夏休み ― 取り戻した日常
第59話です。宜しくお願い致します。
あれから、数日が経った。
東京を襲った地震。
あの一日は、正直言って――かなりしんどかった。
いや、あの日だけじゃない。
その前の3ヶ月。
準備、拡張、対策、住民の管理、支持率の維持。
やることは尽きなかった。
気が張り詰めたまま、ずっと走り続けていた。
その反動か――
「……疲れたな」
ぽつりと、自然に言葉が漏れた。
自分でも驚くくらい、素直な本音だった。
屋上から街を見下ろす。
人が動いている。
笑い声も聞こえる。
警察も巡回しているし、トラブルも落ち着いている。
――守れた。
そう言っていい状態だ。
でも、それと同時に。
(……ずっと張ってたもんが、一気に来たな)
肩の力が抜けた瞬間、どっと疲労が押し寄せてきた。
その時だった。
「悠真」
後ろから声がした。
振り返ると、未来がいた。
「こんなとこで何してんの?」
「いや、ちょっとな」
軽く答える。
未来は俺の顔を見て、少しだけ目を細めた。
「……疲れてるでしょ」
「まぁな」
否定はしなかった。
できる状態でもない。
すると未来は、ふっと笑った。
「だよね」
一歩近づいてくる。
「みんなも、同じだよ」
「……」
「だからさ」
少しだけ間を置いて、言った。
「休もうよ」
その言葉は、思った以上にすっと胸に入ってきた。
休む。
そんな当たり前のことを、ずっと考えていなかった気がする。
「……そうだな」
小さく頷く。
「たまにはいいか」
「でしょ?」
未来が笑う。
「せっかくだし、みんなでどっか行こうよ」
「どっかって……」
「海とか」
その一言で、少しだけ空気が軽くなった気がした。
「海、か」
この状況で海。
普通なら考えない選択だ。
でも――
(……悪くねぇな)
今の俺たちには、むしろ必要かもしれない。
「よし」
俺は小さく息を吐いた。
「みんな呼ぶか」
数分後。
エントランスには、いつものメンバーが集まっていた。
「で?今日はどうしたんだ?」
浮田が腕を組みながら聞いてくる。
「休みだ」
俺は短く言った。
「……は?」
「今日は何もしない」
その一言で、ざわつく。
「え、マジですか!?」
陸斗が目を見開く。
「休み!?」
「やったー!!」
美咲はすでに飛び跳ねていた。
「海行くぞ」
俺が続けると――
「うみーーー!!!!!」
完全にスイッチが入った。
美咲がその場でぴょんぴょん跳ねている。
「まぁ!海ですの!?」
セイコもなぜかテンションが上がっていた。
「庶民のレジャーですが、まぁ見てあげてもよくってよ!」
「いや絶対楽しむだろお前」
阿川が即ツッコむ。
「日本の海……興味がありますね」
ルドルフも穏やかに言う。
「日光浴にはちょうどいいな」
楢沢が腕を鳴らす。
「紫外線には気をつけろよー」
浮田は医者らしいことを言いながらも、どこか楽しそうだった。
「……では、準備を整えましょう」
一葉が静かにまとめに入る。
「水分、タオル、着替えなど必要かと」
「了解」
俺は頷いた。
「移動は阿川頼む」
「おう、任せろ」
阿川が軽く手を上げる。
「スキル――“配管工”」
空間が歪む。
巨大な配管が現れる。
「はいはい、順番なー」
「押さないでくださいよ!」
「美咲待てって!」
わちゃわちゃとしながら、全員が中へ入っていく。
俺も最後に一歩踏み込む。
視界が歪み――
次の瞬間。
「……」
潮の香り。
波の音。
目の前に広がる、青い海。
「……うみだーーー!!!」
美咲が全力で走り出した。
「待て美咲!転ぶぞ!」
パパが慌てて追いかける。
「ふふっ」
ママはそれを見て優しく笑っていた。
俺は少しだけ立ち止まる。
海を見つめる。
(……久しぶりだな、こういうの)
戦いも、拠点作りも、全部忘れて。
ただ景色を見ている時間。
それだけで、少しだけ気が楽になった。
「悠真」
未来が隣に来る。
「いいでしょ」
「あぁ」
素直に頷く。
「いいな」
その言葉に、未来は満足そうに笑った。
「よっしゃああああ!!」
その声と同時に、水しぶきが上がる。
アルが全力で海に飛び込んでいた。
「うるせぇな……」
ソックスが呆れながらも後を追う。
「おお……いい波だ」
「おいおい、暴れすぎだろ」
色谷が肩を回しながら言う。
「せっかくの海なんだからよ、もうちょい“遊び”ってもんを覚えろって」
「え〜?♡」
その横で、芹沢がニヤニヤしながら口を開く。
「私はこういうのも“遊び”だと思うけどなぁ♡」
「いや違うだろ絶対」
色谷が即ツッコむ。
「これただの戦闘だろ」
「でもぉ♡」
芹沢がアルたちを見る。
「めっちゃ楽しそうじゃん♡」
「ヒャッハァァ!!」
「……まぁ、否定はできねぇな」
色谷が苦笑する。
そのまま、ニヤッと笑って――
「なら、こっちも派手にいくか」
「“ボウリング場”」
地面に光が走る。
「ちょっと待ってぇ♡」
芹沢が手を叩く。
「それ絶対面白いやつじゃん♡」
「止めろって!」
ズドォォォン!!
海に突っ込むボール。
「きゃはははは♡最高♡」
「お前絶対止める気なかっただろ」
チャン爺はなぜか普通に泳ぎ始めていた。
「……あの年であれはすごいですね」
陸斗が素直に感心している。
「負けてらんねぇな!」
楢沢も飛び込む。
水が大きく跳ねる。
「ちょっと!かけないでよ!」
未来が水をかけられて反撃する。
「おい巻き込むな!」
俺も普通に被弾した。
「……お前ら」
言いながらも、少し笑ってしまう。
気づけば、足が海に入っていた。
冷たい水。
でも、それが妙に心地いい。
(……いいな)
この時間。
この空気。
戦いのない、ただの日常。
それを――
俺は、ちゃんと楽しめていた。
海に入ってから、どれくらい時間が経っただろうか。
最初はそれぞれバラバラに遊んでいたが、気づけば自然といくつかのグループに分かれていた。
「おとうさーん!見て見て!」
美咲が浮き輪に乗ったまま手を振っている。
「おお、いいぞ美咲!」
父親がその横でしっかりサポートしている。
「転ばないようにね〜!」
母親も少し離れた場所から声をかける。
その光景を見て、陸斗は少しだけ照れくさそうに頭をかいた。
「……楽しそうですね、あいつ」
「お前もだろ」
俺が言うと、陸斗は少しだけ笑った。
「まぁ……そうですね」
その表情は、いつもの“背負ってる顔”じゃなかった。
ただの、普通の中学生の顔だった。
「……」
少し離れた場所では、浮田が砂浜に寝転がっていた。
「おい」
「……なんだ」
「完全に休みに来てるな」
「休みだろ今日は」
目も開けずに返してくる。
「医者的には日光浴は適度にな」
「それ言いながら寝てるじゃねぇか」
「……今日は例外だ」
適当すぎる。
でも、そのゆるさが今はちょうどよかった。
「悠真ー!」
未来の声。
振り返ると、水をすくってこっちに投げてきた。
「おい!」
直撃。
「ははっ!」
未来が笑う。
「やりやがったな」
俺も水をすくって投げ返す。
「ちょっと!」
完全に水の掛け合いが始まる。
「……お前ら子供かよ」
浮田が呆れた声を出すが、起き上がる気配はない。
そのまま俺と未来は、しばらくどうでもいい水の掛け合いを続けた。
ただそれだけなのに、やけに楽しかった。
一方その頃――
「オーホッホ!わたくしは濡れませんわよ!」
セイコが腕を組んでいた。
完全に海に入る気ゼロ。
だが――
「うおりゃ!」
アルが思い切り水をかける。
「きゃあああああ!!」
一瞬で崩れた。
「な、何をしますの!?この無礼者!!」
「はははは!!」
アルは大爆笑。
「……入ればいいだろ」
ソックスが冷静に言う。
「くっ……仕方ありませんわね……!」
セイコは覚悟を決めたように海へ足を入れる。
「……冷たっ」
その反応は普通だった。
「……落ち着くな」
川原がぽつりと呟く。
頭の上には、いつものように猫のチョコ。
「コタツ出そうかな……」
「出すな」
山田が即止める。
「ここは海だ。規律を守れ」
「海に規律あるんですか?」
阿川がツッコむ。
「ある。俺の中ではある」
頑固すぎる。
その頃、少し離れた場所では――
「……」
白沢が静かに海を見つめていた。
「この海……綺麗……」
ぽつりと呟く。
「ここに花を……」
「やめとけ、塩で死ぬぞ」
芹沢が現実を突きつける。
「……そうね」
納得はしているが、少し残念そうだった。
そんな中、チャン爺とメイドたちは――
「三葉、そちらは深いのでお気をつけください」
「はーい!」
三葉は元気よく返事しながら、バシャバシャと水を蹴る。
二葉は周囲をしっかり見ている。
一葉は落ち着いた動きで泳いでいた。
その横で、チャン爺が――
めちゃくちゃ速く泳いでいた。
「……あの人、何なんだろうな」
思わず呟く。
そして、ひとしきり遊んだ後――
「そろそろやるか」
俺が声をかける。
砂浜の中央。
用意されたスイカ。
「スイカ割りだ!!」
「やったーーー!!」
美咲が飛び跳ねる。
「スイカかぁ♡」
芹沢がじっと見つめる。
「これぇ、私の“ラブレター”使ったらどうなるんだろ♡」
「やめろ」
俺が即止める。
「スイカに愛されても困る」
「え〜?♡」
くすっと笑う。
「“私があなたを愛してるわ”って書いたらさぁ♡」
「スイカが強化されるのかな?♡」
「意味分かんねぇ強化すんな」
色谷が横で笑う。
「それ割れなくなるやつだろ」
「それはそれで面白そうじゃない?♡」
「却下だ」
順番に挑戦が始まる。
最初は――三葉。
「いきますですー!」
勢いよく走る。
そして――
全然違う方向へ。
ドンッ!!
「そっちじゃねぇ!!」
全員からツッコミ。
次はアル。
「任せろォォ!!」
フルスイング。
だが――
ズドォォン!!
地面を叩いた。
「おい!!」
「力強すぎだろ!!」
山田。
「集中……」
慎重に歩く。
そして――
ズレる。
普通にズレる。
「……む」
納得いってない顔。
セイコ。
「わたくしにお任せを!」
優雅に構える。
そして――
スカッ。
「……」
「……」
「……もう一回いいですかしら」
「ダメだ」
場は完全に盛り上がっていた。
笑いが止まらない。
そして――
「次、美咲!」
「うん!」
美咲が棒を握る。
目隠し。
「いくよー!」
ゆっくり歩く。
周りが静かになる。
「もうちょい右!」
「そのままー!」
「ストップ!」
そして――
ブンッ!!
――パカッ。
一瞬、音が止まる。
次の瞬間――
「割れた!!」
「やったーーー!!!」
美咲が飛び跳ねる。
スイカは綺麗に真っ二つだった。
「すごいじゃねぇか」
「えへへ!」
満面の笑み。
その顔を見て――
全員が自然と笑っていた。
その後。
砂浜に座りながら、スイカを食べる。
「甘っ」
「美味しいですね」
「夏って感じだな」
夕日が沈んでいく。
海がオレンジに染まる。
静かな時間。
さっきまでの騒がしさが、嘘みたいに落ち着いていた。
(……いいな)
心の中で、自然とそう思った。
守るっていうのは――
こういう時間を守ることなんだろう。
戦う理由。
その答えが、少しだけ見えた気がした。
帰り道。
配管を通る前、ふと空を見上げる。
静かな夜空。
でも――
(……次は、SPМか)
地震は終わった。
でも、厄災はまだ終わっていない。
俺は小さく息を吐いた。
「……まぁ、いいか」
今日は、考えない。
そう決めた。
「行くぞ」
「はーい!」
全員が、配管の中へ入っていく。
笑い声が響く。
その光景を見ながら――
俺は最後に一歩踏み出した。
こうして俺たちは――
ほんの少しだけ、日常を取り戻した。
だがそれは同時に――
次の戦いへ向けた、束の間の休息でもあった。
こうやってみると本当にキャラ増えましたね……。
皆さんも誰だっけ?ってなってる人居ますかね。




