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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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5/170

観測

第5話です。こちらも少し長くなりましたが宜しくお願いします。


疲れた。

 心の底から、そう思った。

 玄関の前に立ったまま、俺はしばらく動けなかった。

 さっきまでこの家に食い込もうとしていた異形の怪物は、もう跡形もなく消えている。

 壊された玄関も壁も、修復ゲージが100%に到達したあと、何事もなかったみたいに元通りになった。

 助かった。

 その事実だけは分かる。

 でも、それを実感するのと同時に、今度は全身から力が抜けていく。

「……もう無理だな」

 ぽつりと呟く。

 手がまだ震えていた。

 バールを握っていた右手もじんじんしている。

 息は落ち着いてきたが、胸の奥がざわざわしている感じが消えない。

 あのまま《警備》が発動しなければ、たぶん死んでいた。

 そう思うと、今さら遅れて恐怖が押し寄せてきた。

「……考えるのは、明日でいいか」

 今日はもう限界だ。

 スキルポイントが増えたことも、《警備》という新しい力を手に入れたことも分かっている。

 分かっているが、それを落ち着いて整理できる精神状態じゃない。

 俺はキッチンで水をもう一杯飲み、シャワーを浴びる気力もなく、そのままベッドへ倒れ込んだ。

 電気はつけたまま。

 バールは手の届く位置に置く。

 窓と玄関を何度も確認して、それでも不安が消えないまま、目を閉じた。

 眠れるとは思っていなかった。

 けれど、体は限界だったらしい。

 気づいた時には、意識が闇に沈んでいた。


 ◇


 目が覚めた時、部屋の中は薄明るかった。

「……朝、か」

 上体を起こす。

 首が少し痛い。

 たぶん変な姿勢で寝たせいだ。

 窓の外から差し込む光は、驚くほど穏やかだった。

 昨日、世界が崩壊したなんて嘘みたいに、見た目だけなら普通の朝だ。

 けれど、静かすぎる。

 鳥の声も、車の音も、近所の生活音もない。

 あるのは、自分の呼吸と、冷蔵庫の微かな駆動音だけだ。

「……嫌な静けさだな」

 寝起きのぼんやりした頭に、それだけで現実が戻ってくる。

 世界は終わった。

 ここだけが、まだ“日常っぽい何か”を保っているだけだ。

 ベッドから降り、顔を洗ってから、まずはステータスを開く。

「ステータス」

 半透明の画面が視界に浮かぶ。


【ステータス】

名前:黒瀬 悠真

種族:超人族

Lv:1

スキルポイント:3

【メインスキル】

《日常生活 Lv2》

【サブスキル】

《警備 Lv1》


「……よし」

 ちゃんと夢じゃない。

 いや、夢じゃないことはもう嫌というほど分かってるけど、それでもこうして確認すると気持ちが切り替わる。

 次に、商品生成の項目を開く。


【商品生成 Lv2】

・テリトリー内の物品を複製可能

・生成速度:短縮

・ネットショッピング Lv1

本日使用回数:0/1


「リセットされてるな」

 小さく息を吐く。

 昨日はもう使い切っていたネットショッピングが、日付を跨いで再使用可能になっている。

 これで一日一回、新しい物資を手に入れられる。

 しかも、その一個をテリトリー内に迎え入れた時点で、今後は商品生成で複製し放題だ。

「……本当に頭おかしいな、このスキル」

 ありがたいけど。

 あまりに都合が良すぎて、逆に不安になるレベルだ。

 ただ、それにビビって使わない理由はない。

 まずは昨日手に入れた3ポイントの振り分けだ。

 今の状態を考える。

 生活はすでにある程度安定している。

 水も電気も食料も問題ない。

 家は壊れても修復されるし、商品生成で日用品の不足もほとんどない。

 だが、防衛はまだギリギリだ。

 昨日はたまたま間に合っただけで、《警備》がなければ死んでいた。

 次も同じとは限らない。

「……まずは防衛」

 それが結論だった。

 《警備》を開く。


【警備 Lv1】

・テリトリーが外敵から一定以上の損傷を受けた際に発動

・警備隊を召喚し、対象を排除する

・召喚人数:3

・会話機能:なし

・活動時間:2分

・発動条件:テリトリー内への侵入危険度 中以上

次Lv必要ポイント:1


「安いな」

 昨日解放されたばかりだからか、まだ必要ポイントは1だ。

 だったら迷う理由はない。

「警備に1ポイント」

 表示が小さく光る。


【警備 Lv2】

・活動時間:3分

・警備システム ON / OFF機能追加

次Lv必要ポイント:2


「……へぇ」

 思わず声が漏れる。

 活動時間が3分になったのは分かりやすい強化だ。

 あの三人の武装警備隊が、1分長く動いてくれる。

 それだけでかなり安心感が違う。


 でも、それより大きいのは——


「ON / OFF機能、か」

 そこに意識を向けると、さらに詳細が開く。


【警備システム】

現在設定:ON

・ON:条件達成時に自動発動

・OFF:条件達成時も発動しない


「……なるほどな」

 これはかなり大きい。

 今まではテリトリーが危険になれば自動で発動するだけだった。

 でもON/OFFを切り替えられるなら、使いどころを選べる。

 例えば、わざと敵を引き込んでから発動することもできるし、逆に無駄撃ちさせないこともできる。

 完全自動防衛から、“運用できる防衛機構”に一段階進化した感じだ。

「……使い方次第で、かなり変わるな」

 メガネを押し上げる。

 残りポイントは2。

 ここで悩む必要はほぼなかった。

 商品生成を強化する。


 今後の拠点強化、物資調達、生活の安定——全部の土台になるのがこれだ。


 しかも、すでにネットショッピングは解放済み。

 ここから先は、取り込んだ物をどれだけ快適に増やせるかの勝負になる。

「商品生成に2ポイント」

 表示がまた光った。


【商品生成 Lv3】

・テリトリー内の物品を複製可能

・生成速度:さらに短縮

・ネットショッピング Lv1

次Lv必要ポイント:3


「……速くなったな」

 試しに、昨日テーブルに置いていたペットボトルの水を一つ商品生成してみる。

「商品生成。水」

 ほとんど間を置かず、すぐ隣に同じ物が現れた。

「……いいな」

 前は“少し待つ”感覚があった。

 でも今はかなり自然に近い。

 連続で出してもストレスが少ない。

 食料、飲料、日用品、簡易武器。

 今後この家の中に取り込む物次第で、拠点の完成度はどんどん上がっていく。

「これで、生活面はかなり安定したな」

 警備はLv2。

 商品生成はLv3。

 日常生活スキルの中でも、今必要なところはだいぶ強化できた。


 ただ——ここで一つ、問題が残る。


「スキルポイントは、どうやって稼ぐか」

 椅子に座って腕を組む。

 昨日ポイントを得られたのは、モンスターを倒したからだ。

 しかも初討伐ボーナス込みで3ポイント。

 今のところ、俺が知っているポイント取得条件はそれだけだ。

「……つまり、今後強くなるには倒すしかない」

 当然といえば当然だ。

 ゲームみたいな世界なら、経験値やポイントは敵を倒して得るものだろう。


 問題は——


「俺には、外で戦う力がない」

 そこだった。

 バールで殴ってもほとんど効かなかった。

 あのDランクモンスター相手じゃ、正面からやり合えばまず死ぬ。

 だが。

「……家なら倒せる」

 昨日、それを証明した。

 テリトリーが侵入危険状態になれば、《警備》が発動して敵を排除してくれる。

 あの火力なら、少なくともDランク一体相手には十分だった。

「だったら」

 結論はシンプルだ。

「……ここで狩ればいい」

 自分で言って、少しだけぞくりとした。

 モンスターを家に近づける。

 あるいは、侵入危険状態まで誘導する。

 そこで警備隊に処理させる。

 そうすれば、俺は安全圏にいながらポイントを得られる。

「……効率は悪くないな」

 いや、かなり良い。

 外で無理に戦わずに済む。

 拠点の防衛と成長を両立できる。

 もちろん危険はある。

 昨日みたいにギリギリまで家を壊されるのは避けたい。

 だが、《警備》をON/OFFで制御できるようになった今なら、やり方次第でどうにかなるかもしれない。

 そのために必要なのは、まず情報だ。

 外の状況。

 モンスターの位置。

 人の気配。

 今の俺に足りないのは圧倒的にそれだった。

「……なら、今日の買い物は決まってるか」

 ネットショッピングを開く。

 武器も一瞬頭をよぎった。

 医療キットもありだと思った。

 でも、今一番必要なのは自分が動かずに外を見る手段だ。

「ネットショッピング。双眼鏡」

 確認画面が表示される。


【ネットショッピング】

商品:双眼鏡

取得しますか?

【はい/いいえ】


「はい」

 選択した瞬間、テーブルの上の空間がわずかに歪んだ。

 昨日と同じ転送の感覚。

 そして、黒い双眼鏡が静かに現れる。

「……来たな」

 手に取る。

 軽い。

 だが安物ではなさそうだ。

 レンズもしっかりしている。

 これで今日のネットショッピングは使用済みだが、一度この家に入った以上、今後は商品生成でいくらでも複製できる。

「商品生成。双眼鏡」

 すぐ隣にもう一つ現れる。

「よし」

 今後壊れても問題ない。

 というより、こうやって“壊れても困らない状態”を作れるのが、商品生成の一番恐ろしいところだ。


 ◇


 俺はカーテンを少しだけずらし、窓際へ移動した。

 迂闊に姿を晒さないように体を壁に寄せ、ほんのわずかな隙間から外を覗く。

 双眼鏡を目に当てる。

「……」

 道路。

 向かいの家。

 少し離れた交差点。

 肉眼じゃ見えなかったものが、はっきりと見えた。

 道路には乾いた血痕が残っている。

 放置された車の窓は割れたまま。

 電柱に何かが擦りつけられたような黒い汚れもある。


 人の姿は——見えない。


 いや。

「……隠れてるのか、もういないのか」

 どちらにせよ、まともな日常は残っていない。

 しばらく視点を動かしながら周囲を観察する。

 少し先のコンビニは入口のガラスが砕けていた。

 シャッターのない店だから、たぶんもう荒らされているだろう。

 さらに先、小さなスーパーの駐車場にも車が何台か止まったままだ。

 人影はない。

 代わりに、車の陰をぬるりと横切る黒い影が見えた。

「……いた」

 双眼鏡越しに追う。

 昨日の犬型に似ているが、少し小さい。

 Eランクか、それに近い雑魚だろうか。

 動きが不規則で、時折立ち止まり、何かを探るように首を巡らせている。

 単独。

 群れではない。

 だが、それが逆に不気味だった。

「活動パターンは……一定じゃないな」

 音に反応しているようにも見えるし、匂いを追っているようにも見える。

 少なくとも、適当に外を歩き回るのは自殺行為だ。

「……やっぱり、外で戦うのは無理だな」

 改めてそう思う。

 なら、やることは同じだ。

 情報を集める。

 家を強くする。

 警備でポイントを稼ぐ。

 その繰り返しで、少しずつこの拠点を育てていく。

「……日常生活スキルを強くするには、まずここで狩る」

 言葉にすると、だいぶ物騒だ。

 でも事実だ。

 この家はただの避難所じゃない。

 成長の土台であり、武器であり、要塞の種だ。

 双眼鏡を持つ手に力が入る。

 もっと先を見る。

 家々の隙間。

 電柱の影。

 林へ続く道。

 うちのアパートがある場所は地方の住宅街の端に近い。

 少し行けばコンビニと小さなスーパーがあって、その向こうには林がある。

 昨日まではただの“静かな田舎”だった場所が、今は異形の徘徊する狩場みたいに見えた。

 そのときだった。

「……ん?」

 少し離れた民家の前で、何かが動いた。

 人影。

 いや、二つ。

 双眼鏡の焦点を合わせる。

「……子供?」

 一人は小さい。

 小学生くらいの女の子だ。

 もう一人は中学生くらいの男子。

 兄妹、か。

 そう思った直後、その少年が小さな女の子を背中に庇うように立つのが見えた。


「まさか——」


 次の瞬間、道路の角から黒い影が飛び出した。

 犬型。

 昨日の奴と同系統だが、ひと回り小さい。

 それでも、子供二人が相手にしていい相手じゃないことだけは一目で分かる。

 女の子が泣いているのが、距離があっても伝わった。

 少年が前へ出る。

 その手が震えているのが見える。

 だが、逃げない。

「……おい」

 思わず呟く。

 無謀だ。

 でも、その直後。

 少年の前に、透明な壁みたいなものが展開した。

 モンスターが飛びかかり、見えない何かに激突して弾かれる。

「……バリア?」

 超人族。

 俺と同じだ。

 そう確信した。

 少年は歯を食いしばりながら、必死に両手を前に突き出している。

 透明な壁は揺れていた。

 攻撃を防いではいるが、余裕はない。

 むしろ、かなり限界に近い。


 女の子——妹か——は兄の服の裾を掴み、泣きながら何か叫んでいる。


 もう一体、別の影が道路の奥から近づいてくるのが見えた。

「……二体目」

 まずい。

 あのままじゃ持たない。

 バリアは物理攻撃を防げるのかもしれない。

 だが、少年の年齢から見ても、扱いに慣れているようには見えなかった。

 現に押されている。

「……どうする」

 双眼鏡を握ったまま、考える。

 助けるか。

 見捨てるか。

 外に出れば危険だ。

 今の俺じゃ二人まとめて連れて帰るなんて無理がある。

 そもそも、家の外で警備は使えない。

 なら、答えは一つしかない。

「外では助けない」

 淡々と、結論が出る。

 でも。

「……ここに来させれば助けられる」

 家の中に入れば、テリトリーだ。

 侵入危険状態まで引きつければ、《警備》で処理できる。

 問題は、あの兄妹をここまで誘導できるかどうか。

 距離はある。

 けれど、ギリギリ走れない距離じゃない。

 少年が持っているのが本当にバリア系なら、少しの時間は稼げるかもしれない。

 ……見捨てれば、あそこで終わる。

 それが頭では分かった。

 そして、胸の奥で小さく舌打ちしたくなる。

「……ああ、クソ」

 こういうのは嫌いだ。

 合理だけで切れない判断を迫られるのは。

 でも、もう決めていた。

 助ける。

 ただし、俺のルールで。


 ◇


 俺は双眼鏡を置き、玄関へ向かう。

 ドアを開けるわけじゃない。

 その少し手前、家の中からでも声が通りやすい位置を選ぶ。

 警備システムはONのままだ。

 あとは、あの兄妹がここまで来られるか。

「……聞こえろよ」

 小さく息を吸う。

 そして、できる限り大きな声で叫んだ。

「おい!! こっちだ!!」

 静まり返った住宅街に、自分の声が異様に大きく響く。

 向こうの少年がはっと顔を上げた。

 こっちを見た。

 距離があるから表情までは分からない。

 でも、確かに気づいた。

 俺はさらに叫ぶ。

「そのまま真っ直ぐ来い! 家の中に入れ!!」

 少年が一瞬だけ迷うように動きを止める。

 当然だ。

 知らない声だ。

 罠かもしれない。

 突然そんなことを言われても、信じられるはずがない。

 だが、その迷いの隙を埋めるように、二体目のモンスターが距離を詰める。

 バリアが大きく揺れた。

「っ……!」

 少年がよろめく。

 そこで、ようやく決断したらしい。

 妹の手を引いた。

「……走れ」

 小さく呟く。

 次の瞬間、兄妹がこちらへ向かって走り出した。

 同時に、二体のモンスターも追う。

 犬型の異形が、獲物を逃すまいと地面を蹴る。

 距離はまだある。

 けれど、このままじゃ追いつかれる。

「……間に合え」

 祈るつもりはない。

 運任せにする気もない。

 ここから先は、俺のテリトリーに引きずり込めるかどうかだ。

 それで全部が決まる。

 俺は玄関の前に立ち、息を潜めながら、近づいてくる足音を待った。

読んで頂きありがとうございます!!


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