも、外は違う。


 東京の外に出れば、俺の支配領域ではない。


 それだけで、危険度は一気に上がる。


「準備ができ次第、この場所に来てくれ」


 門脇が言う。


「俺たちも、向こうで調整しておく」


「あぁ。分かった」


 そこで話は一旦終わった。


 門脇と犬飼は立ち上がる。


「今日は時間を取らせたな」


「いや、こっちも聞きたいことが聞けた」


「……そうか」


 門脇は一瞬だけ何かを言いかけたように見えた。


 だが、結局それ以上は何も言わず、静かに頷いた。


「では、また現地で」


「あぁ」


 犬飼も軽く頭を下げる。


「じゃあ、よろしくお願いします」


「おう」


 二人は会議室を出ていった。


 扉が閉まる。


 静寂。


 俺はしばらく、その扉を見つめていた。


「……悠真さん」


 陸斗が声をかけてくる。


「行くんですか?」


「あぁ」


 俺は短く答えた。


「行く」


 それはモンスター討伐のためでもある。


 だが、それだけじゃない。


 SPМの今を、もう少し知る必要がある。


 そのためには、実際に外へ出て、あいつらの戦場を見るのが早い。


(……何もなければ、それでいい)


 そう思う。


 だが、胸の奥では別の自分が呟いていた。


(何かあるなら、今のうちに見ておかないとまずい)


 俺は、ゆっくりと息を吐いた。


「駅の件は、一旦もう少し話を詰めておく」


「はい」


「モンスター討伐から戻ったら、着手する」


 陸斗が頷く。


「分かりました」


 俺は席を立った。


 やることは決まった。


 なら、準備するだけだ。


 門脇と犬飼が帰ってから、一週間が経った。


 その間、俺は駅の計画について、元駅員や建設関係者たちと改めて話し合った。


 路線をどうするか。


 駅の場所をどうするか。


 まずは地上路線から始めるのか。


 貨物輸送も考慮するのか。


 思っていた以上に話し合うことは多かった。 


 だが、今すぐ全部を決める必要はない。


 大枠だけ決めて、工事の本格着手は討伐から帰った後にすることにした。


 街は、俺が少し離れても動く。


 銀行も、第一次産業も、第二次産業も、少しずつ自走し始めている。


 だからこそ、俺も外へ出られる。


 その事実は、少しだけ嬉しかった。


 そして出発当日。


 中央会館前には、一台のミニバンが用意されていた。


 今回のメンバーは、俺、陸斗、未来、色谷、阿川。 


 そして、現地で俺が派遣スキルを使い、アル、ソックス、セイコを召喚する予定だ。


 本当は戦闘できるメンバー全員を連れていきたいところだが、それはできない。


 東京の守りを空にするわけにはいかないからだ。


 チャン爺、一葉、二葉、三葉、浮田、芹沢、警察組たち。


 彼らには東京を守ってもらう。


 今回は、少数精鋭だ。


「阿川、今回は戦闘しなくていいからな」

  

 俺が確認すると、阿川は軽く肩をすくめた。


「するつもりもねぇよ」


「だよな」


「俺の仕事は、向こうまで行って場所を覚えることだろ?」


「あぁ」


 阿川のスキル“配管工”は、一度行った場所に繋ぐことができる。


 つまり、今回茨城方面の現地に行けば、次からは配管で繋げられるようになる。


 帰りも同じだ。


 戦闘よりも、その価値の方が遥かに大きい。


「何かあったら即撤退もできるしな」


「それは任せろ」


 阿川はいつも通り気だるそうに言ったが、その声には頼もしさがあった。


「未来、索敵頼む」


「うん!」


 未来はどこか楽しそうに頷いた。


 何となく嫌な予感がする。


「……お前、ちょっと嬉しそうじゃないか?」


「だって、東京以外のモンスターが見られるかもしれないんでしょ?」


「あぁ、まあな」


「新しいモンスター、登録できるかもしれないじゃん」


「やっぱりそれか」


 未来のスキル“動植物図鑑”。


 新しい生き物やモンスターを登録できるなら、確かに戦力拡張にもなる。


 だが、その目は完全に図鑑を埋めたい人間のそれだった。


 陸斗は少し呆れたように言う。


「未来さん、危険な場所に行くんですからね」


「分かってるって」


「本当ですか?」


「分かってる分かってる」


 明らかに軽い。


 陸斗は小さくため息をついた。


 十四歳なのに、相変わらず大人びている。


「色谷は?」


 俺が聞くと、色谷は明るく笑って拳を握った。


「久しぶりの本格戦闘だし、気合い入ってるぞ」


「頼りにしてる」


「任せろ。まとめて吹っ飛ばしてやる」


 爽やかに言っているが、内容はかなり物騒だ。


 まあ、こいつのスキル的には間違っていない。


「よし、行くか」


 俺は運転席に座る。


 全員が乗り込む。


 エンジンをかける。


 東京の門を出る。


 その瞬間、少しだけ空気が変わった気がした。


 整った道路。


 整備された街。


 その外に広がるのは――まだ崩壊したままの世界だ。


 俺たちは、その外へ向かって進み始めた。


 車内は、思ったよりも穏やかだった。


 久しぶりにみんなで外へ向かうということもあって、緊張よりも少し浮ついた空気がある。


 不謹慎かもしれない。


 これからモンスター討伐に行くのだから、楽しい遠足じゃない。


 だが――


(……少し、ワクワクしてるな)


 自分でもそう思った。


 東京以外でモンスターを討伐するのは、これが初めてだ。


 外の世界を知る。


 それは危険であると同時に、俺にとって必要なことでもあった。


「悠真さん」


 助手席の陸斗が声をかけてくる。


「何だ?」


「今回は、東京外ですよね」


「あぁ」


「テリトリー修復は使えないんですよね?」


「少なくとも、東京みたいには使えないな」


 俺はハンドルを握りながら答える。


「だから、いつもより慎重にいく」


「分かりました」


 陸斗は真剣に頷いた。


 後部座席では、未来が窓の外を見ていた。


「やっぱり、外は全然違うね」


 その声は少し低い。


 さっきまでの図鑑テンションとは違う。


 窓の外には、崩れた建物や放置された車が並んでいる。


 人の気配は少ない。


 東京の中にあった活気とは、まるで別世界だ。 


「……東京だけが特別なんだな」


 色谷が呟いた。


「あぁ」


 俺は頷く。


「だから、広げないといけない」


 その言葉に、車内が少し静かになった。


 国を統一する。


 あの時言った言葉が、また胸の中に浮かぶ。


 東京だけじゃ足りない。


 日本全体を戻さなければ意味がない。


 だが、今はまだ一歩目だ。


 焦るな。


 そう自分に言い聞かせる。


「でもまあ」


 阿川が後ろでぼそっと言う。


「俺、戦わなくていいんだよな?」


「まだ言ってるのか」


「大事な確認だろ」


 その言い方に、少しだけ笑ってしまう。


「お前は配管担当だ」


「ならいい」


「ただ、逃げる時は頼むぞ」


「それは得意分野だな」


 阿川が軽く笑う。


 その一言で、車内の空気が少し緩んだ。


 こういう緩さはありがたい。


 戦闘前に張り詰めすぎても、いいことはない。


 やがて、目的地に近づくにつれ、空気が変わってきた。


 まず、音がなくなった。


 鳥の声も少ない。 


 風の音だけが、妙に大きく聞こえる。


 そして――


「……見えた」


 未来が低く呟いた。


「ゲート、複数ある」


 俺は車を減速させる。


 遠くの空間が、黒く歪んでいた。


 一つじゃない。


 二つ。


 三つ。


 さらに奥にも、ひび割れたような空間が見える。


 その周辺を、黒い影が飛び回っていた。


「……何だ、あれ」


 色谷が眉をひそめる。


 車を止め、全員で降りる。


 空気が重い。


 東京の外。


 荒れた土地。


 崩れた建物。


 そして、空を飛び回る無数の影。 


 コウモリに似ている。


 だが、普通のコウモリより遥かに大きい。 


 少なくとも五倍はある。


 鋭い牙。


 赤く光る目。


 昼間だというのに、まるで夜の生き物のように飛び回っている。


 そして地面には――


「……っ」


 俺は思わず息を呑んだ。


 干からびたような死体がいくつか転がっていた。


 人間か。


 あるいは、元は人間だったものか。


 血が抜けたように肌は白く、体は不自然にしぼんでいる。


 未来が小さく口元を押さえる。


「……吸われた、の?」


 俺は奥歯を噛む。


「秘書」


『はい、悠真様』


「あれは何のモンスターだ」


『Cランクモンスター、ヴァンパイアバットです』


「ヴァンパイアバット……」


『鋭い牙で対象に噛みつき、吸血します』


『通常の人間であれば、約五秒で全身の血液を吸い尽くされます』


「五秒……」


 陸斗の表情が険しくなる。


 色谷も真剣な顔になった。


「やべぇな」


「あぁ」


 Cランク。


 それでも、普通の人間にとっては十分すぎる脅威だ。


「初めて見るモンスターだが、普通にいるものなのか?」


『東京には出現しておりません』


「やっぱりか」


『茨城周辺で多くの目撃情報があります』


「……そういうことか」


 俺は、空を飛び回るヴァンパイアバットを見上げた。


 今まで俺たちが見てきたモンスターは、ほとんど限られていた。


 Dランクのシルバーウルフ。


 Cランクのシャドウウルフ。


 Bランクのジャイアントオーガ。


 Aランクのスケルトンキング。


 だが、それは東京周辺の話だったのかもしれない。


 地方によって、出現するモンスターが違う。


 そう考えれば、納得できる。


(……世界が、広がったな)


 同時に、危険も広がった。


 俺は深く息を吸う。


「未来」


「うん」


「登録できそうか?」


 その瞬間、未来の目が少し輝いた。


「できると思う」


「嬉しそうだな」


「だって新種だよ」


「危険な新種な」


「分かってるって」


 未来は手をかざす。


「でも、登録できればこっちの戦力にもなる」


「あぁ。頼む」


 俺は次に、空へ視線を向ける。


 ヴァンパイアバットの群れが、こちらに気づいた。


 赤い目が、一斉に向く。


 羽音が増える。


 ギチギチとした不快な鳴き声。


 群れが、こちらへ向かって動き始めた。


「来るぞ」


 俺は右手を上げる。


 ここは東京じゃない。


 俺自身に攻撃能力はない。


 だから、やることは決まっている。


「派遣」


 空間が揺れる。


 次の瞬間――三つの影が現れた。


「ヒャッハァァ!!久々の出番だァ!!」


 アル。


「……状況確認。敵多数」


 ソックス。


 そして――


「オッホッホ! わたくしの華麗なる初陣ですわね!」


 セイコ。


 金髪縦ロール。


 警備服。


 魔法少女みたいなステッキ。


 相変わらず見た目の情報量が多い。


 セイコはステッキをくるりと回し、ヴァンパイアバットの群れを見上げた。


「吸血など、淑女にあるまじき蛮行ですわ!」


「……お前が言うと何か変だな」


 思わず呟く。


 だが、セイコは聞いていない。


 アルが銃を構え、笑う。


「撃ち落としゃいいんだろォ?」


 ソックスも冷静に構える。


「空中目標。対応可能です」


 陸斗が一歩前に出る。


「バリア、準備できます」


 色谷が肩を回す。


「空飛んでても、まとめて叩き落とせばいいんだろ」


 未来は、目を輝かせながらも真剣な顔で前を見る。


「まずは登録する」


 阿川は、少し後ろへ下がった。


「俺、後方でいいよな」


「あぁ」


 俺は頷く。


「何かあったら撤退路を頼む」


「任せろ」


 その返事を聞いて、俺は前を向く。


 ヴァンパイアバットの群れが、空を黒く染めるように迫ってくる。


 数は多い。


 だが――


「やるぞ」


 俺の声に、全員が構えた。


 そして、初めての東京外での戦闘が始まった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ