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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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61/70

門出 ― 経済という名の血流

第61話です。宜しくお願いします。

 朝。

 

 目を覚ました瞬間、妙に頭が冴えていた。

 

 寝不足というわけでもない。


 むしろ、ぐっすり寝たはずだ。

 

 なのに――

 

 胸の奥に、重たいものが残っている。

 

「……」

 

 ゆっくりと体を起こし、窓の外を見る。

 

 東京。

 

 俺が作り替えたこの街は、今日も変わらず動いていた。

 

 人が歩いている。


 店が開いている。


 子供が走っている。

 

 ――日常だ。

 

 確かに、日常が戻ってきている。

 

 だが。

 

(……違うな)

 

 その光景を見て、はっきりと思った。

 

 これは、“戻った日常”じゃない。

 

 俺が“作っている日常”だ。

 

 修復も。


 供給も。


 環境も。

 

 全部、俺のスキルに依存している。

 

 つまり――

 

(俺が止まったら、全部止まる)

 

 昨日、秘書に言われた言葉がそのまま頭に浮かぶ。

 

 あの時は理解したつもりだった。

 

 でも今、こうして街を見ていると――

 

 それが、嫌になるくらいリアルに分かる。

 

「……ダメだな、これ」

 

 小さく呟く。

 

 これは“街”じゃない。

 

 ただの“維持された環境”だ。

 

 人はいる。


 生活もある。

 

 でも――

 

(生み出してない)

 

 何も。

 

 ただ消費して、ただ生きているだけ。

 

 それは――

 

(……止まってるのと同じだ)

 

 ゆっくりと立ち上がる。

 

 迷いはなかった。

 

 昨日、もう決めたことだ。

 

「……銀行、作るか」

 

 東京の中心。

 

 元々オフィス街だった場所。

 

 修復と整備によって、今はある程度整った空間になっている。

 

 そのど真ん中に立ち、俺はゆっくりと手をかざした。

 

「自動配置」

 

 発動した瞬間――

 

 空気が変わる。

 

 地面の奥から、低い振動が伝わってくる。

 

 ゴォォォォ……

 

 重たい音。

 

 地面がわずかに盛り上がり――

 

 次の瞬間、コンクリートと鉄骨がせり上がってきた。

 

「……何回見てもすげぇな」

 

 思わず苦笑する。

 

 だが、見惚れてる暇はない。

 

 建物はどんどん形を成していく。

 

 柱が立ち、 


 壁が組み上がり、


 ガラスがはめ込まれ、

 

 巨大な建築物が、あっという間に完成していく。

 

 数十秒。

 

 それだけで、そこには“銀行”が存在していた。

 

 重厚な外観。

 

 無駄な装飾はない。

 

 だが――

 

(……安心感があるな)

 

 見た瞬間、そう思わせる。

 

 簡単には壊れない。

 

 ここに預けて大丈夫だと思える。

 

 そんな雰囲気を持った建物だった。

 

「……いいな」

 

 短く呟く。

 

 そのまま中へ入る。

 

「内装変更」

 

 内部が一気に変わる。

 

 受付。


 窓口。


 待合スペース。

 

 整然とした配置。

 

 さらに奥には、厳重な金庫室。

 

 動線も無駄がない。

 

 誰が見ても“銀行”と分かる空間が完成した。

 

「……ここが、始まりか」

 

 ぽつりと呟く。

 

 まだ何も動いていない。

 

 だが――

 

 ここから、“金”が動く。

 

 それはつまり――

 

 人が動くということだ。


 俺はそのまま役所へ向かった。

 

 建物を作るだけじゃ意味がない。

 

 運営する人間が必要だ。

 

 住民登録のデータを開く。

 

 スクロールしながら、前職を見る。

 

「……いたな」

 

 銀行員。


 証券会社。


 金融系。

 

 数は多くないが、確実にいる。

 

 俺はその中でも、経験がありそうな人間を選び――

 

「テリトリー周知」

 

 限定して発動する。

 

『……聞こえるか』

 

 数秒の沈黙。

 

 そして――

 

『はい、聞こえています』

 

『何でしょうか』

 

 反応が返ってくる。

 

「東京の中心に銀行を作った」

 

「これからポイント制度を廃止する」

 

 一瞬、空気が変わるのが分かる。

 

「代わりに、“円”での取引に戻す」

 

 完全な沈黙。

 

 だが、その沈黙は拒絶じゃない。

 

 理解しようとしている沈黙だ。

 

「そのための銀行だ」

 

「運営を任せたい」

 

 しばらくして――

 

『……正直、驚きました』

 

 一人が口を開く。

 

『この状況で、銀行ですか』

 

 だが続けて、

 

『ですが……』

 

 少しだけ、声が変わる。

 

『やっと“自分の仕事”ができる気がします』

 

 その一言に、全てが詰まっていた。

 

『乗ります』

 

『自分もやらせてください』

 

『任せてください』

 

 次々と返ってくる声。

 

 どれも前向きだった。

 

(……そうか)

 

 胸の奥が、少しだけ軽くなる。


 みんな、ただ守られてるだけじゃダメだって分かってる。

 

 自分でやりたいと思ってる。

 

「頼む」


 それだけ言った。

 

『お任せください』

 

 その一言で、決まった。


 銀行の名前はすぐに決めた。

 

「……門出銀行」

 

 口に出してみる。

 

 違和感はない。

 

 ここから始まる。

 

 この街の、新しい流れが。

 

 本店は中央。

 

 さらに東西南北に支店を配置した。

 

 それぞれに人を配置する。

 

 これで――

 

 準備は整った。

 

「テリトリー周知」

 

 今度は、全体に向けて発動する。

 

「皆さんに、大事なお話があります」

 

 街中の人々が足を止める。

 

 空を見上げる。

 

「東京で起こった地震を乗り越えたばかりですが、ここで新しいことを始めます」

 

 少し間を置く。

 

「今まで、働いた分だけポイントを支給していました」


「ですが――」

 

 息を吸う。

 

「この制度には限界があります」

 

 ざわめき。

 

「俺がいつ死ぬか分からないからです」

 

 一瞬、空気が重くなる。

 

「地震でも死ぬかもしれない」


「モンスターに殺されるかもしれない」


「寿命もある」

 

「その時――今のままだと、みんなが困る」

 

 静寂。

 

「だから、変えます」

 

「ポイント制度をやめ、“円”での取引に移行します」

 

 一気にざわめきが広がる。


「現在サービス業を中心とする第三次産業が主な産業になっていると思います」


「それは、私から物が提供されているからです」


「ですのでこれから元々第一次産業、第二次産業をやられていた皆さんに再びやって頂きたいと考えています」


「そして、まずは銀行の設立を行いました」


「これからポイントをお金に変えさせて頂きます」


「紙幣、硬貨の製作は完了しました」


「現在、5つの銀行があるので、そこに順番に行って頂く形になりますが、凄い人数になるので、何週間かかけてお金に変えて行って頂きたいと思います」


「ですので、今日から1ヶ月はポイントでもいつも通り生活できるようにしたいと思います」


「従って1ヶ月以内にお金に変換をお願い致します」


「なお、他の第一次産業、第二次産業は順次始めていきたいと考えていますので、暫くお待ち下さい」


 最後に、少しだけ言葉を柔らかくする。

 

「これからは俺じゃなくて、みんなでこの街を作っていきたいんです。」

 

 そこで、言葉を切った。

 

 その日の午後。


 

 銀行の前は――

  


 人、人、人。

 

「押さないでください!順番にお願いします!」

 

 楢沢の声が響く。

 

「焦らなくて大丈夫ですよー」

 

 川原も穏やかに声をかける。

 

 警察はスキルを使わない。

 

 ただ、声と動きだけで人を整理している。

 

 それでも――

 

 混乱は起きていなかった。

 

「本当に金になるのか?」


「貯金できるってこと?」 


「仕事、増えるよな……?」


 不安もある。

  


 でも――

 


 それ以上に。

 

「なんか……ちゃんと“社会”って感じするな」

 

 そんな声が聞こえた。

 

 俺は少し離れた場所から、それを見ていた。

 

(……動いてる)

 

 確実に。

 

 人が考えている。

 

 選ぼうとしている。

 


 それだけで――

  


 今までとは、全然違った。

 

「……これが」

 

 小さく呟く。

 

「経済、か」

 

 金が流れる。

 

 人が動く。

 


 それは――


 

「この街の“血流”だな」

 

 空を見上げる。

 

「ここからだ」

 

 静かに言う。

 

「全部、始める」

 


 東京は――

 


 確実に、“国”へと動き始めていた。






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