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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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産声 ― 動き出す街と忍び寄る崩壊

第63話です。少し長めですが宜しくお願い致します。

第一次産業が動き始めてから、街の空気はまた少し変わった。


 銀行ができた時もそうだった。


 ポイントではなく円が流通し始めた時も、人々の顔つきは変わった。


 でも――今回の変化は、それとはまた違う。


 もっと根本的なもの。


 もっと、生活の奥に触れるもの。


 土を耕す人がいる。


 海へ出る人がいる。


 木を見上げ、森を育てようとする人がいる。


 家畜の世話をする人がいる。


 その姿を見ていると、改めて思う。


(……人間って、生きるために働いてるんじゃなくて、働くことで生きてるんだな)


 俺は、そんなことを考えながら、畑の端に立っていた。


 目の前では、農家だった住民たちが真剣な顔で土を見ている。


 若い住民に鍬の使い方を教えている老人。


 苗の間隔を測っている女性。


 水路の流れを確認している男。


 まだ収穫なんて先の話だ。


 米も野菜も、今日植えたからといって明日食えるわけじゃない。


 俺なら作れる。


 商品生成を使えば、米も野菜も肉も魚も、必要な分だけ一瞬で出せる。


 だが――それを続けるだけじゃ駄目だ。


 それはもう、分かっていた。


「悠真さん!」


 畑の向こうから声がした。


 振り返ると、若い男が泥だらけの手を振っている。


 確か、元々は事務職だった住民だ。


 第一次産業の会議後、自分も農業をやってみたいと言って参加した一人だった。


「どうした?」


「これ、ちゃんと植えられてますかね?」


 少し不安そうに聞いてくる。


 俺に聞かれても困る。


 正直、俺は農業に関しては素人だ。


 だが、隣にいた農家の男がすぐに覗き込んだ。


「あー、悪くねぇな。ただ、ちょっと浅い」


「浅いですか?」


「この苗はもう少し深くていい。ほら、こうだ」


 そう言って、男が実演する。


 若い住民は真剣な顔で頷いた。


「なるほど……!」


「最初から完璧にやれるやつなんかいねぇよ」


 農家の男は笑う。


「土触って覚えりゃいい」


 その言葉に、若い住民は嬉しそうに笑った。


「はい!」


 その光景を見て、俺は少しだけ口元を緩める。


 教える人がいて、覚える人がいる。


 それだけで、もう“次”が生まれている。


 俺が一人で全部作るより、ずっと意味がある。


「……いいな」


 思わず呟く。


 すると、隣にいた浮田が横目で俺を見た。


「最近、そればっか言ってんな」


「そうか?」 


「あぁ」


 浮田は腕を組みながら畑を見渡す。


「でもまぁ、分かるけどな」


「お前もそう思うか?」


「思うよ」


 浮田は短く答えた。


「前は、お前が全部どうにかする街だった。でも今は違う」


「……あぁ」


「住民が、自分たちで動き始めてる」


 その言葉に、俺は小さく頷いた。


 まさに、それだった。


 街が動いている。


 俺のスキルで動かしているんじゃない。


 俺の命令で動いているんでもない。


 人が、自分の意思で動いている。


 この変化は大きい。


 多分、今までで一番大きい。


「それで」


 浮田が続ける。


「次はどうするんだ?」


「第二次産業だな」


「やっぱりな」


 浮田は小さく笑った。


「農業、漁業、林業、畜産。そこが動き出したら、次は加工と製造だ」


「あぁ」


 俺は頷く。


「採っただけじゃ終わらない。作っただけでも終わらない」


 米を精米する。


 野菜を保存食にする。


 魚を加工する。


 木材を建材や家具にする。


 肉を保存できる形にする。


 布を服にする。


 道具を作る。


 工具を作る。


 機械を整備する。


 そこまでやって、ようやく生活は回る。


「銀行、第一次産業、次は第二次産業……か」


 浮田が苦笑する。


「お前、いよいよ国作ってんな」


「自分でもそう思うよ」


 俺も苦笑する。


 でも、もう否定はしない。


 俺は国を統一すると決めた。


 なら、やることは山ほどある。


 その一つ一つを、順番に形にしていくしかない。


「秘書」


 俺は頭の中で呼びかける。


『はい、悠真様』


「第二次産業に必要な施設を整理してくれ」


『承知いたしました』


 すぐに、頭の中に情報が流れ込んでくる。


 食品加工場。


 冷凍倉庫。


 精米施設。


 製粉施設。


 木材加工所。


 製材所。


 家具工房。


 縫製工場。


 工具製造所。


 簡易機械整備工場。


 建材加工施設。


 倉庫。


 物流拠点。


 必要な施設は、思ったより多い。


(……多いな)


『第二次産業を本格稼働させるためには、段階的な整備を推奨いたします』


「だろうな」


 一気に全部やると、管理が追いつかない。


 それに、第一次産業の時と同じ流れを繰り返しても、読んでる側……いや、考えてるこっちまでしんどくなる。


 ここは、仕組みを作るところだけ見せればいい。


 実際の細かい運営は、住民たちがやる。


 俺は、その土台を作る。


「まずは食品加工と木材加工だな」


『妥当な判断です。第一次産業との接続が最も早い分野です』


「それと、道具と簡単な機械の整備」


『農業、漁業、林業の効率化にも繋がります』


「よし」


 俺は畑の向こうを見る。


 遠くには、すでに整備した道路が伸びている。


 物流に使える道だ。


 阿川の配管工もあるが、それだけに頼るわけにはいかない。


 車も、人も、物も、普通に移動できる必要がある。

「やるか」


 俺はそう言って、歩き出した。


 第二次産業の整備は、第一次産業の時ほど大きな会議にはしなかった。


 同じように全員を集めて、一から意見を聞いて、土地を作って――という流れをやれば、確かに丁寧ではある。


 だが、今回はそれよりも速度を重視した。


 もちろん、必要な人材には声をかけた。


 元工場勤務。


 整備士。


 職人。


 食品加工業者。


 縫製関係者。


 大工。


 元機械メーカー勤務。


 そういった人たちを役所のデータから探し、テリトリー周知で声をかけた。


『第二次産業を始める。食品加工、木材加工、道具製造、縫製、機械整備。経験者は力を貸してほしい』


 それだけで、かなりの人数が集まった。


 その反応は、第一次産業の時と似ていた。


 いや、ある意味ではもっと早かった。


「やっと工場が動かせるのか!」


「設備があるなら、俺たちでやれる!」


「保存食を作れれば、かなり安定しますよ」


「木材加工なら任せてください」


「服の修繕だけじゃなく、新しく作れるなら助かります」


 声が次々と上がる。


 やる気がある。


 それだけじゃない。


 彼らには、“できること”があった。


 元の世界で培った知識と経験。


 それが、この世界でも生きる。


 むしろ、この世界だからこそ必要になる。


「建物と設備は用意する」


 俺は集まった人たちに言った。


「でも、動かすのはお前たちだ」


 全員の視線が俺に集まる。


「俺は工場のプロじゃない。加工の専門家でもない。機械の細かいことも分からない」


 だからこそ、言う。


「任せる」


 その言葉で、空気が少し変わった。


 命令されたから動くんじゃない。


 任されたから動く。


 その違いは、大きい。


「任せてください」


 ひとりの中年男性が前に出た。


 元食品加工工場の責任者だという。


「保存食、冷凍食品、乾燥加工。できることから始めます」


 別の男が続く。


「木材加工なら、最初は建材と簡易家具からですね。

職人が揃えば、もっと精度を上げられます」


 若い女性が手を挙げる。


「縫製工場も必要です。今は服が足りていても、いずれ傷みます。子供は成長しますし」


 その言葉に、俺は思わず頷いた。


 そうだ。


 子供は成長する。


 服も靴も、今あるものを使い続けるだけじゃ足りない。


 そういうところまで考えなければならない。


(……本当に、やることが多いな)


 でも、不思議と嫌じゃなかった。


 むしろ、こういう面倒な問題が出てくるほど、この街が本当に動いている感じがする。


「分かった」


 俺は全員を見渡す。


「まずは、必要最低限の施設を作る」


 そして、手をかざした。


「自動配置」


 次の瞬間、離れた工業区画の土地が動き始めた。


 テリトリー掌握で全体を見ながら、施設を配置していく。


 農業地帯から近い場所に食品加工場。


 漁港近くに冷凍・加工施設。


 林業エリアの近くに木材加工所。


 住宅地から少し離れた場所に工具製造と機械整備工場。


 住民が通いやすい場所に縫製工場。


 さらに、それぞれを繋ぐ物流倉庫と道路。


 建物が組み上がっていく。


 壁ができ、屋根が乗り、内部設備が整う。


 ラインが敷かれ、作業台が並び、冷凍庫が形を作り、木材を加工する機械が据えられる。


 もちろん、すべて完璧に動かせるわけじゃない。


 俺が作ったのは“箱”と“基本設備”だ。


 そこから先は、人間の仕事。


「……すごいな」


 誰かが呟いた。


 だが、俺は首を横に振る。


「すごいのはここからだ」


「え?」


「これを動かすのは、お前たちだからな」


 そう言うと、集まった人たちの表情が変わった。


 驚きから、責任感へ。


 そして――高揚へ。


「……やりましょう」


 食品加工の男が言った。


「ええ。まずは保存食からです」


「魚の加工も急ぎたいな」


「木材は建材優先でいきましょう」


「縫製は作業着からですね。農業や工場向けの服も必要です」


 次々に声が上がる。


 会議というより、もう現場だった。


 自分たちで段取りを組み始めている。


 俺が口を挟む必要は、ほとんどない。

 

 数日後。


 街には、新しい音が増えていた。


 機械の動く音。


 木を切る音。


 針が布を走る音。


 人が指示を出す声。


 それらが、街のあちこちから聞こえてくる。


 俺はその音を聞きながら、工業区画を歩いていた。


 食品加工場では、農家たちが持ち込んだ野菜が選別されていた。


「傷んでる部分はこっち!」


「こっちは乾燥加工に回せる!」


「保存用の瓶、足りてるか?」


 人が忙しそうに動いている。


 その顔には疲れもある。


 だが、同時に充実感もあった。


 漁港近くの加工施設では、漁師たちが持ち込んだ魚を手際よく処理している。


「これ、干物にできるな」


「こっちは冷凍だ」


「この量なら市場に回せるぞ」


 市場。


 その言葉が出たことに、俺は少し驚いた。


 もう、作るだけじゃない。


 売ることを考え始めている。


 木材加工所では、丸太が板材へと加工されていた。


 職人たちが木目を確認しながら話し合っている。


「この材なら家具向きだな」


「こっちは建材だ」


「若いの、手元見とけ。無駄に削るなよ」


「はい!」


 若者が真剣に頷く。


 縫製工場では、作業着が作られていた。


 農作業用。


 工場作業用。


 警察用の予備制服まであるらしい。


「サイズ違いも作らないとね」


「子供服も必要です」


「成長するから、少し余裕持たせた方がいい」


 生活そのものを支える会話だった。


 そして、工具製造所。


 そこでは、農具や簡単な修理道具が作られていた。


「まずは鍬、鎌、ハンマー、釘、ネジ」


「機械部品も簡単なものからだな」


「壊れたら終わりじゃなくて、直せるようにしないと」


 その言葉に、俺は思わず足を止めた。


 壊れたら、直す。


 当たり前のことだ。


 でも、今までの俺は壊れたものを“スキルで修復する”ことばかり考えていた。


 それじゃ駄目だ。


 人が直せる。


 人が作れる。


 その状態にしなきゃいけない。


「……本当に、動き始めたな」


 ぽつりと呟く。


 隣にいた浮田が頷いた。


「あぁ」


 そして、少しだけ笑う。


「もう、お前が全部出してる街じゃなくなってきたな」


「……そうだな」


 その言葉が、妙に嬉しかった。


 これが見たかった。


 俺が何でも用意する街じゃない。


 人が作る街。


 人が回す街。


「やっと、少しだけ肩の荷が下りた気がするよ」


「まだ早いだろ」


 浮田がすぐに言う。


「これからもっと面倒になるぞ」


「分かってる」


 俺は苦笑する。


「でも、悪い面倒じゃない」


「それはそうだな」


 浮田は工場の方を見る。


「人が生きてるって感じがする」


「あぁ」


 俺は頷く。


 街は、確かに変わった。


 守られる街から。


 生み出す街へ。


 そして――


 自分たちで動く街へ。


 その時だった。


 ふと、頭の中に引っかかるものがあった。


 SPМ。


 地震を乗り越えた後、フトゥーロが告げた二つ目の厄災。


 内部崩壊。


 それが起こる場所。


(……SPМか)


 俺は、少しだけ空を見上げた。


 凛堂。


 門脇。


 柿原。


 犬飼。


 あいつらの顔が浮かぶ。


 地震の後、一度くらい来るかと思っていた。


 だが、来ない。


 連絡もない。


 こちらから行くには情報が足りない。


 だが――何も起きていないと思うには、あまりにも静かすぎる。


「……悠真?」 


 浮田がこちらを見る。


「いや」


 俺は首を振る。


「何でもない」


 今は、この街が動き出したことを見届ける時だ。


 そう思った。


 だが、胸の奥に残った違和感は消えなかった。


 そして――


 その違和感は、決して気のせいではなかった。


SPМ本部――会議室。


 重たい静寂が、部屋全体を支配していた。


 長机を囲むように並ぶ椅子。


 そこに座るのは、この組織の中核を担う者たち。


 強襲隊隊長、凛堂明日香。


 戦術隊隊長、門脇誠司。


 影撃隊隊長、影山駿。


 支援隊隊長、世良芽衣。


 そして――特殊隊隊長、桜井晴彦。


 誰もが強者。


 誰もが、この世界で生き残るための“力”を持っている。


 だが――


 その空気は、以前よりもさらに張り詰めていた。


「……で?」


 最初に口を開いたのは、凛堂だった。


 椅子に深く腰掛け、足を組んだまま、苛立たしげに言う。


「今回の議題は何だ」


 門脇が軽く息を吐き、指を立てる。


「一つだ」


 短く言い切る。


「黒瀬悠真」


 その名前が出た瞬間、数人の視線がわずかに動いた。


「……やっぱり来たか」


 凛堂がニヤリと笑う。


 その笑みには、明確な“興味”があった。


「報告が上がってる」


 門脇は淡々と続ける。


「東京は地震をほぼ無傷で乗り切った」


「死者なし。重傷者なし。大規模倒壊なし」


 その言葉に、世良が目を細める。


「……へぇ」


「それ、本当に“人間”がやったの?」


「やった」


 門脇は迷いなく答える。


「黒瀬悠真のスキルだ」


 影山が静かに口を開く。


「……異常だな」


 短い言葉。 


 だが、その評価は的確だった。


「さらに」


 門脇は続ける。


「銀行を設立。通貨流通を開始」


「第一次産業、第二次産業も稼働」


「……は?」


 凛堂が思わず声を漏らす。


「何だそれ」


「そのままの意味だ」


 門脇は肩をすくめる。


「街じゃない。もう都市だ」


「……ははっ」


 凛堂が笑う。


 楽しそうに。


「やべぇな、あいつ」


「面白すぎるだろ」


 世良が口元に手を当てる。


「私、ちょっと見てみたいかも♡」


「外部勢力は排除対象だ」


 影山が即座に言う。


 感情のない声。


「管理下に置くべき存在である」


「はいはい、堅いわねぇ」


 世良が軽く笑う。


「でもぉ、有能なら取り込むって選択肢もあるでしょ?」


「規律に反する」


「うるさいわねぇ」


 軽いやり取り。


 だが、意見は割れていた。


 その時だった。


「……あの」


 小さな声が、場に落ちた。


 全員の視線が、自然と一箇所へ集まる。


 桜井だった。


 相変わらず頼りない表情。


 弱々しい声。


 だが――


 誰も、その発言を無視しない。


「……どうした」


 凛堂が低く言う。


「い、いえ……その……」


 桜井は一瞬視線を落とす。


 そして、ゆっくりと顔を上げた。


「黒瀬悠真は……危険です」


 その一言で、空気がわずかに変わった。


「危険、ねぇ」


 凛堂が腕を組む。


「何がだ?」


「統率力です」


 桜井は静かに答える。


「個人の戦闘能力ではなく……“人を動かす力”」


 門脇が小さく頷く。


「……同意見だ」


「だからこそ」


 桜井は続ける。


「管理下に置くべきです」


 自然な流れだった。


 誰も違和感を持たない。


 むしろ――


 それが“正しい判断”のように思えてしまう。


「……まぁ、そうなるか」


 凛堂があっさり言う。


「強ぇやつは、使うか潰すかだ」


「合理的だな」


 門脇も頷く。


 影山も短く言う。


「問題ない」


 世良は軽く笑う。


「面白そうだし、賛成♡」


 決定は、あまりにもあっさりだった。


 だが―― 


 桜井は、さらに一歩踏み込む。


「まずは接触を」


 静かな声。


「協力要請という形で」


「……あぁ」


 門脇が頷く。


「それなら自然だな」


「そして」


 桜井は続ける。


「必要であれば――連行」


 その言葉に、凛堂が笑う。


「いいねぇ」


「で?」


「最終的には?」


 桜井は、ほんの一瞬だけ間を置いた。


 そして――


「不要であれば、排除」


 静かに言い切った。


 誰も、反対しない。


「……妥当だな」


 門脇。


「同意する」


 影山。


「はいはい、それでいいわよ〜」


 世良。


「決まりだな」


 凛堂。


 誰も疑問を持たない。


 誰も違和感を抱かない。


 それが“最適解”だと、全員が理解していた。


「では」


 桜井が静かに締める。  


「門脇隊に任せましょう」


「……了解だ」


 門脇が立ち上がる。


「黒瀬たちと接触してくる」


「俺も行く」


 凛堂が言う。


 だが――


「強襲隊は別任務だ」 


 影山が遮る。


「……チッ」


 舌打ち。


 だが、引く。


「じゃあ好きにやれ」 


 門脇は軽く肩を回す。


「久しぶりに、あいつらに会えるな」


 犬飼の顔が脳裏に浮かんでいた。


 あの街。


 あの連中。


 だが――


 今回は、ただの共闘ではない。


 明確な“任務”だ。


「……監視は行う」


 影山が静かに言う。


「当然だ」


 門脇はあっさり頷いた。


 会議は、それで終わった。


 椅子が引かれ、各隊長が立ち上がる。


 それぞれが、次の行動へと移る。


 凛堂は不満げに肩を鳴らしながら出て行き、

 影山は無言で部下に指示を出し、

 世良は鏡を見ながら髪を整え、

 門脇は軽くあくびをしながら歩き出す。


 そして――


 静寂が戻る。


 会議室に残ったのは、一人。 


 桜井晴彦だけだった。


 扉が閉まる。


 音もなく。


 完全な静寂。


 その中で――


 桜井の表情が、変わる。


 弱々しさが消える。


 代わりに浮かぶのは――


 冷たい、無機質な視線。


「……順調だ」


 ぽつりと呟く。


 声には一切の揺らぎがない。


「黒瀬悠真」


 名前を口にする。


「予想以上だ」


 ほんの僅か、口元が歪む。


「だが」


 一歩、歩く。


 静かに。


「国は二つもいらない」


 その言葉には、確かな意思があった。


「どちらかが――消える」


 窓の外を見る。


 遠くに広がる東京。


 あの街は、確かに動き始めている。


 人が生きる街。


 だが――


「さて」


 桜井は小さく笑う。


「どこまで抗えるかな」


 その視線の先には、


 まだ誰も知らない“崩壊”があった。


 そして――


 SPМは静かに、


 東京へと刃を向け始めていた。




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