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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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65/76

再会の会議と交差する思惑

第65話です。宜しくお願い致します。



タクシーがゆっくりと速度を落とし、やがて静かに停車した。


「到着しました。中央会館です」


 運転手の落ち着いた声。


 門脇と犬飼は料金を支払い、車を降りた。


 ドアが閉まる音と同時に――視界が開ける。


「……」


 犬飼が、思わず言葉を失った。


 門脇も、わずかに目を細める。


 目の前にそびえ立っていたのは――巨大な建造物だった。


 石造りの重厚な外壁。


 左右対称に広がる構造。


 中央に大きくせり出したドーム状の屋根。


 その佇まいは、まるでかつての国会議事堂を思わせる。 


 だが、それ以上に感じるものがあった。


「……威圧感、すげぇっすね」


 犬飼がぽつりと呟く。


 ただ大きいだけではない。


 そこには明確な“意志”があった。


 ここが中心だと。


 この街の中枢だと。


 そう言っているような、圧。


 さらに視線を落とすと――門の前には複数の警備員が立っていた。


 背筋を伸ばし、無駄のない立ち姿。


 装備も統一されている。


 ただの警備員ではない。


 訓練された兵のそれだった。


(……徹底してるな)


 門脇は内心でそう呟く。


 ここまでくると、“街”ではない。


(完全に国家機関だ)


 自分でも、そう認めざるを得なかった。


「……行くっすか」


「ああ」


 二人は門へと歩み寄る。


 門をくぐろうとした、その瞬間――


「お待ちください」


 低く、だがはっきりとした声が響いた。


 警備員の一人が、一歩前に出る。  


「ここは関係者以外立ち入り禁止となっております」


 淡々とした口調。


 だが、そこに隙はない。


「許可証をお持ちであれば確認させていただきますが」


 門脇は、一瞬だけ言葉を選ぶ。


 だが、その前に犬飼が口を開いた。


「あー、いや、そういうのじゃなくてっすね」


 少し崩した敬語。


「悠真に、SPМの門脇隊長と犬飼が来たって伝えてもらえたら分かると思うんすけど」


 警備員の表情は変わらない。


「申し訳ありませんが、規則となっております」


 即答だった。


「どのようなご事情であれ、許可証のない方はお通しできません」


「……いやいや、だからさ」


 犬飼が少しだけ声を強める。


「俺ら、その――」


「申し訳ありません」


 被せるように、再び同じ言葉。


 完全にシャットアウトされていた。 


(……徹底してる)


 門脇は、横でそのやり取りを見ながら思う。


 コネが通じない。


 例外がない。


 これは――


(システムとして完成してる証拠だな)


 そう感じた。


 だが、このままでは埒が明かない。


 門脇が口を開こうとした、その時だった。


「――何か騒ぎですか?」


 背後から、声がした。


 二人は同時に振り返る。


 そこにいたのは――


「……門脇さん?」


 少し驚いたような顔の少年。


 陸斗だった。


「犬飼さんも……こんな所で何してるんですか?」


 自然な口調。


 だが、その一言で空気が変わる。


 警備員の視線が、わずかに動いた。


「……陸斗、か」


 門脇が小さく言う。


「久し振りだな」


「はい」


 陸斗は軽く頭を下げる。


 そして、状況を理解したのか、すぐに警備員へと視線を向けた。


「この方たちは僕の知り合いです。問題ありません」


 その一言。


 それだけで――


「失礼いたしました」


 警備員が即座に一歩下がる。


 態度が明確に変わった。


 犬飼が、小さく口笛を吹く。


「……すげぇっすね」


 門脇は何も言わなかった。


 ただ、その変化を冷静に見ていた。


(内部の人間、か)


 陸斗。


 この少年もまた、この“国”の中枢にいる存在。


 そう認識せざるを得なかった。


「それで、お二人はどうされたんですか?」


 陸斗が聞く。


 門脇は素直に答えた。


「悠真に会いたいんだが……いるか?」


「悠真さんですか」


 少しだけ考える仕草。


「今はここにはいませんね」


「……そうか」


 門脇がわずかに眉を動かす。


「少し遠い場所にいますけど……」


 陸斗が続ける。


「連れて行きましょうか?」


 その言葉に、犬飼がすぐに反応する。


「マジっすか?助かるっす」


 門脇も頷いた。


「ああ、頼む」


「分かりました」


 陸斗はそう言うと、くるりと向きを変えた。


「ちょっとこっち来てください」


 二人はその後に続く。


 中央会館のすぐ近く。


 少し開けた場所へと案内される。


 そこに――


「阿川さん」


 陸斗が声をかけた。


 一人の男が振り返る。


 阿川だった。


「どうした」


「悠真さんのところに行きたいので、お願いできますか?」


 阿川は一瞬だけ門脇たちを見た。


 そして、短く頷く。


「……分かった」


 次の瞬間だった。


 空間が、歪んだ。


 ギィ……という、金属が軋むような音。


 そして――


 地面の上に、“それ”が現れた。


「……っ!?」


 犬飼が思わず一歩下がる。


 門脇も、さすがに目を見開いた。


 巨大な配管。


 人が余裕で入れるほどの太さ。


 無機質な金属の質感。


 その先は――途中でぼやけ、消えている。


 まるで現実と繋がっていないような、不気味な構造。


「……これは何なんだ」


 門脇が低く問う。


 陸斗が軽く笑う。


「あ、そういえば初めてでしたね」


 そして、当たり前のように言った。


「阿川さんのスキル、“配管工”です」


「……スキル」


「これを通れば、目的地にすぐ行けますよ」


 さらっと言う。


 だが、言っていることは完全に異常だった。


 犬飼が苦笑する。


「いやいやいや……これ入るんすか?」


「大丈夫ですって」


 陸斗は平然としている。


 阿川が一歩前に出た。


「じゃあ、行くぞ」


 その一言で、流れは決まった。


 陸斗が先に入る。


 阿川が続く。


 門脇は一瞬だけ立ち止まり――


(……行くしかないか)


 無言で配管へと足を踏み入れた。


 犬飼も、その後に続く。


 中は、思っていたより広い。


 だが――


 圧迫感がある。


 金属の冷たさ。


 外界と切り離された感覚。


「……なんか、気持ち悪いっすね」


 犬飼が小声で言う。


 門脇は何も答えなかった。


 ただ、前を見据える。


 その瞬間。


 景色が、切り替わった。


 音もなく。


 違和感すら残さず。


 次に視界に映ったのは――


 広大な土地だった。


 何もない。


 建物もない。


 ただ、開けた大地が広がっている。 


「……は?」


 犬飼が、間の抜けた声を漏らす。


 門脇も、さすがに息を止めた。


「……一瞬で……」


 理解が追いつかない。


 だが、現実だった。


「ここが、悠真さんのいる場所です」


 陸斗が言う。


 その先に視線を向けると――


 数人の人影が見えた。


 何かを話している様子。


 その中に、一人。


 見覚えのある背中。


「……」


 門脇は、ゆっくりと歩き出す。


 あの男。


 黒瀬悠真。


 この“国”を作り上げた存在。


 やがて、陸斗が声を上げた。


「悠真さん、お客さんが来てますよ!」


 その声に、男が振り返る。


 視線が合う。


 その瞬間――


 場の空気が、わずかに変わった。


陸斗の声が聞こえた。


「悠真さん、お客さんが来てますよ!」


 俺は、話していた建設関係者の人たちから視線を外し、声のした方へ振り返った。


 そこにいたのは――


「……門脇に、犬飼」


 懐かしい顔だった。


 最後に会ったのは、スケルトンキングの襲撃を共に乗り越えた時だ。 


 あの時は、本当にギリギリだった。


 何度倒しても復活するスケルトンキング。


 崩れかけた戦線。


 そこへ門脇や凛堂たちが加わってくれたから、何とか乗り越えられた。 


 その記憶が、一瞬で頭の中に戻ってくる。


「久し振りだな」


 俺がそう言うと、門脇は少しだけ表情を緩めた。


「あぁ、久し振り」


 犬飼も軽く手を上げる。


「久し振りっす」


 前に会った時より、二人とも少し疲れているように見えた。


 いや――疲れている、というより。


 何かを背負っている顔だ。


「今日はちょっと、君に協力してほしいことがあって来たんだ」


 門脇が静かに言う。


「協力?」


「あぁ」


 俺は少しだけ目を細める。


 SPМ。


 フトゥーロが言っていた二つ目の厄災。


 内部崩壊。 


 その言葉が、自然と頭をよぎった。


 だが、すぐに問い詰めるのは違う。


「……まぁ、俺もちょっと聞きたいことがあったんだ」


「聞きたいこと?」


「あぁ」


 周囲を見る。


 ここはまだ開発予定地だ。


 駅の建設予定地として、建設関係者や元駅員たちと話し合っていた場所。


 何もない広い土地だから、人目は少ない。


 だが、込み入った話をする場所ではない。


「ここじゃ何だな」


 俺は近くにいた人たちへ声をかけた。


「すみません、続きはまた後でお願いします」


「はい、分かりました」


「駅の配置案、もう少し詰めておきます」


「助かります」


 軽く頭を下げてから、俺は阿川を見る。


「阿川、中央会館に戻れるか?」


「おう」


 阿川はすぐに頷く。


「また会館でいいんだな?」


「あぁ」


「了解」


 阿川が手をかざす。


「スキル――配管工」


 再び、空間が歪んだ。 


 巨大な配管が地面の上に現れる。


 門脇と犬飼は、さっき通ってきたにも関わらず、まだ慣れないような顔をしていた。


 まあ、そりゃそうだ。


 初見で受け入れろという方が無理がある。


「……相変わらず、便利すぎるな」


 門脇が呟く。


「俺も最初はそう思ったよ」 


 俺は軽く笑う。


「今でも思ってるけどな」


 犬飼が苦笑する。


「いや、これあるなら交通いらなくないっすか?」


 その言葉に、俺は首を横に振った。


「阿川に全部頼るわけにはいかないだろ」


「……あぁ、そういうことっすか」


「便利な個人スキルに社会全部を預けたら、結局また依存になる」


 そう言うと、門脇の目が少しだけ変わった。


「……そこまで考えているのか」


「考えざるを得なくなったんだよ」


 俺はそう答えて、配管へ入った。


 陸斗、門脇、犬飼も続く。


 そして、一瞬で中央会館へ戻った。


 中央会館の会議室。


 そこは、外の喧騒がまったく入ってこない静かな空間だった。


 長いテーブル。


 落ち着いた照明。


 壁には余計な装飾はない。


 だが、空気だけは妙に引き締まっている。


 俺、陸斗、門脇、犬飼。


 四人で席に着く。


 阿川は別の用事があるため、そのまま戻っていった。


「じゃあ、話すか」


 俺がそう言った時だった。


 扉が静かに開く。


「皆様、お飲み物はいかがいたしましょうか」


 チャン爺だった。


 相変わらず、完璧なタイミングで現れる。


「俺はコーヒー。ブラックで」


「畏まりました」


 次に陸斗が、少しだけ背筋を伸ばして言った。


「僕もコーヒー、ブラックでお願いします」


 俺は思わず陸斗を見た。


「……本当にブラックで大丈夫か?」


「大丈夫です」


「前、挑戦して一時間かけて一杯飲んでただろ」


「それは……言わないでくださいよ」


 陸斗が少しだけ顔を赤くする。


 どうやら客がいるから、大人っぽく見せたかったらしい。


 十四歳らしい背伸びだ。


 それが少し面白くて、俺は笑ってしまった。


「無理するなよ」


「……じゃあ」


 陸斗は小さく咳払いをしてから言い直す。


「カフェオレで。砂糖多めでお願いします」


「畏まりました」


 チャン爺は表情を変えずに頷く。


 犬飼が少し笑いを堪えていた。


「何ですか」


 陸斗が少しむっとした顔で言う。 


「いや、別に何でもないっす」


 犬飼が笑いながら首を振る。


 門脇も、少しだけ口元を緩めていた。


 張り詰めかけた空気が、一度柔らかくなる。


「お二人はどうされますか?」


 チャン爺が門脇と犬飼を見る。


「じゃあ、紅茶を」


 門脇が言う。


「俺はオレンジジュースでお願いします」


 犬飼が続く。


「畏まりました」


 チャン爺が一礼して下がる。


 ほどなくして、一葉、二葉、三葉が飲み物を運んできた。


 それぞれの前にカップやグラスが置かれる。

 

「ごゆっくりどうぞ」


 一葉が静かに言う。


「失礼いたします」


 二葉も丁寧に頭を下げる。


「ゆっくりしてくださいですー!」


 三葉だけ少し元気だ。


 二葉が小声で「三葉」と注意する。


 相変わらずだ。


 門脇は、その一連の流れを見ていた。


「……本当に、以前とは比べ物にならないな」


 紅茶に手を伸ばしながら、門脇が呟く。


「街も、ここも」


「まあ、色々あったからな」


 俺はコーヒーを一口飲む。


 苦い。


 当たり前だが、陸斗のカフェオレの方がうまそうに見える。


「地震の件もあったし、やれることを増やしていったらこうなった」


 犬飼がグラスを持ったまま、感心したように言う。


「街を超えて、もう一つの国みたいだったっすよ」


「そうなんだよな」


 俺は苦笑する。


「実はそれを目指してたり、目指してなかったりする」


 門脇が眉を動かす。


「どういうことだ?」


「国を作りたい、って最初から思ってたわけじゃない」


 俺はゆっくりと言葉を選ぶ。


「ただ、今の日本が何をしてるのか分からない状態だろ」


「……あぁ」


「国が機能してない。助けを待ってるだけじゃ、多分何も変わらない」


 言いながら、自分の中でも整理していく。


「だから、俺は俺が変えられる範囲だけでも変えようと思った」


「元通りにしたいんだ」


「もちろん、全部を昔と同じに戻すつもりはない。変えた方がいい所もある」


 でも。


「放っておくわけにはいかない」


 門脇は黙って聞いていた。


 犬飼も、いつもの軽さを少し抑えている。 


「それに」


 俺は少し笑った。


「俺に避難民を助けるよう進言したのは、門脇、お前じゃないか」


 門脇は、一瞬だけ目を丸くした。


 そして、少しだけ苦笑する。


「確かに……言ったな」


「あれがなかったら、今の形にはなってなかったかもしれない」


「……だが」


 門脇は紅茶のカップを置く。


「ここまでになるとは思わなかった」


 その言葉には、嘘がなかった。 


 驚きと、感心と、何か別の感情が混ざっている。


「今日、東京を見た」


 門脇は静かに続ける。


「門をくぐって、街を見た時……何とも言えない気持ちになった」


「……」


「俺が元々したかったことを、先にやられてしまったんだと思った」


 声は落ち着いている。


 だが、そこには確かに熱があった。


「悔しかったよ」


 正直な言葉だった。


「でも、それと同時に嬉しかった」


 門脇は少しだけ目を伏せる。 


「この国は、まだ終わっていないんだと分かったからだ」


「人は、まだ普通の日常に戻れるんだと分かった」


 少しだけ間を置いて、門脇は俺を見る。


「改めて、感謝する」


 俺は、少しだけ困った。


「……やめろよ」


 素直な感謝を向けられると、どう反応していいか分からない。


「こっちだって感謝してる」


 俺はそう返した。


「スケルトンキングの時もそうだし、あの時お前が言ってくれたこともそうだ」


 それがあったから、今がある。


 少なくとも俺は、そう思っている。


 門脇は少しだけ笑った。


「……そうか」


「あぁ」


 少しだけ静かな時間が流れた。


 だが、門脇はすぐに表情を戻した。


「話は変わるが」


「ん?」


「さっきの何もない土地で、何をしていたんだ?」


「あぁ、あれか」


 俺は椅子に背を預ける。


「門脇たちは、中央会館まで来てたんだよな?」


「そうだ」


「何を使って来た?」 


「タクシーだ」


「だろうな」


 俺は頷く。


「今の東京での移動手段は、訪問者ならタクシーが基本だ。住民なら自家用車、自転車、徒歩」


「電車や地下鉄は、まだない」


 犬飼が目を瞬かせる。


「まだ、ってことは……」


「あの場所に、一つ目の駅を作ろうとしてた」


「駅……?」 


 門脇が繰り返す。


「あぁ」


 俺は少しだけ笑う。


「東京って、交通機関がすごかっただろ。数分待てば電車が来て、地下鉄もバスもある」


「人が多くても、それで何とか回ってた」


「今はまだタクシー頼りだけど、それじゃ限界がある」


 タクシーは高い。


 台数にも限りがある。


 運転手の負担も大きい。


「だから、駅を作る」


「まずは地上路線から。地下鉄は後回しだな」


「元駅員や建設関係者、線路や車両に詳しい人たちと話してたんだ」


 門脇は、深く息を吐いた。


「そんな事まで考えているのか」


「言っただろ」


 俺は静かに言う。


「元の日本に戻したいんだ」


「もちろん、前みたいに数分おきに電車が来る、なんてすぐには無理だ」


「でも、いつかはそこまで戻したい」


「俺一人で何でも出すんじゃなくて、人が動いて、仕組みが動いて、社会が回る形にしたい」


 犬飼が呆れたように笑う。


「……どこまで行くつもりなんすか」


「行けるところまでだな」


 俺がそう言うと、門脇が静かに呟いた。


「君は、本当にどこまでも行くんだな」


 その声には、羨望に近いものが混ざっていた。


 だが、門脇はすぐに首を振る。


「……本題はそこじゃなかったな」


 空気が変わる。


 俺も、カップを置いた。


「君に――いや、君たちに協力してほしい」


「協力?」


「あぁ」


 門脇は真剣な顔で言う。


「こちらで湧いているモンスターの討伐に、力を貸してほしい」


「モンスター討伐……?」


 俺は眉をひそめた。


「そんなに増えているのか?」


「SPМの実力と人数なら、十分対処できそうに思えるが」


 門脇は首を横に振る。


「そう簡単じゃない」


 そして、説明を始めた。


 SPМ本部は千葉にあること。


 そこが本部兼関東支部であること。


 全国に支部があること。


 凛堂や門脇たちは関東支部所属であること。


 だが、関東も広い。


 東京だけではない。


 千葉、埼玉、神奈川、茨城、栃木、群馬。


 広範囲を常にカバーするには、人手が足りない。


「東京は君がいる」


 門脇が言う。


「だから、大きく崩れていない」


「だが、他は違う」


「ゲートは開く。モンスターも出る。避難民もいる」


「正直、手が足りていない」


 犬飼も珍しく真面目な顔で頷いた。


「隊員も休めてないっす。強い奴らでも、ずっと戦い続けるのは無理があります」


「……なるほどな」


 俺は腕を組む。


「協力自体は考える」


 そう言うと、門脇の表情がわずかに緩んだ。


 だが――


「ただ、俺にも聞きたいことがある」


 会議室の空気が、少し重くなる。


 門脇は、黙って俺を見た。


「前に、地震のことについて話し合うと言っていたよな」


「あぁ」


「それなのに、なぜ来なかった?」


 俺は、門脇から視線を外さない。


「東京で地震が起こると分かっていた」


「少なくとも、お前たちはその話を聞いていた」


「なのに、一度も来なかった」


 ゆっくりと言葉を続ける。


「何があった?」


 門脇は、すぐには答えなかった。


 犬飼も、隣で表情を固くしている。


 沈黙。


 その沈黙が、答えの代わりのようにも感じられた。


 俺は静かに言う。


「門脇」


「俺は、今のお前たちを敵だと思って話してるわけじゃない」


「だが――」


 一拍置く。


「何かがおかしいとは思ってる」


 その言葉に、門脇の目がわずかに揺れた。


 そして、会議室の空気はさらに重くなった。




最近、登場人物少なめで夏休みの話以降主要人物がほとんど出てなかったですけど、少しだけまた出す事が出来ました。

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