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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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最後の一体

第6話です。今回も少し長めですが、宜しくお願いします。

「……来い……!」


玄関の前に立ちながら、俺は歯を食いしばっていた。


 外から近づいてくる足音が聞こえる。


 軽い足音が二つ。子供のものだ。


 その後ろから、地面を抉るような重い音が複数。


異形の犬型モンスターどもが、獲物を追って一直線に走ってくる。


 俺は玄関の鍵を外し、ドアノブを握ったまま、わずかに扉を開けた。


 開けすぎるな。


 だが、遅れれば間に合わない。


 そのぎりぎりを見極める。


 十数メートル先。


 中学生くらいの少年が、小学生ほどの少女の手を引いてこちらへ走ってくるのが見えた。


少年の顔は青ざめ、息もかなり上がっている。


妹らしい小さな女の子は涙でぐしゃぐしゃの顔をしていた。


 その背後には、二体の犬型モンスター。


 さらに——


「っ……!」


 住宅街のあちこちから、別の影が動いた。


 林の方。


 向かいの家の塀の陰。


 壊れた車の向こう。


 ぬるり、と這い出るように現れた異形が、俺の声と子供たちの足音に引き寄せられるように集まってくる。


「……増えたのかよ!」


 思わず吐き捨てる。 


 二体じゃない。


 五体追加。


 合計七体。


 さすがに笑えない数だった。


 だが、今さらどうこう言っても遅い。


「急げ! そのまま真っ直ぐ来い!!」


 叫ぶと、少年がこくりと頷いたように見えた。


 残り十メートル。


 モンスターとの距離は、もうほとんどない。


 一番先頭の一体が大きく跳躍する。


「——っ!」


 その瞬間、少年の前に透明な壁が展開した。


 バリア。


 昨日双眼鏡越しに見たのと同じ、防御のスキルだ。


 跳びかかったモンスターが見えない壁に激突し、弾かれる。


だが、その衝撃で少年の身体も大きく揺れた。長くは持たない。


「こっちだ!」


 俺はさらに扉を開け、腕を伸ばした。


 少年が少女を先に押し込むようにして玄関へ滑り込ませる。


続けて自分も飛び込み、俺はほとんど体当たりみたいに扉を閉めた。


 ドンッ!!


 直後、すぐ外側に衝撃。


 間一髪だった。


「はぁ……っ、はぁ……っ……」


少女がその場にへたり込むようにして泣きじゃくる。


少年も膝に手をついて息を荒げていた。


 俺も内心ではかなりやばかったが、それを表に出すわけにはいかなかった。


 この状況で大人が慌てたら、子供はもっと壊れる。


「……大丈夫だ」


 自分でも驚くくらい落ち着いた声が出た。


 玄関の向こうでは、すでに異形たちが壁と扉を引っかいている。


ガリガリ、ドンッ、バキッ、と嫌な音が立て続けに響いているのに、それでも俺は平静を装った。


「お兄さんに任せて。二人は下がってろ」


 少女が泣きながら俺を見る。


 少年もはっと顔を上げた。


その表情には、明らかな混乱と恐怖があった。


 当然だ。


 知らない家に飛び込んで、今は七体の化け物に囲まれている。


 冷静でいられる方がおかしい。


「で、でも……!」


 少年が何か言いかけるが、その言葉は玄関扉を揺らす激突音に掻き消された。


 ドンッ!!


 ドア全体が大きくひしゃげる。


 さらに外壁の方でも、爪が板材を引き裂く耳障りな音が響いた。


 俺はすぐにステータスを開く。




【テリトリー損傷を確認】

対象:黒瀬悠真のアパート

損傷箇所:玄関扉(大)

損傷箇所:壁面(中)

損傷箇所:窓ガラス(中)

【修復中】

玄関扉 0%

壁面 0%

窓ガラス 0%




「……最悪だな」


 七体同時だと、修復が完全に追いついていない。


 45秒という時間自体は変わっていないはずなのに、あちこち同時に壊されるせいで、直るそばからまた壊されていく。


 前回より明らかにきつい。


 しかも相手は一体じゃない。


 扉を正面から叩き壊そうとするもの、横の壁を爪で抉るもの、窓を割ろうとするもの……完全に家全体を包囲していた。


 少女がびくっと肩を震わせる。


 少年がその前に立ち、また透明なバリアを展開した。


 家の中で、俺たちを守るように。


「……いや、待て」


 俺は思わず口を開く。


「まだ使うな。温存しろ」


「で、でも……!」


「いざ中に入られた時のためだ」


 少年のバリアは強い。


だが万能じゃない。持続時間とクールタイムがあるなら、今ここで使い潰すのは悪手だ。


 少年は迷いながらも、俺の言葉を聞いてバリアを解いた。


 真面目で、言われたことをちゃんと聞くタイプらしい。


 その様子に少しだけ救われる。


 ただし——


 外の状況は最悪だった。


 バキバキッ!!


 窓ガラスが一枚割れる。


 ひびの入った扉の隙間から、細長い黒い脚がぬるりと差し込まれる。


 壁の一部が抉られ、そこから裂けた頭部の一部が覗いた。


 近くで見ると、本当に気持ち悪い。


 目のない顔。


 縦に割れた頭。


 その内側で蠢く歯の列。


 鼻を鳴らすように、あるいは嗅ぎ回るように、その異形が家の中の空気を探っている。


「っ……」


 喉が鳴る。


 怖い。


 普通に、めちゃくちゃ怖い。


 だが、ここで顔に出すわけにはいかなかった。


 俺はバールを握り直す。


「……大丈夫だ」


 子供達に向けて言ったのか、自分に言い聞かせたのか、自分でも分からない。


「そのうち、何とかなる」


 かなり根拠の薄い言葉だった。


 でも、少女はそれに少しだけ縋るように頷き、少年——兄の方は歯を食いしばりながら妹の肩を抱く。


 その間にも、家はどんどん壊れていく。


 玄関扉は中央が深くへこみ、壁にはいくつも穴が開いた。窓からは破片が散り、外の冷たい空気が流れ込んでくる。


 修復ゲージは伸びている。


 だが遅い。


 あまりに遅い。


「……まだかよ」


 思わず零れたその瞬間だった。


『一定以上の外敵侵入危険を確認しました』


 頭の中に、あの無機質な声が響いた。


 視界の端で文字が走る。




【警備システム 起動】

《警備 Lv2》




防衛機構を展開します


「来た……!」


 次の瞬間、玄関前の空間が歪んだ。


水面みたいにゆらぎ、その中から三つの影が現れる。


 前回と同じ武装警備隊。


 濃紺の装備。無機質な視線。手には機関銃。


 人数は三人のまま。


 だが、今の俺には十分すぎるほど頼もしかった。


 子供達が息を呑む気配が分かる。


「え……」


「な、何……?」


 その戸惑いを置き去りにするように、警備隊は即座に前へ出た。


 扉の裂け目、窓の割れた部分、壁の穴——そこから見える異形を正確に捕捉し、一切のためらいなく銃口を向ける。


 ダダダダダダダダッ!!


 轟音。


 狭い室内に銃声が炸裂し、七体の異形が一斉に悲鳴を上げる。 


 一体目が玄関前で頭部を吹き飛ばされ、二体目が壁際で脚を砕かれて転倒する。


三体目は窓枠に食らいつこうとしていたところを横から蜂の巣にされた。


 俺は思わず目を見張った。


 やっぱり強い。


 Dランク相手にも十分通用している。


 子供達は完全に呆然としていた。


 そりゃそうだろう。


家が壊されて絶体絶命だったところに、いきなり異空間から武装兵が出てきてモンスターを撃ち殺し始めたんだから。


「……すご……」


 少女が泣き止むのも忘れて呟いた。


 だが安心するにはまだ早い。


 警備の持続時間は3分。


 たしかに伸びた。


けれど七体相手では、余裕があるとは言い切れない。


 撃つ。


 倒す。


 位置を変える。


 撃つ。


 倒す。


 外からさらに別の個体が来ないか、俺はそればかりが気になっていた。


 幸い、今この場に集まってきているのは七体で打ち止めらしい。


 警備隊は順調に数を減らしていく。


 一体。


 二体。


 三体。


 四体。


 五体。


 六体。


 異形の肉片が外に転がり、黒い体液が飛び散る。


 そして——


 最後の一体。


 そいつは他の個体より少しだけ反応が早かった。


警備隊の射線を読んだのか、壊れた壁の陰に半身を隠しながらじりじりと位置を変えている。


 いやらしい動きだ。


 機関銃の弾が外壁を削る。


 だが致命傷には至らない。


「……倒せるだろ」


 そう思った。


 そう思っていたのに。


 警備隊の体が、ふっと揺らぐ。


「——え」


 嫌な予感がした。


 視界に表示。




【警備時間 終了】




「嘘だろ」


 思わず声が出た。


 粒子みたいにほどけるように、三人の警備隊が消えていく。


 ほんの数秒前まで頼もしく立っていたはずの姿が、まるで最初からいなかったみたいに消失する。


 残されたのは、壊れた家と、外でぬらりと動く最後の一体だけだった。


「っ……」


 空気が、一気に凍る。


 たった一体。


 されど一体。


 それでも今の俺たちには十分に脅威だ。


 犬型モンスターが低く唸り、裂けた頭部をこちらへ向ける。


頭部の一部は銃撃で抉れていた。


脚にもいくつか弾痕があり、黒い液体を垂らしている。


 だが死んでいない。


 まだ動く。


「美咲、下がれ!」


 少年が叫び、少女を背中へ押しやる。


 次の瞬間、透明な壁が展開した。


 バリア。


 異形が飛びかかる。


 ガンッ!! と硬質な衝撃音が響き、モンスターが弾き返された。


 やはり強い。


「あとどれくらい持つ!?」


 俺が叫ぶと、少年は苦しそうに歯を食いしばりながら答えた。


「わ、分かりません……! でも、長くは……!」


 バリアの表面が大きく波打つ。


 異形が何度も何度も体当たりを繰り返している。


 完全防御でも、使う側が子供なら負荷は大きいんだろう。


「くそ……!」


 時間を稼ぐしかない。


 俺はバールを握り、バリアの横へ回り込む。


 異形が位置を変え、別方向から回り込もうとした瞬間、思い切って叩きつけた。


 ガンッ!!


 硬い。


 骨に当たったのか、金属にでもぶつけたみたいな感触が腕に返る。


 異形が少しだけ怯む。


 でも、それだけだ。


 明確に効いている感じは薄い。


「っ……!」


 それでも殴る。


 頭部。


 肩口。


 前脚。


 当たる場所を変えながら、何度も振り下ろす。


 大きなダメージにはなっていない。


 分かってる。


 でも、止めない。


 倒せなくてもいい。


 足止めになれば、それでいい。


 バリアの時間が少しでも伸びれば。 


 何か、何か一つでも好転する要素があれば——


「……残り、っ、だめ……!」


 少年の声が震えた。


 バリアの膜が薄くなる。


 限界だ。


「美咲! 兄ちゃんの後ろ!」


「お、お兄ちゃん……!」


 少女が泣きながらしがみつく。


 その瞬間。


 バリアが、パリンと音を立てるように消えた。


「——っ!」


 異形が待っていたみたいに飛び込んでくる。


少年がよろめきながらも前へ出るが、間に合わない。


 俺は咄嗟に体を投げ出して前に出た。


 ガツッ!!


 重い衝撃が肩に入る。


「ぐっ……!」


 吹き飛ばされはしなかったが、足がよろける。


 そのまま異形が押し込んでくる。


 裂けた頭部の内側に並ぶ歯が、目前まで迫った。


 臭い。


 腐った肉と鉄が混ざったような匂い。


 近すぎる。


 まずい。


 押し返せない。


「——う、あああああっ!!」


 少年の叫び声が聞こえた。


 次の瞬間、眩い光が視界の端で爆ぜる。


「……え?」


 異形の身体がびくっと震えた。


 横から放たれた細い光の筋が、そいつの胴をかすめている。


 俺は目を見開いた。


 少年だ。


 両手を前に出し、無我夢中で何かを放っている。


 視界の端に、少年のスキルらしき表示が一瞬だけ浮かぶ。




【光線】

威力:0%

持続:0%




「0……?」


 それでも。


 それは、まったく無意味じゃなかった。


 異形はすでに警備隊の銃撃を受け、俺のバールも何度も入っている。


そこへゼロに等しい威力でも“別方向からの衝撃”が加わったことで、ほんの一瞬だけ体勢が崩れた。


 その隙が——命綱になった。


「……っ、今だ!」


 俺は全身で異形を押し返し、バールを振り上げる。

 頭部へ叩きつける。


 ガンッ!!


 さらにもう一発。


 ガッ!!


 裂けた頭の中の柔らかい部分に当たった感触があった。


 異形がよろめく。


「倒れろっ……!」


 叫びながら、何度も何度も振り下ろす。


 腕が痛い。


 肩も痛い。


 呼吸が苦しい。


 でも止めない。


 目の前のこいつを倒さなきゃ、終わる。


 ガンッ!!


 ガンッ!!


 ガンッ!!


 最後の一撃で、異形の頭部がぐしゃりと潰れた。


 黒い液体が飛び散り、そいつは膝から崩れ落ちるようにして床へ倒れ込む。


「……はっ……はっ……」


 しばらく、誰も動かなかった。


 俺も、この子供達も。


 ただ荒い呼吸だけが響く。


 目の前の異形は、もう動かない。


 完全に止まっている。


「……勝った、のか」


 呟いた瞬間、全身から一気に力が抜けそうになっ

た。


 だが、その前に視界に表示が出る。




【モンスターを討伐しました】

スキルポイントを獲得しました

+7




「……一応、俺が倒した判定なんだな」


 妙なところで冷静な感想が出る。


 たぶん最後の一撃を入れたのが俺だからだろう。


 だが、その直後にはもうそんなことを考える余裕もなくなった。


 家の修復が始まる。


 壊れた壁。


 砕けた窓。


 ひしゃげた玄関。


 それらが、ゆっくりと、しかし確実に元通りになっていく。


 黒い液体や異形の死骸も、環境維持の作用なのか、じわじわと薄れて消えていった。


 血生臭かった空気まで、少しずつ清浄に戻っていく。


「……相変わらず、徹底してるな」


 その異様な光景を見ながら、ようやく本当に終わったんだと実感した。


 少女が、へなへなとその場に座り込む。


「こ、こわかったぁ……」


 今まで必死に耐えていたぶん、涙が一気に溢れたらしい。


 少年もその場に膝をついたが、すぐに姿勢を正した。


 そして、俺の方を向く。


 顔は青い。


 息も荒い。


 それでも、その目は真っ直ぐだった。


「……助けて下さり、本当にありがとうございます……!」


 そう言って、深く頭を下げた。


 子供とは思えない、真面目で丁寧な礼だった。


 俺は一瞬だけ言葉に詰まる。


 こんな状況で礼を言えるのか、こいつ。


 いや、たぶんだからこそか。


 少女を守るために必死で、それでも最低限の礼儀は崩さない。


 そういう性格なんだろう。


「……別に」


 俺は少しだけ視線を逸らしながら答える。


「たまたま間に合っただけだ」


 本当は、かなりギリギリだった。


 たまたま、じゃ済まないほど危なかった。


 でも、それをわざわざ言う必要もない。


 少年はもう一度「ありがとうございます」と小さく繰り返した。


 少女も涙を拭きながら、ぺこりと頭を下げる。


「……ありがとう、お兄さん……」


「……どういたしまして」


 そう返してから、俺はようやくバールを床に置いた。


 手のひらがじんじんする。


 肩も痛い。


 たぶん明日はもっと痛む。


 けれど、生きている。


 三人とも、今ここにいる。


 それだけで、十分だった。


 修復ゲージはもうほとんど終わっている。


 玄関も壁も、窓も、まるで最初から何もなかったみたいに戻り始めていた。


 ほんの数分前まで七体の異形に襲われ、家の中まで踏み込まれていたとは思えない光景だ。


「……とりあえず」


 俺は息を整えながら言う。


「もう大丈夫だから、座れ」


 子供達は顔を見合わせ、小さく頷いた。


 それを見て、俺も少しだけ肩の力を抜く。


 世界は崩壊した。


 でも、この家の中だけは、まだ人間の居場所を保っている。


 そしてたぶん——


 ここから先は、俺一人の話じゃなくなる。


 そんな予感がした。




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