夏休み ― 取り戻した日常
第59話です。宜しくお願い致します。
あれから、数日が経った。
東京を襲った地震。
あの一日は、正直言って――かなりしんどかった。
いや、あの日だけじゃない。
その前の3ヶ月。
準備、拡張、対策、住民の管理、支持率の維持。
やることは尽きなかった。
気が張り詰めたまま、ずっと走り続けていた。
その反動か――
「……疲れたな」
ぽつりと、自然に言葉が漏れた。
自分でも驚くくらい、素直な本音だった。
屋上から街を見下ろす。
人が動いている。
笑い声も聞こえる。
警察も巡回しているし、トラブルも落ち着いている。
――守れた。
そう言っていい状態だ。
でも、それと同時に。
(……ずっと張ってたもんが、一気に来たな)
肩の力が抜けた瞬間、どっと疲労が押し寄せてきた。
◇
その時だった。
「悠真」
後ろから声がした。
振り返ると、未来がいた。
「こんなとこで何してんの?」
「いや、ちょっとな」
軽く答える。
未来は俺の顔を見て、少しだけ目を細めた。
「……疲れてるでしょ」
「まぁな」
否定はしなかった。
できる状態でもない。
すると未来は、ふっと笑った。
「だよね」
一歩近づいてくる。
「みんなも、同じだよ」
「……」
「だからさ」
少しだけ間を置いて、言った。
「休もうよ」
その言葉は、思った以上にすっと胸に入ってきた。
休む。
そんな当たり前のことを、ずっと考えていなかった気がする。
「……そうだな」
小さく頷く。
「たまにはいいか」
「でしょ?」
未来が笑う。
「せっかくだし、みんなでどっか行こうよ」
「どっかって……」
「海とか」
その一言で、少しだけ空気が軽くなった気がした。
「海、か」
この状況で海。
普通なら考えない選択だ。
でも――
(……悪くねぇな)
今の俺たちには、むしろ必要かもしれない。
「よし」
俺は小さく息を吐いた。
「みんな呼ぶか」
◇
数分後。
エントランスには、いつものメンバーが集まっていた。
「で?今日はどうしたんだ?」
浮田が腕を組みながら聞いてくる。
「休みだ」
俺は短く言った。
「……は?」
「今日は何もしない」
その一言で、ざわつく。
「え、マジですか!?」
陸斗が目を見開く。
「休み!?」
「やったー!!」
美咲はすでに飛び跳ねていた。
「海行くぞ」
俺が続けると――
「うみーーー!!!!!」
完全にスイッチが入った。
美咲がその場でぴょんぴょん跳ねている。
「まぁ!海ですの!?」
セイコもなぜかテンションが上がっていた。
「庶民のレジャーですが、まぁ見てあげてもよくってよ!」
「いや絶対楽しむだろお前」
阿川が即ツッコむ。
「日本の海……興味がありますね」
ルドルフも穏やかに言う。
「日光浴にはちょうどいいな」
楢沢が腕を鳴らす。
「紫外線には気をつけろよー」
浮田は医者らしいことを言いながらも、どこか楽しそうだった。
「……では、準備を整えましょう」
一葉が静かにまとめに入る。
「水分、タオル、着替えなど必要かと」
「了解」
俺は頷いた。
「移動は阿川頼む」
「おう、任せろ」
阿川が軽く手を上げる。
「スキル――“配管工”」
空間が歪む。
巨大な配管が現れる。
「はいはい、順番なー」
「押さないでくださいよ!」
「美咲待てって!」
わちゃわちゃとしながら、全員が中へ入っていく。
俺も最後に一歩踏み込む。
視界が歪み――
次の瞬間。
◇
「……」
潮の香り。
波の音。
目の前に広がる、青い海。
「……うみだーーー!!!」
美咲が全力で走り出した。
「待て美咲!転ぶぞ!」
パパが慌てて追いかける。
「ふふっ」
ママはそれを見て優しく笑っていた。
俺は少しだけ立ち止まる。
海を見つめる。
(……久しぶりだな、こういうの)
戦いも、拠点作りも、全部忘れて。
ただ景色を見ている時間。
それだけで、少しだけ気が楽になった。
「悠真」
未来が隣に来る。
「いいでしょ」
「あぁ」
素直に頷く。
「いいな」
その言葉に、未来は満足そうに笑った。
◇
「よっしゃああああ!!」
その声と同時に、水しぶきが上がる。
アルが全力で海に飛び込んでいた。
「うるせぇな……」
ソックスが呆れながらも後を追う。
「おお……いい波だ」
「おいおい、暴れすぎだろ」
色谷が肩を回しながら言う。
「せっかくの海なんだからよ、もうちょい“遊び”ってもんを覚えろって」
「え〜?♡」
その横で、芹沢がニヤニヤしながら口を開く。
「私はこういうのも“遊び”だと思うけどなぁ♡」
「いや違うだろ絶対」
色谷が即ツッコむ。
「これただの戦闘だろ」
「でもぉ♡」
芹沢がアルたちを見る。
「めっちゃ楽しそうじゃん♡」
「ヒャッハァァ!!」
「……まぁ、否定はできねぇな」
色谷が苦笑する。
そのまま、ニヤッと笑って――
「なら、こっちも派手にいくか」
「“ボウリング場”」
地面に光が走る。
「ちょっと待ってぇ♡」
芹沢が手を叩く。
「それ絶対面白いやつじゃん♡」
「止めろって!」
ズドォォォン!!
海に突っ込むボール。
「きゃはははは♡最高♡」
「お前絶対止める気なかっただろ」
◇
チャン爺はなぜか普通に泳ぎ始めていた。
「……あの年であれはすごいですね」
陸斗が素直に感心している。
「負けてらんねぇな!」
楢沢も飛び込む。
水が大きく跳ねる。
「ちょっと!かけないでよ!」
未来が水をかけられて反撃する。
「おい巻き込むな!」
俺も普通に被弾した。
「……お前ら」
言いながらも、少し笑ってしまう。
気づけば、足が海に入っていた。
冷たい水。
でも、それが妙に心地いい。
(……いいな)
この時間。
この空気。
戦いのない、ただの日常。
それを――
俺は、ちゃんと楽しめていた。
◇
海に入ってから、どれくらい時間が経っただろうか。
最初はそれぞれバラバラに遊んでいたが、気づけば自然といくつかのグループに分かれていた。
「おとうさーん!見て見て!」
美咲が浮き輪に乗ったまま手を振っている。
「おお、いいぞ美咲!」
父親がその横でしっかりサポートしている。
「転ばないようにね〜!」
母親も少し離れた場所から声をかける。
その光景を見て、陸斗は少しだけ照れくさそうに頭をかいた。
「……楽しそうですね、あいつ」
「お前もだろ」
俺が言うと、陸斗は少しだけ笑った。
「まぁ……そうですね」
その表情は、いつもの“背負ってる顔”じゃなかった。
ただの、普通の中学生の顔だった。
「……」
少し離れた場所では、浮田が砂浜に寝転がっていた。
「おい」
「……なんだ」
「完全に休みに来てるな」
「休みだろ今日は」
目も開けずに返してくる。
「医者的には日光浴は適度にな」
「それ言いながら寝てるじゃねぇか」
「……今日は例外だ」
適当すぎる。
でも、そのゆるさが今はちょうどよかった。
◇
「悠真ー!」
未来の声。
振り返ると、水をすくってこっちに投げてきた。
「おい!」
直撃。
「ははっ!」
未来が笑う。
「やりやがったな」
俺も水をすくって投げ返す。
「ちょっと!」
完全に水の掛け合いが始まる。
「……お前ら子供かよ」
浮田が呆れた声を出すが、起き上がる気配はない。
そのまま俺と未来は、しばらくどうでもいい水の掛け合いを続けた。
ただそれだけなのに、やけに楽しかった。
一方その頃――
「オーホッホ!わたくしは濡れませんわよ!」
セイコが腕を組んでいた。
完全に海に入る気ゼロ。
だが――
「うおりゃ!」
アルが思い切り水をかける。
「きゃあああああ!!」
一瞬で崩れた。
「な、何をしますの!?この無礼者!!」
「はははは!!」
アルは大爆笑。
「……入ればいいだろ」
ソックスが冷静に言う。
「くっ……仕方ありませんわね……!」
セイコは覚悟を決めたように海へ足を入れる。
「……冷たっ」
その反応は普通だった。
◇
「……落ち着くな」
川原がぽつりと呟く。
頭の上には、いつものように猫のチョコ。
「コタツ出そうかな……」
「出すな」
山田が即止める。
「ここは海だ。規律を守れ」
「海に規律あるんですか?」
阿川がツッコむ。
「ある。俺の中ではある」
頑固すぎる。
その頃、少し離れた場所では――
「……」
白沢が静かに海を見つめていた。
「この海……綺麗……」
ぽつりと呟く。
「ここに花を……」
「やめとけ、塩で死ぬぞ」
芹沢が現実を突きつける。
「……そうね」
納得はしているが、少し残念そうだった。
そんな中、チャン爺とメイドたちは――
「三葉、そちらは深いのでお気をつけください」
「はーい!」
三葉は元気よく返事しながら、バシャバシャと水を蹴る。
二葉は周囲をしっかり見ている。
一葉は落ち着いた動きで泳いでいた。
その横で、チャン爺が――
めちゃくちゃ速く泳いでいた。
「……あの人、何なんだろうな」
思わず呟く。
◇
そして、ひとしきり遊んだ後――
「そろそろやるか」
俺が声をかける。
砂浜の中央。
用意されたスイカ。
「スイカ割りだ!!」
「やったーーー!!」
美咲が飛び跳ねる。
「スイカかぁ♡」
芹沢がじっと見つめる。
「これぇ、私の“ラブレター”使ったらどうなるんだろ♡」
「やめろ」
俺が即止める。
「スイカに愛されても困る」
「え〜?♡」
くすっと笑う。
「“私があなたを愛してるわ”って書いたらさぁ♡」
「スイカが強化されるのかな?♡」
「意味分かんねぇ強化すんな」
色谷が横で笑う。
「それ割れなくなるやつだろ」
「それはそれで面白そうじゃない?♡」
「却下だ」
順番に挑戦が始まる。
最初は――三葉。
「いきますですー!」
勢いよく走る。
そして――
全然違う方向へ。
ドンッ!!
「そっちじゃねぇ!!」
全員からツッコミ。
次はアル。
「任せろォォ!!」
フルスイング。
だが――
ズドォォン!!
地面を叩いた。
「おい!!」
「力強すぎだろ!!」
山田。
「集中……」
慎重に歩く。
そして――
ズレる。
普通にズレる。
「……む」
納得いってない顔。
セイコ。
「わたくしにお任せを!」
優雅に構える。
そして――
スカッ。
「……」
「……」
「……もう一回いいですかしら」
「ダメだ」
場は完全に盛り上がっていた。
笑いが止まらない。
そして――
「次、美咲!」
「うん!」
美咲が棒を握る。
目隠し。
「いくよー!」
ゆっくり歩く。
周りが静かになる。
「もうちょい右!」
「そのままー!」
「ストップ!」
そして――
ブンッ!!
――パカッ。
一瞬、音が止まる。
次の瞬間――
「割れた!!」
「やったーーー!!!」
美咲が飛び跳ねる。
スイカは綺麗に真っ二つだった。
「すごいじゃねぇか」
「えへへ!」
満面の笑み。
その顔を見て――
全員が自然と笑っていた。
◇
その後。
砂浜に座りながら、スイカを食べる。
「甘っ」
「美味しいですね」
「夏って感じだな」
夕日が沈んでいく。
海がオレンジに染まる。
静かな時間。
さっきまでの騒がしさが、嘘みたいに落ち着いていた。
(……いいな)
心の中で、自然とそう思った。
守るっていうのは――
こういう時間を守ることなんだろう。
戦う理由。
その答えが、少しだけ見えた気がした。
帰り道。
配管を通る前、ふと空を見上げる。
静かな夜空。
でも――
(……次は、SPМか)
地震は終わった。
でも、厄災はまだ終わっていない。
俺は小さく息を吐いた。
「……まぁ、いいか」
今日は、考えない。
そう決めた。
「行くぞ」
「はーい!」
全員が、配管の中へ入っていく。
笑い声が響く。
その光景を見ながら――
俺は最後に一歩踏み出した。
こうして俺たちは――
ほんの少しだけ、日常を取り戻した。
だがそれは同時に――
次の戦いへ向けた、束の間の休息でもあった。
こうやってみると本当にキャラ増えましたね……。
皆さんも誰だっけ?ってなってる人居ますかね。
読んで頂きありがとうございます!!
この作品が『面白い!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになりますので、良かったら宜しくお願い致します!




